デモンバスターズFINAL

 

 

第32話 四神結界発動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェンリルとの戦いを終えた俺とエリスは、上を目指して進む。
互いに、魔竜王のことには触れないようにしていた。
今は、それがいいのだろう。

それに、今気になるのはフェンリルの方だ。
さっきは俺達を見逃したとはいえ、このまま引き下がりはしないだろう。
そもそも、奴の目的は・・・。

エリス 「祐一」

祐一 「ん?」

エリス 「あんたは考えるのは専門外でしょ、バカなんだから」

祐一 「なんだとこのチビ」

エリス 「チビ言うな」

バキッ

痛ぇ・・・。
ひさびさだな、このやり取りも。

エリス 「あんたはルシファーのことだけ考えてなさい」

祐一 「エリス・・・」

エリス 「あんたの敵はルシファー。そしてフェンリルは・・・あいつは、アタシの敵よ」

祐一 「それでいいのか?」

エリス 「ええ。あいつはアタシが倒す」

祐一 「・・・わかった」

エリスが何を思ってフェンリルと戦うのはわからない。
だがそれがこいつの選んだ道なら、俺がどうこう言うことじゃないだろう。
こいつの言うとおり、俺が戦うべき相手はルシファーだ。

エリス 「そろそろ広場に出るわ」

階段を登りきると、広い場所に出た。
四つの門から続く道は、全てここで交わっているようだ。
そして、そこには既に先客がいた。

祐一 「郁未?」

郁未 「遅かったわね。随分派手にやってたみたいだけど」

少し意外な奴がいたが、後から追ってくる可能性は充分にあった。
外には楓さんと神月がいるから、アシュタロスも他の連中にまで手はまわらないんだろう。

エリス 「もう一人も、来たみたいね」

最後にやってきたのは、舞だった。

郁未 「あんたも、かなりの強敵と当たったみたいね」

舞 「・・・ん」

四人の中では郁未が一番無傷に近い。
どうやら、あまり強い敵とは当たらなかったらしいな。

祐一 「舞、おまえの相手は・・・」

舞 「・・・あの時の」

祐一 「やっぱりな」

これだけ強力な真魔の刻だ、オシリスの力も上がってるだろう。
ついさっき消滅した二つの気配は、おそらくオシリスが呼び出したもの。
その片方は、舞が倒した奴、即ちシヴァだ。
前は五人がかりでようやく倒した相手を一人で・・・舞はやはり、相当強くなっている。

郁未 「さてと、四人揃ったところで、やるべきことをやっちゃいましょうか」

祐一 「そういえば来る前に何か言ってたな。何をするんだ?」

エリス 「あんた、説明聞いてなかったわね?」

祐一 「おう、聞いてなかったぞ」

舞 「・・・私も」

郁未 「あんたには事前に何度も説明したでしょうが!」

舞 「ぽんぽこたぬきさん」

郁未 「まったく・・・まぁいいわ。手早く終わらせるわよ」

俺達は郁未の指示で広場の四方に散る。
郁未から時計回りに、エリス、舞、最後の俺。
ちょうど四神の四方に合わせた配置だ。

郁未 「簡単に説明しておくと、この空間は非常に不安定な存在よ。そんな中で、これほど巨大な魔力を秘めた建造物を破壊するとどうなるか?」

舞 「・・・それは、危険」

郁未 「そう。元々私達が四神の神子として求められた理由は、魔族によって生み出された時空の歪みを正すため。予想以上に大事になったけど、やるべきことの大筋は変わらない」

エリス 「つまり、四神の力で空間を安定させて、歪みを正すってことね」

郁未 「空間の歪みがかなり大きいから、力を増幅させるくさびを塔の外にも打ってもらってる。助っ人を大勢連れてきたのはそのためよ」

なるほど、理解した。
四神の神子四人による結界魔法を使おうってわけだ。
それによって空間を安定させれば、この塔を破壊しても世界への影響は限りなく小さなものになる。

郁未 「じゃ、やるわよ。といっても、術を使うのは私だから、あなた達はただそこにいて集中してればいいから」

祐一 「・・・・・・」

エリス 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

郁未 「・・・むん!」

 

ヴンッ!

 

周囲の雰囲気が変わる。
変な感じを受けるが、異常だったものが正常に戻っていく感じだ。
あとは・・・。

郁未 「はい、おわり」

祐一 「何!?」

これでおわり?
そりゃぁ、ちょっと何か変わったような印象はあったけど・・・。

祐一 「これだけかよ?」

郁未 「この空間、どれくらい大きいと思ってるの? それを覆い尽くす結界の発動を、人間サイズで視認できると思う?」

祐一 「つ、つまり・・・・・・結界が大きすぎてここからじゃ変化が実感できないってことか」

郁未 「そういうこと」

エリス 「それくらいわかりなさいよ。ほんっとバカね」

祐一 「うるせー」

舞 「・・・・・・・・・わからない」

郁未 「あんたはいいわよ、わからなくて。考えるのは専門外なんだから」

どこかで聞いたような台詞だな。

エリス 「お互い苦労するわね」

郁未 「まぁ、パートナーっていうのはこれくらいがバランス取れてていいんじゃないかしら」

エリス 「それもそうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況を整理してみよう。
主だった敵のうち、アシュタロス・ベリアルはそれぞれ神月と豹雨が押さえてる。
あの二人のことだ、たぶんこれ以上こっちの戦いには干渉してこないだろう。

魔竜王ブラッドヴェインは倒した。
オシリスはシヴァともう一つ何かを呼び出した以上、戦うだけの力は残っていないはず。

残るは・・・フェンリル、ルシファー、ベルゼブル。
倒すべき敵は、この三人。

祐一 「この先へ進んだら、いよいよ最終決戦だな」

エリス 「そうね」

俺達は広間にあった五つ目の通路。
唯一上へ続く階段のある通路を進んでいく。

塔なのだから当たり前とはいえ、登ってばかりだ。
もう一体どれほど高い位置まで来ているのか、検討がつかない。

祐一 「むぅ・・・最上階はまだ遠そうだな」

郁未 「確かにそうね。魔族はどうやって移動してるのかしら? まさか私達みたいにいちいち階段なんか使わないんでしょうね」

祐一 「ああ、あいつらなら一瞬で飛んでいけるだろうさ。特定の場所と場所を行き来するだけなら、シヴァみたいに空間を操る能力がなくても瞬間移動できる」

郁未 「便利そうね」

さらに階段を上がっていく。
やがてそれも途切れた。

エリス 「また広いところに出そうね」

祐一 「・・・・・・」

扉をくぐる直前で、俺は皆を制した。
何か、予感がしていた。

舞 「?」

エリス 「何よ?」

祐一 「いや、この扉の向こうには、俺が先に入る。おまえらは少し待ってろ」

扉に手をかけ、押し開く。
そこは、さっきの場所に劣らぬほど広い部屋だった。
周囲にはいくつも扉があるが、一つだけ、階段を少し上がったところには他とは明らかに様相の違う巨大な門がある。
おそらくそれが、この先へと通じる門であると直感的に悟った。
だが、今はとりあえず・・・。

祐一 「・・・・・・」

この気配の主を探すことが先決だ。
微弱だが、確かに俺に向けられている視線・・・。

祐一 「上か!」

バッと天井を見上げると同時に剣を抜く。
襲撃者は、雷のような速度でまっすぐこちらへ向かって降ってきた。

ギィンッ!

向けられた矛先を剣で受け流すとともに横へ跳ぶ。
相手も即座に体制を立て直して得物を構えなおす。
2メートル弱の直槍か。

無言の気合とともに槍の先端が高速で突き出される。
速度はあるが、動きは単調で回避は難しくない。

祐一 「!」

だが、突きから即座に払いへと移る動きに、懐へ入る隙を消される。
槍の特徴をよく理解したいい動きだ。

カッ カッ キィンッ!

数度、俺の剣と相手の槍が打ち合わされる。
その間に、動きはほぼ見切った。

祐一 「ふんっ!」

ギィンッ!

払いにきた槍を防御し、一気に弾き返す。
その反動で、両者ともに大きく後退した。
思ったよりも相手のパワーが強かったため、こっちも体勢を崩している。
そこへ、追い討ちがくる。

相手は、槍を逆手に持っていた。
アレが来る! 間に合うか?

祐一 「はぁぁぁぁ!」

互いに魔力を高め合う。
だが、先に一杯に魔力をためたのは向こうの方だった。
槍を大きく振りかぶり、それを投擲する。

 

ドォォォンッ!!!

 

凄まじい勢いで射出された槍が超高速で迫る。

祐一 「ハッ!!」

ためた魔力で氷壁を一気に十枚以上重ねる。
厚い氷で攻撃を受け止めた上でそれを凍りつかせ、無力化させる防御技の奥義だ。

しかし、槍は最初の一枚を軽々と貫通し、さらに二枚三枚と氷壁を貫いていく。
徐々に威力を弱めていっているものの、氷壁は槍を完全に止めるにはいたらなかった。

 

バァァァンッ!!!

 

全ての氷壁が砕け散った。
槍は俺のもとまで届いている。
先端は、デュランダルの面で受け止められていた。

祐一 「ふぅ・・・」

大した威力だ。
前よりも格段に上がってる。

祐一 「大分腕を上げたみたいだな、イシス」

俺は目の前の相手に向かって話しかける。
そこにいるのは、俺のよく知っている、懐かしい奴。
オシリスの妹、イシスだった。

イシス 「ふふっ、さすがです。結局一撃も入れられませんでした」

祐一 「いや、最後の一発はかなり危なかったぞ」

氷壁だけで止められると思ったんだがな。
読みが甘かったらしい。

祐一 「とりあえず、ひさしぶりだな、イシス」

イシス 「祐様・・・」

笑顔を浮かべるイシスの目が潤む。
そして、ゆっくりとこっちへ向かって歩き出す。

イシス 「おひさしぶりです、祐様。本当に・・・」

祐一 「ああ」

段々と駆け足になりながら、イシスがこっちへ向かってくる。
そこへ・・・。

イシス 「祐さ・・・」

ガツッ!

イシス 「きゃんっ!」

ドテーーーーーッ!

足を払われ、イシスは派手にすっ転んだ。
見事なほど豪快に・・・。
が、即座に起き上がって足をかけた奴に対して食って掛かる。

イシス 「何するのよエリスッ!?」

エリス 「何するのじゃないわよっ。そっちこそ何を唐突に出てきていきなり和んでるのよ!?」

イシス 「私と祐様の感動の再会シーンなのよ、邪魔しないで!」

エリス 「なーにが感動の再会シーンよ! 大体今のは何!? あんた、アタシと戦った時は全然本気じゃなかったのね!」

イシス 「それはお互い様でしょっ、そっちこそ本気じゃなかったくせに!」

いきなり喧嘩になる二人。
顔見知りなのはわかるとして、随分と仲が良いというか悪いというか・・・。

イシス 「とにかく! 私と祐様の邪魔をしないでっ!」

エリス 「私と・・・祐様、ですってぇ・・・・・・!

ピキピキッ

エリスの顔が引きつり、額には大きく青筋が浮かんでいる。
あれは相当怒っているな。
だが、イシスは意に介してない。

イシス 「ええ、そう。私と祐様。ずーっと待ち焦がれていて、今ようやく会えた・・・。この時が来るのを一日千秋の思いで待っていたのよ。あなたにそれを邪魔される筋合いはないわ」

エリス 「ぬ・・・くく・・・・・・!!」

ピキキッ

これはまずい・・・。
エリスはかなりどころか、めちゃくちゃ怒ってる。
このままでは爆発しかねない・・・。

郁未 「また複雑な人間関係ね」

舞 「はちみつくまさん」

このままでは矛先がこっちに向きかねないが、援軍は期待できそうにない。

・・・それどころか、敵の増援が現れるなどどうして予想できようか?

イシス 「ではそういうことですから、もう邪魔しないでくださいね、エリス」

あからさまな丁寧語で話を一方的に締めくくるイシス。
その視線がこちらへ向き直った瞬間、そいつは乱入してきた。

イシス 「祐さ・・・・・・っ!!」

ドテーーーーッ

こちらへ振り返ったイシスが派手にずっこける。
その直前、俺は背中に重みを感じていた。
さらに首には腕が回され・・・つまりは誰かが俺に背中から抱きついてきていたのだ。

イシス 「な・・・!?」

エリス 「な・・・」

祐一 「・・・なんでおまえがここにいる?」

こういう行動を取る奴は、俺の知り合いにはたぶん一人しかいない。

さやか 「えへへ〜、どうやらおいしいタイミングで合流できたみたいだね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく