デモンバスターズFINAL

 

 

第17話 運命の分岐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達のもとにやってきた郁未と舞が運んできたのは、魔族の居所に関する情報だった。
ヴィオラが言っていた時空の揺らぎがあった砂漠の中心部・・・そこは表口に過ぎず、その先にある異空間、というのが結論らしい。

郁未 「明後日までにはさくらが助っ人引き連れて来るわ。そうしたら乗り込むつもりよ」

と言ってたのが昨日のことで、明くる今日は一日休むということになった。
そんなわけで、この土地に興味があるという郁未はエリスと連れ立ってそこらを散歩しており、さやかはヴィオラが話があるとかでそっちへ行き、ここでのんびりしているのは俺と舞の二人だけだ。

祐一 「明日、か」

舞 「ん」

別段気合を入れるということもない。
いつでもどこでも、すぐに戦闘態勢に入れないようじゃ、一流とは言えない。
だから、休む以上は普通に休む。

祐一 「そういえば、おまえと二人でのんびりするなんてのははじめてだな」

舞 「・・・そうかもしれない」

祐一 「・・・・・・なんとなくだが、おまえ悩んでないか?」

こいつは無表情だ。
ころころ表情が変わるエリスや楓さん、さやかなんかが近くにいるせいで、俺の周りにいる女の中じゃ珍しい部類に入る。
だが、よく見ると結構感情がわかるものだと、郁未が言っていた。
なので話題作りにと思って切り出したのだが、わりと深刻そうな顔になる。

祐一 「らしくないな」

舞 「・・・私も人並みに悩む」

祐一 「だろうな。俺だってそうだ。で、おまえは何を悩む?」

舞 「・・・私が、一番弱いこと」

祐一 「む」

そう来たか。

祐一 「一番ってのは、この場にいる五人の中で、ってことか?」

無言で頷く。
これだけ強い奴が贅沢な悩みを、と言いたいところだが、俺も似たようなことは考えていた。

祐一 「かもしれないな・・・」

この場にいる五人。
同じ場に揃ったことがあるのは、四神の祠でシヴァに対した時くらいで、カノンの時は別々だった。
今の強さの判断基準はやはり、六天鬼戦ということになるが。

祐一 「まず何と言っても、エリスだな」

舞 「はちみつくまさん」

あいつの強さは別格だ。
この数日間で、底無しかと思われるほど魔力が上がってる。
パワー、スピード、戦闘センス・・・どれを取っても圧倒的で、他の四人が束になっても或いは敵わないかもしれない。
そういう強さだ、今のエリスは。

祐一 「あれには正直俺も参ってる。出会ってから七年・・・もうすぐ八年になるが、差は縮まるどころか開いてる気さえする」

さすがは真魔の血に連なる直系の一つ、魔竜の王族か。

舞 「・・・それから、祐一」

祐一 「・・・・・・いや」

舞 「?」

祐一 「俺よりも今、エリスに近いのはたぶん・・・」

さやかだ。

斬鬼や絶鬼との戦いの最中、さやかの力を二度感じた。
だが、そのうちの一度目・・・あの力には、思わず恐怖すら覚えた。
大きい、というわけでなく、異質だった。
知っているようでいて、俺が今まで感じたどんな力とも違う、そんな力。

エリスに次いで、さやかの成長速度は桁外れだ。

祐一 「エリス、さやかと続いて、その次に俺と郁未はたぶん互角くらいだろう」

舞 「・・・そして、私が一番下・・・」

祐一 「そうでもない」

舞 「?」

祐一 「今言ったのは、総合力で見た結果だ。逆に剣の勝負になれば、誰もおまえには敵わない」

俺が知る中で、もっとも剣に長けた四人。
それが、豹雨、楓さん、神月京四郎、そして舞だ。
剣の腕では、俺とてこの四人には到底及ばない。

祐一 「得意分野の違いだ。さっき、今のさやかの方が俺より強いと言ったが、だからと言ってあいつと戦って必ず負けるとは思ってない」

舞 「・・・・・・」

祐一 「まぁしかし、おまえもそうだが郁未の強さにも驚かされるな」

舞 「・・・郁未は、昔から強い」

祐一 「そうか」

舞 「・・・青龍との契約でも、郁未は何も特別な力は得なかった。郁未の強さは、もう完成されたものだから」

祐一 「ああ、そうだな」

地脈の力を無尽蔵に操れる郁未を相手にするというのは、この大地そのものを相手にするようなものだ。
郁未自身の体と精神が持つ限り、あいつの力を無限なのだ。
青龍との契約で、その許容量がさらに上がった、といったところか。

舞は白虎との契約で、あの刀を手に入れた。

そして俺は・・・・・・俺は玄武と契約しても、特に何も変わっていない。
それは郁未と同様、俺の強さも既に完成されたものだからだ。
全体的にレベルアップしただけで、何も変わらない。
この上俺が強くなるには、やはりまだ眠っている真魔の血を目覚めさせるしかないわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

