デモンバスターズUltimate
−4−スペシャル
祐一は、長く広い廊下の中心を走っていた。
全速力は出さず、追ってくる相手との距離を適度に調節しながら移動している。
そうしていると、不意に背後の気配に動きがあった。
三つあった気配の内二つが消え、一つが加速して追いすがってきた。
「たぁっ!!」
ギィンッ
壁を蹴って勢いをつけたスクルドの攻撃を、剣を軽く上げて弾く。
相手はその反動を利用して祐一の前へ滑り出た。
正面で道を塞ごうとするスクルドに向かって、祐一は速度を落とさずに突っ込み、剣を振り下ろす。
ドンッ!
床を砕いた剣をそのまま薙ぎ払い、横へかわしたスクルドに向けて振り抜く。
後退したスクルドを一瞥しつつ尚も走り続ける祐一の前に、新たな影が躍り出てきた。
おそらくは先回りをしたヴェルダンディーである。
「はっ!」
走る祐一の足を払うように、ヴェルダンディーの槍が低く薙ぎ払われる。
跳躍してそれをかわした祐一だったが、すぐにそれが誘いであったことに気付いた。
最初はヴェルダンディーの影になって見えなかったが、もう一つ先の通路からウルドが姿を現していたのだ。
空中で動きの鈍った祐一へ向かって、ウルドの放った矢が襲い掛かる。
「ふんっ!」
だがその程度で裏をかかれる祐一ではない。
即座に氷壁を生み出して矢を防いだ。
とはいえ、今ので足を止められたことには違いない。
背後にはスクルド、正面にはヴェルダンディーと、さらにその後ろにウルドが控えている。
「逃げようとなさっても無駄ですわ。この城の構造を完全に把握しているのは私達だけですから」
「別に逃げるつもりはないんだがな」
単に戦いやすい場所を選ぼうとしただけだった。
もう少し進めば正面玄関付近の広間に出るのだが、そこへ達するのは容易ではなさそうだ。
「さすが、元は三人で一人の女神だけに、連携は完璧らしいな」
見た目や性格はそれなりに違うが、ロキの三兄弟に比べたら根っこの部分はそっくりの姉妹だった。
「まぁいい、体も温まってきた。そろそろこっちからも仕掛けるとしようか」
祐一の魔力がさらに膨れ上がる。
正面からそれを受けたヴェルダンディーとウルドは圧迫感に気圧される。
「調子に乗るんじゃないですっ!」
「スクルド! 待ちなさいっ!」
「フッ!」
背後から仕掛けてきたスクルドの斬撃を振り返ることなく受け止めた祐一は、後ろへ下がりながらその腕を掴んで引き寄せる。
「そらっ!」
「きゃっ」
体勢を崩したスクルドの鳩尾に肘打ちを喰らわせる。
吹き飛ばされたスクルドが壁に打ち付けられた時、祐一の姿は既にヴェルダンディーの横にあった。
「このっ!」
ヴェルダンディーが槍を振り上げようとするが、それより早く祐一の足が槍を踏みつけて床に叩き落した。
祐一はさらに槍を落とされたヴェルダンディーの腕を取って、その身をウルドに向かって投げ飛ばす。
ここまでの一連の行動は、僅か数秒の出来事であった。
「どうしたノルン、その程度か?」
「げほっ、げほっ・・・・・・れ、レディのお腹を思い切り殴るなんて信じられないです・・・!」
「向かってくる奴には老若男女区別はしないさ」
お腹を押さえたスクルドが恨めしげな表情で祐一を睨む。
起き上がったウルドとヴェルダンディーも鋭い視線を向けている。
「・・・力も、速さも、技量も、これほどとは思いませんでしたわ・・・」
「さすが、伝説になるわけね、闘神祐漸」
ノルン達は、それぞれ取り落とした得物を拾う。
まだ闘志は少しも衰えていないようだ。
そう来なくては、祐一もおもしろくなかった。
「さて、続けるか・・・・・・・・・?」
その時祐一は、奇妙な感覚を覚えた。
何とは言い切れないが、何かが起こるような、そんな予感である。
「(何だ? 昨夜の予感・・・フェンリルのことじゃないのか?)」
フェンリルの帰還、ノルンの襲撃。
だがそれでもまだ、祐一の予感は消えない。
何かもっと別のことが起こりそうな・・・。
「(・・・・・・まぁ、いいか)」
何が起ころうと関係ない。
それでロキの企みが一部なりとも見えてくれば、状況も動く。
ならば今は、この戦いを楽しみつつ、それを待つとしよう。
バシーンッ!
さやかの放ったヘルブレイズは、闇色の檻に阻まれ、そこに傷一つつけることはなかった。
逆に、狭い檻の中で扱う冥力は不安定で、さやか自身を傷つけそうになる。
「頑丈だね、これ」
「さやかの力でも、そこから抜け出すのは無理。お願いだから無茶をしないで・・・」
泣きそうな顔でヘルが言うが、あくまで檻を消すつもりはないらしい。
「そういうわけにも・・・いかないよ!」
さらに周囲を囲む闇に攻撃を仕掛ける。
しかし尽く弾かれ、効果はなかった。
どうやら同じ冥力の使い手でも、ヘルの方がこの力の扱いに長けているらしい。
その上これも檻の効果か、さやかが扱う力の感覚も狂わされているようだ。
冥力は、今いる空間と冥界との間を繋ぐ門を開くことによって、向こう側にある力を呼び込むことで使えるものである。
だから冥力の使い手同士が戦う場合は、まずどちらが門を優先的に支配下におけるかで有利不利が決まるのだ。
今は、ヘルの支配力がさやかのそれを上回っている。
「さやか・・・!」
いくらヘルが叫んでも、さやかは力の放出をやめない。
「・・・・・・言うこと聞いてくれない、さやかが悪い・・・」
「へ? わわっ!」
突然、さやかの足元の闇が蠢きだし、さやかの体が沈み始める。
「わっ、ちょっと・・・!」
さらに周りを囲っていた檻も、さやかの身を拘束して闇の中へ沈めようとする。
闇に絡め取られたさやかは逃れようともがくが、体はどんどん沈んでいく。
やがてその身は、完全に闇の中に飲み込まれた。
後には、水溜りのように波紋を浮かべる闇だけが残っている。
「・・・ごめん、さやか。少し苦しいかもしれないけど、しばらくそこにいて」
それは、さらに拘束力を強めた冥力の結界であった。
闇の檻では行動を制限するだけだが、闇の結界に取り込まれた者は一切の身動きを封じられ、一条の光も差し込まない暗闇の中に閉じ込められる。
心身ともに苦痛を与えるこの技を、ヘルはさやか相手に使いたくはなかったが、こうでもしなければさやかは自らの力で自らを傷つけていただろう。
それよりは、この方がいくらかマシであろう。
今は、こうするより他にない。
こうした行動に出たのは、ノルンに頼まれたからだが、父ロキのためと言われれば、それはヘルとて望むところであった。
あの相沢祐一という男のことを、ヘルはさやかからよく聞いている。
かつての闘神祐漸の伝説と合わせて考えると、今後彼がロキの障害となる可能性が大きいこともわかる。
ならば父のため、今は心を鬼にしてあの男を倒すことに手を貸すべきと思ったからこそ、さやかを押さえる役目を引き受けたのだ。
「・・・・・・」
早く終わってほしいと、ヘルは願う。
はじめて心の底から友達になりたいと思った相手を、いつまでも闇の中に閉じ込めておきたくはなかった。
一刻も早く事が終わって、出してあげたいと思った。
ポコッ
「・・・?」
波紋も止んで、静かになっていたはずの闇の表面に水泡のようなものが生まれる。
ヘルは何もしていないにも関わらずである。
泡はさらに増え続け、まるで沸騰しているかのようだった。
こんなことが起こったのは、はじめてである。
「まさか・・・」
そして、理由として考えられるのは、一つだった。
沸騰し続ける闇は最後には、一気に弾けた。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!
