デモンバスターズFINAL

 

 

第35話 隠された真意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリスは、一つの扉の前に立っていた。
近付けば、体が押しつぶされそうになるほどの重圧を感じるその場所に、彼女が敵がいる。

はっきり言って、エリスは怖かった。
彼女に限らず、生きとし生けるもの全ては、かの存在に恐怖するだろう。
それが滅びをもたらす力を持って生まれた、魔狼フェンリルなのである。

エリス 「・・・・・・」

すっとエリスは胸に手を当てる。
ドラゴンズハートの力と意志は、はっきりとそこに根付いている。
そしてその胸には、エリス自身の決意も秘められていた。

歴代魔竜王の悲願、エリスの決意、そして絶対勝つという祐一との約束。

全てを胸に、エリスは今、史上最強の超魔獣に挑む。

 

ギギィィィ・・・・・・

 

開いた扉の向こうに、かの者の巨体が鎮座している。
先ほど対峙した時とは、比べ物にならないほどの殺気を放ちながら。

エリス 「フェンリル・・・!」

フェンリル 「待っておったぞ、新たなる魔竜王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィッ

ドシュッ

一方では拳を受けた魔物が壁に向かって吹き飛び、もう片方では二つに両断されて倒れ伏した。
似たような光景が、魔門のもとで繰り返されていた。
はじめは百頭近くいた魔物の群れが、今では三分の一以下にまで減っている。

郁未 「歯ごたえがないわね」

舞 「・・・郁未が強すぎる」

郁未 「私だけじゃなくて、あなたもね」

いずれもかつて二人が戦ってきた敵の中でも最強レベルの相手に違いない。
にもかかわらず、それらは既に彼女達の敵ではなかった。
数々の出会いと戦いが、二人のレベルを飛躍的に上げていたのだ。

舞 「・・・誰か来る」

しかし、そうなればより強い敵が出てくることは必定である。
新たな気配の出現に、郁未と舞は身構える。

郁未 「・・・・・・誰かと思えば」

魔物の群れを押し分けて現れた二人の姿を見て、郁未は嘆息する。
親しい間柄では決してないが、よく見知っている相手であった。

郁未 「バインと、それに・・・」

舞 「・・・アヌビス」

バイン 「またお会いしましたね」

アヌビス 「・・・・・・」

郁未 「影でこそこそ動いてた連中が、今さら出てきて何の用かしら?」

不思議と因縁のある相手である。
郁未と舞にとってこの戦いの発端となったさくらとの出会いがあった頃に遭遇した魔族バイン。
そして、舞にとってはかつての同胞、ゼルデキア同様ナイツ・オブ・ラウンドに潜伏していたアヌビス。

バイン 「正直なところを申しましょう。私はあなた方とは戦いたくない」

郁未 「・・・それは、どういうこと?」

バイン 「簡単なことです。あなた方は強い。郁未さん、私は何度もあなたに会っていながら自分の命があるのが不思議ですよ。そして、舞さんにいたっては蘇ったシヴァ様をも倒した・・・。お二人のレベルは既に私の及ぶところではないでしょう」

郁未 「買いかぶったものね」

バイン 「ご謙遜を。とはいえ、我々はあなた方をこの場で足止めするよう命じられております」

四人の間に緊張が走る。
いざとなれば、即座に戦えるよう全員が身構えている。

郁未 「・・・・・・」

バイン 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

アヌビス 「・・・・・・」

しばしの沈黙。
その緊張感を払うように、バインが肩をすくめてみせ、郁未もそれがわかっていたように力を抜く。

バイン 「よしましょう」

郁未 「ええ、そうね」

舞 「?」

わかっていない者が一人いたが、他の三人は皆矛を納めるように緊張を解く。

バイン 「既に双方の頭が戦い始めている今、我々如きの小競り合いなど無意味です」

郁未 「そういうことよ」

郁未と舞が無理に押し通ろうとすれば、バインとアヌビスは邪魔をしてくるだろう。
しかし現状維持ならば、互いに手を出す理由は無い。
どの道、上での勝利者が全てである。

郁未 「・・・・・・」

一抹の不安がないわけでもない。
色々と不自然な点を、郁未はずっと感じていた。
けれどそれも全て、先へ進んだ者達に賭けるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イシス 「・・・・・・ちょっと待ってください、兄上。今言われたことは、本当ですか?」

オシリス 「今さら隠し立てしたところで仕方あるまい」

イシス 「じゃあ、さっきからバインとアヌビスの姿見えないのは・・・」

オシリス 「ノワール・ムーンとやらの足止めに行かせた。あの二人、力は祐やエリスに及ばぬが、動き回られると厄介だ」

イシス 「だけどこのままでは・・・今言われたことがベルゼブルの真意なら、全部あの男の思う壺ではありませんか!」

祐一を追って最上階を目指す間、イシスはオシリスから、ベルゼブルが他の仲間に隠していることについて聞かされていた。
オシリス自身も、全て推測の上でのことだったが、間違いないと思っている。

イシス 「兄上!」

オシリス 「イシス、おまえは一体誰の味方でいるつもりだ?」

イシス 「だ、誰って・・・それは、その・・・」

考え込むイシス。
元々イシスはオシリスのもとにいるだけで、今回の目的も祐一に会うことだけだった。
ゆえに、この戦いの真の目的などはどうでもいい。
既に祐一に会えた今、イシスの目的はないのと同じだった。

イシス 「強いて言えば、祐様の味方です。兄上は違うのですか?」

オシリス 「違うな」

イシス 「どうして? 祐様と戦う気はつもりはないのではなかったのですか!?」

オシリス 「直接戦うことはないだろうと思っていた。だが、敵対していることに変わりはない」

イシス 「そんな・・・」

祐一とオシリスが敵同士であるということ。
それはイシスにとって、天地がひっくり返るのと同じくらいの衝撃だった。
魔界にいる全ての魔神が祐一の敵となっても、兄オシリスだけは味方でいると思っていたのだ。

オシリス 「ルシファーとベルゼブルは、運命に立ち向かおうとしている。祐ならば否定しようが、俺は奴らに賛同した。アシュタロスとベリアルは楽しみのため、フェンリルもまた己が闘争のために動いているが、俺はあの二人の目的のために動いている」

イシス 「・・・・・・」

オシリス 「もっとも本当のところは・・・アシュタロスも似たようなことを考えていようが・・・・・・見届けてみたいのだ」

イシス 「何を、ですか?」

オシリス 「この戦いの行く末をだ」

オシリスは立ち止まって、天井を見上げる。
その先で戦っているであろう二人の姿を思い浮かべながら。

オシリス 「運命に逆らおうとする者と、運命の中にあっても己を貫き通す者・・・・・・どちらが勝つのかをな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな力の衝突が複数、バベルの塔の内外で起こっていた。

一つは外部。
アシュタロスが神の力を持った二人、神月京四郎と楓を相手に戦っている。

一つは下層部。
己こそが最強と信じる魔神と人間、ベリアルと豹雨が互いの全てを賭けて死闘を繰り広げている。

一つは上層部。
今まさに、魔界最強と謳われる二大魔獣、魔狼フェンリルと魔竜王エリスが衝突しようとしている。

一つは最上階。
かつての盟友でありながら進む道を違えたために、ルシファーと祐一がぶつかりあっている。

一人一人が天地の理を左右できるほど絶大なる力を持った者達がこれほど一箇所に集まり、しかも闘争を繰り広げることなど、数千年に一度あるかないかのことであった。
だがその中にあって、誰とも戦わず、これまでずっと静観してきた者がいた。

ベルゼブル 「ふふふ、全て・・・計画通りか」

蠅の王、ベルゼブルである。
この塔の建造に深く関わっており、今回の計画の中心的存在でありながら、これまでずっと影で暗躍してきた男だった。

彼にとって、全ての計画は彼一人のものであった。
誰も・・・共にある同志達でさえ、彼にとっては手駒であり、信頼している相手ではない。
ゆえに、今ベルゼブルがいる場所は、彼以外誰も知らない場所である。

計画の真相を知られれば、同志だった者すら敵になるかもしれない。
だから彼は、この時を待った。

今、彼の邪魔をできるだけの力を持った者達は全て、自らの戦いに没頭している。
誰一人、ベルゼブルのもとへやってくることはない。

ベルゼブル 「そう、私はこの時を待っていた」

両手を広げて見上げる先には、巨大な球状のオブジェがあった。
ワイヤーのように物質化した魔力によって周囲の壁からつるされている。
巨大な魔力を持ったバベルの塔の中にあって、そこはもっとも魔力の濃い場所だった。

ベルゼブル 「かの闘神の転生たる相沢祐一、魔竜王の称号を受け継いだエリス、人間の中では最強の力を持った斬魔剣の豹雨も、大地の巫女楓も、神の子神月京四郎も、ベリアルも、アシュタロスも、フェンリルも、オシリスも、ルシファーも! 何人たりとも今この瞬間に私の邪魔をすることはできない!!」

声高に叫ぶ。
悲願達成の時を前に、ベルゼブルは歓喜に打ち震えていた。
誰にも邪魔されず、計画を完遂できる。

ベルゼブル 「・・・・・・」

一瞬、一人の人間の姿が思い浮かんだ。
先に挙げた者達以外で、唯一彼の行く手を阻むとしたなら・・・。

ベルゼブル 「フッ、それもない」

最後の可能性すらも潰したのだ。
余計な心配である。

ベルゼブル 「誰もここに、バベルの塔の中枢に辿り着くことはない。そして間もなく、バベルの塔はその力を発現し、この世界を作り変える光となる! 例え相沢祐一やエリスが勝ったとしても、結果は変わらない。神々の妨害も間に合わん。今ある世界は崩壊し、私は新たな世界の創造主となるのだ!」

 

 

 

 

?? 「なるほどね、それが君の目的なんだ」

ベルゼブル 「!?」

背後からかけられた声で、ベルゼブルの目が見開かれる。
今この瞬間まで、全てが思い通りに運んでいたはずのものに亀裂が走った。
それはベルゼブルにとって、まったくの予想外のことだった。

?? 「だけど、今の話からすると、その中枢っていうのを壊しちゃえば、この塔を止められるってことだね」

驚愕に彩られた表情で、ベルゼブルはありえない声に振り返る。
その顔がよほどおかしかったのか、声の主がくすくすと笑う。

?? 「あはは、君でもそんな顔するんだ〜。まさにあれだよ、カラスが豆鉄砲を食らったような顔ってやつ。あれ、鳩だっけ?」

そこにいるのは、彼のよく知っている相手だった。
そして、その場にいるはずのない者であった。

ベルゼブル 「・・・なぜ・・・?」

?? 「はじめて会った時から君って、ずっと余裕顔だったもんね。まんまと余裕をなくさせて、してやったり、ってとこだよ」

彼とは対照的に、相手は楽しげに笑う。
いたずらに成功した子供のように。

?? 「ま、何にしても・・・ようやく捕まえたよ、ベルゼブル君」

ベルゼブル 「白河・・・さやか嬢・・・・・・」

震える声で、その名を呼ぶ。
並み居る、天地を揺るがすほどの実力者達を差し置いて、彼がもっとも警戒した人間の少女、白河さやかの名を。

さやか 「こんにちは」

スカートの裾をつまんで、さやかは恭しく礼をしてみせる。
まだベルゼブルは、驚きを隠せずにいた。

ベルゼブル 「・・・・・・何故、君がここにいる?」

さやか 「うん、確かにちょっとここは入り組んでるよね。しかも普通、塔なら上へ行くのがセオリーだけど、ここは魔門のあった場所より下の方なんだよね〜。まぁでも、君の気配を辿ったら、わりと簡単に着けたよ」

ベルゼブル 「どうやってここへ来たかではない。何故・・・生きている?」

さやか 「ふふ、そこに驚くってことはやっぱり、全部君の策略の内か。周到だよねー、色々と」

質問には答えず、さやかは顔の前に差し出した手の指を一本折って話してみせる。

さやか 「まず、オシリスさんとアシュタロスを送り込んできた。ここで、私達はあなた達のことを知り、京四郎さんや楓さんはアシュタロスとの間に因縁ができた」

また一本指を折る。

さやか 「それから、豹雨さんにベリアルをぶつけるように仕向けたのも君だね。元々ルシファーは祐一君を狙ってたわけだから、これで君以外の四魔聖とそれに相対する人達を押さえられる」

ベルゼブル 「・・・・・・」

さやか 「ブラッドヴェインとフェンリル、エリスちゃんには最初から因縁があったわけで、特に手をつける必要はない。ここまではまぁ、君の思惑通り」

一つ一つ語っていくさやかの言葉に、ベルゼブルは黙って耳を傾ける。
肯定も否定もせずに黙っていることが、肯定を示していた。

さやか 「・・・極めつけは、私に対する君の警戒心の高さだよね。君は聞いたね、何故私が生きているか。知ってたんだね、私の体のことを」

さやかの体は、暴走する魔力を抑えきれない状態だった。
戦えば必ず、死を迎える。

さやか 「アルド君を塔に引き入れ、私と鉢合わせた。彼と私が、出会えば戦うことになる間柄だと知って。そして、魔門・・・あれを壊せるのが、私だけだということも知っていた。全部承知の上で仕掛けた、私を消滅させるための罠だったんだね」

ベルゼブル 「・・・・・・」

さやか 「・・・周到というより、執念って言った方がいい気さえするよ。そうまでして、私の殺したかったの?」

ベルゼブル 「・・・・・・そう、私は君を恐れていた。私の計算を狂わせ、私の最大の障害になるのは君だと・・・君に会った瞬間思った」

さやか 「・・・・・・」

ベルゼブル 「だからあらゆる手段を使っても君を消そうとした。思惑通りにそれは成ったと思っていた。それが・・・何故?」

さやか 「そうだね。正確に言うと、私は生きてなんかいない」

ベルゼブル 「なに?」

さやか 「私は確かに、死んだよ。人間、白河さやかは、ベルゼブル君の姦計によって死んでしまいましたとさ、まる」

こともなげに、笑いながら自分の死を語る人間なぞ、滅多にいないであろう。
そもそも、死んだ人間が話をしている段階でおかしいのだ。

さやか 「だから本当、こうして私が今ここにいるのは、私自身にとっても誤算なの。私の肉体は魔力の暴走で間違いなく消滅したけど、気付いたらこうして存在してた。幽霊みたいなものなのかな?」

ベルゼブル 「・・・幽霊、か・・・ふふっ」

ここへ来て、ようやくベルゼブルの表情に普段の余裕が戻りだした。
想定外の出来事などいつどこでも起きるもので、それでいつも心を乱していては、魔界の実力者はやっていられない。

ベルゼブル 「世の中の幽霊が全て君のようだったなら、今頃世界はパニックに陥っているであろうね。さやか嬢、今の君は既に精霊に近い存在だ」

さやか 「精霊、か・・・。なるほどね、確かにそんな感じかも」

ベルゼブル 「死後、霊魂を磨き上げた者が精霊や神霊の類になるという話は決して珍しくないが、死んですぐにそうなった者は君が史上はじめてだろう」

さやか 「それって、人類史に残る偉業だね。ぶいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき

スパロボMXちゅ〜

今回の展開にはなかなかみなさん反応しましたねー。本当はもう2、3話引っ張ろうかと思ったのですけど、早々とさやか復活です。これにより最終決戦、祐一vsルシファー、エリスvsフェンリル、そしてさやかvsベルゼブルの図式が完成し、クライマックスへと突入していきます。