デモンバスターズFINAL

 

 

第38話 決戦!さやかvsベルゼブル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣に己の魔力を注いださやかは、ベルゼブルに対して接近戦を仕掛けた。
それが自分にとって不利な戦い方であると承知の上で突っ込んだのだ。
遠距離からの撃ち合いでは互角より若干さやかが有利だったが、決定打がない。
勝負を決めるため、覚悟の接近戦であった。

さやか 「やぁあああっ!!!」

ドォンッ!

ベルゼブル 「ぐ・・・っ!」

さやかの気迫はベルゼブルを圧倒していた。
密接して戦えば、例え攻めていても多少のフィードバックで自身もダメージを受ける。
魂の絶対量が少ないさやかにとっては危険な賭けである。
だが、死中に活を見出すがごとく、戦いはさやかが優位だった。

ベルゼブル 「くっ、おのれっ!」

ドォッ!

さやか 「かはっ」

攻撃を受けるのを覚悟でベルゼブルが反撃する。
その結果、左肩に深くさやかの剣が食い込んだが、さやかも大きなダメージを受けた。
魂そのものが削られ、自身の存在自体が揺らぐ感覚を覚える。

さやか 「こんのぉ・・・っ!」

意識が落ちそうになるのを気合で留める。
そしてさらにさやかは攻め続けた。

ベルゼブル 「(な、何故だ・・・!?)」

接近して戦えば明らかにベルゼブルの方が有利なはずだった。
少々のダメージなど構わずに撃ち合えば、先に力尽きるのはさやかのはずである。
なのにベルゼブルはそれができない。
完全にさやかの気に呑まれているのだ。
踏み込もうにも押し返される。

ベルゼブル 「(こ、これが死闘というものか!?)」

魔界という地に生きる者は戦いの日々を送る。
ベルゼブルとて、そんな中で生きてきたからには死を感じたことなどいくらでもあるはずだった。
それにもかかわらず、決死の覚悟で向かってくる眼前の人間が自分よりも遥かに大きく見えた。

ベルゼブル 「(覚悟の差なのか!? 私の覚悟が、さやか嬢に及ばないというのか? しかし・・・)」

ドゴォッ!

再びベルゼブルのカウンターがさやかの体を捉え、その身を壁に叩きつけた。
人間の体ならば粉々に砕けている威力の直撃である。
さやかの魂が全て消し飛んでもおかしくない。
だが・・・。

さやか 「くっ・・・! はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・・・・」

それでもさやかは立ち上がった。
真っ直ぐにベルゼブルを見据える目はまるで光を失っておらず、魔力は尚も充実していく。

ベルゼブル 「!!」

その姿に、ベルゼブルは戦慄した。
抱いた恐怖にも似た感情は、真魔を前にして感じるものと極めて似ている。

ベルゼブル 「君は一体・・・・・・何者だ?」

さやか 「白河さやか、ただの人間だよ。あ、元、か。今は何だろうね?」

ただの人間であろうはずがない。
もう何度も侮るまいと思い、十二分にその力を認めているつもりのベルゼブルでも、さやかの強さを測りきれなかった。
人間は多くの魔族が思っているほど弱い存在ではない。
それでも、さやかの力は、例えその身を精霊に近い存在へと変えたとしても、人間に持ちえるものではないのだ。

ベルゼブル 「ならば、この一撃で見極める!」

右の掌から強烈な魔力波を放つ。
速度も威力も、ベルゼブルが持てる最大限のものである。
避けることはできない。

さやか 「こんなものっ!」

バァンッ!!!

ベルゼブル 「!!!」

ドゴォーンッ!

今度という今度は、ベルゼブルも完全に絶句した。
ベルゼブル渾身の一撃を、さやかは素手で弾き飛ばしたのだ。
右手の剣で払うならまだしも、左手で無造作に。

いくらその身が霊体であるといっても、素手の部分は肉体と同様、普通に防御力が低い。
そんなところで攻撃を弾けば、自身のダメージも大きい。
現に魔力波を弾いたさやかの左手は服の袖もぼろぼろになっており、腕には裂傷を負っている。

ベルゼブル 「(・・・何故だ!?)」

どれほど攻撃しても、さやかの魂を砕けない。
どれほど強かろうと、これほど激しい攻防で少しもダメージを受けないはずはない。
そしてさやかの魔力が例えベルゼブルを凌駕していたとしても、魂の差は絶対に覆るはずはなかった。
何か超自然的な、ベルゼブルでさえ計り知れない何かが彼女を加護しているとしか思えない。

ベルゼブル 「は・・・!」

自身が思いついた加護という言葉にハッとする。
これがさやか個人のみの力ではなく、何か別の大いなる力が働いているとしたらどうか。
魔神達によっての真魔の刻と似通った、しかしそれとは違う何か。
だが、神々の力は感じられない。
そして、神でも魔でも、ましてやさやかが操る冥の力とも違う可能性に思い至り、ベルゼブルは笑った。

ベルゼブル 「くっ・・・くくく・・・はっはっはっはっはっはっはっは!!」

さやか 「?」

ベルゼブル 「そうか! そういうことかっ!!」

さやか 「激昂したり笑ったり、忙しいね君も」

ベルゼブル 「これが笑わずにいられるものかっ。そうか・・・君がそうだったのか!」

何のことだか、さやかにはわからなかった。
だがベルゼブルは、全ての謎に回答を見出していた。
そしてその事実に愕然としていた。

ベルゼブル 「・・・どうやら君自身もまだ知らないようだな。ならば教えてよう・・・君は、調律者だ」

さやか 「ちょーりつしゃ?」

ベルゼブル 「これも正式な言葉ではない。だが、以前話した運命破壊者の対極に位置する存在・・・・・・世界をあるべき姿に正す存在だ」

さやか 「世界を正す・・・」

ベルゼブル 「そうだ。世界によって定められた運命を変える力の持ち主は、数こそ少ないが確かに存在する。少しならば世界そのものが持つ自然な修正力が働くが、大きすぎる変化は世界自体が危機に感じる。その時世界は、自らをあるべき姿に戻すため、調律者を選び出す。言ってしまえば、運命破壊者が肉体を蝕む毒だとするなら、調律者はそれを治療する解毒剤のようなものだ」

大きすぎる変化。
それは即ち、世界を滅ぼすほどの行為のことを指すのか。
ならばそれは、ベルゼブルそのものだった。

さやか 「・・・つまり、私は・・・」

ベルゼブル 「君は、私という世界に生まれた毒を浄化する者として選ばれたのだ。世界が選んだのは、相沢祐一でも、エリスでも、斬魔剣の豹雨でも、神月京四郎でもなく・・・・・・白河さやか・・・君だった。強いとは言っても普通の人間・・・いや、それゆえに、か・・・」

さやか 「私は、君の運命そのもの、か。そして君も、私の運命そのもの。こうして出会い、戦うことが私達の宿命だったのかな?」

ベルゼブル 「はじめからそうだったわけではないだろう。おそらく、その剣だろう」

さやか 「グラムが・・・」

ベルゼブル 「おそらくそれは、選定の剣だ。それを手にした者こそ、調律者として選ばれた者」

思い返せば、グラムを手に入れた時は剣そのものに呼ばれるような感覚があった。
それに、ヴィオラもさやかがこの剣を手に入れたことを気にしていたようだった。
あの時から彼女は、さやかの運命を感じ取っていたのだろう。

さやか 「(そういえば、今の私ってヴィオラさんに近い存在なのかな?)」

ならば、今度会った時にはそれらしい挨拶が必要かもしれない。
精霊としてはあちらが大先輩である。
もっともそれは、この戦いに勝利した後のことだが。

ベルゼブル 「魔神にも匹敵する魔力に、冥界の力・・・それに世界の加護。これほどの要素を備えた者が相手では、勝算は薄いか・・・・・・」

さやか 「・・・今なら、まだやめられるよ」

蠅の王ベルゼブルを倒すこと。
それは今のさやかにとっての使命であった。
だが、できることなら、さやかはベルゼブルを殺したくはなかった。

ベルゼブル 「情けをかけるつもりかね?」

さやか 「君のやろうとしてることは許せないけど、君自身のことは、そんなに嫌いじゃないから」

ベルゼブル 「そうか・・・」

ベルゼブルの身から、殺気と闘気が消える。
戦う意志をなくしたのかと、そう思われた。
しかし・・・。

ベルゼブル 「さやか嬢。もはや、私は退けぬところまで来ているのだよ!」

さやか 「!!」

魔力が高まる。
だがその起点はベルゼブル本人ではなく、その背後にあるバベルの中枢たるオブジェだった。

さやか 「ベルゼブル君!」

ベルゼブル 「君は強い。勝負は君の勝ちだ。だが、私はこの戦いそのものの勝者となる!」

凄まじい魔力が周囲に渦巻いている。
このバベルの塔はおそらく、長い年月をかけて魔力を蓄積するものだとさやかは睨んでいた。
そして集めた魔力を中枢に集めて爆発させることで、世界を反転させるほどの超エネルギーを生み出すのだ。
今、ベルゼブルはそのスイッチを入れた。

さやか 「この・・・っ!」

ベルゼブル 「もはや私を殺しても無駄だ。バベルの機能そのものを破壊しない限り、止まりはしない」

さやか 「なら、その中枢を壊すまで!」

ベルゼブル 「それもさせん!」

パァンッ!

さやか 「!!」

さやかの放ったヘルブレイズの炎は、中枢に届く前に何かに阻まれて掻き消えた。
結界が張られている。

さやか 「ベルゼブル君・・・それは・・・!」

結界を張っているのは、当然ベルゼブルだ。
それも、自身の魔力の全て・・・下手をすれば魂そのものすらも削って結界を形成している。

ベルゼブル 「私はこれに全てを賭ける。我が魂の全てを魔力に変えても、バベルの中枢を守りきる!」

さやか 「それじゃあ君が死ぬよ! 自分自身のいない新しい世界に何の意味があるって言うの!?」

ベルゼブル 「構わぬ! ほんの一瞬でも、真魔の呪縛から解き放たれた世界を垣間見られるのなら、この命もいらぬ!!」

さやか 「・・・君・・・狂ってる」

ベルゼブル 「かもしれんな。だとしたら、とうの昔に、だ」

さやか 「・・・・・・」

もはや、説得は無意味だった。
ベルゼブルの結界を破り、バベルの中枢を破壊しなければ、今の世界を滅びる。

さやかは、覚悟を決めた。
相手が全てを賭けてバベルを守るというのなら、自分は全てを賭けてそれを破壊するまでである。
最強最後の術を、最大出力で解き放つ。
その結果、今度こそ完全に死ぬことになったとしても、今の世界を守れるのなら、さやかは構わなかった。

さやか 「冥界門・・・全開!」

ゴォオオオオオオオオオオッ!!!!!

今の時点でさえ、限界近くまで押し広げてある冥界門をさらに広げる。
激しい負の波動が吹き荒れる。

さやか 「くっ・・・!」

少しでも気を抜けば引き込まれる。
精霊に近いと言っても、死んで間もないさやかはむしろ幽霊よりの存在である。
より死に近いがゆえに、冥界に引きずられる。
冥界門を開くことは、さやかにとって足下に穴を掘ってその上で落ちないように耐えているのに等しいほどの苦痛を伴った。
その苦痛と引き換えに、さやかは魔神にも匹敵する大魔力を操っているのだ。

さやか 「もっと・・・! まだ、足りないっ」

全身が悲鳴を上げる。
もはや限界はとっくに超えていたが、まだ足りなかった。
ベルゼブルの結界ごと、バベルの中枢を吹き飛ばすには、まだ力が足りない。
だから押し開く。

さやか 「こんの〜、根性見せなさいっ、白河さやか!!」

倒れそうになる体を、剣を杖にして支える。
その剣、グラムが発する力も限界ぎりぎりまでさやかの身を守っていた。

一方、バベルの方も魔力が臨界点に達しようとしていた。
塔全体の魔力が大循環を行っている。

ベルゼブル 「ついにこの時が来た・・・。世界は変わる、私の勝利だ!」

さやか 「させない! 絶対にっ!!」

限界を遥かに超えて開かれた冥界門を背に、さやかは掌を目標に向ける。
その一撃に、全てを込めて・・・。

 

さやか 「ヘルズゲート・キャノン!!!」

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

視界が暗転する。
黒い光の奔流が辺りを包む。
同時に、さやかの意識も暗闇に飲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「・・・・・・・・・・・・」

どれほど時が経ったか。
一瞬のようにも、永遠のようにも感じられた。
痛む体に鞭打って、さやかは身を起こす。

目に映った光景は、仰向けに倒れるベルゼブルの姿と、完全に破壊されたバベルの中枢だった。

さやか 「・・・・・・ふぅ」

自身の勝利を知って、安堵のため息をつく。
霊体になって軽くなったと思っていた体が、今は肉体があった頃よりもずっと重く感じた。
それを引きずるようにして、ベルゼブルのもとへ歩み寄る。

さやか 「・・・ベルゼブル君」

ベルゼブル 「・・・・・・私の負け、か・・・」

さやか 「うん」

勝ちはしたものの、さやかの表情は晴れない。

ベルゼブル 「ふっ、哀れむような顔はしないでくれたまえ。これもある意味、私にとっては呪縛から解き放たれる道だろう」

死は全てからの解放。
確かにそうかもしれないが、本当にこれしか道がなかったのかとさやかは思い悩む。

ベルゼブル 「・・・君にもっと早く出会えていたら、私も違う道を歩めたのかもしれぬな」

さやか 「・・・死ぬ寸前でまた口説いてるの?」

ベルゼブル 「そうだな」

ベルゼブルの体の一部が崩れだしていた。
魔神になろうと足掻き、そうなれなかった一人の魔族の最期である。

ベルゼブル 「・・・結局、運命に勝てなかったということか」

さやか 「それは違うよ。君はただ、運命から逃げようとしてただけ。自分の運命に耐えられずに、ね」

ベルゼブル 「・・・・・・そうか。それでは勝てるはずもない、か。はっはっはっは」

さやか 「・・・・・・」

ベルゼブル 「さやか嬢、君も落ち込んでいる場合ではないぞ」

さやか 「?」

ベルゼブル 「これからは君が、過酷な運命の中で生きなければならないのだからな。君は調律者となった・・・そして、運命破壊者は私だけではない。いずれまた、私のような者が現れた時、君は再び戦わなければならない。人の身であったならばその時はたかだか百年足らず・・・だが精霊となれば長き時を生きることになる」

さやか 「・・・・・・」

ベルゼブル 「そして、かつて闘神と呼ばれた相沢祐一、魔竜王の名を継いだエリス・・・・・・奴らもまた運命に逆らう力を持った者達だ」

もはや上半身のみになったベルゼブルが薄く笑う。

ベルゼブル 「予言しよう、白河さやか嬢。いずれ君には、彼らを倒さなければならない時が訪れる。君は果たして、その運命に耐えられるかな・・・? ふふ・・・はっはっはっはっはっはっはっは・・・・・・・・・・・・」

呪詛にも似た言葉を残し、ベルゼブルは事切れた。
最後まで笑みを浮かべながら、その身は崩れ落ちる。

さやか 「・・・最後まで勝手なことを・・・。その時は、その時だよ」

 

?? 「どうやら、用事は済んだようですね」

さやか 「・・・だから、どーして君は一番嫌な時に出てくるの? というかいつからいたの、アルド君?」

アルド 「少し前から、ね」

先ほどは撒いたが、いずれ追ってくるだろうとは思っていた。
だが、今この時にアルドと戦う気はなかった。

さやか 「悪いけど、まだ用事はあるから、君に付き合ってる暇はないよ」

アルド 「それは残念ですね」

やる気満々ですか、とさやかは心の内でツッコミを入れておく。

さやか 「どうせだから、一つ頼まれてくれないかな?」

アルド 「何です?」

さやか 「魔門のところにいる郁未ちゃんと舞ちゃん、それに外にいる人達にも、脱出すうように伝えてほしいの。中枢を壊したから、いつバベルの塔が・・・この空間が崩壊するかわからないから」

アルド 「・・・では、それが済んだなら」

さやか 「はいはい、やります、やればいいんでしょう」

投げやりに答えておく。
それで満足したのか、アルドは一足先にその場を立ち去った。
最後にニヤリとした表情を見せながら。

さやか 「いやだなぁ、あのニヤリは・・・」

どうやって逃げるかと考えながら、さやかもその場をあとにする。

さやかの戦いは終わった。
あとは、見届けるだけだった。
全ての結末を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく