デモンバスターズFINAL

 

 

第27話 神魔衝突・京四郎vsアシュタロス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュッ キンッ

抜刀された刀が再び鞘に納まるまでの動きに、一切の乱れも遅れもない。
それが折原浩平の抜刀術である。

浩平 「絶好調だな」

恐るべき力をもった魔界の魔獣を相手に、浩平の抜刀術はまったく遅れをとっていなかった。
それどころか、向かってくる全ての相手は、抜き放たれた一刀によって斬り捨てられた。

浩平 「そろそろ雑魚じゃ物足りないな。そっちもボケッとしてるのは退屈なんじゃないか?」

浩平は魔獣の後ろで佇む見知った顔に声をかける。
ゼルデキア・ソート、以前ナイツ・オブ・ラウンドにいた魔族。

ゼルデキア 「・・・なるほど、あの氷上シュンを倒しただけのことはある。人間にしてはそれなりか」

浩平 「そのそれなりの人間の挑戦を、まさか上級魔族ともあろう奴が断ったりはしないよな」

ゼルデキア 「それで挑発しているつもりか? まぁよい、どの道貴様ら人間どもは皆殺しにするのだから、構わぬか」

離れた間合いで二人は対峙する。
距離的には、居合を使う浩平が若干不利であった。
しかし、浩平の奥義は、遅れて発動しても尚相手の速さの上を行くものだ。
後手にまわっても、問題はない。

ゼルデキア 「無駄な抵抗をするか」

浩平 「無駄かどうかは、やってみなけりゃわからないだろう」

ゼルデキア 「わかるとも。我々にとって警戒すべきはデモンバスターズと神月京四郎、この六人のみだ。ノワールムーンの小娘どもとて、偉大なる真魔の血脈の前では有象無象と変わらぬ。ましてや貴様らなど、尚更だ」

浩平 「確かにあの六人は次元が違うな。けどよ、おまえだってその真魔の連中には及ばないんだろ。俺がおまえを抑えてる間に、神月さんがあの魔神を倒せば済むことだ」

ゼルデキア 「それも、不可能だ」

絶対の自信。
それがゼルデキアの表情にはあった。

ゼルデキア 「貴様、我が主を誰だと思っている? 魔界公爵アシュタロス。天地魔界に轟くその名の重みを、貴様如きに理解できまいが・・・。堕天使や蠅の王ばかりが担ぎ上げられているがな、よく覚えておくがいい。あのお方は何人にも遅れを取らぬ。我が主アシュタロス様こそ、魔界最強なのだ!!」

浩平 「っ!」

ゼルデキア 「アシュタロス様は少々お戯れが多過ぎるだけだ。だがあのお方が本気になれば、神の子如き敵ではない」

浩平 「・・・そいつはどうかな」

ぜルデキア 「何?」

浩平 「アシュタロスがすごいってのはわかった。けど、あの人だってすごいぜ。この一ヶ月弱、俺もちょっとだけ修行に付き合ってもらったからわかる。そっちこそ、あの人をなめない方がいいぜ」

 

 

 

 

 

浩平とゼルデキアが対峙する中、人間勢と魔獣達の戦いはほぼ互角であった。
個々の能力では人間勢が上回っていたが、数において魔獣達が圧倒的である。

みさき 「きりがないね」

香里 「ほんとに、どこから出て来るんだか?」

琥珀 「そういえば香里さん、大きな魔獣が怖いのは治ったんですね」

香里 「・・・まぁ、見た目とは裏腹にもっととんでもない化け物を何人も見てきたからね・・・」

栞 「少し前だったらとても敵わなかった魔獣も、今なら倒せますね」

戦いは硬直状態が続いていた。
その中心から少し外れた場所で、さくらと芽衣子が並んで立っている。
二人の視線の先には、周りを巻き込まないようにと移動していった京四郎とアシュタロスがいる。

さくら 「・・・どう思う、芽衣子ちゃん? 今の戦況」

芽衣子 「悪くないだろう。やはり問題はあれだな」

さくら 「魔界のこと、調べられた?」

芽衣子 「ああ。不思議なもので、調べようと思えば文献はいくらでもあった。今まで明かされなかった魔界第四階層のことも、本部はとっくに知っていたようだな」

さくら 「それで?」

芽衣子 「魔界においてもっとも強大で、恐れらている存在は、魔狼王フェンリルだ。単体では間違いなく、これが最強だという。次いで四魔聖の存在だが・・・これは少し曖昧でな」

さくら 「曖昧?」

芽衣子 「文献によってルシファーを頂点とするものもあれば、ベルゼブルと記されているものもあり、またアシュタロスやベリアルをこそ上位においているものもあった」

さくら 「誰が一番強いか、わからないってこと?」

芽衣子 「誰が一番か、という議論は無意味かもな。序列がどうであれ、彼らの力は我々の理解の範疇を超えている」

すぅっと、芽衣子が前方を指差す。

芽衣子 「あのようにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッッッ!!!

相反する二つの力が衝突した反動によって、周囲に強烈な衝撃波が巻き起こる。
圧倒的なレベルの戦いなればこそ、周囲に与える影響も大きくなる。
この戦いが現実世界において行われていたなら、おそらく町が一つ消滅しているであろう。

京四郎 「ハァァァ!」

宝剣アルテマウェポンが振り下ろされる。
その一刀を、アシュタロスは片手で苦も無く止めてみせる。
同時にもう片方の手で魔力の塊を相手へ叩き込む。

ヒュンッ

アシュタロス 「む」

瞬間、アシュタロスの視界から京四郎の姿が消える。
右手から放った魔力波を、そのまま鞭のようにしならせて、アシュタロスは周りの空間を薙ぎ払った。

ドバンッ!

アシュタロス 「・・・・・・」

底が見えないほど深く抉られた地面にできた穴の淵に、京四郎はいた。
それを確認してから、アシュタロスは自らの腕に目を向ける。
二の腕の部分が斬られており、血が滴り落ちていた。

アシュタロス 「フッ、高貴なるこの私が流す血もまた美しい。だがこれは、あまりに無粋と言えよう」

さっと腕を振ると、傷はあっという間に癒える。
魔神の高い再生力によるものだった。

アシュタロス 「君の力はその程度かね、神月京四郎君。だとしたら、少々期待はずれだよ」

僅かに落胆の色をアシュタロスが見せる。
先ほどから数十回の攻防を繰り広げているが、京四郎が繰り出してくるのはこのように小手先の技ばかりであった。
正面からの攻撃はアシュタロスのパワーの前にはまるで通用せず、動きで裏を取る戦法だけを取っている。

アシュタロス 「動きは大したものだ。この私が反応しきれないものが時々ある。巨大な魔獣が小さな獣に倒されることも稀にあるだろう。だが、私はレベルが違う」

京四郎の剣は、アシュタロスの体を何度も傷つけていた。
しかし、その全ては一瞬で癒され、ダメージはまるでない。

アシュタロス 「ここは真魔の力で満ちた空間だ。我々真魔の血脈に連なる者は、常に魔力体力を補給されている状態にある。小さな傷など、治癒するのに5秒もいらぬ」

京四郎 「なるほど、地の利はそちらにありといったところですか」

アシュタロス 「そういうことだ。もっとも君の力がその程度ならば、地の利があろうとなかろうと変わりはないがね」

その程度と、アシュタロスは言う。
だが京四郎の放つ一撃は、並みの魔族ならば数十体をまとめて吹き飛ばすほどの威力を秘めていた。
圧倒的な力を持つ魔神の中にあって、尚最強と謳われる者の一人たるアシュタロスが相手であるがゆえに、それほどの力さえ不十分なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくら 「どうしよう・・・思ったより厳しいかな?」

芽衣子 「だが、そろそろ準備が必要だろう」

眉間に皺を寄せながら、さくらはうーっと唸る。
考え込むこと数十秒、自分に頷くと皆の方へ振り返る。

さくら 「仕方ない、京四郎さんと楓さんが強敵を抑えてくれてるだけ良しとしよう。みんな、説明した通りにお願い」

琥珀 「例のあれですね。やっと本格的な出番です」

澄乃 「わたしもがんばるよ〜」

さくらの指示に応じて、皆がそれぞれに別れる。
一方には澄乃としぐれ。
また一方にはさくらと美坂姉妹。
もう一方に琥珀とセリシア。

芽衣子 「いっといで〜」

さくら 「芽衣子ちゃんも、ちゃんと戦ってよ?」

残っているのは、ゼルデキアと戦っている浩平と、みさきに芽衣子だけである。
他の三組は、塔の四方へ向かってそれぞれ散っていく。

みさき 「よろしくね、芽衣子ちゃん」

芽衣子 「やれやれ、年寄りを働かせおって」

文句を言いながら、懐から一本の楔を取り出し、地面に突き立てる。

みさき 「それで、どうするの?」

芽衣子 「おわり」

みさき 「へ?」

芽衣子 「冗談だ。これはこれだけでは何の意味もないが、組み合わせることで色々と効果がある。他の三組にも同じものを持たせた」

みさき 「四方にそれを・・・何かの魔術儀式なの?」

芽衣子 「似たようなものだ。さて、ここからが重要なのだが・・・」

みさき 「うん」

芽衣子 「これを守らないと大変なことになる」

みさき 「・・・・・・」

ぐるりと周囲を見回すと、しっかり敵に取り囲まれていた。

みさき 「大変そうだね」

芽衣子 「うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アシュタロス 「む?」

力の流れに変化が起きたのを感じ取り、アシュタロスが塔の方を振り返る。
人間達が四手に分かれて塔の周囲を動き回っているのが見えた。
さらに、その内の一点においては不可思議な力が感じられる。

アシュタロス 「何かの儀式法を行うつもりか。大したものではなかろうが、ただ黙って見逃すのもつまらぬな」

妨害しようと腕を振り上げる。
それを移動している人間達に向けようとした瞬間、前に回りこむ者があった。

シュッ

振り上げられた剣先を慌てずにかわす。
さらに切り返された剣を受け止めようとして、目を見張った。

アシュタロス 「何?」

ギィィィンッ!!!

これまでいとも容易く受け止めていた一撃が、今は数倍の重さを持っていた。

京四郎 「はぁっ!」

力ずくで、京四郎は剣を振りぬいた。
その威力を完全には殺しきれず、受け止めたアシュタロスは数メートルを後退させられる。

アシュタロス 「・・・・・・」

先ほどまでとは比べ物にならないほど充実した神の力が感じられた。

アシュタロス 「今までは小手調べのつもりだったのかね?」

京四郎 「さっき、あなたが言ったでしょう」

アシュタロス 「む?」

京四郎 「この空間では、少々のダメージを受けてもあなたはすぐに回復することができる。それに対してこちらは戦うほどに消耗する」

アシュタロス 「・・・それで?」

京四郎 「力の無駄遣いはできないと思ったんですよ。けれど、ここからは全力で行きます」

全力と、そう京四郎は言った。
しかしアシュタロスには、この男がさらなる力を隠していることを見て取った。
先ほどまでの力がセーブしたものであったとわかったからこそ、全力と言った今でもまだ全ての力を解放していないことがわかる。
とはいえ、これだけの力があればアシュタロスと言えど容易には勝てない。

アシュタロス 「時間稼ぎか」

人間達は何かの儀式魔法を発動させようとしている。
それを完成させるための最大の障害は他でもないアシュタロスということになる。
だから京四郎は、それが完成するまで足止めをするつもりなのだ。

アシュタロス 「フッ、シナリオとしてはオーソドックスだが、それゆえにおもしろい」

京四郎 「・・・・・・」

アシュタロス 「人間どもの成すことをあえて気にすることもないが、ここは乗らせてもらうとしよう」

少し大仰に、アシュタロスは両手を広げて構えを取る。
京四郎と同様、アシュタロスの魔力もまた、先ほどまでとは比べ物にならないほど洗練されたものになる。

アシュタロス 「どれほどもつかな、神月京四郎」

京四郎 「あなたが飽きるまで付き合わせてもらいますよ」

アシュタロス 「期待しよう」

ダッ

両者が同時に踏み込む。
その速度は、音の壁を突き破るほどで、周囲に音波による衝撃波が巻き起こった。

一度、二度、四度、八度、十六度・・・・・・

交叉する度に一度に打ち合う回数が増えていく錯覚さえ感じられた。
それほどまでに速く、強大な力のぶつかり合いだった。

アシュタロス 「まだまだこんなものではないぞ!」

上空高く飛び上がったアシュタロスが右手を頭上に振りかぶる。
真上に向けた手の平には、魔力が収束していた。

アシュタロス 「避けろとは言わんが、せめて耐えてくれよ」

魔力が弾ける。
飛び散った無数の粒が、流星のように大地へ降り注ぐ。
その数は優に数万・・・。

ドドドドドドドドドドドッ

一つ一つが人間レベルで言えば大魔法クラスの威力を持っているそれが無数に降り注ぐ。
大地は砕け、焼かれ、破壊されていく。

その中を、白い光が流れるように動き回っている。
どう考えてもかわしようのない攻撃を、京四郎は全て見切って回避していた。
それだけではない。

ピッ

アシュタロス 「・・・ほう」

遥か上空から攻撃しているアシュタロスの頬に傷が走る。
超高速で動き回っている京四郎は、同時に攻撃を弾き返しているのだ。
一見すると下に降り注ぐだけの流星群だったが、その一部は京四郎によって弾かれ、アシュタロスに向かって撥ね返っていくものであった。

アシュタロス 「ならば、これはどうする!」

降り注ぐ流星が一時止む。
直後、巨大な塊が一つ、アシュタロスの頭上に生まれる。
それが、京四郎のいる大地へ向かって落下していく。

アシュタロス 「この大きさでは回避はできまい」

塊の直径は数十メートルはあった。
それが高速で落下してくるのだから、回避する余地はない。
仮に回避できたとしても、落下の衝撃は広範囲に及ぶ。

 

ズバッッッ!!!

 

アシュタロス 「!!」

京四郎は、回避も防御もしなかった。
渾身の力を込めた一刀で、隕石の如き巨大魔力球を両断したのだ。

京四郎 「・・・ふぅ」

アシュタロス 「想像以上に楽しませてくれる」

一連の攻撃が破られても、アシュタロスの顔から余裕が消えることはなかった。
彼にとっては、所詮戯れに過ぎない。

もっとも、周りの者はたまったものではなかった。
仮に今の巨大球が落下していたとしたら、塔の周辺にいるほぼ全員が余波に巻き込まれていたであろう。

二人の戦いはまさに、神話に語られる神と魔の戦いの再現であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく