デモンバスターズＦＩＮＡＬ
第２１話 バベルの塔への招待
アシュタロス 「天は黒く、大地も黒く、深い闇に覆い尽くされし真魔の刻。全ての魔なる者を祝福する宴・・・私はその美しき案内人、アシュタロスにございます。よくおいでくだされた、御前。ところで、そのお顔はどうされた？」
祐一 「気にするな」
至極真面目に問われても答える気にはならん。
さっさとインクを洗い落として、改めて相手と向き合う。
相手は四魔聖の一人、魔界公爵アシュタロスだ。祐一 「歓迎すると言ったな。俺達が何をしに来たかわかって言ってるのか？」
アシュタロス 「無論ですとも。しかしあなたが我らを倒すにしても、我らの王になるにしても、このバベルの塔の頂上にいるルシファーに会いに行く必要がある。違いますかな？」
祐一 「いや、違いない」
こいつ、どこまで俺の考えを見透かしてるのやら。
それにしても、こいつ一人、か？エリス 「御託はどうでもいいわ。まさかあんた一人ってわけじゃないでしょうね？」
アシュタロス 「この場には私一人だよ、エリス姫。だが私は君や御前と戦うつもりは毛頭ない。言ったであろう、私は案内人だと」
祐一 「どういう意味だ？」
アシュタロス 「ここに、四つの鍵がございます」
そう言って奴が差し出した右手には、確かに鍵が四つあった。
色違いの、装飾された鍵だ。アシュタロス 「これは、バベルの塔の四方に位置する門の鍵で、それぞれの門番の念が込められております」
祐一 「念？」
アシュタロス 「そう。その念に選ばれた者のみが、バベルの塔へ立ち入ることが許可されるのです」
祐一 「許可だと？」
アシュタロス 「下賎な人間や、忌まわしい神の力を持つ者を、崇高なる真魔の地へ導くことなど許されないのですよ」
俺に対しては敬意すら示すような態度をとるアシュタロスが、一瞬殺気を見せる。
今言ったように、四つの鍵に選ばれなかった奴は一歩も通さない構えだ。・・・正直、許すの許さないのっていう高慢な態度は気に食わない。
アシュタロス 「さて」
手にした四つの鍵を奴が放す。
それらは重力に従って落下することはなく、こっちへ向かって飛来してきた。
四つそれぞれが、四人の前で止まる。アシュタロス 「鍵に込められた念がバベルへ招待したのは・・・御前、エリス姫、斬魔剣の豹雨、ブラッディ・アルド・・・この四人のようですね」
奴の言うとおり、四つの鍵は俺達四人の前で止まっている。
それは即ち、この四人だけがバベルの塔へ入れるということだ。
向こうのルールでは、な。アシュタロス 「では通られよ。門番達が待っている」
祐一 「それはそっちが勝手に決めたルールだろ」
アシュタロス 「ですな」
祐一 「おまえを倒して行けば、全員で入っても文句はないだろう」
アシュタロス 「確かに、門は一度鍵を使って開ければ開いたままですからな。入ろうと思えば他の者も入れますとも。ただし・・・」
奴だけじゃない、周囲の気配が強まる。
あれだけの数を倒したというのに、まだ敵がいるか。
しかも今度は魔獣だけでなく、魔族どももいる。
いつかやりあった、あのゼルデキアとかいう奴なんかもいやがる。アシュタロス 「鍵に選ばれた四人以外が先へ進もうとすれば、私はもちろんこの者達全てが行く手を阻むこととなる」
数はさっきほどじゃない。
だが、アシュタロスが一人いるかいないかで、戦況は大きく変化する。
強行突破は難しい、か・・・。楓 「祐一君」
祐一 「ん？」
俺とアシュタロスの話を黙って聞いていた楓さんが寄ってくる。
楓 「行って」
祐一 「けど・・・」
楓 「大丈夫よ。私も京四郎さんもいるし、ここは任せてくれていい。というか、そのために来たんだから」
確かに、今ここで無駄な体力を使う必要はない。
通っていいと言ってるんだから、通れる奴は通っておいたほうがいいか。
倒すべき敵は、他にいるのだから。楓 「豹雨、エリスちゃん、アルド君、祐一君。すぐ、追いつくから」
エリス 「・・・いいわ。誘いに乗ってやろうじゃない」
アルド 「ええ、せっかくのご招待ですしね」
豹雨 「ふっ」
祐一 「わかった。あとを頼む、楓さん」
この場は楓さん達に任せて、俺達四人は先へ進むことにする。
そんな中、俺達より先に、神月京四郎が前に進み出る。京四郎 「では、彼の相手は、僕がするとしましょう」
アシュタロス 「神月京四郎。君のことは少し調べさせてもらったよ。天上最高神の一人たる時の神クロノスが人間の娘に産ませた子。地上をふらふらしている風来坊が、同族の惨状を見て怒りでも覚えたかね？」
京四郎 「そうですね。憎しみは何も生み出しませんが、せめて散っていった彼らの弔いに、あなたを倒させてもらいましょう」
アシュタロス 「おもしろい。いつかの決着をつけるとしようか、忌まわしき神の子よ」
二人の闘気が高まるのを感じながら、俺達は一足先に、塔へと向かう。
祐一、エリス、アルドがいち早く塔へ向かい、豹雨もゆっくりその後をついていく。
途中すれ違う際、京四郎と向き合っているアシュタロスがその背中に声をかけた。アシュタロス 「豹雨と言ったかね。奴とは長い付き合いだが、あれほどの執念を見せるのを見たのははじめてだよ」
豹雨 「・・・・・・」
アシュタロス 「御前に対しても、あれほどまでに執着はしていなかったように思える。実に楽しみだよ。君個人にも興味があるし、君が奴にどう倒されるのか、見てみたく思う」
豹雨 「ふっ、そいつは無理だな」
背中越しに、豹雨は不敵な笑みを浮かべる。
凄まじい殺気と闘気が放たれるのを、アシュタロスはびりびりと感じた。
これほどの気配を持った人間がいるのかと、驚嘆させられるほどだ。豹雨 「てめぇに京四郎は倒せねぇ。何故なら、奴を倒せるのは俺だけだからだ。そして、この俺は誰にも倒せねぇ」
絶対の自信と、それを裏付ける実力。
本当に、豹雨とあの男の戦いが見られなくて残念だとアシュタロスは思った。アシュタロス 「いや、神の子を早々に倒せば見られるか」
京四郎 「そう簡単には行きませんよ」
アシュタロス 「どうかな」
二人の闘気が高まるとともに、周囲の魔族も動き始める。
すぐにでも飛び掛ってきそうな気配に、楓達も各々構える。楓 「さて、もうひとがんばりしないとね」
アシュタロス 「ああ、そういえば。楓と言ったかな？」
楓 「え？」
アシュタロス 「君は特に美しく厄介な存在だからね。特別に相手を用意させてもらったよ」
楓 「相手？」
？？ 「こっちじゃ」
魔族達の間から、黒い衣をまとった女が現れる。
その気配を感じて、楓の表情が驚愕に彩られる。楓 「ま、まさか・・・」
？？ 「ふっ、ひさしぶりだな」
ばさっ
衣が取り払われる。
その女は、楓にとって忘れることのできない相手だった。楓 「榊・・・！」
榊 「また会えて嬉しいぞ、楓。今度は負けはせぬ」
セリシア 「榊のおばさん！？ 何であの人が・・・死んだんじゃなかったけ郁未・・・って、あれ、郁未は？」
意外な人物の登場に驚くセリシアだったが、次の瞬間いるはずの者がいないことに気付いてさらに驚く。
いないのは郁未だけでなく、舞と、さらには芽衣子もいなかった。さくら 「芽衣子ちゃんがいないのは何でかよくわかんないけど、郁未ちゃんと舞ちゃんには大事なお仕事があるんだよ」
デモンバスターズの力は先ほど改めて見ることができた。
彼らならば、きっと相手が魔神であっても勝つという希望も持てた。
だが、魔神達を倒すだけでは、この一件は収まらないのだ。さくら 「万事解決万々歳になるには、ノワールムーンの・・・四神の力が必要になるんだよ」
全員の注意が他に逸れている間に、郁未と舞は祐一達を追って塔へ近付いていた。
郁未 「わかってるわね、舞」
舞 「ん」
郁未 「神様や魔族の事情とか、この世の危機とかそんなのはどうでもいいの」
自分達を取り巻く状況を、郁未は一言で切って捨てる。
そんなことよりも、彼女達ノワールムーンの大事はただ一つだった。郁未 「依頼された仕事はきちっとこなす。それだけよ」
舞 「はちみつくまさん」
郁未 「祐一が北で、エリスが西の門へ向かったわね。じゃあ、私は東へ行くから、あんたは南よ」
舞 「わかった」
郁未 「じゃ、後でね」
塔に近付く直前で別れ、郁未はアルドが向かった東の門へ。
そして舞は、豹雨が向かった南の門へと向かっていった。
近くまで来てみると、この塔がどれほど大きいか改めて認識させられる。
目の前はほとんど壁だ。
そして頂上など遥か彼方で、とても見えない。祐一 「こいつを登るのか、面倒なことだ」
芽衣子 「まったくだ。私は登らないで済んでほっとしている」
祐一 「・・・・・・何故おまえがここにいる？」
芽衣子 「言い忘れたことがあったので伝えに来た」
祐一 「何だよ？」
振り返ると、いつものからかい顔があると思いきや、妙に神妙な面持ちの芽衣子がいた。
芽衣子 「ずっと気になっていたが、もうはっきりと感じる」
祐一 「・・・何だ？」
芽衣子 「死の気配だ」
祐一 「なに？」
芽衣子 「誰かが死ぬ」
祐一 「・・・・・・」
・・・なんだって？
祐一 「それは先見か？ それとも、いつものたちの悪い冗談か？」
芽衣子 「残念ながら、前者だ。今回ばかりはな」
こいつはふざけた奴だが、ここ一番で冗談は言わない。
そうだと言った以上、こいつの先見は確かなんだろう。祐一 「俺達の中の、誰かが死ぬって言うのか？」
芽衣子 「はっきりそうと決まったわけではない。だが、そうなる未来が存在するのは確実だ」
未来は複数に分岐する。
その中でもっとも先に来る可能性の高いものを、芽衣子の先見は言い当てる。祐一 「・・・誰が死ぬんだ？」
芽衣子 「そこまではわからない」
冗談じゃない。
確かに俺達はいつだって死を覚悟して戦ってる。
だがそれでも、仲間が死ぬような未来はごめんだ。祐一 「どうせ可能性だ。そんな未来は、俺が斬る」
芽衣子 「そうだな。武運を祈っている」
祐一 「サンキュ。行ってくる」
門を開き、バベルの塔へと入っていく。
いよいよ、戦いの幕開けだ。
中へ入って最初に目に入ったのは、案の定と言うか・・・とてつもなく長い階段だった。
数百メートルの吹き抜けの中央に、巨大な螺旋階段が存在していた。祐一 「歩くのは面倒過ぎるな」
ちょうどいいことに、壁のあちこちにはでっぱりがあって、足がかりには困りそうにない。
それらを使って跳びながら行くとしよう。ダッ
地面を蹴って登りだす。
そうしながら、選ばれた四人のことを考える。俺とエリスは妥当だろう。
確実に因縁のある奴がいる。
豹雨も、わかる。
アルドだけはどうしてかわからないが、あの場で魔のカテゴリーに属するのは俺とエリス以外ではあいつだけだから、それもわからないでもない。
問題は、誰が待っているかだ。アルドの相手は検討がつかん。
俺の知っている範囲では、わからないな。豹雨の相手は間違いなく、ベリアルだ。
自慢の角を折られ、さらにはあれだけの傷を負わされたんだ。
奴のプライドをあそこまで傷つけた奴は、はじめてだろう。エリスの相手は魔竜王ブラッドヴェインか。
いい加減エリスも決着をつけたがっていたし、親子の因縁にも終わりが来るか。そして俺の相手は・・・・・・誰だ？
ルシファーは最上階だろう、あいつの性格的に。
オシリスは自分から俺と戦いにこようって感じはなかったし・・・フェンリルだとしたらいきなり厄介だな。
或いは・・・オシリスが来てるなら、あいつがいる可能性も否定できない。祐一 「イシス・・・」
あの頃は、“俺”にとっても妹みたいな奴だった、オシリスの妹。
そして今にして思えば、あいつは“俺”に対して好意を持っていたように思う。“俺”のことを想っていたあいつに会った時、俺はどういう態度をとればいいのか・・・。
いったい何百、いや何千メートル登ったのか、ようやく広い床のある場所に出た。
扉があるだけの場所だが、その分わかりやすくていい。
あの扉の向こうに、門番とやらがいるわけか。祐一 「さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・」
下にあった門のような仰々しさはない、いたって普通の扉を押し開ける。
そこにいたのは・・・。祐一 「な・・・に？」
エリス 「・・・・・・ふぅ」
扉の前で一度立ち止まって、エリスは息を吐く。
この先にいるのは、おそらくあの魔竜王・・・エリスの父親である。
四神の祠、カノンに続いて、三度目の戦いになる。
生まれた時から続く因縁に、いよいよ決着をつける日が来たのだ。エリス 「っ！」
不安を消し飛ばすように、エリスは扉を蹴破った。
エリス 「・・・え？」
だがそこにいたのは、予想外の相手だった。
郁未 「・・・さてはて？」
不思議な気分に郁未はなっていた。
門からこの階まで、一本道であったはずだ。
なのに先に入っていったはずのアルドの姿はなく、通った形跡もない。郁未 「どこかに隠れてるとしたら私が見落とすはずないし」
だとすれば、どこかで隠し扉でも見つけて横に逸れたか。
郁未 「ま、いいわ」
進む道がたまたま一緒になっただけで、別にアルドに用はない。
このまま誰にも邪魔されずに先へ進めればよいのだが・・・。パッ
郁未 「！」
広い部屋の先に祭壇のように高くなった場所があり、そこにスポットライトが当たる。
そこには、白衣を着た一人の男が立っていた。？？ 「全ての者よ！！」
高らかに宣言する。
その先を思って、郁未は頭を押さえ、次いで耳を塞ぐ。？？ 「とくと敬え！ 私は天才！ 私はミラクルゥ！！ 超々魔導科学の申し子、マギリッド・Ｔである！！！」
どーん、という効果音がどこからともなく響く。
マギリッド 「よくぞ来た、私の次なる探究心を満たす魔なる人、ブラッディ・アルド君。・・・・・・・・・・・・何故君がここにいるのかね、天沢郁未」
郁未 「それはこっちが聞きたいわよ」
つづく
あとがき〜
ひさびさのあとがきもどきでござる。
長く続いてきたデモンバスターズもいよいよクライマックスに迫っていながら、ＦＩＮＡＬ自体はようやく半分という状態ですが、まぁいいでしょ。
さて・・・少し前に「Ｆａｔｅ」にどっぷりはまった平安京ですが、今は頭の中四割くらい「ＣＬＡＮＮＡＤ」に染まっています。（残りの六割は大学のこととか、就職のこととか、現在進行中のゲームのこととか色々・・・） 何しろ長らく待たされたせいで期待度７０％くらいまでダウンしていたのですが、発売決定とともに８０％くらいまで回復し、雑誌の最新情報や店頭デモを見て１２０％までアップしました。ひたすら発売が待ち遠しい限りです。
そんなわけで、５、６月辺りは就活＆ＣＬＡＮＮＡＤモードといった感じ。デモンはその間に同時進行で終わりそうだけれど、公開停止にしたもう一方の作品に代わる新作は夏近くになってからになりそう。何やらもうすっかり以前の構想はすっ飛び、登場人物も考える度に二転三転として、今度はいっそＣＬＡＮＮＡＤキャラでやろうかとかそういうことまで考えてる始末。ファンタジーものだとどうやっても一部デモンと被りそうだから、いっそ路線変更までしようかとか・・・迷走中。さぁ、どうしよう、というかこれはほんとにあとがきなのだろうか？