デモンバスターズFINAL

 

 

第29話 黒き葬送曲・さやかvsアルド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「さてはて、どうしたものだろうね〜」

祐一達がやってきた頃からずっと、さやかは行ける範囲内で塔の内部を歩き回っていた。
ベルゼブルに連れてこられた部屋はバベルの塔のかなり上の方にあったが、それより上の階があるにも関わらず、上へ行く手段はなかった。
だが同時にわかったのは、動き回れる範囲がフロアの半分くらいであることも気付いた。

さやか 「つまり、裏があるってことだね」

上へ行く手段は、その裏側のフロアにしかないということだろう。
そして、裏へ行く手段も限られているはずだ。
上へ行くことはできないとベルゼブルが言ったのは、おそらくそういうことだろう。

さやか 「上へ行けないなら、急がば回れの法則に基づいて下へ行ってみよう」

ということで、さやかは今塔をどんどん降りていっている。
各フロアに達するたびに、裏側に通じる道がないか探してみる。
するとわかったのは、各階層にはかなりの数の隠し通路が存在することと、それだけの通路がありながら裏側へ続く道は皆無であるということだった。
隠し通路はいずれも迷路のようになっており、この塔の設計者の心理を知りたくなるほど複雑であった。

さやか 「えーと、あっちはさっき行ったから、今度はこっちかな」

何度目になるかわからない別れ道を通り過ぎる。

ぴたっ

そして、角を曲がったところで立ち止まる。
いかにも、どうしたものか、といった表情でさやかは指で頬を掻いたり、腕を組んで首をかしげてみたりする。
それをしばらく繰り返して出した結論は・・・。

さやか 「・・・じゃ、そういうことで」

踵を返してその場を立ち去ろうとする。
が、そのさやかの顔のすぐ横で風切り音がした。
飛来した何かがさやかの髪をかすめて壁に突き刺さる。
それは、赤いナイフのようなものだった。
ただし柄はない。

さやか 「はぁ・・・どうして君はこう一番面倒な時に出てくるんだろうね、アルド君」

アルド 「そう邪険にしないでくださいよ」

角を曲がった先にいたのは、ブラッディ・アルドであった。
はじめて会って以来、さやかに対して妙な執着を持っている。
カノンでの戦いでは危うく殺されかけたこともあった。

さやか 「君に付き合ってる暇はないの。第一君、今回は祐一君達の手伝いに来たんじゃないの?」

アルド 「確かに、芳乃さくらさんの依頼でここまでやってきましたが、頼まれたのは祐一君達が敵の本拠地に乗り込む手助け・・・・・・そこから先は、私の自由ですよ」

さやか 「はぁ〜〜〜」

どうやら塔に入ってすぐに隠し通路を見つけてここまでやってきたらしい。
だがこの広大な塔を縦横無尽に走る隠し通路の中で、正確にさやかの居場所を見つけるとは。

さやか 「どうして私って、こういうキザっぽい人にもてるんだろうなぁ」

アルドといいベルゼブルといい、あまりさやかの好みには合わない。
だというのに、相手の方はしっかり追ってくる。

さやか 「どうしても今やらないとだめ?」

アルド 「私はいつでも死の間近にいる者でしてね、出会った機会を逃すと後悔するかもしれないでしょう?」

さやか 「それはまぁ、わかるけどね・・・」

いずれにしても、戦わずに見逃してはくれないらしい。
そう判断したさやかは、諦めてアルドと向き合う。

さやか 「(ハンデをかかえたこの体で、どこまで戦えるかな?)」

並みの敵ならばどうにかならないこともない。
しかし、相手は最強デモンバスターズのブラッディ・アルド。
その強さは、実際戦ったさやか自身がよく知っている。
本気で戦っても、勝率は五分。

さやか 「(やるしかないか)」

アルド 「行きますよ」

アルドの体が動く。
ぱっと見は決して速いように見えない、むしろ緩慢にさえ感じるが、そう思っている内に間合いの内側に入られる。
間合いに入った時には、既にアルドの手にブラッディサーベルがあった。

さやか 「っ!」

ギィンッ

神剣グラムを呼び出して振るう。
さやかの腕では正確にアルドの動きを追って対応することなどできない。
ほとんど直感で動いた。
結果、どうにか初撃は凌げた。

アルド 「む」

ヒュッ

第二撃が振り向き様に来る。
それも思い切り剣を大振りにして強引に弾く。
同時に大きく後退して間を離した。
追撃はない。

アルド 「おもしろいものを持っていますね」

動きを止めたアルドの視線は、さやかの剣へと向いていた。
それは、アルドのものとまったく同じ、ブラッディサーベルだった。

アルド 「何ですか、それは?」

さやか 「別に。ただの物真似だよ」

一応さやかも、武術の初歩程度は学んでいる。
剣を正眼に構えた姿はなかなか様になっていた。

アルド 「物真似、ですか」

さやか 「それにしても物騒な剣だよね、ほんと。気をつけないと自分で自分を傷つけそうだよ」

ブラッディサーベルは柄から無数の刃が伸びている異形の剣である。
普通の剣とはまったく違うため、回避が難しく、防御しても刃が体を切り刻む。
確実に相手を殺すよりも、いたぶり血を流させ、相手を苦しめることが目的の禍々しい剣だ。
それをさやかが模倣したのは、同じ剣ならばある程度アルドの攻撃を防御できると考えたからだった。
無数の刃で身を刻まれるのなら、それを防ぐのも無数の刃を用いてすればいい。

アルド 「発想としてはおもしろいですが、あなたらしくありませんね」

さやか 「そう?」

アルド 「炎の魔法はどうしました? そんな物真似品で場を凌ごうなどというのはらしくない。あなたはもっと攻撃的な戦法を得意としているはずですよ」

さやか 「よんどころない事情ってやつかな。気をつかってくれるなら見逃してくれないかな?」

そう言ってみたところで、見逃してくれるほどアルドは甘くない。

アルド 「では、あなたがその気になるまで、攻め続けるとしましょう」

剣を持つ方とは逆の左手をアルドが差し出す。
その先から、赤い刃がいくつも出現する。

アルド 「ブラッディ・レイン」

解き放たれた血の刃が何本もさやかに向かって降り注ぐ。
まさに血の雨である。
気を抜けばあっという間に蜂の巣であろう。

さやか 「・・・・・・」

飛来するものは弾き、スペースを見つけては避ける。
そうしながらも、さやかは一時たりともアルド本人から目を離さない。
姿を見失えば、一瞬にして間を詰められる。
例え飛来する刃を少々体に受けても、ブラッディサーベルの一撃を受けるよりはマシであった。

アルド 「やはり防ぐだけですか」

ブラッディ・レインは降らせたまま、アルドが正面からさやかに突っ込む。

さやか 「っ!」

アルド自身は血の雨を身に受けようとダメージはない。
上から覆いかぶさるように降り続けるブラッディレインと、正面から迫るアルド自身による同時攻撃。

さやか 「このぉっ!!」

ギィンッ!!!

二人が交差する。
逃げ場はないと判断したさやかは、正面のアルドへ自ら向かっていった。
互いのブラッディサーベルが打ち合わされる。
雨の刃をいくつか体に受けたが、これが最良の避け方だったろう。
再び仕切りなおしとなる。

さやか 「・・・ふぅ」

アルド 「見事です。しかしこんなやり方が続けば、先に体力が尽きるのは確実にあなたの方ですよ」

さやか 「言われなくてもわかってる」

守る戦いはいつでも不利である。
どれほど鉄壁の防御を誇ろうと、まったくのノーダメージで切り抜けられる者などそういたりはしない。
長期戦になれば、防御側が体力を削られ、倒されるのは必至だった。

さやかが取るべき選択肢は二つ。
攻撃をかいくぐってなんとか逃げるか。
それとも、アルドを倒すか。

さやか 「(どっちにしろ困難、か。ほんとに、困った人に目をつけられたものだよ、私も)」

アルド 「どうするか決まりましたか? 私としては、私を倒すつもりで本気になっていただきたいのですけどね」

さやか 「・・・・・・」

本気を出す。
果たして今のさやかにそれができるであろうか。

力を使えば、それは暴走し、最後には死ぬ。

冗談だと思いたい話だが、残念ながらさやかはそのことを、誰よりも自分自身で実感していた。
今のさやかの魔力の高まり方は異常である。
ベルゼブルについてここへやってきてからも上昇速度は上がり続けている。
少しでも魔力を使えば、本当に暴走するかもしれない。

さやか 「(今ここで、使っちゃうわけにはいかないけど・・・)」

どの道、ここでアルドに勝てなければその先もない。
本当に倒すべき敵のもとに辿り着く前に、自分が倒れるわけにはいかないのだ。

さやか 「そんなに私の本気が見たいなら、見せてあげてもいいよ。その代わり」

アルド 「その代わり?」

さやか 「後悔しても知らないから」

空気が変わる。
その異様さには、アルドさえも思わず息を飲んだ。
それは、アルド自身が放つのと同じ気配である。
死を漂わせる気配が二倍、否、二乗となって通路を覆いつくす。

アルド 「ほう」

ブラッディサーベルの形をしていたさやかの剣は、いつしかその形状を変えていた。
黒い、不気味な形の剣。
それは、六天鬼の怨鬼を倒した時と同じものである。

かつて感じた炎の魔力とはまったく違う。
というよりも、魔力の質そのものがまるで変わっている。
異様と言えば異様、だがアルドは自然にそれを受け入れていた。

白河さやかという少女が持つ力の本質が、自分に近いものであると、アルドはとっくに気付いていた。

その力の正体は知らない。

だがそれは、死を匂わせる力であった。

さやか 「あまり時間がないんだ」

アルド 「では、少々名残惜しいですが、一撃で決めるとしますか」

アルドは、自分の体に剣を突きたてる。
おびただしい量の血飛沫が飛び散る。
それら全てが、アルドの武器であった。

さやか 「・・・・・・」

アルド 「・・・・・・」

緊張が高まる。
二つの死が衝突し、激しい衝撃波を生み出していた。

アルド 「血の海に沈み、美しく眠りなさい。ブラッディ・レクイエム!」

血の刃を全身にまとい、アルドが床を蹴る。
死の塊が、さやかに迫る。

さやか 「デッド・ハウリング」

黒き剣が、死の旋律を奏でる。

 

バァンッッッ!!!

 

両者の死の力が激突した瞬間、全ては無に帰した。

その周辺の通路が、ごっそり消滅する。

 

 

 

 

 

 

 

数分の沈黙。

消し飛んだ区画の外れに、アルドは立っていた。

その全身は、なます切りにされたようにボロボロだったが、彼は健在である。

アルド 「・・・ふふ」

落ちた帽子を拾い上げ、頭に乗せる。

アルド 「ブラッディ・レクイエムをそっくりそのまま返されるとは、さすがですね、さやかさん。その上、あれだけの技を、逃げるためだけに繰り出すとは」

さやかが力を出したのは、アルドを倒すためではなかった。
それを成そうとすれば、本当に死力を尽くす必要がある。
全力をもって、さやかはアルドから逃げ切る選択を取ったのだ。

アルド 「とても楽しめましたよ。願わくば、次があらんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

俺が奥義、氷魔無限陣を使った状態を絶対零度の戦場と呼ぶなら、今の状況はさしずめ、氷の地獄か。
フェンリルと俺、ともに氷の力を使う者同士が力をぶつけ合った結果がこれだ。
周囲には凍気が満ち、床も壁も天井も全て凍りついた。

祐一 「・・・・・・」

凍気によって生まれた霧によって、今視界は完全に閉ざされている。
とはいえ、奴の存在を気配のみで捉えるのは簡単だ。
あんな馬鹿でかい力は、隠そうとしても隠せるものじゃない。
だから、霧に乗じて奇襲なんて真似を奴はしない。
来るとしたら、真正面からだ。

祐一 「来る!」

ブワッ!!

霧を壁を突き破って、そいつが姿を表す。
銀毛の狼・・・それが俺が知るフェンリルの本当の姿だ。
人型は仮の姿に過ぎない。

フェンリル 「カァアアアア!」

ズンッ

鋭い爪を持った右前足が床を打ち砕く。
でかい図体してかなり速い。

祐一 「だが、かわせない速さじゃない」

速さは決して脅威じゃない。
こいつの恐ろしさは・・・。

祐一 「おらぁっ!」

フェンリル 「ふんっ!!」

デュランダルを奴の額目掛けて振り下ろす。
対してフェンリルは、魔力を放出することで防御する。

バァンッ!

衝突。
いかに強靭な肉体を持つ魔狼と言えど、俺の剣圧で一撃を、まして眉間に受ければ傷を受ける。
だが俺の全力の切り下ろしを、フェンリルは放出した魔力だけで受け止めた。

祐一 「ちっ」

弾き返され、崩れた体勢を空中で立て直して着地する。

フェンリル 「よい動きだ。魔竜王との戦いでほぼ前世の力を取り戻したと見える」

祐一 「・・・・・・」

その通り。
シヴァ、パンデモニウム、ベリアル、絶鬼、ブラッドヴェイン・・・数々の強敵との戦いを経て、俺の力はもうほとんど完全に昔の“俺”に迫っていた。
魔力は若干まだ低いが、現世での経験分をプラスした今の状態での俺の腕は、かつての“俺”を既に凌駕しているかもしれない。

だがしかし、例え全盛期の“俺”の力をもってしても、こいつとだけはまともに戦える気がしない。
終末を導く運命破壊者、邪神ロキの子フェンリル。
その力は、紛れも無く魔界、いや天地魔界最強。
あらゆる魔神、天界を支配する主神をも上回る。

俺に限らず、誰一人まともに戦ってこいつに勝てる奴などいない。
唯一、血の継承を続けてきた魔竜王だけがこいつと同じレベルに達したというが、たぶん、全盛期のブラッドヴェインでさえ、こいつには・・・・・・。

フェンリル 「どうした、躊躇するなどらしくないぞ、闘神・・・いや、氷帝だったか、相沢祐一」

祐一 「躊躇もするさ、おまえが相手じゃな」

フェンリル 「我が父、ロキも認める力がその程度なはずはあるまい」

祐一 「・・・・・・」

フェンリル 「来てみるがいい、祐一よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき

「CLANNAD」中・・・・・・
楽しすぎ。
まだ半分くらいだけど・・・期待値を100とするなら、堪能値は250くらい? 今までなかった良さ、そしてKEYらしさ、いずれもハイレベルです。特に泣きの部分は、風子ルートで120%だったものが、ことみルートでは180%・・・ていうかことみルートは泣ける! シナリオ担当の人の話にも正統派ってあったけれど、Kanon・AIRで泣けた人は絶対ことみで泣ける。
泣き以外の部分もいい感じです。ざっとやって一番好きなのは杏かな。お気に入りは風子。もちろん、他の子もみんな好き。
って、これあとがきじゃねぇー