デモンバスターズFINAL

 

 

第31話 最強の称号を求めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

この日一番の震動が、塔全体を揺さぶる。
舞とシヴァは、思わず戦いの手を止めたほどだった。

シヴァ 「・・・これほどの震動を起こす戦いは、奴しかあるまい」

舞 「祐一・・・エリス」

二人によるものだと、舞は確信した。
昨日祐一と話した時はああ言っていたが、何だかんだで祐一とエリスは別格だと舞は思っている。
秘めた力の桁が違う。

シヴァ 「私は奴と戦うために蘇ったのだ。人間如きにいつまでも構っている暇などない」

舞 「・・・おまえじゃ、祐一には勝てない」

シヴァ 「何だと?」

舞 「おまえは私が倒す」

シヴァ 「思いあがりもここまで来ると見上げたものだな。いいだろう、ならば早々に始末してくれる」

二人は今、先ほどまでいたのとは違う広間にいた。
その原因は、もう一方の戦いにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

元の広間では、文字通りの死闘が繰り広げられていた。

片や、地上最強を自負し、斬魔王の異名を持つ男、雛瀬豹雨。

対するは、魔界最強の魔神の一人、獣魔王ベリアル。

それはもはや、人智を超えた戦いであった。

 

 

ズドンッ!!

片一方が壁に叩きつけられ、瓦礫に埋もれる。
立っているのは、ベリアルの方である。

ベリアル 「ふぅ・・・ふぅ・・・」

無尽蔵に近い魔力が供給される真魔の刻の中にありながら、ベリアルは息を切らせていた。
回復が追いつかないほどの力を出し続けなければ、押し切ることができないでいるのだ。
その上・・・。

ガラガラ・・・

瓦礫を押しのけ、豹雨が立ち上がる。
もう何度目になるかわからない光景であった。

ベリアル 「てめぇ、ほんとに人間か?」

豹雨 「さぁな」

決して互角の攻防というわけではない。
圧倒的パワーとスピードを誇るベリアルは、幾度となく必殺の一撃を豹雨に対して入れていた。
だが、どれほど攻撃を加えようと、豹雨は倒れることはなかった。
まるで不死身である。

ベリアル 「こんなにタフな野郎は魔界にもまずいねぇよ」

豹雨 「てめェの攻撃が生ぬるいんだろ」

ベリアル 「ほざくな」

豹雨 「・・・・・・」

ベリアル 「・・・・・・」

両者が同時に床を蹴る。
一気に距離をつめて互いに一撃を加えては一旦離れる。
即座に切り替えして第二撃に移るベリアルだったが、その一歩先を行く動きで豹雨が反撃をする。
そうかと思えばベリアルの超スピードが豹雨の反応を上回り、さらにその上を豹雨がいく。
この繰り返しであった。

常に全開で相手の上を行くことをだけを考えて動く。
相手の上を行くことができなくなった時、そちらが敗北をするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塔の外。
京四郎とアシュタロスの戦いもまだ続いていた。
だがこちらは、どちらもまだ本気を出さない戦いである。

アシュタロス 「なかなか手の内を見せんな、神の子」

京四郎 「それはあなたも同じことでしょう」

一見すると激しい戦いも、この二人にとっては様子見の小競り合いでしかなかった。

アシュタロス 「君と戯れるのも結構なのだが、そろそろ退屈になってきたな」

?? 「なら、そろそろ決着をつけましょう」

背後から第三者の声がする。
京四郎とアシュタロスは、それぞれ相手へ注意を向けたままそちらに視線を移す。

京四郎 「楓さん、そちらは終わったようですね」

楓 「ええ、加勢します、京四郎さん」

アシュタロス 「オロチを倒したか。いつぞやよりもかなりできるようになったようだな、美しき巫女よ」

これで二対一。
以前対戦した時はエリスも加えた三人がかりで圧倒された相手だが、何度も同じようにはいかないものである。

アシュタロス 「フッ、少々分が悪いか」

だが、そう言いながらもアシュタロスの余裕はまるで崩れない。
全ては余興。
この戦いだけではない。
ここで起こる全てのことは、アシュタロスにとってはただの暇つぶしに過ぎなかった。

アシュタロス 「殺気だっているな、楓。先日の意趣返しか? それとも、そんなに私が気になるかね?」

楓 「そうかもしれない。あなたは・・・危険だわ。豹雨や祐一君とは戦わせたくない」

アシュタロス 「豹雨・・・フッ、雛瀬豹雨か。彼は実に不思議な存在だ。そう思わんかね、神の子、それに大地の巫女よ」

京四郎 「・・・・・・」

楓 「・・・・・・」

アシュタロス 「何故、あの男は強い? あれはただの人間だ。御前やエリス姫、ブラッディ・アルドのように強大な魔を秘めているわけでもなく、君達のような神の力を持つわけでもない。本当に、ただの人間であるはずが・・・あのベリアルと互角に渡り合っている」

楓 「・・・・・・」

アシュタロス 「断言しよう。彼は、君達デモンバスターズの中で一番弱い」

祐一、エリス、楓、アルド・・・。
およそこの世のものとは思われぬほど強大な力を秘めた四人。
しかし、それを従える最強の男は、本当は最弱であると、アシュタロスは言っていた。
そしてそれは、事実かもしれないと楓は思った。

潜在能力の高さで言えば、豹雨はデモンバスターズの中で一番低かっただろう。
にもかかわらず、豹雨は最強の称号とともに彼らのトップにいる。

京四郎 「確かに豹雨は、何の才能もないかもしれません」

楓 「だけど、それでも豹雨は、今までずっと勝ち続けてきた」

アシュタロス 「そうだな。強者が勝者なのではない・・・勝者こそが強者である。あの男は、人間でありながら我々に近い。ふふ、ますますベリアルとの戦いの行方が気になるところだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超高速で繰り広げられる豹雨とベリアルの戦いは、人間の目では捉えることすら困難である。
その上、牽制として放つ一撃すら、人間レベルでは本気の一撃を上回っている。
それでも互角というわけではなく、ベリアルが常に一歩上を行っていたはずだった。
しかし・・・。

 

ヒュッ

ベリアル 「何!?」

一瞬、ベリアルは完全に豹雨の姿を見失った。
そう感じた時には、これまで何度もベリアルがそうしてきたように、地面に叩きつけられていた。
完全に裏をかかれた一撃を受けたが、即座に立ち直って体勢を立て直す。

ベリアル 「・・・・・・」

豹雨 「フッ」

これまでも数度、豹雨の攻撃はベリアルを捉えていた。
だがそれは流れの中でのものであって、今のように完璧なタイミングで直撃を与えたのははじめてだった。

ベリアル 「(こいつ、今一瞬だが俺の動きの上を行きやがった)」

間違いなく、この短時間の間に豹雨の力を伸びていた。
元々魔王レベルの力を持っていたものが、今や最強の魔神たるベリアルに肉薄し、時にそれを凌駕するほどにまでなっている。
数千年という長い時を生きてきたベリアルにとって、人間はおろか魔族神族の中にさえこんな相手はいなかった。

ベリアル 「・・・くっくっく、おもしれぇ、おもしれぇぞ、豹雨! かつてこれほど俺様を熱くさせた奴はいねぇ!」

豹雨 「熱くなっただけで終わりじゃねェよ。てめェは俺が倒す」

ベリアル 「やってみろよ。俺様も、全力で貴様を倒す!」

ドンッ!

ベリアルが魔力を放出すると、まるで爆発したような衝撃波が巻き起こる。
力を解放した余波だけで、周囲にあるものを破壊しつくすほどの威力があるのだ。
その爆風の中で、豹雨は平然として立っていた。

ベリアル 「おぉおおおお!!!!」

十数メートルの距離を一瞬で詰めたベリアルの拳が豹雨の体を捉える。
直撃かと思われたが、豹雨は絶妙なタイミングで芯を外し、攻撃を受け流した。

豹雨 「うおらぁっ!」

カウンター気味に豹雨の攻撃がベリアルに入る。
正面から直撃を受けたベリアルだったが、圧倒的な魔力でそれを防御する。

ベリアル 「そんなもんかよぉっ!」

バキッ!

攻撃に耐えたベリアルが豹雨の顔面を殴りつける。
僅かに仰け反った豹雨だったが、すぐさま起き上がってベリアルの顎を突き上げる。

ベリアル 「ハッ!」

豹雨 「フゥッ!」

相手の攻撃を受けてもまるで怯むことなく、ノーガードで互いに打ち合う。

ベリアル 「認めてやるぜ豹雨! てめぇは俺様が今まで戦ってきた奴らの中で一番強ェ! だが! 勝つのはこの獣魔王ベリアルだ!!」

豹雨 「ほざきやがれ。俺は最強の称号を手に入れるまで誰にも負けはしねェ!」

まさしく死闘。
互いの全てを出し尽くしてぶつけ合う二人の戦いは、いつ果てるとも知れずに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞 「はぁぁぁぁっ!」

剣を自分の体で隠すように半身に構えた状態で、舞はシヴァに向かった踏み込む。
シヴァはその場を動かず、正面からそれを撃退する構えを見せる。

シヴァ 「これまでだ、人間!」

カウンターの一撃が舞を襲う。
だが、その攻撃が当たることはなかった。

総天夢幻流・つくよみ。
型のない、流れるような動きは、全ての攻撃を受け流す。
そしてそこから攻撃へ転ずるのが、奥義・あまてらす。

舞 「もらった!」

シヴァ 「無駄だ!」

しかし、シヴァは舞の動きを完全に読んでいた。
次元を操るだけがシヴァの能力ではない。
その第三の目は、僅か先の未来を見通す。

ドォンッ!

奥義を仕掛けた舞は、今度こそシヴァのカウンターの直撃を受けて吹き飛ばされる。

舞 「・・・っ・・・!」

シヴァ 「このシヴァを相手にこれほどの時間戦えたことは褒めてやろう。だがこれで、終わりだ」

とどめの追い討ちを放とうと魔力を片手に集める。
その狙いを、まだ空中に浮いている舞へと定める。

シヴァ 「死・・・」

ドシュッッッ!

シヴァ 「ぐ、ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

突如走った激痛に、シヴァが絶叫する。

シヴァ 「な、なにが・・・!?」

視界の焦点が定まらなかった。
そして、痛みの出所が眉間にあることに気付く。
シヴァの第三の目に、舞の刀が突き刺さっていた。

シヴァ 「何故、こんなところに・・・っ!?」

一瞬の思考の後、シヴァは理解した。
何故舞が自分の体に剣を隠すようにして構えていたのかを。
シヴァの目は未来を見通す。
ただし、その目に映ったものの未来だけを・・・。

舞は接近した瞬間、シヴァの目が捉えられない角度とタイミングで上へ刀を放っていたのだ。
見えないものの未来はわからないという弱点、そして自身の目の力を過信していたシヴァの隙をを利用した奇襲であった。

思考は一瞬。
いかに痛恨の一撃を受けようと、シヴァとて最強を誇る魔神の一人。
すぐにショックからは立ち直った。

だが、その一瞬があれば、舞には充分だった。

舞 「!」

シヴァの額に白牙刀が突き刺さった瞬間、舞は空中で反転して両足で着地し、それと同時に跳び上がっていた。
ダメージは最小限である。
何故ならば、奥義を仕掛けたと見せかけて、舞はまだ“つくよみ”しか使っていない。
攻撃は受け流していた。

舞の動きにシヴァが気付いた時には、もう必殺の間合いであった。
刀の柄に舞の手が届き、そのまま渾身の力を込めて斬り下ろす。

ザシュッッッ!

シヴァ 「ガッ・・・・・・!!」

額から股間まで、シヴァの身が両断される。
その表情は、驚愕に彩られていた。

シヴァ 「な・・・ぜ? 何故、このシヴァが人間如きに・・・?」

不意にシヴァの脳裏に、蘇った直後にオシリスが言っていた言葉が思い出された。

『蘇ったとはいえ、その身は仮初のもの。己が死者であることを忘れぬことだ』

仮初の肉体。
それこそがシヴァの敗因である。

真魔の刻において、魔神は限りなく無限に近い魔力と不死身に近い肉体を得ることができる。
だが死者であるシヴァの肉体は既に滅び、今あるのは仮初の体。
それでは、真魔の刻の恩恵を受けることができないのである。

シヴァ 「くっく・・・くっはっはっはっは・・・そういうことか。死者は生者に勝てぬ・・・それだけのこと。そうだ、力で負けたわけではない! このシヴァ、人間如きに負けたわけではないっ、己が油断に負けただけよ!! はぁーっはっはっはっはっはっは!!!」

高笑いとともに、破壊神シヴァは二度目の死を向かえ、仮初の肉体は塵となって消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・大きな気配が二つ、消えた。

一つは外、一つは中。
どちらも魔に属する存在だから、勝ったのは味方の方だろう。
一番ばかでかい気配、ベリアルとアシュタロスはまだ健在だな。
あとは・・・。

祐一 「・・・やったか?」

エリス 「さあ、ね・・・」

不気味なほど静かだった。
俺とエリスの全力を受けた以上、魔神クラスといえどただでは済まないはずだが、相手はフェンリル。
魔界最強、稀代の化け物だ。

 

ギンッ!

 

祐一・エリス 「「!!!」」

ザッ

壁に空いた大穴の向こうから、寒気がするような殺気が放たれた。
思わず俺とエリスは同時に飛び退る。
気配だけで、殺されるかと思った・・・。

エリス 「いる・・・」

祐一 「ああ・・・」

奴はまだ生きてる。
それも、今の一撃で本気にさせちまったみたいだ。

フェンリル 「・・・くっくっく」

穴の向こうの暗闇が、地獄へ通じる道に見えるぜ。
そこから、奴の声が響いてくる。

フェンリル 「これだ。これこそわしの望む力よ!」

言葉の一つ一つが思い重圧を伴って襲ってくる。
存在感が圧倒的過ぎる。

祐一 「にゃろう・・・」

勝てる気がまるでしない。

フェンリル 「このままいつまでも戦っていたいところだが、今のところはここまでにしておくとしよう」

祐一 「何?」

フェンリル 「せっかくこれからがおもしろいのだ。このまま続けては勢い余って貴様らを殺してしまいそうだからなぁ」

ゾクっとする。
奴がそう言う以上、間違いないだろう。
このまま戦い続けたら、確実に俺達は殺される。

フェンリル 「相沢祐一、貴様とルシファーの闘い、楽しみにしているぞ。そして・・・待っているぞ、新たなる魔竜王」

エリス 「・・・・・・」

気配が、消えていく。
同時に辺りを覆っていたピリピリするようなプレッシャーも消えた。

祐一 「・・・どうやら、見逃してもらったみたい、だな」

エリス 「そうね・・・」

理由はどうあれ、この場は乗り切れたみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき

前回に引き続きあとがきには関係ないが・・・CLANNADの余韻に浸っております。今度はオールクリア状態にて・・・。
やはりKEYはつわものです。笑いと泣きのツボを知っている。あるところでは大爆笑、あるところでは大泣き、まさしく集大成。なんだかどこか不思議で謎なところもKEYらしい。一作、二作ときて、三作目になると質が落ちやすいのが世の常なれど、ここにそれは当てはまらないようで。とにかく、まだやってない人は、とりあえずやるべし。

さて・・・近頃思うに、というか常々思っていたけれどあえて気にしないようにしてきたことだけれど・・・複数の作品からキャラを寄せ集めて作るSSにはそれらしい面白みがあるけれど、同時に欠点もある。それは・・・キャラがかぶる! 特に同系列の作品群、いやずばり言うと定番のONE、Kanon、AIR辺りをまとめて出すと、どこかで必ずキャラがかぶる。ましてや書き手にとって好きなキャラを各作品から集めれば、当然似通ったタイプが集まることになる。キャラがかぶるのは物語として致命的だ。そこで次回作では、キャラを引っ張ってくる作品をどんと減らすことにした。題材となるのは、この三作品。

CLANNAD
D.C.〜ダ・カーポ〜
Fate/stay night

・・・タイトルが全部外国語・・・ってそれは定番か。とりあえず現状、これらが私の中の三大作品なので、次のSSはこれらを中心に構築しようかと。次回作における大筋のテーマは、人間vs人間。デモンは基本的に人間vs魔族という感じに仕上がったので、今度は人間同士の戦いをテーマに描きたい。現在公開停止中の話も、元々そのテーマを軸に始めたものだし。戦いが基本要素なのは、単純に私が好きだから。ただ決まっているのはこれだけで、背景設定がなかなか・・・またファンタジー路線でいくか、現代物か、時代物か、SF物か・・・戦いにしたって剣なのか、格闘技なのか、魔法なのか、超能力なのか。
そこで、みなさんの意見を聞いてみたい。デモンの感想のついでに、ちょこちょこっと次回作の背景設定をどんな路線でいってほしいかを書いてもらえるとうれしかったりします。