デモンバスターズUltimate

 

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『こんにちは、白河さやかです。

訳あって人間やめて、今は精霊みたいなものやってます。

まぁ、私のことはどうでもいいよね。私はただの、この物語の語り部・・・。

 

バベルの塔での決戦が終わった後、魔界へ渡った私と祐一君、エリスちゃんの三人は、オシリスさんとイシスちゃんに連れられて、彼らの居城に一時身を寄せた。

二ヶ月くらい決戦の疲れを癒した私達だったけど、祐一君の提案で旅に出て、そろそろ四ヶ月になる。

私達三人にイシスちゃんを加えた四人は魔界を彷徨い、ある森で道に迷っちゃったの。

そこに用意された三つの道。過去、未来、現在を示すそれらは、運命の女神ノルンによるものらしい。

そしてその仕掛け人の名は、邪神ロキ。

かくして私達は、邪神ロキの招待を受け、彼の別荘だという巨人族の廃城を訪れたのだった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの眼前に聳え立っていたのは、巨大な城であった。

他に形容すべき言葉が見たらないほど、それはとにかく巨大なのである。

 

「さすがは元巨人族の城、ってところだな」

 

かのバベルの塔に比べれば常識的なサイズだが、広大な大地を持つ魔界においてさえ巨大と言える城を見上げながら、祐一が感嘆の声を上げる。

他の三人も三様の表情で同じく城を見渡していた。

さやかは好奇心旺盛な笑顔で。

エリスは呆れ顔で。

イシスはただ唖然とした顔で。

 

「これを一枚の絵に収めるのは難しそうだね〜」

「まったく、でかけりゃいいってもんじゃないでしょ。情緒も何もありゃしないわ」

「・・・結構長く生きてきたつもりですけど、バベルの塔以外でこんなに大きな建造物を見たのははじめてです・・・」

 

廃城と呼ばれていただけあって、全体的に朽ちかけている印象はあったが、崩れそうな部分には補修作業を行った跡が見える。

窓も全て張りかえられているようで、誰かが住む環境は整えられているようだった。

そして、しっかり作り直された正面門は、開かれていた。

 

「ご自由にお通りください、ってことでいいのかな? あれは」

「どうしますか? 祐様」

「ここまで来て後に引く理由もない」

 

祐一が先頭に立って門を潜り、続いてさやか、イシス、エリスの順で中に入っていく。

巨大で、しかも古い城であるが、掃除は隅々まで行き届いているようで、入り口付近からずっと綺麗になっている。

内装は外装以上にしっかり作り変えられているようで、扉や階段、家具などは古く巨大なものの他に、通常サイズで新しいものが並んでいた。

 

「ねぇ、祐一君」

「何だ?」

「どうして巨人族の城ですぐにロキって人の城ってことになるの?」

「ああ、あいつの前世は巨人族だからな」

「前世?」

「そうだ。あいつが遥か昔に生み出した三匹の子は、世界の終末を導く呪いによって不死の命を持っているが、あいつ自身は不死というわけじゃない。当然寿命が来れば死ぬが、その度にあいつはこの世に残っている三匹の子との因果を利用して同じ立場に転生を繰り返しているのさ」

 

そして、天地魔界において、最も古い知識を保有する一族、真魔と呼ばれる存在の祖たる原初の存在に最も近い存在、それこそがロキ親子なのであった。

そのロキの一代前の前世が巨人族であり、今では巨人族は絶滅した種族であるため、その廃城を利用している者がいるとすれば、まずロキだと祐一は仮定したのだ。

 

「それに、ノルンのこともある」

「ノルンっていうのは?」

「それは・・・」

 

答えながら祐一は背負った剣の柄に手をかける。

他の三人がサッと身を引き、祐一が剣を抜いたのと、頭上から光の矢が降り注いだのはほぼ同時の出来事だった。

 

ドドドドドドッ

 

雨のように降ってくる矢の内、体に命中する軌跡を描くものだけを限定して祐一は剣を振るう。

矢を弾いた剣をそのまま右に向かって薙ぎ払い、横合いからの槍の突きをいなす。

さらに逆側から背後をつくように二本の剣が繰り出される。

 

ガッ!

 

二つの斬撃を、祐一は剣を盾にしてガードし、弾き返す。

 

「・・・こいつらのことさ。邪神に魅入れらた三人の女神」

 

祐一は構えを維持したまま、三人の襲撃者へ順番に目を向ける。

 

「過去を司るウルド」

 

階段を上った先のテラスの上に、魔力で生み出した弓を携えたショートヘアの女性。

 

「現在を司るヴェルダンディー」

 

右手、槍を構えた髪の長い女性。

 

「そして、未来を司るスクルド」

 

左手には、両手に剣を持ち、髪を両側で結んだ少女。

 

「随分と手荒い歓迎だな。わざわざ招き入れておいて」

 

三人の女神達は無言だった。

やがて、誰かの足音が近付くと、それぞれに構えた武器を引く。

足音の主に全員の視線が集中する。

テラスの上、ウルドの後ろから現れたのは、銀髪の青年であった。

その姿を見て、祐一が呟く。

 

「・・・ロキ」

「久方振りだね、祐漸。いや、今は祐一君だったか」

 

ロキが軽く手を振ると、ノルン達は軽く礼をして姿を消した。

それを見届けた祐一も剣を納め、下がっていたさやか達も集まってくると、ロキもテラスから階段を伝って降りてきた。

 

「他のお嬢様方も、歓迎するよ。立ち話もなんだ、奥へどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭の景色が良く見える居間へ通された祐一達は、ロキの勧めでそれぞれ椅子に腰を下ろす。

ロキ自身も座って少しすると、ノルン達がお茶を運んできた。

先ほどは襲撃の事実に気を取られて皆ちゃんと見ていなかったが、彼女達の着ているものはどう見てもメイド服である。

神格が決して高いわけではないが、ある意味特別な立場にある運命の女神に給仕をやらせているロキに、祐一達の視線が集まる。

 

「私ではないよ、彼女達自身の趣味だ」

 

しれっとした顔でロキが言う。

 

「まぁ、色々助かっているのも事実だがね。何しろこれだけ大きな城を維持するのは大変だ」

 

ならばもっと常識的な大きさの家に住めば良いのではないかと皆思ったが、おそらく前世で関わっていたであろう城に思い入れがあるのだろう。

出された紅茶は良い香りがしたが、手をつけたのはさやかとイシスだけで、祐一とエリスは飲まなかった。

そうしてしばらく落ち着いてから、祐一が問いかける。

 

「で、何の用だ?」

「旧交を温めようと思った、では納得してもらえないかな?」

「それだけか?」

 

ロキという男は実に風変わりな男だった。

そもそも神という立場にありながら魔界に好んで住み、多くの有力な魔族と交友関係を持っている。

野心というものがないようで、常に各地で起こる魔界の争いを静観している。

だが、呪われた三匹の子という最強のカードを持っている点が一つ、この男をただの風変わりとしてでなく、強大な一勢力として認識させている。

そしてもう一つ、彼を良く知れば知るほど、彼がいかにペテン師であるかがわかった。

祐一も、そうしたロキの裏面を知っている一人である。

 

「おまえが何の企みも無しに、俺達に接触してくるわけないだろう」

 

魔界最強と言われた、四魔聖率いる一大勢力の潰した祐一達。

そんな、今や魔界中の注目を集める彼らを招いたロキには、必ず裏に隠した真意があると祐一は確信していた。

 

「そうだな。もしかしたら企んでいるのかもしれない、企んでいないのかもしれない」

 

言葉を濁すロキだったが、その態度に動揺は一切見られない。

建前を看破されることも計算の内ということか。

 

「とりあえず確かなのは、私が君達を客人としてこの城へ招待したことだ。どうか心行くまで寛いで行ってほしい。部屋も用意している。気に入らない点があるなら何なりと申し付けてくれれば良いし、すぐに出て行っても構わない」

「そうか・・・どうする?」

 

祐一は他の三人に対して問いかける。

 

「私は、祐様の決定に従います」

「おもしろそうだから、私はしばらく遊んで行きたいな」

「・・・アタシはこんなところに長居する気にはならないけど」

「なら・・・・・・」

 

エリスだけが渋っていたが、祐一達はしばし、この城で時を過ごすことに決めた。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「・・・あの〜、ところで・・・」

 

話がまとまったところで、イシスが遠慮がちに口を開く。

 

「どうされた? イシス嬢」

 

ロキが問いかけ、皆が注目する中、イシスは窓から見える庭の方を指差す。

 

「あそこに、どなたか倒れてらっしゃるのですけど、放っておいてよろしいのでしょうか・・・?」

 

全員の視線が窓の外を向く。

確かにイシスの言うとおり、細身の青年が庭の草むらの上で仰向けになって目を回している。

 

「ああ、あれは私の子でミドガルズオルムと言う。また屋根の修繕中に落ちたのか、仕様のない子だ」

 

ロキはまったく気にした様子はない。

あまりに事も無げな言ったため、祐一達は思わずその名が示す意味を忘れるところだった。

蛇霊ミドガルズオルム。

あのフェンリルと同じ、終末を導くと予言されたロキの三匹の子の一匹。

巨大なその身は大地全てを取り巻き、その蠢きは大地を激震させるという。

だが、屋根から落ちて庭で伸びている姿からは、まるでそう形容される魔獣は想像できなかった。

 

「このお城の屋根から落ちたら結構大変そうだね〜」

「結構なんてものか?」

「それで、本当に放っておいて大丈夫なのですか?」

「いつものことだ。気にしないでくれたまえ」

 

気にするなと言われても気になるのか、イシスはその後もしきりに外を見ている。

やがてどうしても放っておけなくなったようで、祐一とロキにそれぞれ一礼してから庭へ出て行った。

エリスはまったく興味がないのか、いつの間にか居間から姿を消している。

しばらくロキと楽しげに世間話をしていたさやかも、城の中を散策したいと言って席を立った。

 

「道に迷うなよ」

「大丈夫大丈夫♪」

 

たぶん、大丈夫ではないだろう。

地元の町でさえ道に迷うようなさやかである。

これほど大きな城で迷わないはずがない。

 

「まぁ、放っておけばいいか」

 

食事時になれば戻ってくるであろう。

女性陣がいなくなると、居間には祐一とロキ、それにノルン達だけになる。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

祐一とロキは互いに無言。

すっかり冷めたお茶をノルンが取り替えようとするが、祐一はそれを断る。

ロキの方はカップに新たに紅茶が注がれると、軽く手を振ってノルン達を下がらせた。

 

「何か聞きたげだな、祐一君」

「まぁ、聞きたいことは色々ある」

「ふむ、ではまず何から話そうか?」

「おまえの真意を聞いても無駄だろうからな、とりあえず今の魔界の情勢でも聞こうか」

「いいだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城の中の、どこか。

 

「んー・・・・・・・・・道に迷った?」

 

さやかは道に迷っていた。

何しろ縦にも横にもやたらと大きい城である。

その上改築を重ねてあるせいか造りも複雑で、考えなしに歩いているとすぐに道がわからなくなる。

そしてさやかは、散策する時には何も考えずに感性のみで歩くタイプだった。

 

「えーと、そもそも今何階だっけ?」

 

それすらも把握していない。

しかも困ったことに今歩いている場所には窓もついていないのである。

 

「こういう時は、誰かに聞くに限る!」

 

辺りには誰もいない。

 

「困っちゃったな〜」

 

ちっとも困ってなさそうな声を出しながら適当に歩く。

とりあえず窓でも見付かれば現在地くらいはわかるであろう、という考えだった。

しかし、歩けど歩けど同じような廊下が続くばかりであった。

本当に無駄に広い城である。

 

カタッ

 

ふと、一つの部屋から物音がした。

考えてみたら、廊下に誰もいなくてもそこら中にある部屋の中になら誰かいるかもしれなかった。

ようやくそのことに思い至ったさやかは、音のした部屋を覗いてみることにした。

 

コンコンッ

 

ノックをすると、部屋の中から少女のものと思しき声が返ってきた。

 

「・・・はい、どなた?」

 

返事を聞くなり、さやかはドアを開けて中に入る。

部屋の中は質素な雰囲気だったが、きちんと整理されており、その窓辺で椅子に腰掛けて本を読んでいる少女が一人いた。

見知らぬ相手に驚いたのか、少女は本を下ろしかけた姿勢のまま固まっている。

さやかはさやかで、少し面食らったような顔で少女のことを見ていた。

 

「・・・っ!」

 

そのさやかの視線の意味で気付いたか、少女は自分の右半身を隠すように横を向く。

 

「あ・・・ごめんね。脅かすつもりはなかったの。ちょっと道に迷っちゃって」

 

驚いた表情はすぐに消え、さやかは笑顔で少女に語りかける。

 

「私、白河さやか。このお城の持ち主さんに招かれて来たの。といっても、招待されたのは別の人で、私はその人にくっついてきただけなんだけど」

 

少女の方は身を硬くしたまま、横目でさやかのことを盗み見ている。

見知らぬ相手に対する警戒以上に、何かに怯えているような雰囲気があった。

 

「・・・あなた・・・」

「ん?」

「見えて・・・ますよね、私の・・・・・・」

 

最後の言葉は掠れて聞き取れなかったが、その意味するところはさやかにはわかっていた。

少女の言うとおり、さやかには彼女が隠したがっているものが見えているから。

それでもさやかは、笑顔で少女に手を差し伸べる。

 

「ね、あなたの名前、聞いてもいい?」

「・・・・・・ヘル」

 

それは、フェンリル、ミドガルズオルムと同じ、ロキの子の名前であった。

 

「ヘルちゃんか。よろしくね♪」

 

差し出された手から、ヘルは目を逸らす。

 

「・・・あまり、見ないで。あなたの目は、真実を見通す・・・だから・・・・・・」

「どうして?」

「どうしてって・・・気持ち悪いでしょう。こんな、私の体・・・」

 

普通の目で見れば、ヘルはごく普通の、大人しい雰囲気の綺麗な少女だった。

だが強い霊眼で見通せば、その右半身の本当の状態を見ることができた。

 

「そんな風には、全然見えないよ」

「嘘。あなたほどの霊眼の持ち主になら、はっきりと見えてるはずよ」

「うん、見えてるよ」

「だったら・・・!」

「言ったよね、ヘルちゃん。私の目は、真実を見通すって。だから私には、あなたの綺麗な心が見えてる」

「え?」

「最初驚いたよ。だって、あのフェンリルやロキさんとよく似た魂の色をしてるのに、こんなに澄んだ心をしてるんだもの」

「・・・あ」

 

ヘルが驚いた隙に、さやかは彼女の右手を取る。

体を強張らせるヘルの手を自分の頬に当てて、さやかは目を閉じる。

 

「見てほしくないなら、見ないよ。だけどね、外見なんか関係ない。あなたのこの手は、ちゃんと血の通った、綺麗な手だよ」

「・・・・・・」

「もし、ヘルちゃんがよければだけど・・・友達になれないかな?」

「・・・・・・・・・・・・うん」

 

小さな声で返事をして、ヘルは頷く。

そして顔を上げた時、さやかの笑顔に釣られるように、ヘルは笑みを漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ、ヘル姉さんのあんな顔、はじめて見ましたね」

「・・・というかあなた、動いて大丈夫なんですか?」

 

壁に立てかけた巨大な梯子を上りながら反対側の建物の窓を見ているミドガルズオルムに、イシスが訝しげに下から声をかける。

 

「あー、大丈夫です大丈夫です。これくらいはいつものことですから・・・わーっとっと・・・!」

 

どたーんっ!

 

イシスは思わず目を閉じる。

そのイシスの目の前に、バランスを崩したミドガルズオルムは落下してきた。

恐る恐る目を開けると、またしても彼は仰向けに倒れて目を回していた。

 

「はぁ・・・」

 

不思議と放っておけず、イシスは彼を介抱する。

最初に庭に出てきて対面した時、イシスは驚いた。

あのフェンリルやロキとよく似ていながら、どうしようもなくドジな青年だったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 ご要望にお応えして、ぼちぼちとUltimate開始。それほど長い話にもならないだろうけど、進行速度はその時の気分によって早かったり遅かったり。あくまでファンタジアとZEROがメインなのでこっちはおまけ企画。

 全体構想としては、主にさやか視点で祐一を主役としつつ、エリスとイシスも含めた四人を中心に、彼らの魔界での戦いとその結末を描くもの。後半の展開は読者側から見たら賛否両論になりそうな予感がする・・・。また後半になるとZEROと関わる部分が出てくるので、ある程度ZEROが進まないと書けない状態に。

 とにかくそんな感じで最初は、祐一一行とロキ親子の出会い編からスタート。