デモンバスターズFINAL
第16話 六天鬼落つ
突然の予期せぬ乱入者。
落ち着いているのは当の乱入者二人だけだ。郁未・舞 「「・・・誰?」」
二人は同時に俺達を囲んでいる覇鬼と斬鬼を交互に見やって聞いてくる。
俺はこれまでの成り行きを手短に説明してやった。郁未 「なるほどね。相変わらずみたいね」
舞 「・・・豹雨と互角に戦った奴は、祐一が倒したの?」
祐一 「ああ、絶鬼なら倒したぞ」
相変わらずというならお互い様で、舞は豹雨の名前にすぐ反応する。
あの男に対する舞の執着は、たぶん俺以上だろう。
同門というのが理由なのか、それとももっと他にあるのか・・・。斬鬼 「おいおい、さっきも言っただろうがよぉ。絶鬼が最強だったのは昔の話で、今は俺様の方が強ぇんだよ」
舞 「・・・・・・」
じーっと舞が斬鬼を見る。
俺との戦いで、斬鬼は十三のうち七つの刃を失っていて、残りは六つ。
それでも充分面倒な相手に変わりはない。舞 「・・・本当に?」
斬鬼 「当然だろぉ」
舞 「なら」
舞が刀を抜く。
カノンで会った頃から持っていた、白い刀。祐一 「前から気になってたんだが、その刀はどっから出てくるんだ?」
舞 「・・・・・・さあ?」
祐一 「さあ、っておい・・・」
さやか 「たぶんあれは、私のゴッドフェニックスと似たようなものだと思うよ」
つまり、四神の力を借りて生み出した刀、ってことか。
系統としては俺の氷魔剣に近いが、向こうの方がより洗練されていて、強い。エリス 「祐一の方が、水と氷を使って様々なことが出来るのに対して、舞の場合は剣という存在に特化してるのね。だからより完成されたものが生み出せる」
郁未 「そういうこと。舞はさやかみたいに四神そのものを召喚することはできないけど、その一部はできた。あれは、白虎の牙から打ち出した剣、白牙刀」
とまぁ、エリスと郁未が小難しい話をしているが、たぶん舞本人はそんなことまったく意識してないだろう。
剣を扱うこと以外には、ほとんど頭を使ってなさそうだからな・・・。
しかし、だからこそ剣においては、この上なく強い。
剣の腕だけならば、俺や豹雨をも凌ぐ。斬鬼 「ハッ! おもしろれぇ、俺様は剣士に対しては滅法強いぜぇ!」
互いに戦う気満々か。
しかし、斬鬼がそれなりに強いのは確かだし、大丈夫か?郁未 「さて・・・舞があっちの相手をするなら、私はこっちか」
覇鬼 「ふん、どこの誰とも知れぬ小娘どもが、死なぬ内に消えた方が身のためだぞ」
郁未 「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
こっちも勝手に話を進めてやがる。
俺達の立場はどうなるんだ?覇鬼 「よかろう。しばし時間を預かるぞ相沢祐一。身の程知らずの小娘を先に始末してくれる」
・・・忘れられてはいないらしい。
斬鬼の方には既に忘れているように見えるが。祐一 「大丈夫か?」
エリス 「大丈夫でしょ。舞の方はわからないけど、少なくとも郁未はね」
祐一 「ん?」
エリス 「郁未は強いわ。シヴァの時は相手が強すぎてよくわからなかったけど、それ以外でアタシ達は、郁未の本気を見たことがない」
さやか 「確かにね。いつもぎりぎりの一歩手前くらいで引いてるからね」
エリス 「そう。あいつは相手の力量を読む洞察力に特に優れてる。勝てない相手との戦いを、回避できる状況ならわざわざやろうとはしないわ」
今の状況は、別に郁未が戦う必要性はない。
俺でもエリスでもいい。
それでもあえて郁未が戦うというのは、絶対に勝てるという自信があるから、ということか。郁未 「舞」
舞 「ん」
郁未 「遊びに来たんじゃないんだから。五分で終わらせるわよ」
舞 「はちみつくまさん」
覇鬼という男は、間違いなく絶鬼に匹敵する実力を持った、六天鬼のナンバー2だった。
その強さに間違いはない。
しかし、それほどの実力者の攻撃は、郁未に掠りもしなかった。覇鬼 「ぬぅ!」
ビュッ
風を切る音がする。
常人の目では決して捉えられないほど速い、棍による突きだったが、郁未は僅かに体をひねっただけでそれを回避する。
突くと見せては引き、引くと見せては払う、その達人の攻撃を、尽く郁未は読んでいた。覇鬼 「貴様・・・」
郁未 「なるほどね。言うだけあって大した腕だわ。反撃する余裕がない」
余裕がない、と言ってはいるが、郁未の表情は涼しげだ。
覇鬼 「貴様、いったい何者だ?」
郁未 「天沢郁未。ただの運び屋よ」
覇鬼 「馬鹿な。一介の運び屋風情がこれほど強いものか」
郁未 「強いってほどじゃないわ。私とあなたなら、たぶん互角くらいでしょう」
もっとも、と言って郁未はさらに付け加える。
郁未 「互角くらいの実力の奴を相手に、私は負けたことはないけれどね」
覇鬼 「ほざけ!」
再び覇鬼が攻め込む。
さらに速さを増した攻撃にも、郁未はまるで動じない。
その全てを見切り、かわしていく。覇鬼 「いつまでも避け続けられると思うなよっ!」
シュッ
その言葉の通り、棍の先が郁未の腕を掠める。
動きを読むだけではかわしきれないほど速さは増していた。郁未 「それもそうね」
相手のスピードを上回るのは無理と判断した郁未は、一瞬で気を練り上げ、それを振り上げた。
ガキィンッ
覇鬼 「むぅ・・・!」
さらに、郁未が手にした気の刃が振り下ろされる。
郁未 「龍気刀!!」
ズンッッッ!!
大青龍刀の様な気の塊が大地に叩きつけられる。
間一髪で避けたその一撃の威力を前に、覇鬼は警戒心を強める。郁未 「もうそろそろ五分経つわ。終わらせましょう」
さらに巨大な気を手にした大刀に込めて、郁未は覇鬼に向かって踏み込んだ。
ギギィンッ!!
右から来る剣を受けた瞬間、別の三方から別の斬撃が同時に襲ってくる。
かつてない攻撃に対し、舞は防戦を強いられていた。斬鬼 「どうしたどうしたぁ!」
獲物を追い詰めて行く感覚に愉悦を覚える斬鬼は、攻め立てながら笑みを浮かべている。
七つの刃は全てが意志を持っているかのごとく、的確に舞を切り刻もうと繰り出される。
その全てが鋭く、速い。
しかし・・・。舞 「・・・大したことない」
斬鬼 「あぁん?」
舞 「・・・あの男の剣に比べたら、速さも鋭さも全然ない」
斬鬼 「ほぉ〜、そんな野郎がいるのか。んじゃ、おまえを切り刻んだあとで、そいつも俺が殺ってやるよぉ」
舞 「無理」
斬鬼 「なに?」
舞 「・・・おまえじゃ、あいつの足元にも及ばない」
斬鬼 「そうかい。じゃあ、おまえは、絶対その野郎には及ばねぇな。何故なら、ここで俺様に殺られるからだ」
舞 「・・・私は、負けない」
ビッ
斬鬼 「ぬ?」
斬鬼の頬に、赤い線が走る。
一瞬の攻防の間に、舞は斬鬼の攻撃を全て受け、尚且つ反撃をしていたのだ。斬鬼 「・・・ハッ! おもしれぇ、なら・・・」
狂気と殺気を秘めた斬鬼の目が、さらに妖しい光を放つ。
それと同時に、禍々しい魔力も膨らんでいく。斬鬼 「こぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・!!!!」
まともな思考の持ち主なら、我が目を疑う光景だった。
斬鬼の腕や足、さらには肩、胸、腰・・・あらゆる場所から剣がはえてくる。
まるでハリネズミかウニのような異様な姿だった。斬鬼 「これが俺様が得た新しい力よぉ! 喰らえぇぇぇ、百剣無慚!!」
ドドドドドドッ!!!
舞は反撃など一切考えず、ただ全力で後退した。
今の斬鬼に触れれば、一瞬でバラバラに切り刻まれる。
どんどん後退させられるが、斬鬼はどこまでも舞を追ってくる。舞 「っ!!」
斬鬼 「ハハハハハッ、手も足も出ねぇか!!」
舞 「・・・・・・」
逃げ回りながら舞は考える。
この攻撃に、正面から対抗する手段はない。
次元を操れば不可能ではなかろうが、舞は剣士としての戦いを貫くことにしている。
残る手段は・・・。舞 「(ただのいづなじゃ、だめ)」
二段構えの技で裏をかいた程度でも破れない。
ならば、手は一つだった。舞 「・・・・・・」
逃げるのをやめ、舞は無形の位で佇む。
斬鬼 「ハッ、諦めたか!」
そこへ迫り来る何十もの刃。
その全てを、舞はかわした。斬鬼 「!?」
先ほどまでのように大きく後退してかわすのではなく、その場にいたままで、まるで剣の間をすり抜けるように・・・。
斬鬼 「てめぇっ!!」
尚も斬撃を繰り出す斬鬼だったが、もはや一太刀たりとも、舞には当たらない。
舞 「・・・見えた」
無数の剣の間にある、針の先ほどの隙間。
そこへ、舞は飛び込んで行く。
ブワッ
郁未 「!」
貫いたと思った覇鬼の体には、その感触がなかった。
それどころか、覇鬼の体が四方に広がっている。覇鬼 「これが我が新たな力よ! 一切の打撃、斬撃は私には効かぬ。さらに! このまま取り込んでくれるわっ!」
まるでスライムのような肉体。
それをただの最弱モンスターの名を侮るなかれ、スライムと呼ばれる魔物は非常に厄介な存在だった。
覇鬼の言うとおり、打撃、斬撃では致命傷を与えることはできず、取り込まれれば危うい事態となる。
だが・・・。郁未 「無駄ね」
多少驚きはしたが、それでも郁未の表情から余裕が消えることはなかった。
郁未 「もう五分になるって言ったでしょ」
今日の天気を述べるような落ち着いた口調で郁未が言う。
同時に、膨大な気が弾けた。
郁未 「龍神轟爆波!」
舞 「総天夢幻流奥義・あまてらす!」
宣言からほぼ五分。
二つの奥義がほぼ同時に決まった。郁未の身を取り込もうとした覇鬼の体は跡形も無く吹き飛ばされた。
一瞬の内に高まった郁未の気には、思わず戦慄を覚えさせられる。舞の体が一瞬消えたように見えたかと思うと、その身は無数の剣の間をすり抜け、渾身の斬撃が斬鬼を両断していた。
その動きは、まるで見えなかった。魔物と化した覇鬼の体を一瞬で吹き飛ばす莫大な気を操る郁未と、まったく見切れない剣技を見せた舞。
ここまで強かったのか・・・この二人。祐一 「・・・・・・」
エリス 「やるわね、なかなか」
まったくだ。
味方にしておけば頼もしいが、敵にまわすと恐ろしいかもしれないな、ノワール・ムーン。
ボゥッ
石造りの暗い広間に六つ並んだロウソクの最後の二本から火が消える。
それを当たり前のように眺めている一人の男がいた。死と再生を司る魔神、オシリスである。
傍らにいる少女は、その妹イシスだった。オシリス 「破れたか、六天鬼」
イシス 「当然です。あのお方があんな人間の亡霊相手に負けるはずないではありませんか、兄上」
当然の事実だ、などと言っていながら、イシスは嬉しそうだった。
イシス 「それに・・・」
それから、彼のことを思う時とは別の、やはり懐かしげな顔をしてイシスは続ける。
イシス 「エリスも、強くなったんですね」
オシリス 「そうだな」
兄であるオシリスの方は、どちらに対しても特に感情を見せない。
だが、それはこの男にしてみればいつものことだった。
そんな兄の抑揚のない声を聞きながらイシスは、かつて彼が、ああ見えてオシリスは激情家なのだと言ったのを思い出す。オシリス 「さて・・・」
イシス 「? 兄上、また死者召喚を行うのですか?」
少し心配そうにイシスが兄のことを見る。
魔神の身をもってしても、満月の魔力を借りるほどの大秘術である。
そうそう何度も行うのは体によくなかった。オシリス 「間もなく奴らはここへ来る。あの男だけならば必要ないが、奴の仲間をもてなす者が必要だろう」
イシス 「そうですけど・・・」
オシリス 「私自身はどうせ戦わぬ。おまえもわざわざ戦う必要などない」
イシス 「・・・・・・」
少し考えてから、イシスは再び口を開く。
どこか、翳りを帯びた声で。イシス 「・・・兄上。エリスが、あのお方の妃の一番の候補だって、本当ですか?」
オシリス 「ルシファーとベルゼブルはそう言っている。もう一人人間の娘がいたが、そちらはベルゼブル本人が執心のようだ」
イシス 「そう・・・ですか」
オシリス 「・・・・・・」
イシス 「兄上。私、門番をやります。シヴァ様がいなくて、ひとつ空きがありますし」
オシリス 「フェンリル殿がやると言っていたが?」
イシス 「構いません」
オシリス 「そうか」
妹が何かの決意をするのも、オシリスはただ淡々と受け止めていた。
広間から出て行く際に僅かに意識を向けただけで、次の儀式に取り掛かる。オシリス 「厄介なのはあの巫女か。それに・・・あやつも呼ばねばなるまい。少し骨が折れそうなことだ」
つづく