デモンバスターズFINAL

 

 

第34話 激突!祐一vsルシファー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「・・・・・・」

胸の奥で、ちくりと痛みが走るのをエリスは感じた。
その正体をわかっていながら、頭では考えないようにする。
今はそれよりも、やらなければならないことがあるから。

エリス 「祐一」

祐一 「あん?」

エリス 「アタシはここまでよ」

祐一 「それは・・・」

すぐ先には分かれ道があった。
そして、その片方から、エリスは自分だけに向けられている殺気を感じ取っていた。

祐一 「奴か?」

エリス 「ええ。アタシの敵はこっち。あんたの敵はあっち」

左右に伸びる二つの道をそれぞれ指して言う。

イシス 「エリス、勝てるの? あの魔界最強の怪物に」

エリス 「さぁ?」

余裕の表情でエリスはおどけてみせる。
もっとも、心のゆとりなどは欠片もなかった。
相手は次元が違う。

祐一 「なら、俺もやるべきことをやるとしよう」

エリス 「祐一」

もう一度、エリスは祐一の名前を呼ぶ。

祐一 「ん?」

そして、祐一が振り返った瞬間、その身を引き寄せる。

小柄なエリスは自身が背伸びしただけでは高さが足りないので、その分は強引に祐一の顔を下に引っ張った。

二人の唇が、静かに合わさった。

イシス 「!!!」

ボンッと音がするような勢いでイシスの顔が驚愕に彩られる。
不意打ちを受けたのは祐一もだが、その本人以上に驚いていた。

祐一 「・・・・・・」

口付けが交わされていたのはほんの一瞬。
すぐにエリスは駆け出して、しばらく行ったところで振り返る。
通路は薄暗く、離れたら互いの表情までは読み取れない。
だから今、笑えるほど赤く染まった自分の顔が見えないであろう位置までエリスは移動したのだ。

エリス 「絶対に勝つわよ、お互いに。約束しなさい」

祐一 「・・・・・・ああ、約束だ。必ず勝つ」

その言葉を聞いて、エリスは祐一とイシスに背を向けて走り出す。

イシス 「・・・こ、こらーっ! どさくさに紛れてなんてことをっ、エリスーーーっ!!」

放心状態から我に帰ったイシスの怒声を受けながら、エリスは自らの戦いの場を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イシス 「まったくもうっ、あの子は〜!!」

赤くなったり青くなったりしながらイシスは身悶えている。
落ち着いてほしいところだが、俺がここで妙なことを言うとさらに話がこじれる気がする。

祐一 「なんとかしてくれ」

エリスが向かったのとは反対の道、つまり俺がこれから進むべき通路の方へ声をかける。
暗闇から姿を見せたのは、オシリスだ。

祐一 「よう」

オシリス 「とうとう、ここまで来たな」

祐一 「まぁな」

オシリス 「人の身で、大した奴だ」

イシス 「あれ、兄上、いつからそこに?」

ようやく落ち着いたらしいイシスが寄ってくる。
こうして三人揃って集まるのは、実に千年振りってわけだ。
同じことを思ったのだろうイシスが感慨深げに目を閉じるが、オシリスはそうしたことには無頓着で、俺の方はこの先厄介事が待ち受けてるからそれどころじゃない。

祐一 「再会を懐かしむのはあとにしよう。今は時間が惜しい」

オシリス 「ここから先は最上階までほぼ一本道だ。行け」

祐一 「ああ」

イシス 「あ、祐様・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イシス 「・・・行っちゃった・・・」

兄妹だけがその場に残る。
先へ行った祐一の背を見送りながら、オシリスもゆっくりと歩き出す。

イシス 「兄上?」

オシリス 「我々が急ぐ必要はない。あの二人の決着は、容易にはつかん」

イシス 「それは、そうでしょうけど・・・」

ルシファーは強い。
そしては祐一もまた、強い。
それは、誰よりもこの兄妹が知っていることだった。
だがしかし、イシスは釈然としないものを感じていた。

イシス 「・・・正直、私にはよくわかりません。祐様のルシファーの仲はわかりますけど・・・どうして二人が戦うことになるんですか?」

天界を追われ、堕ちたルシファーは魔界を彷徨っていた時に祐漸に出会った。
神への信仰心を失ったとはいえ、天使として魔族と対してきたルシファーが、魔界という地で生きることを選んだのも、この出会いが理由だった。
失くした自分の居場所を、ルシファーはそこで手に入れたのだ。

イシス 「私は、ルシファーが嫌いです。祐様に馴れ馴れしくて。でも、憎めない奴でした。真っ直ぐな心を持っていて・・・」

オシリス 「おまえと似ているな」

イシス 「似てませんっ」

オシリス 「・・・あえて言うなら、真っ直ぐすぎた」

イシス 「?」

オシリス 「だから、奴は暴走せざるを得なかった。そして、それを止められるのは祐だけだ。だから、戦うのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『珍しいな、おまえみたいな高位の天使が魔界のこんな深い場所にいるなんてのは』

『君は、誰だい?』

『俺は祐漸。周りの連中は闘神なんて呼ぶが、そんな大層なもんじゃない』

『君がそうか。その名は聞いたことがあるよ』

『人に名乗らせといてそっちは名乗らないのか?』

『ルシフェル』

『ほう、曙の明星と呼ばれる最高位の大天使ルシフェルか。ますますこんなところにいるような奴じゃないな』

『僕は神への信心を失った。もう天界にいることはできず、こんな地まで来た。もう僕には、居場所がない』

『なら、来るか?』

『え?』

『しばらくベリアルもシヴァも仕掛けてこなくて、退屈してるんだ。することがないなら俺に付き合え』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大昔の記憶だ。
ルシファーとはじめて会った時の。
あれからしばらく、“俺”達はコンビを組んでいた。
オシリスとイシスも加えて、大物揃いだってんでしばらく魔界を騒がせたりもした。

天を離れ、放浪していたあいつ。
四人でいたあの頃はそれなりに楽しかったから、あいつもそれに満足していると思っていた。
だが、今こうして馬鹿をやってるってことは、まだ変わっていないということだ。

あいつは、“俺”と出会う前から何も変わっちゃいない。

別に“俺”自身があいつの居場所になってやろうなんてことはこれっぽっちも思ってなかった。
ただ、“俺”が楽しかったからあいつもそんな生き方を楽しむようになっただろうと思っていたんだ。

 

ゴォン・・・

重たい音を立てて、最上階の扉が開く。
そこに、あいつはいた。

ルシファー 「待っていたよ、祐」

祐一 「・・・そうかよ」

千年振りの再会。
だがこの邂逅は、オシリスやイシス、ベリアルやシヴァ相手のものとはまったく違う意味を持っていた。

或いは、俺達の運命は、あの時既に決まっていたのかもしれない。

ルシファーは神に絶望した。
それだけじゃなく、あいつはこの世界そのものに絶望していたんだ。

俺は、今の世界に満足している。
どれほどの困難があろうと、乗り越えて楽しくやっていける。
それはかつての“俺”もそうだったし、生まれ変わって今の俺になってから色々な経験をして結局行き着いた思いも同じだった。

祐一 「随分と派手なことをやってるな」

ルシファー 「そうかもしれない。何しろ、新しい世を作るんだからね」

祐一 「何をするつもりだ?」

ルシファー 「とりあえず、世界をひっくり返してみようと思うんだ。文字通りね」

祐一 「世界をひっくり返す・・・ね」

なるほどね。
つまりは、このバベルの塔を支点にして、天界と魔界の位置を入れ替えようってわけか。
そんなことをすれば、世界のバランスは完全に崩壊する。
何がどうなるかわからないが、少なくとも今生きている存在のほとんどが死滅するだろうな。

祐一 「それは世界を滅ぼすに等しい行為だぞ」

ルシファー 「心配はいらないさ。この世界の存在そのものを消し去ろうというわけじゃない。基盤と、僅かな生物が生き残れば、世界は再生できる」

祐一 「・・・待ってたって終末の刻はいつか訪れる。それをわざわざ引き起こす必要があるのか?」

ルシファー 「自分の手で、世界を変えたいんだ。そして、君にも手伝ってほしい、祐」

祐一 「何故俺にそれを求める?」

ルシファー 「だって、いつも言ってたじゃないか、つまらないって」

確かに、そんなことを口癖のように言う時期が今も昔もあったような気がする。
だがそれは・・・。

ルシファー 「楽しいことを見つけるとすぐに飛びついていくけど、そのうちまたつまらないって言うようになって。祐はいつも、この世界に退屈していたよ」

祐一 「・・・否定はしないがな」

だがそれは、おまえとは根本的に違うんだよ、ルシファー。
それを言っても、こいつはわからないだろう。
何故なら、俺もルシファーの本当の思いがわからないから。

だから戦うしかない。
少なくとも俺は、こいつの思うように今の世界を壊させる気はない。

祐一 「説得できればと思ったが、やっぱり俺にはこれが一番みたいだ」

剣に手をかけて、一気に抜き放つ。
それをルシファーは、驚いた風もなく見ている。

ルシファー 「祐がそれを望むなら、いいよ。戦おう。それが一番、君らしい」

互いに戦うのは、自分の、自分だけのため。
そんな二人に、世界の命運がかかっているというのだろうか。
いや、違うな。

こんなのはただの喧嘩だ。

本当は世界なんて関係ない。
これは、俺達二人だけの戦いだ。

世界の命運をかけた戦いなんてのは、他の奴らがやってくれ。

 

バサッ!

 

ルシファーの背から白い十二枚の翼が広がる。
神に背いた堕天使となって尚、その翼は美しい純白を保っていた。
それは、あいつの心の純粋さを表している。
しかし純粋すぎるがゆえに思い悩み、こうして世界に逆らおうと足掻いている。

ルシファー 「準備はいいかい、祐?」

祐一 「いちいち聞くな。戦いはとっくに始まってる」

ルシファー 「そうだね。それじゃあ・・・」

羽ばたきの音。
それと同時に、視界からルシファーが消える。
目では追えないが、気配は掴んでいる。

祐一 「みえみえだな!」

ギィンッ

右真横からの攻撃を剣で弾く。

祐一 「最初に左右どちらかから仕掛けるくせは相変わらずだな」

ルシファー 「まずは挨拶代わりさ」

祐一 「つまらない戦い方ばかりだったら、すぐにでも幕引きだぞ」

下がろうとするルシファーを追って剣を振る。
切っ先が僅かにかすっただけでかわされた。
次は背後から来るか。
デュランダルを背中に回して防御する。

ガッ

反撃を試みるが、また射程の外に逃げられる。
スピードはかなりあるな。
だが、攻撃の威力はフェンリルに比べたらどうということはない。
そして、スピードがあると言ってもこの程度の動きじゃ俺の裏はかけない。

祐一 「そこだ!」

今度は向こうが攻撃してくる前にカウンターで斬りかかる。

キィンッ!

金属音が鳴り響く。
剣は何かに弾かれたようだ。
さっきからそうだが、ルシファーは何らかの武器を手にしている。
まずはその正体を見極めないとな。

祐一 「ちょこまかするのはいい加減にしておけよっ!」

ルシファー 「なら、こういうのはどうだい?」

祐一 「!」

声は少し離れた位置からした。
剣の間合いじゃない、とすると・・・。

バシュゥゥゥッ

奴の姿を捉えると同時に、光が走るのを見た。
直感でそれを辛うじてかわす。

ルシファー 「さすがによく避けたね。でも、次はどうかな?」

即座に体勢を立て直して次に備える。
今度ははっきりと、光線が発射される瞬間を見切って回避する。
だが・・・。

バシュゥッ バシュゥッ

祐一 「2・・・いや3発か!」

それだけじゃない。
光線は次々に生まれ、こっちを狙ってくる。

ルシファー 「逃げ切れるかな? 祐」

何十本もの光線が、一斉に俺目掛けて発射された。

 

ドォーーーンッ!!!

 

ルシファー 「さすがにこれは避けきれないだろうね」

祐一 「ああ、確かにな」

避けられはしない、がな。

ルシファー 「!」

ダメージは喰らっていない。
光線の力は、全てデュランダルで受け止めている。

祐一 「返すぞ」

力を溜め込んだ剣を振りぬく。

ドシュゥゥゥッ!!!

解き放たれた凍気が巨大な氷山を作り上げる。
もちろん、ルシファーの身を巻き込んでだ。

祐一 「どうした、これくらいでくたばるおまえじゃないだろう」

氷の中に飲み込まれたとはいえ、おそらくほとんど無傷だろう。

バリーンッ

思ったとおり、あっさりと氷を割って出てきやがった。
咄嗟に防御したんだろう、奴の手には剣が握られている。
あれがルシファーの武器か。

祐一 「おまえが剣を使うとはな」

ルシファー 「いい剣だよ。君のもかなりいい剣みたいだけど」

祐一 「それは・・・」

ルシファーが持っている少し変わった形状の剣。
それを俺は、知っているような気がする。
確かに伝承にある・・・。

祐一 「まさか・・・ダインスレフか?」

ルシファー 「ご名答」

持つ者にさえ災いをもたらすという呪われた魔剣だ。
そんなものを平気で使うとは、本気で世界をどうにかするつもりらしいな。
それだけの覚悟がなければ、あんな剣を使っていられない。

ルシファー 「さて、つづきをやろうか」

祐一 「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく