デモンバスターズFINAL

 

 

第15話 勝利すべき者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィィィンッ

赤い光芒が一閃し、全ての武器が弾き落とされる。
その予測に反した結果に、鉄鬼の目が僅かに見開かれる。
放たれた必殺の攻撃は、少女が手にした一振りの片刃剣によって全て薙ぎ払われた。

エリス 「ネタは、これで終い?」

小さな体からほとばしる殺気と闘気。
桁違いなその力でさえ、まだ彼女の片鱗でしかないことを、幾多の修羅場を潜り抜けてきた男は直感していた。

鉄鬼 「・・・・・・」

勝てない。
以前一度見えた時にも底知れないものを感じたが、今はそれすらも遥かに凌駕する威圧感がある。
目の前にいるのは、少女の姿をした規格外の化け物だった。

鉄鬼 「・・・時は、常に動き続ける、か・・・」

自分達六天鬼が最強であった時代は、とうの昔に終わっていた。
今、この時において最強と呼ばれる者を相手に、勝てる道理はない。
勝利すべき者など、最初から決まっていたのだ。

鉄鬼 「(絶鬼ならば、それでも勝つかもしれぬが・・・)」

己の限界は、ここであった。

鉄鬼 「だが! 無様な最期だけは迎えはせぬ!!」

両手の鎖を引き寄せる。
ある時は鎧ともなっていた幾多の武器、中でも最も得意とする両の盾、それを手に取る。

鉄鬼 「参る!!」

渾身の力を込めて、鉄鬼は最後の突撃を敢行する。

その決死の覚悟は、エリスも感じ取っていた。

エリス 「(最後の一撃か、なら)」

生半可なことではかえせない。
自分も最高の一撃をもって応えるのみ。

エリス 「来い! 鉄鬼!!」

レヴァンテインを両手に持って振りかぶる。
互いに狙うは、ただ一撃のみ。
技量などいらぬ、ただ全てを、その一撃に込めて・・・。

 

ドシュッッッ!!!

 

砕ける盾・・・。

崩れ落ちる身。

赤い剣の一振りの前に、亡霊となって蘇った一人の修羅が潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一対一で行われる全ての戦いにおいて、間合いというものが持つ重要性は変わらない。
あらゆる戦法、武器において得意な間合いというものが存在し、それを制したものがその戦いを制するといっても過言ではない。
剣士同士の戦いのみならず、当然それは魔法と魔法、また魔法と剣の戦いにおいても適用される。

ドォンッ!

覇鬼 「ちぃっ!」

さやか 「っと」

魔術師であるさやかと、棍を操る覇鬼の戦いにおいても、それは同じである。
接近戦は魔術師にとって致命的となる。
ゆえにさやかは、常に相手との間合いを離して戦う必要があり、覇鬼はいかにして近付くかが課題となる。

覇鬼 「なるほど、魔術師としては一流のようだ」

既に何度も覇鬼はさやかに接近しようと試みていたが、その度に阻まれていた。
原因は、さやかの攻撃の速さだった。

覇鬼 「ビット魔法といったか」

さやか 「よく知ってるね」

今、さやかの周囲には数百近いフレアビットが浮かんでいる。
手数を増やすため、さやかはあえてゴッドフェニックスを使わずにいた。
大技よりも、小技と手数で攻めた方が今は有利だったからである。
もっとも、それもいつまでも続くものではない。

覇鬼 「そんな小技では時間稼ぎ程度にしかならんぞ。鉄鬼と戦っている小娘の救援などはないぞ」

さやか 「エリスちゃんならすぐに勝つよ。でも私は、それを待つつもりはない」

覇鬼 「ほう」

さやか 「だって、もう終わるから」

いつになく、さやかは強気だった。
だが実際、目の前の敵に、さやかはまるで脅威を感じない。
それだけの力を、今のさやかは持っていた。

覇鬼 「そうだな。終わる。貴様の死によって」

ザッと、覇鬼は大きく飛び下がって距離を取る。
低く構えたその姿勢は、少々の攻撃などものともせずに一瞬で突っ込むためのものだ。
直線的な攻撃はカウンターを受けやすいが、そんなものを意に介さない突進力を覇鬼は持っていた。

覇鬼 「これで終わりだ!」

ヒュッ

一瞬にして、覇鬼は突風となる。
かわすことも防ぐこともできない突撃。
それに対してさやかは、ただ剣を上段に振りかぶった。

エリスのレヴァンテインの如き赤い剣は、フレアビットを取り込んで赤さを増していく。
炎が立ち昇り、それが翼を形取る。

神剣グラムは、瞬く間に火の鳥へとその姿を変貌させた。

さやか 「ゴッド・・・・・・」

その炎の剣を、さやかは真っ直ぐに振り下ろす。

さやか 「――フェニックス!!!」

火の鳥が舞う。

ゴォォォォォォォォォッ!!!!

巨大な炎を、かわすことも出来ず、覇鬼は呑み込まれる。

覇鬼 「ま、まさか・・・・・・!!」

敗北の理由を思い悩む暇すらなく、覇鬼は炎の中に消えていった。

さやか 「残念。怨鬼君の前に君と戦っていたら、私の負けだったろうね。今はもう、この剣の使い方を覚えたから」

本質は違う。
けれどこの剣を使えば、魔力とその収束率を飛躍的に高めることができる。
相手が一気につめてきた時にカウンターで大技を出せば、決着はすぐにつく。

さやか 「・・・っと・・・」

グラッとさやかの体が揺れる。
倒れそうになる体をぎりぎりでバランスを取って支える。

さやか 「・・・ちょっと魔力の使いすぎかな」

自分の体に、さやかは微妙な違和感を感じた。
だが、気にするほどのことでもなかったので、そのまま黙殺する。

さやか 「休めば治るね」

それよりも、他はどうなったか。
といっても、さやかは祐一やエリスの勝利を疑ってはいない。
この程度の敵を相手に、二人が負けることなどありえないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィンッ!!!

俺と絶鬼の打ち合いは、尚も続いていた。
一振りごとに激しさを増していく奴の攻撃を、俺はずっと凌ぎ続けている。
さすがにここまでくると、絶鬼に苛立ちが見え始める。

絶鬼 「おらおらおらぁっ!!」

ブゥンッ ガキィンッ!

打ち合いが終わらないのも無理はない。
奴のスピードとパワーが上がっていくのに比例して、俺のスピードとパワーも上がっているのだから。

・・・少し悔しいが、オシリスの読みは当たりだ。

この男、絶鬼は強い。
そして、こいつと戦うことで俺はどんどん昔の感覚を取り戻していっている。
剛鬼や斬鬼など前座のおまけみたいなもんだ。
あいつは、この男を俺にぶつけるためだけに、月が満ちるその時だけに使える死者召喚の秘術を使ったんだ。

ガキッ ギィンッ ギギィンッッッ!!!

今の俺は、考えるより先に体が動いている。
一千年近くも前、魔界において闘神と呼ばれた者の血と記憶が、俺に確かな力を与えていく。
その力の波は留まるところを知らず、吹き出る闘気は既に絶鬼を上回った。

絶鬼 「この・・・っ!」

ガギィンッ!!

それを奴も感じているからこそ焦る。
わかっているはずだ、こいつも。
自分が噛ませ犬に過ぎないことを。
だがそれでも、こいつは勝つことを選んだ。
最後まで一歩も退きはしないだろう。

絶鬼 「相沢・・・祐一ィッ!!」

祐一 「絶鬼ッ!!」

絶鬼 「そう、俺は絶鬼! この地上で最強の修羅だ!! 勝利すべき者は、この俺だ!!!」

ドゴォッッッ!!!

祐一 「ぐっ・・・!」

ガードの上からの一撃で大きく後退させられる。
ここまで防ぎきっていたというのに、尚それを上回る一撃を繰り出したのか。
しかし、追い討ちに来ないのは・・・。

祐一 「っ!!」

絶鬼 「うぉおおおおおおおおお!!!」

奴は頭上で大矛を激しく旋回させている。
あれは、豹雨との戦いで見せたあいつの最大奥義。
ベリアルの乱入であの時は不発に終わったが・・・。

絶鬼 「今度こそ最後だぜ、祐一。この一撃の前には、如何なる者も生き延びることなどできねぇよ」

祐一 「どうかな」

あれは防御なんてできるもんじゃないだろう。
だとしたら、こっちも最大の一撃を放つしかない。

すぅっと剣先を上げ、顔の横で水平にする。
切っ先は奴に向けたままで構え、右半身を大きく引く。
このまま突きを放てば、氷魔滅砕・・・・・・だが・・・。
さらにそこから、剣を振りかぶる。

互いに必殺の構え。

勝負は、次で決まる。

勝者には栄光を、敗者に死を・・・。

絶鬼 「行くぞっ!!!」

祐一 「来いっ!」

闘気と魔力が最大限に高まる。
臨界点を突破した瞬間、それは一気に弾ける。

絶鬼 「鬼神―――絶・天・波ッッッ!!!!!」

ズバァァァァァァァッッッ!!!!!

遠心力を目一杯加え、闘気を極限まで乗せた渾身の振り下ろし。
衝撃波が周囲の全てを削りながら向かってくる。
そこへ、俺も渾身の一撃を叩き込む!

祐一 「氷魔―――撃滅斬ッ!!」

ゴォォォォォォォォォッッッ!!!!!

絶対零度の魔力をまとった斬撃。

白き一閃が、鬼神絶天波の闘気を真っ二つに切り裂く。

そのまま、絶天戟を振りぬいた絶鬼の身をも両断した。

 

 

 

 

必殺の一撃の前に、再生能力など無意味。

蘇って再び死ぬその瞬間、奴が何を思ったかは知らないが・・・。

どちらにしても、この戦いを通じて俺は、絶鬼を上回る強さを身につけた。

祐一 「ふぅ・・・」

どれほど激しい戦いだったか、終わってみて周りに目を向けるとよくわかる。
大樹ヴィオラの根で覆われた大地に、傷のない所はなかった。

エリス 「どうやら、こっちも終わったみたいね」

さやか 「だね」

振り返ると、エリスとさやかがいた。
二人ともひどい身形だが、傷を負ってはいないようだ。

祐一 「そっちも勝ったか」

エリス 「当然でしょ。このアタシが負けるもんですか」

さやか 「私は結構際どかったよ。ハードワークは好きじゃないのにね」

祐一 「ふっ」

いつもの調子だな、二人とも。
ここへ来てから少し元気がないようでもあったが、エリスの余裕面にさやかのおどけた調子、どっちも元通りだ。

エリス 「あんたの新しい剣もできたみたいね。どう?」

祐一 「どうってもな・・・」

ここまで使った感じは、ただ頑丈な剣、だ。
今の俺のフルパワーを受けてもびくともしない強度はありがたいが、それ以上の何かがあるわけでもない。
こいつの真の力は、まだ眠ってるってわけか・・・。

祐一 「その辺は改めて村正に聞くとするか。とりあえず、ひと落ち着き・・・」

 

?? 「・・・くっくっく」

 

祐一 「?」

声?
と、殺気。

祐一 「おまえ・・・」

ズバッ!

幾筋もの閃光が根の地面を切り裂く。
そこから現れたのは・・・。

祐一 「斬鬼・・・」

斬鬼 「まさか絶鬼を倒すとはなぁ・・・いいぜぇ。そのおまえを倒せば、俺様が最強ってわけだ」

 

?? 「このままで引き下がれんよ。我々のプライドにかけてもな」

 

さやか 「うわ、生きてたんだ」

反対側からもう一人。
全身に火傷を負っているところを見ると、さやかにやられた奴か。

エリス 「覇鬼・・・。さやか、あんたしとめ損ねたわね」

さやか 「みたい」

斬鬼に、覇鬼か。
六天鬼最後の二人ってわけだが、どっちも絶鬼には及ばない。

祐一 「まだやる気か? もうおまえらじゃ俺達には勝てないぞ」

覇鬼 「・・・・・・ふっ、我らが絶鬼より弱いとでも思っているのか?」

斬鬼 「くっくっく」

ん?
何だ、こいつらの余裕は。
まだ何か隠し玉があるってことか・・・。

覇鬼 「奴が六天鬼の長であったのは生前の話に過ぎん」

斬鬼 「他の四人は頑固だからなぁ。復活しても昔の力だけで戦ってやがった。だが・・・」

エリス 「なるほどね、あんた達は魔族どもに魂を売って、新しい力を得てるってわけ。プライドが聞いて飽きられるわね」

そういうことか。
生前から相当な実力者だったのに加えて、魔族の力を得ている。
そして、さっきまでもこいつらは絶鬼達と同じように、生前の力だけで戦っていた。

オシリスの野郎・・・障害物は二重三重に、ってか。

祐一 「そういうことなら、最後まで相手になって・・・」

 

ブロロロロロロロロ・・・・・・

 

祐一 「?」

今度は何だ?
次から次へと・・・。

エリス 「この音は・・・」

さやか 「確か・・・・・・」

何かが、物凄いスピードで近付いてきている。
砂埃を巻き上げながら猛スピードで接近するそれは・・・。

ヴォーンッ!!!

ズシャァー、と横滑りしながら、それは俺達のすぐ近くで停止した。
それはこの世界では珍しいものであるが、俺達のよく知っているものでもあった。

魔道自走車の左側の扉が開き、ふらふらと出てくるのが一人。

舞 「・・・うぅ、日に日にひどくなっていく、これ・・・」

祐一 「舞・・・」

そして、右側の扉からもう一人が出てくる。

郁未 「探したわよ、あんた達」

祐一 「郁未」

この世界で唯一、魔道自走車を扱う運び屋コンビ、ノワール・ムーンの郁未と舞。
カノンで別れて以来の再会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく