デモンバスターズFINAL

 

 

第26話 史上最大のバトルロイヤル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四つの門から上層階へ続く四つの道。
その最後の一つでは、いまだに闘いが始まっていなかった。

舞 「・・・・・・」

先に入っていった豹雨は急ぐわけでもなく、ゆっくりと歩いていたため、後から来た舞はすぐに追いついてしまった。
そのまま追い越すのも癪で、二人は歩調を合わせて進んでいる。
元々無口な二人ゆえ、並んで歩いても会話などは一切ない。

豹雨 「・・・・・・」

長い階段をひたすら登って行く。
もうどれほど時間が経ったのかわからず、どれくらい進んだかもわからない。
あまりに広く、高い塔を前に、時間と距離の感覚が狂っていた。

 

 

やがて、二人は両開きの大扉に辿り着く。
そこではじめて、ずっと変わらなかった豹雨の歩調に変化が起き、扉の前数メートルで立ち止まった。
つられて舞も少し進んだところで立ち止まる。

豹雨 「・・・・・・」

止まった理由は、舞にも察しがついた。
扉越しにも感じる、強大な気配。
それが誰であるかを舞は知らないが、豹雨の意識は、ずっとその相手にのみ向けられていた。
この男をこれほどまでに駆り立てる相手というのも気になったが、扉の向こうにはもう一つ、それに匹敵する気配があった。
舞の方は、どこか覚えのあるそちらの存在が気になっていた。

豹雨 「・・・フッ、待ってやがるか、あの野郎」

舞 「・・・豹雨」

豹雨 「見物してんのは勝手だが、俺の邪魔はするなよ」

舞 「・・・邪魔はしない。けど、私も勝手にさせてもらう」

豹雨 「上等だ」

止めていた足を動かし、二人は扉へと近付く。
それを開けた瞬間が、死闘の幕開けとなる・・・。

ぎぎぃぃぃ・・・・・・

広い部屋だった。
無数の柱と、それに支えられたテラスもあり、正面には階段と、その先に大扉がある。
全体の印象は、まるで教会の大聖堂を思わせた。

そして、正面階段途中の踊り場に長椅子があり、そこに一人の男が腰掛けている。
左右一対となっていたであろう角は、片方が根元から折れていた。
鋭利な切り口から、斬りおとされたものであるとわかる。

先ほどから豹雨が感じていた気配の正体は、その男であった。
舞は知らないが、その男の名を、獣魔王ベリアル。

ベリアル 「来たな、豹雨」

豹雨 「ベリアル・・・」

互いを呼び合う、それ以外に交わされる言葉はなかった。
まだ抑えられている状態でありながら、既に部屋全体を覆いつくすほどの両者の闘気が渦を巻いている。
まさに一触即発。
傍にいる舞は、思わず呼吸すら忘れそうなほどの重圧を感じていた。

そんなぎりぎりの緊張感を、四人目の声がこともなげに破ってみせた。

?? 「なんだベリアル。貴様がいるからここに奴が来ると思って待っていたというのに、人間風情が二匹だけか」

扉越しに感じていたもう一つの気配。
その声に、舞は聞き覚えがあった。
忘れようとしても忘れられない、かつての死闘の記憶が呼び起こされる。

舞 「・・・・・・」

顔を上げると、テラスのところから三つの目が自分達を見下ろしていた。

舞 「・・・シヴァ」

以前、舞と郁未、祐一、さやか、エリスの五人がかりでようやく倒した、彼女達にとってはじめて相対した魔神。
その名を、破壊神シヴァ。

シヴァ 「人間風情がこのシヴァの名を軽々しく口にしないことだ。・・・・・・ああ、そういえば思いだした。貴様はあの時の人間の一人か」

ベリアル 「邪魔だシヴァ。貴様こそ亡者の分際でしゃしゃり出てくるんじゃねえ」

シヴァ 「ベリアル。誰にものを言っている?」

二人の魔神の間で別の緊張感が生まれる。
張り詰めた空気は音を立てて軋みを上げ始めていた。

シヴァ 「・・・まぁよい。奴がいないのならばこのような場所に用はない。祐漸の生まれ変わりの小僧・・・今度は前回のようにいかん」

踵を返して立ち去ろうとするシヴァ。
その背に向かって、舞は反射的に声をかけた。

舞 「待って」

シヴァ 「・・・人間風情が話しかけるなと言ったはずだが?」

舞 「・・・祐一のところに行く必要はない。おまえは、私が倒すから」

シヴァ 「聞き違いか? 私を倒すなどという戯言が聞こえた気がしたが」

舞 「・・・聞き違いじゃない。おまえは私が倒すと言った」

シヴァ 「貴様・・・」

テラスの上からシヴァは舞を見下ろす。
その目には、プライドを刺激されたことによる怒りが滲み出ていた。

シヴァ 「思いあがりも甚だしい」

ベリアル 「邪魔だと言ったはずだシヴァ。そっちの人間もやるなら勝手に余所でやりやがれ」

シヴァ 「私に指図をするなベリアル。貴様こそどこぞへ立ち去ればよかろう」

ベリアル 「てめえ・・・!」

 

ギィンッ

 

舞・ベリアル・シヴァ 「「「!!」」」

三人の視線が一斉に同じ方へ向けられる。
ただ刀を地面に突き立てた音、それだけでこの面子の注意は引き付けられた。

豹雨 「ぐだぐだぬかしてんじゃねぇよ」

ほとばしる闘気と、圧倒的な存在感を放って、その男はそこにいた。
魔神と呼ばれる者達すらも、思わず呑まれるほどの気迫だった。

豹雨 「他の奴なんざ気にしてんじゃねぇよ。やりたい奴は好きにやりゃぁいい。最後に立ってた奴が一番強ぇ、バトルロイヤルだ」

舞 「・・・また、バトルロイヤル?」

豹雨 「単純で面倒がねぇ」

シヴァ 「人間どもが、我ら魔神と対等のつもりか!?」

ベリアル 「・・・くっくっく、いいじゃねぇか。強い奴が一等・・・魔界の流儀そのもの、上等だぜ!」

少し前までばらばらであった全員の意思は一つになっていた。
相手が魔神であろうと関係無しに自分の領域に取り込む・・・舞は改めて豹雨という男の大きさに戦慄を覚えた。
そして、自分が何故咄嗟にシヴァを呼び止めたのかも理解した。

豹雨はベリアルと互角に戦う、そう確信できた。
ならば自分は、そのベリアルと同等の力を持つシヴァを倒さなければ、この男に追いつくことはできない。

まさにバトルロイヤル。
舞はシヴァと戦うことで、同時に豹雨とも戦うのだ。

豹雨 「・・・・・・」

ベリアル 「・・・・・・」

シヴァ 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

今度こそ、一切の言葉は不要だった。
強者が勝ち、弱者が負ける。
それだけがルール。

 

ダッ

 

四人全員が一斉に床を蹴る。
豹雨は正面の階段へ向かって一直線に踏み込み、舞はそれに対して垂直に駆け出す。
ベリアルは椅子を叩き潰す勢いで飛び出し、シヴァは舞と同じ方向へ向かってテラスの上を移動する。

豹雨 「おぉおおおおおお!!!!!」

ベリアル 「ハァアアアアア!!!!!」

ゴッ!!!

階段上で豹雨の剣とベリアルの拳が激突する。
その一点を中心に衝撃波は部屋中に広がり、反響して戻ってくる。

互いの一撃を弾きあい豹雨は階段の上へ、ベリアルは下へ、勢いのまま跳んでいく。
階段を十数段飛ばしで踏みながら勢いを殺した豹雨は、踊り場のところで滑るようにして停止する。
止まったところで即座に床を蹴って天井近くまで跳び上がった。

ベリアル 「む!」

豹雨 「おらぁっ!」

ガキィッ!

落下のスピードを乗せた一撃が床を叩き割った。

ベリアル 「悪くねぇ、だが!!」

頭上からの切り下ろしをかわしたベリアルは、豹雨の背後へとまわる。
残像すら視認することのできない超スピードであった。

ベリアル 「遅ぇっ!!」

ガッ!!

ベリアル 「何!?」

完全に捉えたと思われたベリアルの攻撃は、背中にまわした豹雨の刀で受け止められていた。

豹雨 「てめぇが遅ぇよ」

背面へまわした刀を振りぬく。
咄嗟に身をかわしたベリアルだったが、左肩を刀の切っ先がかすめた。

ベリアル 「てめぇ、見えてやがったのか?」

豹雨 「さぁな」

見えているかと問われれば、答えは否だった。
ベリアルの速度は、人間の知覚範囲の領域を超えていた。
いかに豹雨と言えども、それを見ることなど不可能に近い。

反応できたのは、直感によるものだった。
桁違いの剣の達人だからこそできる、未来予知にも似た動作の先読み。
これよって、通常の数倍の反応速度を得ることができる。

だが反応できたとしても、普通はそれについていくことなど人間にはできない。
それができるのが、豹雨という男の最強たる所以だった。

ベリアル 「この前やりあった時と比べて格段に強くなってやがるな・・・おもしれぇ」

豹雨 「どうした、人間風情と見下してたんじゃなかったのか?」

ベリアル 「てめぇをもうただの人間とは思わねぇ。人間も魔神も関係ねぇ・・・祐漸の野郎と同じ、豹雨、てめぇは俺が倒すべき好敵手だ!」

豹雨 「そうか。てめぇも、俺が今まで戦ってきた奴らの中で一番強ぇぜ。だが、勝つのは俺だ」

ベリアル 「上等!」

そこからは、本物の死闘のはじまりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

豹雨とベリアルの戦っている地点から充分に離れたところで、舞はテラスへ向かって跳躍する。
テラスの柵に着地すると、ちょうどシヴァの正面に出た。

シヴァ 「この私が人間の言葉程度に踊らされるとはな・・・まぁいい」

舞 「・・・・・・」

シヴァ 「向こうの人間はともかく、あの時五人がかりでようやく倒した私に、一人で挑むつもりか?」

舞 「・・・もちろん、そのつもり」

シヴァ 「片腹痛い。あの時は人間にしてはやると少しは感心したが、一人ではたかが知れている」

舞 「それは・・・やってみなくちゃわからない!」

腰に両手を当てて、引き抜くような動作を取ると、舞の手には白牙刀が握られていた。
白虎の力を秘めた、この世で舞だけの剣である。

舞 「勝負!」

両手で刀を持ち、一直線にシヴァへ向かって踏み込む。
対するシヴァの手にも、いつの間にか剣があった。

シヴァ 「身の程をわきまえろ、人間!」

ヒュッ!

突っ込んできた舞の身を、シヴァの剣が切り裂く。
だがそれは、舞の残像に過ぎなかった。

シヴァ 「む!」

舞 「いづな!」

ザシュッ

一撃目を防がれても、二撃目を放てる二段構えの技。
舞がもっとも得意とするものであり、以前の戦いでも舞はこの技でシヴァの裏をかいている。

シヴァ 「ちぃっ!」

舞 「・・・・・・」

肩口から僅かに血を流したシヴァが苦々しい表情で舞を睨みつける。
舞の方は、涼しげな顔でそれを受け流す。

舞 「・・・一流の剣士なら、一度見た相手の技を簡単に受けたりしない」

シヴァ 「何?」

舞 「祐一の言ったとおりかもしれない」

どれほど舞が強くなったといっても、最強クラスの魔神であるシヴァとの力の差は依然大きい。
まともに戦っては、到底舞に勝ち目はないだろう。
しかし今、シヴァは既に一度見たはずのいづなを、初見同様に喰らっていた。
それは、剣士としてシヴァの腕が決して高いとは言えないということ。

舞 「・・・確かに、おまえは強い。私じゃ、足下にも及ばない」

シヴァ 「・・・・・・」

舞 「・・・だけど、剣の腕は私が上。だから、勝てる」

シヴァ 「・・・・・・図に乗るなよ」

カランッ

シヴァの手から剣が落ちる。
そんなものは不要とばかりに、シヴァの魔力が信じられないレベルで高まっていく。
これでもかというほどの力を見せながら、尚も上昇する。
魔神の持つ果てしない魔力を、改めて舞は感じていた。

シヴァ 「たかだか剣の腕でこのシヴァを上回って程度で勝てるつもりか。その傲慢、後悔させてくれるわ」

ヴンッ

言うが早いか、シヴァの姿が舞の視界から消える。
移動した気配は一切なかった。
仮にベリアルのように視認できないレベルの超高速で動いたとしても、普通に動いたのならばその気配すら辿れないのはおかしい。
ならば、答えは一つ。

舞 「・・・そこっ!」

ギィンッ

斜め後方から放たれた攻撃を、振り向き様に受け止める。

シヴァ 「そうか、貴様も空間を操る能力を持っていたのだったな。しかし、所詮はレベルが違う」

そちらへ視線を向けた時には、シヴァは既に次の空間転移に入っていた。
間合いは一瞬にしてゼロになる。
本来ならば反応する間もないはずだが・・・。

舞 「っ!」

同じ力をもってすれば、少なくとも互角の動きはできる。

ヴンッ

シヴァ 「何!?」

時間にすれば、それはまさに刹那。
“外”で見ていたものからすれば何も起こっていないとしか認識されないであろう瞬間。
しかし二人はその間に攻防を繰り広げていた。
空間を越える間に。

シヴァ 「馬鹿なッ! 人間如きが私と同等の空間転移術を使うと言うのか!」

舞 「・・・同等じゃない」

シヴァ 「何・・・?」

舞 「けど、追いつける」

能力的には同等などではなく、シヴァのものの方が上回っていた。
だが舞は、剣士の嗅覚をもって相手の動きを先読みし、一歩早く空間跳躍に入ったのだ。
そうすれば、能力的に劣っていても、互角の結果を生み出せる。
魔神シヴァにとっては、屈辱的なことであった。

シヴァ 「・・・許せぬ。貴様は我が全力をもって排除する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく