デモンバスターズFINAL

 

 

第42話 真魔王サタン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イシス 「真魔王・・・」

祐一 「サタン・・・だと?」

オシリス 「現れたか」

翼の色も、姿形も、魔力の質も、全てが元のルシファーとは違っていた。
その異形に、祐一もイシスも驚かされていたが、オシリスだけは知っていたかのように動じない。

イシス 「兄上・・・これは?」

オシリス 「イシス。おまえをルシファーをどう思っていた?」

イシス 「?」

オシリス 「堕天使と誰もが呼ぶ奴を、おまえは他の天使と違うと思ったか?」

イシス 「・・・そんなに何人も天使を見たわけではありませんけど・・・ルシファーは他の天使と違わないように見えました」

オシリス 「そうだ。奴は神への信心を失ってはいたが、本質的には天使のままだった。だが、本当の堕落とは、本質そのものの変換だ」

イシス 「それが、あの姿なのですか?」

今のルシファー、いやサタンは天使のようでもあり、同時に魔族のようにも見えた。
両方の特性を併せ持っているのだ。
だが、ルシファーとはまるで違う、黒い気配を感じた。

オシリス 「完全なる生命体である天使は、それゆえに善から悪に染まった時、まるで別の存在へと変貌する。あれは天使でも魔族でもない。言うなれば、悪魔と呼ぶべき存在だ」

イシス 「悪魔・・・」

堕天使、悪魔・・・その名を、サタン。

 

 

 

 

 

サタン 「悪魔・・・? 違うな。オレは全ての魔を統べる者、真の魔王サタン、即ち真魔王サタンだ」

祐一 「何度も言わなくたって覚えられる」

堕落・・・属性の反転、か。
皮肉にも、反転したのは世界ではなく、それを望んだルシファーそのものだった。
こいつはまさしく、本物の悪だ。
それをひしひしと感じる。

祐一 「ルシファーはどうした?」

サタン 「知らんな。消えたろう」

祐一 「そうか。で、ルシファーにとってかわったおまえは何を望む?」

サタン 「そうだな・・・・・・とりあえず」

フッ

祐一 「!?」

ズンッ!

突如として視界から消えるサタン。
続いて頭上からの衝撃。

祐一 「がっ!」

サタン 「貴様が態度を改めろ。オレは全ての魔を統べる者だと言ったはずだ。頭が高い」

倒れ伏した俺の頭を、サタンが踏みつけて床に押し付ける。

祐一 「てめぇ・・・」

サタン 「次はそうだな。せっかくルシフェルがそれを望んでいたんだ。戯れに世界でも滅ぼしてみるか?」

祐一 「戯れだと?」

サタン 「言っただろう。オレは神も魔も世界もどうでもいいと。だが・・・見ろ」

サタンは俺の頭を押し転がして上を向かせる。
その手には、見せ付けるように魔力を溜め込んでいた。

サタン 「ふん!」

ドンッ!!!

魔力波がその手から放たれる。
狙いは遥か地平線の彼方。
・・・しばらくして、大爆発とともに凄まじい衝撃波が襲ってきた。
なんて威力だ・・・。

サタン 「どうだこの力は。オレには全てを凌駕する絶大な力がある。せっかくそんな力があるのに使わないのは損だろう」

祐一 「だから世界を滅ぼすだと?」

サタン 「そうだな。オレに忠誠を誓う者どもだけは奴隷として生かしておいてやろう。真魔王サタン様の奴隷になれるのは光栄の至りだろう。貴様を第一号にしてやってもよいぞ?」

祐一 「反吐が出るな」

サタン 「フッ」

バキッ

祐一 「ぐっ・・・!」

蹴り飛ばされて十数メートルは吹っ飛ぶ。
さっきもそうだったが、蹴る時の動作がまるで見えなかった。
言動は無茶苦茶だがこいつ、強い。

祐一 「ぺっ」

口内の血を吐き出して口元を拭う。
そして、剣を構えて奴を向き合った。

祐一 「おい、サタン」

サタン 「様が抜けてるぜ。サタン様だろ」

祐一 「そんなことはどうでもいい。おまえ、本気で世界を滅ぼすつもりか?」

サタン 「当然だろ、それがオレの望みだからな」

祐一 「・・・・・・」

オレの望みと、今そう言ったな。
だが、さっきは戯れと言った。
言ってることに食い違いがある。
俺の想像が正しければ、こいつは・・・。

祐一 「もう一つ聞くぞ、おまえは何者だ?」

サタン 「悪魔さ。神を倒す、な」

やはり、言ってることが支離滅裂だ。
よくわかった、こいつの正体が何なのか。

サタン 「何だ貴様、オレを倒すつもりか? この真魔王サタンを」

祐一 「ああ、倒すさ」

サタン 「くっくっく、そうか。愚かにもこのオレに滅せられるを望むか」

祐一 「・・・・・・」

サタン 「身の程を知れ」

ドンッ!

さっきと同じ魔力波が奴の手から放たれる。
やっぱり発射する瞬間の動きは見えなかったが、予測はできた。
速いのは確かだが、動きは単純だ。

祐一 「っ!」

第二撃が放たれる前に懐へ飛び込もうとした俺の足が止まる。
既に、二発目は放たれていた。

祐一 「くっ・・・!」

わざと体勢を崩すことでぎりぎりそれを回避する。
体全体で床に倒れこみ、横転しながら起き上がる。

サタン 「ハッ!」

祐一 「な!?」

起き上がった俺の正面にサタンがいた。
動きを読まれた?
違う、俺の動きを見て、それから動いたんだ。
速いなんてものじゃない・・・桁外れのスピードだ。

ドドドドドドドッ

祐一 「がはっ!」

一瞬で何発喰らったのかわからなかった。
それほど超高速の連打だった。

サタン 「死ね」

祐一 「んなろっ!」

至近距離から魔力波を放たれる直前、デュランダルを盾にしてそれを防ぐ。

祐一 「お返しだ!」

ドゴォンッ!!!

反射した魔力がサタンを直撃する。
いや・・・したかに見えた。

サタン 「フッ」

祐一 「・・・・・・」

相殺しやがったのか・・・あの一瞬で。

サタン 「うっとうしい剣だな」

祐一 「・・・そうかよ」

サタン 「だが、それが限界だろう」

ドンッ!

再び魔力波が放たれる。
ほんの少し力を入れただけに見えたのに、その一撃は、さっきまでのものの倍以上の威力があった。

バチバチバチッ!

祐一 「ぐぉ・・・っ!」

押し返せない!

吸収も反射もできず、盾にしたデュランダルごと吹き飛ばされる。

祐一 「この・・・っ!」

何とか力の流れを後ろにいなすことでかわしきる。

サタン 「まだ足りなかったか。なら、次はこれだ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

祐一 「・・・冗談きついぞ」

今の一撃の、さらに倍・・・いや三倍に相当する巨大な魔力球が、サタンの頭上の発生する。
あんなものの前では、防御も回避も不可能に等しかった。

サタン 「消し飛べ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

イシス 「祐様ッ!!!」

大気を揺るがす大爆発を前に、イシスが悲痛な叫び声をあげる。
防御も回避も許さない脅威の一撃は、完全に祐一を飲み込んでいた。

オシリス 「これほどとはな・・・サタン」

イシス 「そんな・・・祐様・・・・・・」

呆然と立ちすくむイシス。
その視線の先は、爆煙に覆われている。
立ち込める炎と煙を前にして、サタンは笑っていた。

サタン 「くっくっく、ははははははははははははっ! あっはっはっはっはっはっはっは! 見ろ、この圧倒的な力を!! このオレこそが全ての支配者たるべき者である証拠ではないかっ!! そうとも、何人たりともオレの上に立つことなどありえんのだ!!! ははははははははははっ!」

狂ったように笑い続けるサタン。
だが、その表情が一瞬にして凍りつく。
ふと見下ろした自分の右腕が凍り付いているのだ。

サタン 「・・・なに?」

イシス 「あ!」

声を上げたイシスの視線の先で、祐一が炎の中から姿を現す。

祐一 「何馬鹿笑いしてんだよ、てめぇは」

サタン 「貴様・・・・・・」

祐一 「防御も回避もできないなら、撃つ前に対処すればいい。気付かなかったのか?」

魔力球が放たれる直前、祐一はサタンの腕目掛けて氷の礫を飛ばしていたのだ。
それがサタンの狙いを外させ、直撃を避けることとなった。

イシス 「よかった・・・祐様」

オシリス 「喜んでもいられんぞ」

イシス 「え?」

オシリス 「直撃は避けたが、ダメージは大きい。それに、同じ手は何度も通じん」

小手先の技で埋まるほど、力の差は小さくなかった。
サタンの一撃は祐一の防御をもっていしても防げぬほど大きく、しかもそんな攻撃を連発できるのだ。

オシリス 「この程度では状況に変化は・・・・・・?」

イシス 「?」

訝しげな表情をする兄を見て、イシスも不思議そうにその視線の先を辿る。
そこでは、サタンがいつまでも凍りついた自分の右腕を見下ろしていた。

サタン 「・・・・・・・・・」

祐一 「・・・?」

サタン 「・・・・・・ま・・・」

祐一 「何?」

サタン 「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

突然声を張り上げたサタンは、落ちていた自分の剣、ダインスレフを引き寄せる。
そして、それを振りかぶることなく、手首の動きだけで投げつけた。

ドスッ

祐一 「がっ!」

ぎりぎりで急所は外したが、剣は祐一の左肩に深々と突き刺さる。

サタン 「これで何をしたとてかわせまいっ! 全ての攻撃はその剣を目指して飛ぶ!!」

百を超える魔力球がサタンの周囲に浮かび上がる。
それらが全て、一斉に祐一の肩に刺さったダインスレフ目掛けて殺到した。

 

ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!

 

雹のように降り注ぐ無数の魔力球をかわしきる手段はなく、祐一はそのほとんどを体に受けた。

祐一 「!!!」

声を上げる余裕すらない。
嵐のような猛攻の前に、祐一は成す術もなく翻弄される。

サタン 「ふはははははははっ、死ね! 死ねっ! 死ねぇぃ!!」

少しも手を休めることなく、サタンは攻撃を続ける。
さらに激しさを増しながら。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!

 

イシス 「・・・ぁ・・・あぁ・・・・・・!」

もはやイシスは顔面蒼白だった。
目の前で繰り広げられているのは既に戦いなどではなく、凄惨ななぶり殺しの光景だった。

イシス 「くっ!」

顔を背けたくなる衝動を抑え込み、イシスは槍を手にする。

オシリス 「よせ」

駆け出そうとしたイシスを、オシリスの声が制した。

イシス 「私・・・私、もう我慢できませんっ!」

?? 「あんたが行っても何の役にも立たないでしょ」

イシス 「!!」

声に振り返るとそこには、エリスとさやかが立っていた。
二人の視線は、祐一の方へ向けられている。

さやか 「イシスさんだけじゃなくて、私達の誰が行っても足手まといにしかならないね」

エリス 「そういうことよ」

イシス 「だからって・・・・・・このまま黙って見てろって言うの!?」

エリス 「そうよっ、黙ってなさい!」

イシス 「っ!!」

エリス 「これはまだ・・・あいつの戦いよ。アタシ達が手出しするべきものじゃない」

それ以上何も言えず、イシスは唇を噛み締めて前に視線を戻す。
爆発が激しすぎて、その中にいるはずの祐一の姿を探すことさえ既に困難だった。
そんな中で、必死にその姿を三人の少女は探す。

さやか 「いた」

三人の視線が一点に集まる。
爆発点のほぼ中心地で、祐一は片膝をついていた。
右手のデュランダルで攻撃の一部を防ぎつつ、肩に刺さったダインスレフを抜こうとしている。
それは、まだ勝負を諦めた者の姿ではなかった。

サタン 「まだ抵抗するつもりか? 往生際が悪いぞ」

祐一の動きを悪足掻きと見たか、サタンが嘲笑する。
その間も、攻撃の手はまるで緩まない。

さやか 「祐一君・・・」

イシス 「祐様・・・!」

嵐のような攻撃は尚も続いていた。

イシス 「何なの、あいつは!? どうしてあんなに魔力がもつのよっ!?」

オシリス 「・・・・・・」

サタンの魔力はまるで無尽蔵だった。
一撃一撃がフェンリルのそれに匹敵するほど強大なものでありながら、さらにそれを休むことなく連射するなど、もはや尋常ではない。
それこそフェンリルをはじめ、魔界を牛耳る怪物達を見てきたイシスやオシリスにとっても、サタンの魔力は異常だった。

サタン 「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

さやか 「・・・・・・わかったよ」

イシス 「え?」

エリス 「あいつの底無し魔力の原因は、このバベルの塔よ」

オシリス 「まさか?」

さやか 「私が中枢を壊したから、今この塔はただ魔力をためてあるだけの貯蔵庫になってる。だけど、世界を滅ぼすくらい巨大な魔力の塊でもあるんだよ」

エリス 「それを無限に吸い上げ続けることができたなら、そいつはフェンリル以上の化け物にだってなる」

イシス 「そんな・・・・・・それじゃぁ、勝てるはずない・・・」

魔神がどれほど強大な力を持っていても、一個の存在で世界を滅ぼすことなどできはしない。
それを実現させるためには、この巨大なバベルの塔に数百年かけてため続けた膨大な量の魔力が必要だったのだ。
塔に貯蔵された魔力は、それこそ魔神数百体分にも匹敵する超エネルギーである。

オシリス 「限りなく無限に近い魔力だな。それが、サタンの能力か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく