デモンバスターズFINAL

 

 

第14話 力と力のぶつかり合い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィンッ・・・・・・ザシュッ!!

血飛沫が上がる。

俺から・・・ではなく、スローモーションのようにゆっくりと倒れていく斬鬼から。

斬鬼 「・・・がはっ」

一瞬の交叉・・・。
その直前まで、奴は間違いなく俺よりも強かった。
だが、その差は一瞬の間に埋まっていた。

死を間近に感じ、生を知った時、俺は一つの限界を超える。

祐一 「俺の勝ちだ、斬鬼」

全ての込めた一太刀に耐え切れず、氷魔剣は砕け散る。
それだけの一撃は、斬鬼を一刀のもとに斬り捨てた。
倒れ付した刃の修羅は、起き上がっては来ない。

祐一 「次は、おまえの番だぜ」

まったく手を出さずに静観していた絶鬼へと向き直る。
仲間がやられても、まるで動じていない。
こいつらにとっては、勝者こそが全てなんだろう。
たとえ仲間だった者でも、敗者に用はない、と。

絶鬼 「へっ、正直驚いたぜ。やる奴だとは思っていたが、まさか斬鬼を倒すとはな」

身の丈を上回る大矛を肩に担ぎ、絶鬼はゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくる。
一段強くなった俺でも、まだこいつからはプレッシャーを感じる。
純粋に奴から感じる威圧と、こいつはあの豹雨と互角に戦ったという、精神的な重圧。

なら、この震えは恐怖か?
いや、違うな。

祐一 「・・・・・・」

これは武者震いだ。
こいつを倒さなければ豹雨には勝てない、が、こいつを倒せば豹雨に一歩近付く。

絶鬼 「だが、俺には勝てねえぜ」

祐一 「何?」

絶鬼 「パワー、スピード、技量・・・確かにそれらは大したものだ。だが、それだけの力を持った奴には絶対必要なものがある」

すぅっと絶鬼は大矛を前に差し出す。

絶鬼 「相応しい得物だよ。俺のこの絶天戟や、豹雨の刀みてえな、な」

砕け散った氷魔剣の残骸に目を向ける。
確かに、超ハイレベルの使い手だからこそ、扱われる武器もそれに見合ったものでなければ、こうして技の威力に武器が耐えられない。
だからこそここへ来て、その武器を求めたんだが・・・。

村正 「ほう、おまえさんいい得物持ってるじゃねぇか」

そう、こいつに、それを頼んだんだが・・・。

絶鬼 「俺のこいつを知ってんのか?」

村正 「ああ、そいつぁ、古い知り合いが作った絶天戟だろ。修羅のために打った鬼の矛だって聞いてたが、なるほどな」

いつからそこにいたのか、村正の親爺は絶鬼の得物を興味深げに見ている。
だがそれより気になるのは、あいつが持ってる白い布に包まれた物・・・。

祐一 「村正、できたのか?」

村正 「まぁな」

祐一 「だったら何でさっさと寄越してくれないんだよ?」

村正 「見極めてたんだよ。てめぇがこいつを持つに相応しいかどうかを、な」

布を解くと同時に、村正はそれ、俺の方に向かって放る。
目の前に、両刃の剣が突き立つ。
青みがかった白い刀身・・・刃渡りは定寸より少し上、一見するとただの西洋剣だ。

祐一 「こいつが・・・」

村正 「デュランダル。たがそいつはまだ未完成だ」

祐一 「どういうことだ?」

村正 「剣としては最高の出来だ。だが魔導具としては、まだだ。そいつぁ、おまえの魔力の塊から生み出したものだからな、完成させんのは、おまえ自身の役目だ」

祐一 「そういうことか・・・」

器はできた。
そこに価値を注ぎ込むのは、この俺次第。

絶鬼 「何だよ、そんないいもんを隠してやがったか。なら使えよ、最初で最後になるんだからな」

祐一 「確かに最初ではあるが・・・」

村正が生み出した、俺の剣、デュランダルに手をかける。
手に馴染むのは当然・・・あとは使いこなせるかどうか。
問うまでもないな。
使いこなせるか、じゃなくて、使いこなす。

祐一 「最後になるのは、おまえの得物の方だよ」

地面から抜いた剣の切っ先を絶鬼に向ける。
奴はまるで動いていない。
俺が剣を手にするのを待っていたのは、別に正々堂々なんて精神じゃなく、ただ自信があるだけ。
万全の俺と戦っても絶対に勝てると思ってるんだ。

絶鬼 「なら、決めるとしようか」

祐一 「いいだろう」

六天鬼・・・ここで決着をつける。

 

 

 

 

 

 

 

エリスが感じていたのと同じことを、覇鬼もまた感じ取っていた。
何故怨鬼が敗れたのか。
他の相手ならばいざ知らず、魔法使いの少女を相手に怨鬼が敗れる要素は皆無だったはずである。
何かそれを狂わすとしたら、さやかが手にしている剣か。

覇鬼 「小娘、その剣はなんだ?」

さやか 「名前はグラム。さっき拾ったただの剣だよ」

覇鬼 「馬鹿な。魔法使いがただの剣を手にした程度で怨鬼に勝てるものか」

さやかと覇鬼は、エリスと鉄鬼から離れ、地上に出ていた。
特に示し合わせたわけではないが、魔法を使うさやかと、棍を持つ覇鬼、いずれも広い場所が戦いやすいからである。
また、本気を出したエリスと鉄鬼が正面からぶつかった際の周囲に及ぶ被害を考えた末の結論でもあった。
どちらにしても、ここにはさやかと覇鬼の二人だけだった。

さやか 「ああ、その認識は間違い。この剣はきっかけをくれただけで、怨鬼君を倒したのは紛れもない私の力だよ」

覇鬼 「・・・貴様、何者だ?」

さやか 「秘密」

剣を構える。
それは、赤い刀身の長剣だった。
まるで、燃え上がる炎のような剣。
しかしそれに、覇鬼は強い違和感を抱く。

覇鬼 「・・・・・・何だそれは?」

さやか 「何だって、何?」

覇鬼 「怨鬼を倒したのは、その力ではなかろう」

さやか 「うん、違うね」

今、グラムに宿っているのはさやかが普段から使っている炎の力。
怨鬼を倒した力とは違う。

覇鬼 「私を相手に余裕でも見せているつもりか?」

さやか 「そんなつもりはないよ。だって、君は怨鬼君よりもずっと強いもの」

覇鬼 「当然だ」

さやか 「でもたぶん、私が勝つよ」

自信や気負いとは違う、ただ自然に、さやかはその言葉を口にしていた。
今のさやかを相手に、覇鬼程度では勝つことはできない、と。

覇鬼 「・・・ふっ、おもしろい。ならばその思いあがり、すぐに正してくれよう」

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「さてと」

『倒しちゃってもいいんだよね』

そう言ってさやかは覇鬼と共に地上へ出た。
怨鬼を倒したさやかは、エリスの知っているさやかとはどこか違って見えた。
その力は未知数で、勝負の行方もどうなるかはわからない。

エリス 「あいつが相手じゃきついだろうし、さっさとこっちを片付けないとね」

鉄鬼 「・・・貴様にとっては、我は既に雑魚扱いか」

エリス 「違うっていうの?」

鉄鬼 「・・・・・・」

鉄仮面の下に、この男には表情はなかった。
それは常に変わらず・・・鉄鬼は、六天鬼の中でもっとも沈着冷静であり、心までも鉄であると言われた静かなる修羅である。
今、こうして少女の姿をした者に見下されても、心乱れるようなことはない。
事実は、正確に受け止めなければならない。

鉄鬼 「・・・そうか・・・ならばその認識、改めさせねばならんな」

エリス 「?」

ガランッ・・・

鉄仮面が、地面に落ちる。
いや、仮面だけでなく、鎧が全て落ちた。
そして、エリスが見ている場所には、鎧しかなかった。

エリス 「なっ!?」

鉄鬼 「遅い」

反応できたのは、ほとんど本能のなせる業だった。
背後からの攻撃を、ぎりぎりでガードする。
だがそれも一瞬、即座に横からの攻撃を脇腹に受けて吹き飛ばされる。

ドッ

エリス 「くっ!」

空中で反転して木の根に足をつく。
しかし、目を向けた先には既に敵の姿はない。
とはいえ、エリスとてそう何度も不意打ちを受けるものではなかった。

エリス 「二度同じ手が通用するか!」

鉄鬼 「フッ」

ガキッ!

両者の攻撃がぶつかり合って相殺される。
そこではじめて、鎧を脱ぎ捨てた鉄鬼の姿をエリスは見た。

エリス 「おまえは・・・」

鉄鬼 「誰しも、我が姿を見ればパワータイプと思いがちだがな、我は本来、六天鬼最速の修羅」

エリス 「鎧は、ただの飾りってこと?」

鉄鬼 「それも、否だ」

正面の殺気とは別の何かを感じ取って、エリスは深く体を沈みこませる。
その頭上を、何か鋭い刃物が通り過ぎた。

エリス 「鎧・・・の一部?」

鉄鬼 「それでかわしたつもりか!」

エリス 「上!・・・だけじゃないっ」

四方八方から、盾、手甲であったもの、兜であったもの・・・あらゆる鎧の部位が変形した“武器”が襲い来る。

エリス 「くっ・・・!」

一つの攻撃をかわしても、すぐさま次が来る。
まるで嵐のような攻撃は、洞穴内のあちこちを削りながらエリスを追い詰めていく。
本人は、自分はパワータイプではなくスピードタイプであるなどと言っているが、この男はスピードもパワーも並外れていた。

鉄鬼 「終わりだ!」

完全に嵐の中に囚われたエリスに向かって、鉄鬼は全ての武器を一斉に飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「凍牙三連!!」

剛鬼を倒した時に編み出した技を放つ。
凍気をまとわせた剣での超高速三連撃。
あまりの威力と速さに、あの時は剣が砕け、自分の腕も潰しかけたが。

ドシュッッッ

強い衝撃は感じるが、デュランダルには傷一つつかない。
強度は文句なしだ。

絶鬼 「へぇ、いきなり飛ばしてやがんな」

とはいえ、受け止めた奴の絶天戟も無傷。
あっちも並みの武器じゃないってわけだ。

祐一 「まだまだ、これからさ」

絶鬼 「そうでなくっちゃおもしろくねぇ。その程度だったら次で終わらせてるところだ」

祐一 「・・・・・・」

絶鬼 「・・・・・・」

数秒間の沈黙。
それを破ったのが何かはわからないが、どちらともなく動き出す。

ギィンッ

高速で動き回り、隙を見ては斬りこみ、或いは受け、弾き、パワー・スピード・技を競う。
パワーでは奴が上、スピードでは俺が、技は互角・・・だがこれは単純に得物は種類の違いとも取れる。
絶鬼の大矛は間違いなく超重武器なのに対し、俺のは普通の剣だ。

絶鬼 「うぉらぁぁぁ!!」

けれど、奴にとってはそんなものは意味をなさないらしい。
あれほどの重量を持った武器を、まるで苦もなく、重さなどないかのように操っている。
突き、払い、振り下ろし・・・次々に繰り出される攻撃を前にしては、いかなる敵も太刀打ちできないかに思える。

祐一 「うぉおおお!!!」

だが、こっちだって普通とは違う。
俺の防御は、これだけの攻撃を前にも破れたりはしない。
氷帝の鉄壁の守りを、崩せはしない。

絶鬼 「防御に自信がありそうだな。なら、どこまで耐えられるか、試してやるよ!」

攻撃がさらに激しくなる。
パワーが、スピードが、尚も上昇していく。
俺の防御を、突き崩していくほどに・・・。

祐一 「くっ・・・」

絶鬼 「つぶれやがれぇっ!!」

ガキィンッ

薙ぎ払いを受け止めた俺の体が僅かに泳ぐ。
その隙に奴は大矛を上段に振りかぶる。

その一撃は、それまででももっとも強力な、俺を倒しに来る一撃だった。
防ぎきれない・・・!

祐一 「なら・・・」

防御不能ならどうする?
相手のそれと同等以上の攻撃をぶつける。
攻撃こそが最大の防御ってやつだ!

祐一 「凍魔天嵐・極!!」

最大級の力をこめて剣を振り上げる。
奴の振り下ろしと、正面から力比べだ。

ギィンッッッ!!!

祐一 「っっっ!!」

絶鬼 「ぬぉ・・・っ!」

互いに渾身の力を込めた一撃がぶつかり合い、激しい衝撃が起こる。

バッ!

その衝撃がやまないうちに、互いに距離を取る。
あのまま押し合いを続けていたら、下の俺が不利だった。
奴も、下がった俺を下手に追えばカウンターを受ける。

絶鬼 「この俺と互角に打ち合うとはな」

祐一 「実は俺自身も少し驚いてる」

はじめて会った時は、こいつに勝てるイメージがわかなかったんだが、今は違う。
ぎりぎり互角、ってところではあるが、充分に戦える。
そして、勝てる!

絶鬼 「だが、俺に勝てると思うなよっ!」

ザッ

奴が踏み込んでくる。
その速さは、さっきよりもさらに上。
こいつ、化け物か!?」

ブゥンッ!!

風を切って振られる奴の大矛。
いや、風を切っているというよりも、風を押してる。
空気すらも巻き込んだ巨大な刃が振り下ろされてくる。

祐一 「このっ・・・!」

ガキィンッ

何とか一撃目を弾く。
だが即座に第二撃が、さらには第三撃が襲ってくる。
速さだけじゃなく、威力も上がっている。
それを全て捌くも、それが精一杯で反撃ができない。
全て大振りだというのに、隙をついてる暇がない。
これじゃまるで竜巻だ。

祐一 「ぐっ・・・!」

徐々に押される。
繰り返される剣戟は、確実に俺を追い込んでいく。

これが・・・本気の絶鬼か。

絶鬼 「全てを薙ぎ払う俺の旋風絶斬! これで終いだっ!!」

終わってたまるか・・・よっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく