デモンバスターズUltimate

 

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エリスとフェンリル。

二つの超魔力が今まさに激突する瞬間であった。

 

ドォーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 

ぶつかり合い、両方向へ弾けるはずだった膨大なエネルギーが全て、別の力によって上空へと打ち上げられた。

力の流れをいなされた両者は攻撃を繰り出した体勢のまま立ち止まり、割って入った者の存在に驚く。

 

「ロキ!?」

「父君、何故邪魔をする?」

 

両者の攻撃を止め、その力を受け流したのはロキであった。

ロキは二人の動きを妨げるようにその中間に立ってフェンリルの方を向いている。

 

「やぁ、フェンリル。久方振りだというのにこの父に何の挨拶も無しとはひどいではないか」

「そのようなもの、後回しでよかろう」

「確かに。だがここで戦われるのは些か困る。城が壊れてしまうからね。それに、彼女はここの客人だ。ここは私の顔を立てて、牙を引いてくれないかい?」

「・・・・・・ふん、父君がそう申すのであれば仕方あるまい」

 

渋々といった感じにフェンリルが下がる。

それを見るとロキは、エリスの方へと向き直る。

 

「そういうことだが、エリス嬢もよろしいかな?」

「・・・まぁ、いいわ」

 

相手が引くというのに、自分の方からつっかかることはない。

何よりここはロキの城であり、向こうの方がホームである。

エリスの方も魔力を収めると、フェンリルは興が冷めたような表情で城門へと向かう。

すれ違い様、二人は互いを鋭く睨みつけた。

 

「命拾いしたわね、馬鹿犬」

「貴様がな、小娘」

 

フェンリルは城門の脇に立っていた祐一にも一瞥をくれてから、城内に消えていった。

 

「祐一君もすまなかったね、手伝わせてしまって。さすがの私も、一人で二人分の魔力をいなすのは少々厳しいからね」

「少々、ね・・・」

 

あれほどの超魔力の流れを変えておいて少々と言う。

確かに今、衝突の余波からロキの身を守る障壁を作っていたのは祐一だ。

しかし実際にエリスとフェンリルの魔力を受け止め、上空へ逃がしたのはロキの力だった。

純粋な力においてはフェンリルの方が上でも、やはりこの男は侮れない存在だと、祐一は改めて認識を深めていた。

それと共に、祐一はロキの行動に疑問も抱いていたが・・・。

 

「(・・・聞いて答える奴でもないか)」

 

エリスが不機嫌そうな顔で立ち去ると、祐一とロキもそれぞれ城内に戻り、波乱を予感させた一夜はとりあえず事なきを得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄様、おかえりなさい」

「ヘルか。ミドはどうした?」

「そこ」

 

大広間でフェンリルを出迎えたヘルは、兄の問いに対し正直に答える。

フェンリルの斜め後方で、そーっと広間を抜け出そうとしているミドの姿があった。

 

「ミドよ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

奈落の底から響いてくるような声にミドの身がすくみ上がる。

 

「別に逃げたければ逃げても構わんぞ」

「そ、そうなんですか・・・?」

「うむ。ただ追うだけだからな」

「そ、そうですよね・・・・・・」

 

ミドは観念して、フェンリルの前に進み出る。

 

「おかえりなさいませ、兄君」

「息災か?」

「おかげさまで。って珍しいですね、兄君が僕の身を気遣ってくれるなんて」

「当然であろう。弱っているところに仕置きをしてうっかり弟を殺してしまってはさすがに忍びない」

「え、えーと・・・?」

「息災で何よりだ。さっそくだがミドよ、わしは今非常に機嫌が悪い」

「あ・・・兄君・・・? ね、姉さ〜ん・・・って、いないしぃ・・」

 

姉に助けを求めようと視線を彷徨わせるミドだったが、既に広間にヘルの姿はなかった。

と思ったら、すぐに戻ってきた。

珍しいことに、少し戸惑ったような表情をしている。

 

「兄様、ミド」

「何だヘル、わしに意見でもするつもりか?」

「そうじゃないけど・・・ちょっと」

「む?」

「どうしたんですか? 姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、未明――。

まだ静かな城内の通路を祐一は歩いていた。

そうしながら、昨夜の一件を考えている。

 

「・・・やはりどう考えても解せないな」

 

エリスとフェンリルの闘いを止めたロキの意図が読めなかった。

あんな形で止めてみたところで、あの二人はすぐにまた闘おうとするだろう。

しかも止める際に使った口実が“城が壊れるから”では、城から離れて闘えば良いだけという理屈が通ってしまう。

現に、既に城内に二人の気配を感じない。

 

「気の早い、と言いたいところだが、あの二人ならそうなってもおかしくないだろう」

 

今頃もうどこかで闘いを始めようとしているかもしれない。

次はおそらく、ロキでも止めることはできない。

なのに何故、昨夜はわざわざ闘いを止めたのか。

考えられるとすれば・・・。

 

「・・・時間稼ぎか? だが、一体何のために・・・・・・」

 

そこまで考えて、祐一は足を止めた。

前方に気配を感じたからである。

 

「何か用か?」

 

問いかけに対して物陰から現れたのは、ノルンの一人、スクルドだった。

 

「祐一様」

「ほう、おまえらにも喋る口があったのか」

 

この城を訪れて以来、表向きは祐一達を客人として扱っていたノルン達だったが、特に祐一に向けられる視線は常に友好的とは言い難いものを放っていた。

相手に友好的に接する意志がないのなら、祐一の方もそれに合わせた対応をするまでだった。

 

「で、用件は何だ?」

「・・・お命、頂戴します」

 

スクルドはメイド服のスカートの内から二本の剣を取り出して構える。

冗談などではなく、向けられる神気の強さ、殺気の鋭さ、いずれも本物であった。

 

「ロキの差し金・・・・・・じゃないな。おまえの独断か」

「“私達”の判断です」

 

背後からさらに二つの気配。

ウルドとヴェルダンディーである。

 

「運命の女神に恨まれる覚えがないがな。一応、教えてくれるなら俺を目の敵にする理由くらい言ってもらいたいものだな」

「そんなものっ!」

 

ダッ

 

床を蹴る音と同時にスクルドの姿が消える。

祐一は冷静に剣を抜いてそれに対処した。

 

ギィンッ!

 

振り下ろされた双剣を受け止める。

交差した剣の向こう側には、今までの無表情が嘘のように感情を剥き出しにしたスクルドがいる。

外見年齢が比較的幼いため、そうした表情の方が年相応に見えた。

 

「どうやら本気だな」

「あなたの存在は、ロキ様に災いを招くんです! だから、ここで死んでくださいですっ!!」

「ふんっ」

 

背後からの殺気を感じて、祐一は体を反転させながらスクルドの剣を弾く。

ひねった体のすぐ横を、ヴェルダンディーの槍が通過した。

 

「私達はロキ様に仕える事を決めた者達。主に害を成す可能性のある存在を見過ごすことはできませんわ」

 

二人の攻撃を回避して体勢が崩れたところに、ウルドの矢が襲った。

 

「ちぃっ」

 

氷壁を生み出して矢を防ぎ、床を転がりながら体勢を立て直す。

起き上がった祐一が剣を構えた時、ノルン達は三方からそれぞれの武器を構えて祐一を取り囲んでいた。

弓に矢を番えながら、ウルドが口が開く。

 

「ロキ様があなたをここへ招いたのは、深いお考えあってのこと。しかしそれでも我々は、あなたの危険性を看過することはできない」

「だから、ここで死んでもらうです」

「お覚悟を」

「・・・要するに俺が気に食わないか。いいさ、そういうことなら話が早い」

 

特別な立場にある神族が三人。

相手にとって不足無しと、祐一は不敵に笑う。

 

「丁度退屈してたところだ。相手してやる」

 

抑えていた魔力を一部解放する。

その大きさに気圧されたか、ノルン達が僅かにたじろぐ。

魔界へ来てから半年、祐一はもはや、かつて祐漸であった頃の魔力をほぼ完全に引き出せるようになっていた。

神を三人前にしても、その力は相手を圧倒するほど強い。

 

「どうした、怖気づいたか? これが魔界のルールだ。強い者が物を語る資格を得る。俺の存在が気に入らないなら、遠慮せず力ずくで来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段寝坊癖のあるさやかだが、今朝は珍しく朝早くから起きていた。

まだ空が暗い内から起きているなどいつ以来かと思いながら、自分で淹れたコーヒーを飲んでいる。

 

「なんだろうねぇ、これ」

 

昨夜の感覚は、フェンリルが来るのを感じてのものだったはずだ。

それでエリスとフェンリルが闘い、ロキがそれを止めた。

この件はこれで終わりのはずだ。

例え今日になってどこかでエリスとフェンリルが再び闘おうと、それは既に別の話である。

だがさやかの予感は、まだ続いていた。

 

「ん〜・・・・・・」

 

頭を悩ませていると、不意に室内に誰かの気配を感じた。

誰のものかはすぐにわかったが、ノックもせずに入ってきたのは少しおかしいと感じた。

 

「ヘルちゃん? どうし・・・」

 

振り返ろうとした瞬間、さやかはその場から離れようとした。

しかし一瞬遅く、足下から発生した黒い靄が檻のようになって、さやかの動きを封じた。

闇色の、死の臭いを感じる禍々しい力。

それはさやかにとって、馴染み深い力であった。

 

「冥力で作った檻・・・ちょっと冗談にしては質が悪いと思わない? ヘルちゃん」

 

体は動かないので首だけ後ろに向けると、この力の操り主たるヘルが申し訳なさそうな顔で立っていた。

むしろ泣きそうな顔をして、視線を逸らしている。

 

「・・・ごめんなさい。でもお願い、少しの間だけ、そこで大人しくしていて、さやか」

「どうして?」

「それは・・・・・・」

 

ヘルは答えない。

仕方ないのでさやかは自分で考えてみることにした。

エリスとフェンリルの気配がないのは、起きた時から感じていたことだ。

けれどあの二人の闘いに、今さら何人たりとも介入できるはずもないし、そのためにさやかを足止めする必要性は皆無である。

だがこうした行動に出た以上、考えられる理由は限られている。

さやか自身が狙いでないとするなら・・・。

 

「狙いは祐一君、だね」

 

エリスについてはさっきの通りであり、さやかやイシスを狙う理由は思い当たらない。

だとすれば必然的に、標的は祐一ということになる。

ヘルはやはり答えないが、今度はその沈黙が答えとなっている。

 

「・・・お願いさやか、あなたを傷つけたくない。だから、大人しくしていて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、イシスは部屋の中に入り込む気配を感じて目を覚ました。

 

「誰?」

 

扉のところにいた侵入者は、見咎められてびくっと身を震わせる。

その様子から、イシスは相手の正体を察した。

 

「ミド?」

「あはは・・・ど、どうも」

「どういうつもり? レディの部屋に断りも無しに入るなんて」

 

度を越えたドジではあるが、こうしたことに関する節度は弁えている男だと思っていたため、ミドのこの行動はイシスには意外だった。

 

「すみません、失礼なのは重々承知してるんですが・・・」

「なら、何故?」

 

ベッドから抜け出て、イシスはミドを問い詰める。

 

「本当にすみません。ただ、少しの間だけ、この部屋を出ないでいていただきたいんですよ」

「どういうこと?」

「理由は、聞かないでくれると嬉しいんですけど」

「勝手に部屋に入った上、理由も言わずに部屋を出るな? それで納得すると思ってるの?」

「無理・・・ですよね、やっぱり。でも納得してくれませんか、頼まれてることですし・・・」

「頼まれた?」

 

ミドの言葉に、イシスは違和感を覚えた。

普段の彼の性格や言動からすると、今の台詞はおかしい。

一家の末っ子である彼は、父や兄、さらにあの姉を相手にしてもひどく下手に出ている。

もしあの三人から何かを頼まれたとしても、この男は“言い付けられた”と言うのではないだろうか。

だとしたら、この男に頼む立場にいる者は・・・。

 

「(ノルン? でも、彼女達が何を・・・)」

 

この城に来て最初に会った時から、ノルンに対するイシスの印象はよくなかった。

敬愛する祐一にいきなり刃を向けたのだから当然のことだ。

だから城に滞在している間もずっとノルンのことは無視してきたのだが、その様子を改めて思い出そうとしてみる。

彼女達はいつも、無表情を装いながら、時折とても鋭い視線を誰かに向けていた。

その相手は・・・。

 

「祐様!?」

「イシスさん、察し良すぎですよ・・・。お願いですから、大人しくしててください」

「断るわ。祐様を狙うつもりなら、見過ごすわけにはいかない。どきなさい、ミド」

「だめです。色んな意味でだめです。兄君も姉さんも同じ事頼まれたのに、僕だけちゃんと仕事できなかったら兄君からどんなお仕置きがあるか・・・・・・」

 

ミドの言い分など、イシスに聞く気は毛頭なかった。

 

「どかないと言うのなら」

 

イシスは、槍を取り出して構える。

 

「力ずくで通るわ」

「困ったなぁ、あなたを傷つけたくはないのに」

 

それに対して、ミドも懐から武器らしきものを取り出す。

棒状で真ん中に柄があり、両側が鋭く尖った不思議な形状の武器である。

 

「それじゃあ僕も、力ずくで止めるしかないじゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城から程よく離れた荒野。

そこでエリスとフェンリルは、改めて対峙していた。

 

「父親の言いつけを無視していいわけ?」

「これだけ離れれば文句はあるまい」

 

一度水を差された形になったが、両者の闘志はまったく衰えていない。

むしろ僅か一晩とは言え待たされたことによってさらにそれは高まっていた。

今度はもはや、ロキの介入があったとしても止まることはない。

二人の闘いが止まるなど、よほどの事態にならない限りありえない。

 

「まぁいいわ。こっちはあんたなんかと一つ屋根の下で過ごすなんて真っ平御免だからね」

「然り。我ら出遭ったからには闘う以外に道などない」

「ええ、そうね」

 

エリスはすぅっと目を閉じる。

再び開いた時、その目は紅く染まっていた。

魔竜の力を放出して、フェンリルを威嚇する。

対するフェンリルも、激しい凍気で周囲を凍て付かせる。

エリスの放つ熱気と、フェンリルの放つ冷気で荒野は二色に染め上げられた。

 

「さぁ、今度こそ始めようか、魔竜王よ」

「叩き潰してやるわよフェンリル。覚悟しなさいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 何やら状況ややこしくなったけれどエリスvsフェンリルは全然進んでいないという。ほんの一晩闘う時がずれただけで何が変わるのか、答えは次回に!?