エリス 「何よ?」

特に意図したわけでもなく一緒に歩き回っていたエリスに、郁未が尋ねる。
質問したい内容に検討はついていたが、それでもエリスは聞き返す。

郁未 「連中とあんた達が戦ってる頃、随分異質な力の流れを感じたんだけど。あれは・・・何?」

エリス 「・・・アタシにもわからないわ」

力の正体は、さやかが放ったものである。
だが、それが何であるかと問われても、エリスは知らなかった。

エリス 「仮説でいいなら・・・」

郁未 「それでもいいわ」

エリス 「・・・灼熱の魔女と異名を持ち、四神では朱雀と契約を結んだ。このことから、アタシ達はさやかの特性は“火”であるとずっと思っていた」

郁未 「・・・・・・」

エリス 「もしかしたら、その認識が間違っているのかもしれない」

郁未 「つまり、さやかの力の本質は、もっと違うものであるということ?」

そう、とエリスは短く答える。
力の本質が違う・・・それは常に真の力を隠しているエリスや楓、アルドともまた違った意味合いがある。
エリスらのように、本来の力を隠し、その片鱗のみを見せている場合は、力の質そのものは変わらない。
しかしさやかの場合は、本来の力の上から、まったく別の炎の力を重ねているような感じがした。
それだけならばまだよいが、さやかの場合は本来の力の正体そのものが謎であった。

エリス 「確かなのは、その力の異質さに、アタシは本能的に恐怖すら感じたということよ」

郁未 「同感だわ」

正体の知れない力。
或いは、ヴィオラだけはそれを知っているのかもしれない。
ヴィオラがさやかに話があると言ったのは、そのことか・・・。

エリス 「・・・でも、何かひっかかるのよね・・・」

郁未 「それも、同感」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「おー、絶景かな絶景かな〜」

大樹の頂上からの眺めに、さやかは心躍らせている。
対照的に、その背後に立つヴィオラの表情は深刻さを醸し出していた。

ヴィオラ 「さやかさん」

さやか 「うん♪ 話って何〜?」

真剣そのもののヴィオラに対し、さやかはあくまで能天気に振舞う。
不自然なほどに・・・。

さやか 「♪〜」

ヴィオラ 「単刀直入に言います」

さやか 「うん♪」

ヴィオラ 「あなたは、もう戦うべきではない」

その言葉を予想していたかのように、さやかの表情に変化はない。
ただ、くるりと回ってヴィオラに背を向けて問い返す。

さやか 「それは、この先私じゃ力不足ってこと?」

ヴィオラ 「いいえ。祐一様やエリスさんがそうであるように、この先どれほどの強敵が現れようと、あなたにそれに匹敵するだけの力を解放していくことでしょう」

さやか 「じゃ、どうして?」

ヴィオラ 「あなた自身、もう気付いているはずでしょう」

淡々とした口調で話すヴィオラ。
その口が告げるのは、真実以外にないとすぐにわかる声だった。
ゆえにさやかもその言葉を、ありのままに受け止める。

さやか 「どうかな?」

ヴィオラ 「あなたは強い。けれど、あなたは人の身を超えることはできない」

さやか 「・・・・・・」

ヴィオラ 「普通の人間に持てる力は限られている。あなたの肉体は、その限界を超えられない」

今のさやかが持つ魔力は、人の身には過ぎたものであった。
本人も、既にそのことには気付いている。
現に、六天鬼戦においてさやかは、自身の体に違和感を覚えていた。
肉体の限界を超えた魔力を発していることによる軋みだ。

ヴィオラ 「祐一様やエリスさん、それにアルド・レイ・カークスという方は、魔の血を持つ存在。ゆえにその限界は、人を遥かに上回る。楓様は、数百年に一度、その身に神を宿す巫女として生まれたお方。天沢郁未さん、川澄舞さんもまた、人の身を超えた力を持って生まれています」

さやか 「・・・・・・」

ヴィオラ 「あなたに一番近いのは、豹雨という方でしょう。彼は何も特別な力を持たない、普通の人間です。けれど彼には、限界を超えることのできる強靭な肉体があった」

彼らには人としての限界は存在しない。
しかし、さやかにはそれがある。

ヴィオラ 「本来、人間の体は、その限界を超えすぎてしまわないよう、制御をかける機能が備わっています。限界を超える力を発揮したとしても、それは一瞬のことで、すぐに元の状態に戻ります。けれど今のあなたは・・・」

そのリミッターが、なかった。
いや、ないのではなく、本来あったはずのものが壊れてしまっていた。

ヴィオラ 「原因は、おそらく・・・」

さやか 「アルド君との戦い、だね」

四神の朱雀と契約したことで、さやかは眠っていた力を全て覚醒させた。
本来ならば、そこでさやかの成長は止まっているべきだったのだ。
ところが、アルドとの戦いでさやかは瀕死の重傷を負った。
それが原因で、機能すべきだったリミッターは破壊された。

魔獣パンデモニウムの撃破、魔神達との接触、六天鬼との戦い・・・。

ヴィオラ 「それに・・・その剣を手にしてしまったことも」

さやか 「この剣、グラムにも何か秘密があるの?」

ヴィオラ 「・・・いいえ、それはいいでしょう」

珍しく、ヴィオラが言葉を濁す。
それはそれで気になったが、今問い詰めることはしない。

さやか 「それで、このまま戦い続けると、私はどうなるの?」

ヴィオラ 「死にます、確実に」

さやか 「ストレートだね」

ヴィオラ 「事実ですから。戦い続ける限り、あなたの魔力を限界を超えて高まり続けるでしょう。それは既に暴走に近い。果てしない魔力の暴走に耐え切れず、あなたの肉体は消滅します」

さやか 「ここが私の限界、か」

自分でもわかっていたことだった。
だから別段驚くことも、悲観することもなく、ただ色のない表情で、さやかは空を見上げた。
空はどこまでも高い。
けれど、ここより高い場所へ行く翼を、さやかは持っていなかった。

さやか 「ねぇ、そうやって忠告してくれるのは、私のため?」

ヴィオラ 「いいえ。あなたが死ねば、あの方が悲しむから・・・」

さやか 「うん♪ いい答え、気に入ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「と、いうわけで。私はここに残るよ」

翌朝、出発する寸前になっていきなりさやかはそんなことを言い出しやがった。
しかも、というわけ、とか言っておきながら前置きは一切なかった。

祐一 「さっぱりわからんぞ?」

さやか 「だから、私は魔族討伐には行かないんだよ」

冗談のような調子で、しかしこいつは本気だった。

さやか 「だってさ、敵さんもいい加減強すぎるし、私の出る幕じゃないよ、もう」

祐一 「それは・・・」

確かに、敵は強い。
だが、俺達の実力を比べてみたら、そんなに大差はないはずだ。
そもそもどうして今突然そんな話になるのか?

郁未 「言いたいことはわかるけど、一応この先、四神の力が必要になるわ。あなたがいないと・・・」

さやか 「うん、そのこともあるから、ちょっとエリスちゃんと二人で話させてね」

 

 

 

 

 

 

エリスの手を引いて、さやかは他の三人のもとから離れる。
黙ってついていくエリスの表情にも、若干の困惑があった。

エリス 「あんた、ほんとにどういうつもりよ?」

さやか 「どうということもないよ。それより、エリスちゃんには私の代わりに朱雀の力を使ってもらいたいの」

エリス 「・・・・・・は?」

さやか 「つまり、神子さん交代!」

ビシッ、とさやかはエリスの鼻先に指をつきつける。

エリス 「また何を言い出すかと思えば・・・」

さやか 「問題ないよ。エリスちゃん、火と相性はいいでしょ」

エリス 「それは・・・」

さやか 「それに、媒介にするのはエリスちゃん自身じゃなくて、エリスちゃんの剣の方」

エリス 「レヴァンテイン?」

サッとエリスが手を振ると、そこには赤い刀身の剣が握られていた。

さやか 「エリスちゃん自身気付いてないかもしれないけど、その剣の真の特性は“火”よ。それを媒介にすれば、朱雀の力を私からエリスちゃんに移せる」

エリス 「・・・本気なの?」

さやか 「本気も本気、大マジだよ」

ますます相手の意図がわからず、エリスは戸惑う。
わかりやすいようなわかりにくいような、そういうさやかは存在であったが、いつにも増して今は理解不能だった。
しかも、見上げたさやかはいつもの笑顔のようでいて、とても真剣な目をしていた。

エリス 「さや・・・」

さやか 「エリスちゃん。祐一君は、これからもずっと戦い続ける。彼はそういう人よ。そんな彼にずっとついて行くことは、私には出来ないの。それが出来るのは、あなただけなの。だから・・・」

ごつんっ

エリス 「った・・・」

ぐいっと顔を近づけたさやかが、そのまま頭突きをするように額を当てる。

さやか 「もっと素直になりなさい」

エリス 「・・・・・・」

さやか 「半年くらい借りてたけど、祐一君、返してあげるから。ちゃぁ〜んと捕まえとくんだよ〜」

ぎゅ〜っと、さやかは小柄なエリスの体を包み込むように抱きしめる。
それと同時に、神の炎の力が、さやかの体から剣へと流れていく。
それを、エリスは何も言えずに、ただ燃えるように熱い力の流れと、親友の身の温もりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

四人は大樹のもとを発った。
見送るさやかは、微塵も不安を抱いていない。

祐一、エリス、郁未、舞。

あの四人は無敵で最強だ。

この戦いに、必ず勝利するだろう。

さやか 「さ・て・と」

背後の気配に向かって振り返る。
そこにいる者に対して、さやかは不敵に微笑みかけた。

さやか 「今度は、ちゃんと本人みたいね」

 

 

 

 

最後の戦いを前に、運命は分岐する・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく