デモンバスターズFINAL

 

 

第13話 形無き神剣グラム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「あいたたた・・・」

鉄鬼に吹き飛ばされたさやかは、突っ込んだ木の洞から身を起こす。
突っ込んだ際の衝撃は和らげたので痛みはない。
今痛がっているのは、そのあとで上から降ってきた木片の直撃を頭に受けたからである。

さやか 「私はエリスちゃんみたいに頑丈じゃないんだから、もう少し優しくしてほしいよ」

怨鬼 「では、次は注意するよう鉄鬼さんに言っておきましょう。次があれば、ですが」

巨大樹の根が生み出した空洞で、再びさやかと怨鬼は対峙する。
狭いこの空間が、はたしてどちらにより有利に働くのか。

さやか 「(どっちにしても、直接ダメージを与える手段がない私の圧倒的不利は変わらない、と)」

何か、魔力以外の手段を用いる必要がある。
ならば肉弾戦、と言いたいところだが、それはさやかの得意分野ではないし、たとえそれでダメージを与えられても、怨鬼の黒い波動は魔力だけでなく体力も吸い取る。

さやか 「(ある意味無敵だよね、彼。じゃあ、どうして絶鬼や覇鬼の方が強いって言えるのか・・・?)」

簡単なことだ。
圧倒的パワーとスピード。
怨鬼の黒い波動は決して自動でその身を守るわけではなく、本人が意識しなければ発動しない。
相手が意識できないレベルの攻撃ならば、その力を破れる。
だから、祐一やエリスならば怨鬼は敵ではない。
純粋な力で言えば、怨鬼は六天鬼で一番弱い。
だが、魔法使いに対してのみは、無敵だった。

さやか 「(・・・なら、魔法使いじゃなければいい、か・・・)」

ある思いに心の内に芽生え、さやかの表情に陰が落ちる。
それを答えとして、本当によいのか・・・。

怨鬼 「先ほど相方のお嬢さんにも言われていましたが、戦いの最中の雑念は、命取りですよ」

声がすると同時に、さやかは炎の壁を張って後退する。
炎は一瞬燃え上がった後、あっさりと黒い波に飲み込まれて消滅した。
さらに波は木の根を伝い、さやかに迫る。

さやか 「やっぱり却下。今の私の力で戦う! フレアビット」

普段ならば体の周囲だけに生み出す火の玉を、空間一杯に出現させる。
敵の周辺にさえも。

怨鬼 「む!」

さやか 「反応できないほどたくさんの攻撃ならどう?」

さやかが手を振り下ろすと、火の玉は四方八方から一斉に怨鬼に降り注ぐ。

ドゴォーンッ!!!

怨鬼のいた場所を中心に大爆発が起こり、空洞の一部が崩落する。
その攻撃の中にあって、しかし怨鬼は健在だった。

怨鬼 「目の付け所はよいですが、単純な攻撃では私の反応速度を上回ることなどできませんよ」

目論みはあっさり破られる。
やはり付け焼刃でどうこうなる相手ではない。

さやか 「っ!」

少しでも止まっている隙に、黒い波動は目前まで迫っている。

ズンッ!

かわしきれないと感じたさやかは、足元の根を撃ち抜いた。
下にさらなる空洞があることは音の響きからわかっていたので、そのまま重力に任せて落下する。

さやか 「あいたっ」

咄嗟のことだったので着地時の受け身までは取れなかった。
打ち付けた腰をさすりつつ、周囲の様子を探る。
そこで、不思議なものをみつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬鬼 「ハァァァ!!」

祐一 「おぉおお!!」

一瞬にしてかわされた剣戟は数十に及んだ。
十一の刃を自在に操る斬鬼に対し、こっちは双剣でもって対抗する。
だが、左腕は先ほど受けた一撃のせいで動きが鈍い。
実質、一対十一の戦いといってよかった。

斬鬼 「どうしたっ、真の最強とやらを教えてくれるんじゃなかったのかい?」

己が優位に立っている優越感か、それともただ戦いが楽しいのか、或いは敵を切り刻むことに快感をを覚えているのか。
いずれにせよ、斬鬼は常に笑みを浮かべながら剣を振るう。
戦いの最中に笑うなとは言わないが、こいつの笑いはあまり好きになれないな。

祐一 「それはいいんだが、おまえのその笑い顔をどうやって崩すか考えてるんだよ」

斬鬼 「悪いが、こいつは生まれつきでなぁ」

祐一 「なるほどな。生まれた時からそんな根が腐ってそうな顔をしてやがったのか」

斬鬼 「くっくっく、幸せもんだったぜぇ、俺様はよぉ。生まれた時から、人を斬ることの楽しさをしってたんだからよ!」

戦いに、いや、殺すことに愉悦を覚える奴。
本質を突き詰めれば、こいつはアルドとよく似ている。
だが決定的に違うのは、こいつにはアルドほどの怖さを感じないってことだ。
あいつは、何か底知れないものを秘めている。
だから怖い。
俺もエリスも楓さんも、あの男には豹雨に対する畏怖とは別の、得体の知れない恐怖を抱いていた。

祐一 「だが、おまえにはそれがない」

斬鬼 「あん?」

祐一 「悪いが、おまえ如きに負けてるようじゃ、俺はこれ以上強くなれない」

斬鬼 「当然だろぉ。てめぇはここで俺様にやられて、死ぬんだからなぁ!」

今までで一番多い、十一全ての斬撃が同時に襲ってくる。
こいつは、回避不能だ。

祐一 「・・・・・・!」

死ぬ? ここで?

確かにこいつは強い。

俺が今まで戦ってきた奴らの中でも最強クラスの力を持っている。

十三もの刃を自在に操るその技量は、俺を確実に上回っている。

パワーもスピードも、元々人の身で強かったものが、魔の力を得て果てしなく高まっている。

そう、強い奴が勝ち、弱い奴が負けていく、それが俺達が生きている世界だ。

だから、奴が勝ち、俺が負け、俺が・・・死ぬ。

死・・・。

俺は・・・・・・。

祐一 「・・・うぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィッ!!

巨大な円盤状の盾が弾かれる。
その回数は既に数十度。
鉄鬼の攻撃は、その間一度たりともエリスを捉えることはできない。

鉄鬼 「む・・・」

エリス 「・・・・・・」

この地へ来て以来、三人の力は確実に何かの影響を受けて高まっていた。
中でもエリスは別格だった。
自分の体が自分のものではなくなっていく、そんな感覚を受けながらそれを平気で受け入れられてしまう許容量も同時に上がっていく。
つまり、眠っていた力が目覚め、即座に適応していっているのだ。
気持ち悪いほどに。

だから、その気になれば目の前の敵に対して一気に仕掛け、勝利できると確信していた。
しかし同時にエリスには気がかりが二つあった。
祐一のことはいい。
かつても今も共に戦う少年を、エリスは信頼している。
気になるのは、じっと動かずに傍観している覇鬼の存在と、さやかのことだ。

エリス 「(さやか・・・)」

もちろんエリスは、さやかのことも仲間として信頼している。
だが、数え切れないほどの修羅場を共に潜り抜けてきた戦友であり、絶対の勝利を約束された最強の称号を共有する祐一とは違い、その力までも完全に頼りにはしていない。
さやかは強い、だが最強ではない。
並みの相手ならばいざ知らず、今相手にしている敵は、自分達と同様、一つの時代において最強の称号を持っていた者達なのだ。

エリス 「(鉄鬼だけに集中すればすぐに終わる。けど、その隙を覇鬼につかれるとまずい。今はまず、さやかと合流したい)」

数的不利がある現状では、背中を預けられる者がほしかった。

鉄鬼 「むんっ!」

再び鉄鬼の攻撃。
だがそれも、エリスには届かない。

エリス 「一か八か」

一瞬だけ、エリスは意識をさやかに集める。
離れていても、さやかほどの魔力、しかもそれを隠そうとしない彼女の存在を感じ取ることは容易だった。

エリス 「下か!」

ドンッ!

足元に向かって拳を撃ちこむ。
木の根に塵が積もってできた地面は、たやすく砕け、エリスの体もろともに落ちていく。

鉄鬼 「逃がさぬ!」

それを追って、鉄鬼も穿たれた穴に飛び込み、静かに覇鬼も続いた。
落ちた先は先ほどさやかが爆発を起こした場所に近く、ほとんど埋もれていた。

エリス 「まだ下・・・・・・!?」

さらにさやかの気配を追ったエリスは、一瞬下から得体の知れない悪寒を感じ取った。
何か明らかに普通でない、異質な力の奔流だった。
下へ降りていくことを、エリスほどの者が躊躇わされるほどに、それは不気味だった。

鉄鬼 「戦いの最中に余所見をするなど!」

重量に任せて落下してくる鉄鬼。
そちらへ一瞥もくれず、落ちてきた鉄鬼の体を片腕で弾くエリス。
もはや鉄鬼も覇鬼も眼中になく、エリスの意識は下の不気味な気配にのみ向けられていた。
時間にして、およそ二分・・・その気配が弱まったところで我に帰ったエリスは、さらに下を目指すべく地面に砕く。
先ほど同様、鉄鬼と覇鬼も追って降りてくる。

エリス 「!!」

鉄鬼 「なにっ?」

覇鬼 「む・・・」

三人が見たものは、見慣れない剣を持って佇むさやかと、その足元で倒れ、塵となって崩れていく怨鬼の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り・・・。

さやか 「剣?」

それはまさしく剣だった。
落ちた先でさやかが見つけたのは、木の根に無造作に突き立ててある一振りの剣であった。

さやか 「なんだろう、このいかにも伝説の剣ですって感じのあり方なわりに飾り気のない無骨な感じは・・・」

画家的観点から言わせてもらえば、美術品としては二流以下だった。
剣のことはわからないが、楓の草薙、エリスのレヴァンテインのような凄みはまるでない。
本当に、ただの剣・・・材質は不明っぽかったが、とにかくただの剣だった。

さやか 「っ!」

悪寒がして前に転がる。
背後から迫ってきた黒い波動がかすり、魔力を吸い取られた。

さやか 「くっ・・・」

前転を数回繰り返し、突き立っている剣を杖代わりにして立ち上がる。
と・・・。

すぽっ

さやか 「あれ?」

なんともあっさり、その剣は根から抜けた。
手にした瞬間、剣から感じたのは、これまたひどく不思議な感覚だった。

空。

その剣には、我は特別な剣である、以外の一切がなく、空虚だった。
何の力もない、しかしそれが特別な存在であることだけはわかる。
そして同時に、この剣の使い方も、さやかは理解した。
さらに、一つの決断を、いとも簡単にさやかに下させた。

怨鬼 「これで終わりです。全ての魔力を奪った後、あなたの肉体もいただくとしましょう」

黒い波動が迫る。
だが、もはやさやかにとってそんなものは無意味だった。

ブゥン

手にした剣を無造作に振る。
技術も何もない、ただ棒を振るだけの、斬撃とも呼べない一振り。
しかしその一振りは、黒い波動をたやすく切り裂いた。

怨鬼 「な!?」

その驚愕は当然だった。
マイナスのエネルギーは、プラスのエネルギーでは絶対に破れない。
マイナスを上回るプラスをもってすれば打ち消すことは可能でも、正面から破れるなどありえない。
できるとしたら、それは同質の力・・・。

怨鬼 「まさか、あなたもマイナスの力を・・・?」

さやか 「少し違うけど、似たようなものかな。それより、こうなったからには覚悟してね、怨鬼君。この姿を、あまりエリスちゃんや祐一君には見られたくないんだ」

さやかの手にした剣が、形状を変えていく。
どこか不気味で、しかし美しい、漆黒の剣へと。

さやか 「優れた美術品や武器には魂が宿るって本当だね。この剣のことは、この剣自身が教えてくれる。これは、特定の形を持たない神の剣・・・名前は、グラム」

剣の持つ不気味な気配が少女を侵食しているのか、それとも、少女の放つ不気味な気配が剣を伝わっているのか・・・。

さやか 「だからこの剣は空虚。その本質は、持ち主によって定められる。つまり、今は私、ってことなのかな」

怨鬼は、生まれてはじめて、恐怖という感情を覚えた。
それでいて、どこか懐かしい。
否、懐かしいがゆえに恐怖すべきもの。
それが彼が死人であるがゆえに。

さやか 「じゃ、他の人が来る前に、終わらせちゃおうか」

それは何か、得体の知れない存在だった。
ただその本質だけはわかった。

そこにあるのは、死、という概念そのものであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「・・・さやか?」

立っているのはさやかで、倒れて崩れ落ちたのが怨鬼ならば、勝敗は決したということだ。
だが、その結果はさておき、その過程に、ひどく強い疑問をエリスは抱いた。
いったい、さやかはどうやって怨鬼を倒したのか?

声をかける時、僅かに躊躇した。
よく知っているはずの少女に、得体の知れない恐怖を感じたのだ。

エリス 「さやか?」

もう一度呼びかける。
黒い服の少女はゆっくりと振り向き・・・。

さやか 「あ、エリスちゃん、勝ったよ」

あまりに自然に、あまりにいつもどおりの笑顔で笑いかけてきた。
それば自分のよく知るさやかだったため、エリスはほっとした。
一瞬前のさやかは、誰かを連想させていた。

エリス 「(アルド・・・)」

死神と自ら名乗り、周囲もそう呼ぶ男。
その実力もさることながら、会った途端に死を身近に感じさせる存在、それがブラッディ・アルドという男だった。

エリス 「(そういえばカノンで・・・)」

 

アルド 『白河さやかさん・・・彼女は実に興味深い。それにどこか、私と似ている感じがするんですよ』

 

その時はただ聞き流していたが、今一瞬、エリスはさやかからアルドと同じ感じを受けた。
普段の活力溢れる雰囲気と正反対の、死を思わせる気配を。

覇鬼 「・・・解せんな」

エリス 「!」

その声でさやかにのみ注がれていたエリスの意識は元に戻る。
今は、敵の対処が優先事項だった。
方法はさておき、さやかは怨鬼を倒した。
残る敵は、二人。

エリス 「(となれば、アタシが速攻で鉄鬼を倒して二体一で覇鬼を倒すか・・・)」

覇鬼 「小娘、貴様何をした?」

さやか 「何って?」

覇鬼 「貴様は魔術師だろう。それが何故怨鬼を倒せる?」

さやか 「さぁね〜」

怨鬼の敗北がよほど意外だったのか、覇鬼の意識は完全にさやかに向いていた。

エリス 「さやか、少しの間、あいつの相手を任せたわよ。その間に、こっちの鎧を潰しておくから」

さやか 「おっけー。でもエリスちゃん?」

エリス 「ん?」

さやか 「別に倒しちゃってもいいんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく