デモンバスターズFINAL

 

 

第44話 次なる舞台へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「世界が滅びるか、自分が滅びるか・・・まさに究極の二択だね。それ以外の道を、彼は見出すことができなかった。思えば哀れ・・・・・・」

イシス 「馬鹿な男です。道なんて、いくらだってあったはずなのに・・・」

エリス 「でも、あいつにとって自分の運命を重すぎた。・・・アタシだって、一歩間違えばああなってたかもしれない」

さやか 「私だって・・・ううん、みんな同じだよ。それでも、私達はこの世界で生きていく」

エリス 「・・・そうね」

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・ルシファー」

これで、満足か。
終わりを迎えることで、おまえの望みは叶えられたのか。

ルシファーを殺したことを悔いはしない。
敵となった以上、この結末に至る可能性はあった。
死が救いになるなんて俺は思わないが、奴がそれで満足したのなら、それでよかったのかもしれない。
だが・・・。

祐一 「後味の悪い戦いだな」

勝利の充足感もない。
こうやって勝ちながら虚しい気持ちになるような戦いは、二度目だな。

祐一 「ふぅ・・・・・・」

・・・どうやら、限界、か・・・。

膝から力が抜けて、その場に崩れ落ちる。
限界を超えた力を使ったことによる反動・・・か。

 

 

 

どさっ

 

 

 

さやか 「あ、倒れた」

イシス 「祐様!?」

さやか 「あんな力使えば、誰だって倒れるよね。うんうん」

イシス 「ゆ・・・」

倒れた祐一のもとへ駆け寄ろうとするイシスだったが・・・。

がっ

イシス 「きゃんっ!?」

どしゃーーー

何かに蹴躓いて床に突っ込む。

イシス 「エ・・・エリスッ、また・・・!」

エリス 「なんのことかしらね」

何食わぬ顔でエリスは倒れているイシスを迂回して祐一の方へ向かう。
だがそこへ・・・。

ぐしゃっ

エリス 「ふぎゃっ!?」

頭上から降ってきたものに押しつぶされて、エリスは床に突っ伏す。
倒れたエリスの上では、さやかが正座をしていた。

さやか 「あ、ごめんね〜、エリスちゃん」

エリス 「・・・この・・・・・・むぎっ!」

上げかけたエリスの頭を踏みつけて、さやかが立ち上がる。

さやか 「じゃ、お先に〜」

そして前を向いて歩き出した瞬間・・・。

 

ごちんっ!!!

 

さやか 「煤普刀煤吹宦~△Π!!!?」

後頭部に凄まじい衝撃を受け、声にならない声を上げてさやかは倒れ伏す。
だが、即座に起き上がって後ろを振り返る。

さやか 「い・・・・・・ったぁ〜〜〜い・・・。今の死ぬってば・・・」

イシス 「先に行かせてなるものですかっ」

エリス 「つーかあんたもう死んでるでしょうが」

床の一部が砕けた破片をさやかに向かって投げつけたイシスと、赤くなった鼻を押さえているエリス、大きなコブのできた頭をさすっているさやかの三人が互いを睨み合う。
バチバチとそれぞれの間に火花が飛び散る。
そして、全員が同時に飛び出す。

エリス 「あんた達、このアタシに喧嘩売るとはいい度胸ね!」

イシス 「何と言おうと、祐様のもとへ一番に駆けつけるのは私です!」

さやか 「抜け駆け禁止だよ〜」

エリス 「あんたが言うか! 大体あんた、手を引いたんじゃなかったの!?」

さやか 「え〜、そんなこと言ったかなぁ?」

エリス 「抜け抜けと!」

イシス 「あーもう、邪魔よ二人とも!!」

いずれも道を譲らずにもみ合う形になる。
お陰で誰一人、一メートルも祐一へ近づけずにいた。

さやか 「とにかく悪いけど、最初に祐一君に声かけるのは私だよ」

イシス 「違いますっ、それは私の・・・!」

エリス 「ふざけるなっ、戦いが終わって最初にあいつをどついていいのはアタシだけよ!」

さやか 「へ〜、照れ屋のくせに昔からそうだったんだ。独占欲強いよねー、エリスちゃん」

エリス 「だ、誰がっ!?」

イシス 「第一どつくって何よっ、この乱暴者!」

さやか 「奥手は返上? 積極アタックに切り替えたの? だったら私ももう遠慮しないよ〜」

イシス 「私の祐様への想いはあなた達とは年季が違うのよ! 今度こそ絶対、私を見てもらうんだから!!」

さやか 「恋は時間じゃないよ。私と祐一君の出会いはこの物語の序曲となった運命の出会いだったんだよ〜」

イシス 「私はルシファーとは違う! 運命なんかには負けません!!」

さやか 「命短し恋せよ乙女〜、私と祐一君はラブラブだもんねー」

エリス 「あーーーーーっ、ぃやかましーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

ドゴォォォンッ!!!

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・やかましいのはおまえら全員だ・・・」

姦しいって字は女が三つ、女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
こっちは精魂使い果たしてるってのに、叫び声が頭にがんがん響いてくるほど元気な奴らだな。

オシリス 「祐」

祐一 「よう」

オシリス 「やはり、おまえが勝ったか」

祐一 「わかってて、おまえはルシファーを止めなかったのか?」

オシリス 「・・・計画の途中、一度だけルシファーがこう言っていた。もし計画が破れるなら、その時はおまえの手で殺されたい、と」

祐一 「勝手なことを・・・」

己を縛る運命を作り出した世界を壊すか。
それとも、自分自身が世界から消えるか。
本当に、選びようのない選択肢だけを残しやがって。
お陰でこっちは大迷惑だ。

祐一 「!」

バッと体を起こす。
新しい気配を感じたからだ。

祐一 「・・・結局、おまえは最後まで高みの見物か」

エリス 「!!」
さやか 「!!」
イシス 「!!」

オシリス 「・・・・・・」

他の連中もそいつの存在に気付く。
どこで調達したのか、背後に花を背負って、アシュタロスが立っていた。

アシュタロス 「今回の私は裏方ですので。主役以外は必要以上に目立たないのも、舞台演出の美学というものですよ、御前」

祐一 「そうかよ」

表ではわりと派手に立ち回っていたようだが。
あくまで力を誇示するパフォーマンスというわけか。

アシュタロス 「勝者であるあなた方には、賛辞を贈らせていただこう。そしてこの花は、壮大なる愚者達の墓標たる、バベルの塔に奉げよう」

祐一 「・・・・・・」

アシュタロス 「それにしても、愚かなる者どもとは言え、魔界にその名を轟かせたベルゼブル、フェンリル、ルシファーを・・・そしてあのサタンをも倒すとは・・・」

アシュタロスは、片手で顔を覆い隠す。
手の下の表情は見えないが、肩は僅かは震えていた。

アシュタロス 「ふっふっふ・・・やはり魔族たる者、己が欲には正直に生きるべきものだな」

顔を覆う指の隙間から、奴の目が覗く。
真っ直ぐ俺に向けられたその目は、鋭い殺気を放っていた。

アシュタロス 「ベリアルやルシファーに遠慮していたつもりだったが、今となっては詮無いこと」

祐一 「・・・・・・」

アシュタロス 「いずれ、あなたは私が倒そう、相沢祐一」

祐一 「いつでも来い。受けてたってやる」

アシュタロス 「フッ、その時は、最高の舞台と演出を用意しよう。私とあなたに相応しい、ね。またお会いしよう」

その言葉を最後に、アシュタロスの気配は消える。
魔界へ帰ったようだな。

エリス 「・・・いけ好かない奴」

祐一 「そうか? あいつは生粋の真魔だ。他の誰よりも真魔らしい。俺はあいつのことは、わりと嫌いじゃない。仲間には永久になりそうにないがな」

さやか 「好敵手ってやつだね。でも、どうして彼やベリアルは、ルシファーやベルゼブル君の計画に無関心っぽいんだろう?」

祐一 「どうでもいいからさ、あいつらにとって世界がどうなろうと」

さやか 「そうなんだ?」

祐一 「ああ。これは俺も含めてだが、真魔ってやつは・・・この上なくわがままで、超絶に自己中心的なんだよ」

イシス 「・・・確かに」

ちらりとイシスが横に視線を向ける。

エリス 「その視線、鏡に映してそっくりそのまま返してやるわよ」

それを受けたエリスは、ジト目で睨み返す。
さやかはそれを見て、うんうんと納得していた。

祐一 「だから、純粋な真魔は世界を滅ぼすなんて発想には至らない。奴らは、世界がどうであろうと、己を貫いて生きていく強さを持っているからな」

ルシファーは天使・・・ベルゼブルはただの魔族。
そいつらが真魔に近付きすぎたがゆえに、今回の事件に至った。
太古の血を、唯一純粋に受け継ぎ続ける、絶対的な存在・・・・・・それが、真魔だ。
そんなものを前にして、運命に絶望するなという方が、難しいのかもしれない。
だが俺にはその感覚はわからない。
それはルシファーが言ったように、俺がこちら側の存在だからかもしれないが・・・。

祐一 「・・・・・・」

・・・ちっ、また湿っぽい気持ちになりやがる。
戦いのあとはもっとすきっとした気持ちでいたい。
こんな後味の悪い戦いは嫌いだ。

エリス 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

どんっ

エリス 「わっ!?」

祐一 「なっ・・・っと!」

いきなり倒れこんできたエリスの体をとっさに受け止める。
すると互いの顔と顔が思い切り接近していた。

祐一 「っ!」
エリス 「っ!!」

そうなると、さっきの映像が浮かび上がってきて、どちらの顔も思い切り火照る。
しかもこの距離だと、さっきみたいに隠し様がない。
真っ赤になった顔を互いに晒していた。

祐一 「・・・・・・あー・・・」

何と言ったものか。

エリス 「・・・約束・・・・・・」

祐一 「?」

エリス 「約束、ちゃんと守ったわね」

約束。
絶対に勝つと、戦う前にそう言って別れた。
それは、ちゃんと果たされた。

祐一 「お互いにな」

エリス 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

 

 

 

 

 

イシス 「なっ!?」

急接近している二人を引き離すべく、イシスが一歩踏み出そうとすると、背後から押さえ込まれた。

イシス 「何するんですか! このまま放って・・・」

首だけを後ろに向けて、自分を羽交い絞めにしているさやかに抗議の声を上げる。
だがさやかは、怒鳴りつけられても涼しい顔をしていた。

さやか 「引くべきところでは引くのも、女の器量だよ」

イシス 「ぅ・・・」

さやか 「ね♪」

にっこり微笑みながら、さやかは片目をつぶってみせる。
そんな顔でこう言われては、イシスも大人しくするしかなかった。

イシス 「・・・・・・」

それでも、目の前でいちゃいちゃ(?)されるのは気分がよくない。

さやか 「焦らない焦らない。祐一君は鈍いし、エリスちゃんは奥手だから、チャンスはあるある♪」

そう言うさやかは、明らかにこの状況を楽しんでいた。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・

 

 

 

 

祐一 「地震・・・? いや、これは・・・」

エリス 「バベルの塔・・・それに、この空間自体が崩壊する」

さやかとベルゼブルの戦いで中枢が、エリスとフェンリルの戦いで全体も打撃を受けたことで、塔はもう限界に達していた。
さらに、サタンがかなり魔力を消費したせいで、空間そのものを維持していたものもなくなり、四神結界の力で歪みに対する修正力が働いてる、ってところか。

オシリス 「このままここにいては、地上に戻れなくなるぞ」

さやか 「あらら、それは大変だね」

ちっとも大変そうじゃない声でそういう台詞を言うものじゃないだろう。
まぁ、それはさておき。

祐一 「下の連中は脱出できるだろう。俺はこのままでいい」

エリス 「あんたも? やっぱりね」

さやか 「あれ、二人ともどうするの?」

祐一 「魔界へ行くさ。元々この戦いが終わったらそうするつもりだった」

エリス 「そういうことよ。いずれその時は来るんだし、アタシ達の今の力じゃ魔界へ行くのも一苦労だからね・・・この状況を利用しない手はない」

イシス 「祐様、エリス・・・」

地上でやり残したことがないこともないが、な。
この機会を逃せば、いつ魔界に行けるかわからない。
それに、俺もエリスも、急激に膨らみすぎた力を御しきれないところがある。
地上で暴走したら、色々と面倒なことにもなる。

さやか 「じゃ、私もいこーっと」

祐一 「さやか・・・」

さやか 「どうせ人間やめちゃった身だし。戻っても誰かさんにつけまわされそうだし」

エリス 「アルド、か。あんたも厄介なのに目をつけられたものね」

さやか 「ほんとだよ〜」

祐一 「なら、みんなで行くか、魔界に」

イシス 「魔界へ行ったら、私もお供します、祐様」

エリス 「ひさびさの魔界か・・・何が待ってるかしらね?」

さやか 「はじめて行くところは、ドキドキワクワクするよね♪」

行くとするか、魔界へ。
そこで何が待ち受けているかはわからないが・・・どこへ行こうと、俺は俺だ。

 

 

地上での心残りと言えば、あの男・・・。

自由奔放で、己を絶対に貫き通す、昔の“俺”におもしろいほとよく似た人間。

今の俺の生きる目標にもなったあいつと、本気で戦ってみたかった。

そういえば、あいつとベリアルの勝負は、どうなったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・!!!

地響きが続いていた。
壁も天井も崩れ落ちていく。

豹雨 「どうやら、そろそろ幕引きらしいな」

ベリアル 「ああ。名残惜しいが、次で決めるか」

崩れ行く塔の中に、新たな震源が生まれる。
魔人と魔神の闘気が、塔を揺るがせているのだ。
決着をつけるべく、両者は極限の力を振り絞る。

豹雨 「当然・・・」

ベリアル 「勝つのは・・・」

豹雨 「俺だ!」
ベリアル 「俺だ!」

上の階から、特に大きな瓦礫が落下する。
それが床に落ちて砕けた瞬間、両者は互いに跳躍する。
残る全ての力を、その一撃に賭けて・・・。

豹雨 「―――――!!!!!」

ベリアル 「―――――!!!!!」

崩壊していく塔の中、戦いに生きる二つの存在が、極限まで高められた二つの闘気が、激突した・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして歪んだ空間はあるべき姿へと返り、そこは無に帰した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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