全ての闇を打ち払い、紅蓮の炎が渦を巻いて天井に向かって伸びる。
その光景を、ヘルは唖然として見ていた。
結界を打ち破った炎が左右に割けると、その中心にさやかが舞うような姿で佇んでいた。
「さや・・か・・・・・・」
「うん、成功成功」
炎の残滓をまとったさやかが満足げに頷いている。
「前に魔力を無効化する門を冥力で壊せたことがあったから、逆もできるんじゃないかと思ったけど、ビンゴだったね」
さやかは事も無げに言うが、そんなに単純な理屈が通るはずはない。
元より誰も試したことのない事ではあるが、仮に魔力と冥力が互いに打ち消す合う存在だとしたら、二つの力を同じ量だけぶつけたら力のベクトルはゼロになるはずである。
だがさやかは今、自身の魔力をもってしてヘルの冥力を完全に打ち破った。
天地魔界の三界において、冥力を扱える者は僅か三人。
そして、冥力と魔力、双方を使えるのはさやか唯一人である。
もしさやかが二つの力を自在に使いこなし、尚且つ一方を以ってもう一方を打ち破る手段を持っているとしたら・・・。
「(・・・さやかにとって、苦手な相手はいない。それどころか、誰にとってもさやかが苦手な相手になる・・・)」
刻んできた時の短いさやかの力は、魔神レベルで考えれば決して大きくはない。
だがその能力は、全ての魔神の天敵となりうる。
その上世界の加護を持つさやかは、かつてない脅威の存在であった。
「(・・・ノルン、見誤っているかもしれない。父様にとって、いつか本当に恐ろしい存在になるのは・・・・・・)」
ヘルは気を引き締めた。
戦いたくない気持ちに変わりはないが、中途半端な気持ちで挑めば、確実にやられる。
本気でやったとしても、勝てるかどうかわからない相手であった、さやかは。
そのさやかが片手を上げるのを見て、ヘルは身構える。
だが伸ばした手でさやかは、椅子を引き寄せ、そこに座り込む。
「・・・さやか?」
「やめよ。私も、ヘルちゃんとは戦いたくないし」
屈託のないさやかの笑顔に、ヘルは戸惑う。
思い返せば、はじめて会った時もこんな感じだったかもしれない。
「いいよ。ここにいろって言うなら、大人しくしてるから。どうせ行ったところで、祐一君の戦いに介入する気はないし、させてももらえないだろうし」
「じゃあ、どうして・・・」
最初からそう言わなかったのか。
ヘルの疑問に、ニッと笑ってさやかが答える。
「私って、これで結構負けず嫌いなんだよ」
「・・・・・・結界を破ってみせたのは、力で私に負けたわけじゃないって示すため?」
「そゆこと♪」
不思議な、そして恐ろしいひとだと、ヘルは思った。
そして何より怖いと感じるのは、いつかロキとさやかが敵対するような事態になった時、自分がどんな立場にいるのか、ということ。
それを思うと、ひどく悲しい気持ちになる。
どちらに転んでも、自分はきっと、泣くことになるのだろう。
だが、さやかの笑顔を見ていると、そんな先のことはどうでもよくも思えてくるのだから、やはり不思議なひとであった。
「・・・・・・」
一先ず今は、これ以上さやかと戦わなくていいことにほっとしていた。
パチパチパチパチ
「いや〜、なかなか良い物を見せてもらったよ」
「っ!?」
「誰?」
「ど、どうして・・・あなたがここに・・・!?」
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」
イシスは槍を構えた状態で激しく息を乱していた。
対するミドは、扉の前からほとんど動いておらず、息もまったく乱れていない。
「(・・・強い・・・)」
これが本当に、いつも情けないミドガルズオルムなのかと疑問を抱きたくなる。
表情は、いつもとそう変わらない。
言葉遣いも、調子も、普段どおりだった。
なのに、どうやって仕掛けても全て捌かれる。
驚異的な技量であった。
「(これが・・・終末を導く呪われた三匹の子・・・・・・)」
話には聞いていた。
フェンリルは確かに、会っただけでその絶大かつ圧倒的な力を感じることができた。
ヘルの性格は意外だったが、三界にたった三人しかいない冥力の使い手であるということで、特別な存在だった。
ミドガルズオルムだけが、会っても上の二人のような特別さを感じられなかった。
だが今、はっきりとわかった。
空恐ろしいものを感じさせるほどの技の冴え、それこそがミドの力なのだ。
その技は、イシスの兄オシリスや、祐一すら凌駕しているかもしれない。
イシスは自身の技がまだまだ未熟であることは承知しているが、それでもオシリスや祐一に対して、武芸のみの勝負ならある程度渡り合えると思っていた。
だがこのミドに対しては、まるで付け入る隙を見出せない。
「もうやめませんか? これ以上続けると、本当にあなたに怪我をさせてしまうかもしれません」
「随分、余裕ね」
「そうでもありません。イシスさんは強いですよ。これ以上は、ちょっと本気を出さないと捌ききれないかもしれない。だからこそ、ここでやめてもらいたいんです」
「だめよ。そこをどかない限り、私は槍を引かない」
「そんなに心配ですか、相沢祐一さんのことが」
「心配なんてしてない。祐様がノルン如きに負けるはずないもの。私はただ、こんな形であの方に刃を向ける者が許せないだけよ」
祐一の手を煩わせるまでもない。
分を弁えない女神達を、イシスは自らの手で誅したいと思っていた。
そのために、ここはなんとしても押し通らなければならない。
「・・・もう一度だけ言います。大人しくしていてください、イシスさん」
「断るわ」
「なら、仕方ありませんね」
フッと、ミドの姿が消える。
一瞬にして背後に回られた動きを、イシスはまったく捉えることができなかった。
「手荒な真似になりますが、少し眠ってもらいます」
「(やられる・・・!)」
背後で、ミドの武器が振り下ろされる気配を感じる。
回避も防御も、間に合わない。
イシスは衝撃を予感して目を閉じる。
ギィィィンッ!!
「っ!」
「え・・・?」
ぶつかり合うエリスとフェンリル。
両者が動き回った荒野には、既にいくつものクレーターができていた。
魔竜の力を解放して戦うエリスのパワーは、フェンリルのそれに対してまったく劣っていない。
凄まじい力と力の衝突に、大地も空も震えている。
「ハァアアアアアア!!!」
「シャアアアアアア!!!」
二匹の獣が発する咆哮が空気を揺さぶる。
それが聞こえる範囲内からは、あらゆる生物が逃げ出していたかに思われた。
だが・・・。
「っ!」
「む!」
そこへ介入してくる第三者の存在があった。
エリスとフェンリルの攻撃が交差する瞬間、それはそこへ割って入ってきた。
双方の攻撃を弾き飛ばし、三者はそれぞれ地面に降り立つ。
闘いの邪魔された形になった二人は、乱入者に視線を向ける。
「ハッハー! よぉ、てめぇら!」
「随分と楽しそうじゃねぇか!」
「俺らも・・・」
「「「混ぜろよっ!!!」」」
祐一とノルン達の戦いは、いつしか廊下から広間へと舞台を移していた。
激しく攻め立てるノルン三姉妹の攻撃を、祐一は尽くかわしている。
そうしながら祐一は、ますます強まる予感の正体を探ろうとしていた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・なんで、こんなに強いですか・・・このひと」
「私達は、負けるわけにはいきませんのに・・・」
「ロキ様の敵・・・今討たなければ・・・」
ノルン達は必死の表情だった。
決死の覚悟で向かってくる相手には相応の態度でもって応えたいところだが、予感の方が強すぎて祐一は戦闘に集中できなかった。
「(なんだってんだ、いったい?)」
考えていると、不意にその場にいる祐一とノルン達以外の足音が響き、彼らはそちらへ視線を向ける。
その姿に、四人とも驚きを隠せなかった。
「うむ、美しい良い城だ。それになかなか賑やかなことだな」
何故その男がここにいるのか、理解するのに僅かに時間を要した。
そして冷静になってみると、その男だけではない。
さらに驚くべき事態が進行していることに、祐一はようやく気付いた。
当然、その仕掛け人として考えられるのは一人しかいない。
「・・・何故・・・あなた様がここに・・・?」
ノルン達も、半ば答えはわかっていようが、それでも尋ねずにはいられないのだろう。
「おや、主から聞かされていないのかな、美しき女神達よ。本日この城で開かれるというパーティーに招待されてやってきたのだが?」
「・・・ノルンよ。どうやらおまえらの主は、おまえらが思っているよりよほどとんでもないことを企んでるらしいぞ。そう思わないか、え? アシュタロス」
魔界公爵アシュタロス。
それが、この場に突如として現れた男の名だった。
「しばらくですな、御前」
「まだその呼び方してるのかよ。それよりどうやら、おまえだけじゃないな」
城内だけでも、いつの間に入り込んだのか既に二つの気配がある。
その他、外にもまだまだ知っている気配、知らない気配が多数感じられた。
「ベリアルにアスモデウス・・・阿修羅とガネーシャもか。それに既に城内にいるのは・・・」
「はじめまして、精霊のレディ。そしてひさしぶり、会いたかったよマイスイートハニー。君の愛しの貴公子、ハデスだよ」
部屋の中に突然現れた白い髪の青年は、自らハデスと名乗った。
さやかの記憶どおりならば、冥王ハデスと呼ばれる魔神がいると、祐一やエリスから聞いたことがあった。
そのハデスが現れた途端、ヘルは今までで一番戸惑った表情になっていた。
「・・・・・・なんで・・・?」
「どうしたんだい、ハニー? ああ、俺に会えて嬉しさのあまり震えているんだね」
「・・・その呼び方、やめて」
「いいじゃないか。俺達は将来を誓い合った仲だろう」
「・・・誓ってない」
「何故なら俺達は、愛し合っているんだからね」
「・・・愛してない」
「まさに、運命で結ばれた二人さ」
「そんな運命、いや」
端で見ていると夫婦漫才のようにも見えるが、ヘルは本気で嫌がっているようだ。
ここは助けてやらずばなるまいと、さやかが口を挟む。
「お取り込み中悪いんだけどさ」
「ん? なんだい、精霊のレディ」
「とりあえず、その呼び方もなかなか乙なんだけど、私の名前は白河さやかね」
「おーけー、レディ・さやか。それで何かな? 俺はこれからハニーと愛を語らう予定があるから手短に頼むよ」
「・・・そんな予定ない」
「と、本人は言ってるけど?」
「照れてるだけさ。いやよいやよも好きの内、って言うだろう?」
「・・・違う」
ヘルは本気で泣き出しそうだった。
さやかはヘルの手を取って、ハデスから隠すように自分の後ろに引きこむ。
「あまり押し過ぎる口説き方は感心しないなぁ」
「口説いてるんじゃない。必然を語っているだけさ。俺達はこの広い魔界にたった二人、冥の星の下に生まれた者同士だからね。俺達が結ばれるのは、運命なのさ」
「冥力の持ち主っていうことなら、私もそうだけど?」
「君は地上生まれだろ。少し異質な存在でもある。それに、君の運命の相手は他にいるようにも見える」
「へぇ。私の名前は知らなかったくせに、私の事は知ってるんだ」
ハデスの目がすぅっと細められる。
さやかもハデスも表情は笑っているが、互いを見詰める眼は笑っていない。
室内に緊張感が漂い、ヘルがさやかの服の裾をぎゅっと握る。
「頭の良い子だね。ベルゼブルを倒したのも頷けるよ」
「どうも」
「まぁ、いいや」
ハデスが踵を返すと、部屋の中の緊張感も和らぐ。
「ハニーに会いに来たのも本当だけど、今日はロキに招待されて来たからね。じゃあ、ハニー、またね」
最後にウィンクを一つして、ハデスはら部屋から出て行った。
「・・・はぁ・・・どうして私の周りにはこう気障なひとばかり現れるんだろ?」
「・・・・・・」
「よしよし、ヘルちゃん、嫌だったろうね〜」
ヘルはさやかにしがみ付いて震えている。
さやかはそうしているヘルの頭を優しく撫でてやっていた。
「あ、兄上・・・?」
ミドの武器は、イシスに届く前に止められていた。
二人の間に割って入ったのは、オシリスである。
オシリスとミドは打ち合わせた武器と武器を離し、ミドは数歩下がって相手と向き合う。
「あなたが、オシリス様ですか」
「兄上、どうしてここへ・・・?」
「理由はロキに聞け」
「え?」
「奴の招きに応じたまでのことだ」
エリスとフェンリルの戦いに割って入ってきたのは、三つの頭を持った魔犬であった。
「ケルベロスか」
「・・・地獄の番犬」
地獄の番犬ケルベロス。
フェンリル、魔竜王を二大魔獣と呼ぶならば、その存在は第三位に位置すると言える存在である。
魔界において最も強大な力を持つ魔獣の一匹であった。
「くっくっく、ひさしぶりだなぁ、フェンリル」
「こっちは代替わりした魔竜王か?」
「こいつはまた随分と小せぇな!」
「「「がっはっはっはっはっは!!!」」」
三つの頭がそれぞれ喋るために非常に騒々しかった。
だが、闘いに水を差したケルベロスも煩わしかったが、それ以上に今の状況は見過ごせないものになっていた。
「おまえだけじゃないわね、ケルベロス。この気配・・・十や二十じゃない・・・」
大小多数、百を下らない気配がロキの城に続々と集まってきている。
それも全て・・・。
「くっくっ・・・くくく、くぁーっはっはっはっはっは!!!」
フェンリルが大声を上げて笑い出す。
笑い事ではないが、逆に笑うしかない状況とも言えた。
「ありえぬ! ありえぬわっ、父君め! このような事態、数億の年月を生きてきたわしとて数えるほどしか覚えがないわ!」
数えるほど、とフェンリルは言う。
だがそれはおそらく、全て偶然の出来事だったはず。
必然として、誰かの意図の下でこんな事態が引き起こされたのは未曾有の事態であろう。
「ロキ・・・何を考えてる・・・!」
「まったくだ! まったくもってありえぬとしか言いようがない。まさかこんな片田舎に、真魔の血脈が総集結とはな!!!」
あとがき
スペシャル・・・単に長くなったからスペシャルに。しかし、Ultimate序盤の山場と言える回である。全ての真魔がここに集結・・・果たしてこの状況、どうなってしまうのか? 次回はいよいよ本当に、全ての真魔が登場する・・・。
それにしても主役四人の出番は均等にと思ったはずが、さやかがやたら目立ってるし・・・いつものことだが。