デモンバスターズFINAL
第12話 戦うために生まれた修羅達
目の前に現れるずっと前から、来ることはわかっていた。
奴らは殺気も闘気もまるで隠そうとなんかしてはいないからだ。
不意打ちをする必要性をまったく感じていない。
自分達の強さに、絶対的な自信を持っている。その点だけは、俺達とよく似ている。
祐一 「来たか」
すぐ近くに、いる・・・。
祐一 「上か!」
右手に氷魔剣を、左手に補助として氷刀を生み出して頭上目掛けて飛び上がる。
真上から降り注ぐ光芒・・・斬撃は六つか。ギィンッ!
両手の剣で同時に降り注ぐ六つの刃を全て弾く。
交叉した後、互いに飛び下がって間合いを取る。?? 「ハッ! 一応剛鬼の野郎を倒しただけのことはあるみてぇだな!」
両手に双身剣、さらには肘にも刃をつけた細身の男。
六つの斬撃の正体は、六つの刃そのものか。祐一 「六天鬼か」
斬鬼 「ご名答。命を斬る者、斬鬼様よ」
斬鬼、か・・・。
剣ってやつは本来一つ扱うだけでも相当な訓練が必要だ。
よほどの剣士だって双剣を扱うのは容易じゃないし、ましては3つ以上なんて常識はずれもいいところだ。
それをこいつはこともなげに6つも用意していやがる。
確かに、斬る、ということにおいてこれほど優れた奴はそうはいないだろう。しかも、こいつだけでも充分厄介だっていうのに、敵はこれだけじゃないときた。
祐一 「奇襲に加えて2対1とはな。勝ち方ってやつをよくわかってるじゃないか、絶鬼」
絶鬼 「まぁ、そういうなよ。戦いを楽しむ心はこっちだって持ち合わせてるぜ」
正面に斬鬼。
そして斜め前方には絶鬼の姿がある。
俺に対して直接殺気を放っているのはこの二人だけだが、最初に感じた違う種類の殺気は全部、5つ。
六天鬼の生き残り全員でやってきている。
前回までの小手調べとは違う・・・本気で俺達を殺しにきたったことか。斬鬼 「けっ、絶鬼が手を出すまでもねえ。俺様一人で充分だぜ、こんな小僧の相手はよ」
絶鬼 「だな。万が一おまえが斬鬼に勝てたら相手してやるよ、相沢祐一」
祐一 「随分余裕だな」
絶鬼 「当然だろ」
ほんとに余裕だな。
だが油断はない。
相手を格下と侮って手を緩めるようじゃ、最強なんて呼ばれる存在になれはしない。
曲がりなりにも一つの時代を築き上げた最強集団、一筋縄でいくような相手じゃない。祐一 「・・・・・・」
剣を構えなおす。
僅かな隙も、こいつの前では命取りになるだろう。
油断ならない敵だが、ああ言った以上絶鬼は俺が斬鬼を倒すまでは動かない。
慢心ではなく、それが最強と呼ばれる者のプライドだ。
少なくとも、二人同時に相手するのは避けられるが・・・。斬鬼 「行くぜぇ!」
それでも強敵には変わりない。
今はただ全力で目前の敵と対するのみ。祐一 「おぉおおおおお!!!」
ギィンッ!!
振りぬいた剣が奴の六つの斬撃全てを同時に弾く。
祐一が戦い始めた気配を感じつつ、エリスは自身の敵と対していた。
周りにある気配は、3つ。祐一側の2つと合わせて5つ。残りの六天鬼全員が揃っているということだ。エリス 「今度は本気でアタシ達を倒しに来たってわけ?」
問いかけに対し、真っ先に姿を現したのは、全身を隙間無く鎧で多い、両腕に巨大な盾を持つ鉄鬼。
前回、エリスが戦った相手である。鉄鬼 「先の戦いは小手調べ。倒す時には全力をもってするのが我ら六天鬼だ」
?? 「そのとおりだ」
さらに続けてもう一人が姿を見せる。
はじめて見る相手だったが、向き合った瞬間にその実力が窺える威圧感を持った男だった。?? 「死に行く者への手向けだ、私の名を教えてやろう。命を狩る者、覇鬼」
鉄鬼 「覇鬼は絶鬼に次ぐ我らのナンバー2。我のみでも貴様を倒すには足るが、覇鬼が控えている限り、万に一つの勝機すら貴様らは失うこととなる」
エリス 「大した自信じゃない。この間は尻尾を巻いて逃げたくせに」
これは半分は強がりだった。
先の戦いでは、あのまま続けば不利だったのは明らかにエリス達の方であり、あの時は見逃してもらったという方が正しい。
だが、決して虚勢ではない。鉄鬼 「勝てるつもりか?」
エリス 「それはこっちの台詞よ。あんた達こそ、このアタシに勝てるつもりなの?」
静かに、しかし重い威圧をこめた言葉が鉄鬼に重圧をかける。
前回と同様、明らかに自身の実力が上とわかっていながら気圧されずにはいられない何かを、鉄鬼はエリスから感じていた。
どれほどエリスが強かろうと、己と一対一ならば鉄鬼の勝率は最低でも六分・・・覇鬼を加えれば勝利は確実、のはずだった。
負ける要素などない。鉄鬼 「(ならば・・・何故恐れる?)」
魔竜という強大な存在の血を引いていることを聞いている。
だがそれでも、たかが小娘一人ではないか。
そう思いながら、鉄鬼は精神的に優位に立つことができなかった。覇鬼 「どうした鉄鬼。敵はたかが三人。さっさと片付けてしまうぞ」
鉄鬼 「・・・うむ、そうだな」
迷いを振り切る。
相手が何者であろうと、戦い、倒す。
それが戦いの中で生き続けた修羅たる六天鬼である。鉄鬼 「行くぞ、竜の娘!」
エリス 「まとめてかかってきなさい。一人ずつじゃ役不足よ!」
さやか 「夢の中では変な展開だし、起きてみたら嫌な敵さんは来てるし」
困ったもんだね〜、と肩をすくめながら視線を上げる。
全身をマントで覆った男、暗い殺気を放つ怨鬼がさやかを見下ろしている。怨鬼 「またお会いしましたね。今度は確実に、その命を呪わせていただきますよ」
さやか 「・・・・・・」
さてどうするか。
さやかは相手への警戒を怠らずに魔力を練りながら、この男への対処法を考える。
前回は魔力を吸い取る黒い力を上回る魔力を叩き込んで破ったが、同じ戦法が何度も通用するとは思えない。
そんなに甘い相手ではない。さやか 「(相性最悪なんだよね、私とこの人とは)」
何をするにも、魔法使いであるさやかの能力は基本的に怨鬼には通用しない。
さやか 「(どうしたものか・・・)」
怨鬼 「考え事の最中悪いですが、来ないのならこちらから行かせていただきましょう」
黒い波動がさやかの身に迫る。
それをさやかは魔力を足元にぶつけて防ぐ。
純粋な魔力は吸収されるが、それによって起こされた破壊そのものは別だ。
物理的な攻撃ならば、この黒い力に対抗できる。さやか 「(それでも接近戦はだめ・・・と)」
物理攻撃でも、魔力を帯びた自身の体ではそれを吸い取られる。
怨鬼 「逃げているだけでは勝負にもなりませんよ」
さやか 「そうだ・・・ね!」
迫る黒い波動を避けつつ、さやかはさっと左腕を振る。
と同時に、腕から燃え盛る炎の翼が現れる。さやか 「バーニングフェザー!」
怨鬼 「む!」
意表をついた攻撃に、怨鬼の反応が一瞬遅れる。
同じ技は前回も受けているが、その時は炎の鳥が完全に解放されていた。
このようにフェニックスの一部だけを具現化して攻撃するとは予想外だった。だが実は、さやか自身も意外に思っていた。
こんな真似が出来るとは一瞬前までは考えもしなかったが、何故か直感的に出来ると思って実行した。さやか 「(調子はいい・・・というか絶好調)」
理由の一つは、おそらくこの土地だろう。
数日過ごして、祐一やエリスの魔力が充実をしてるのを感じていた。
霊地や聖地といった類の場所ということだろう。
それがさやかの魔力にも影響を与えたのかもしれないが、それだけではない気もする。さやか 「んー・・・」
エリス 「戦ってる最中に余計なこと考えない」
さやか 「ほぇ?」
一瞬すれ違ったエリスがそんな言葉を投げかけていく。
そのエリスは、鉄鬼の頭を鷲掴みにして怨鬼へ向かって放り投げた。鉄鬼 「ぐぉぉ・・・!」
怨鬼 「むぉっ」
さやか 「・・・豪快だね」
エリス 「ふん」
さやか 「?」
エリスの様子を、さやかは怪訝そうに眺める。
その視線は鉄鬼に向けられていながら、意識は別の方向へ向いていた。
意識の先を追うと、三人目の敵がいた。さやか 「・・・・・・エリスちゃん」
エリス 「この間は奇襲を受けて苦戦したけど、奴らの中で厄介なのは豹雨とやりあってた絶鬼と・・・あいつよ」
六天鬼のナンバー2、覇鬼。
この場にあって、エリスが警戒しているのはその男だけだった。エリス 「あいつが動かない内に、速攻でこっちを片付けるわよ」
覇鬼 「ふん・・・甘く見られているぞ、鉄鬼、怨鬼」
怨鬼 「そのようですね」
鉄鬼 「ならば望みどおり、早々に終わらせるとしよう」
鉄鬼の大きな体に怨鬼が隠れるように移動し、同時にエリスとさやか目掛けて駆け出す。
超重量といえる鎧をまとっていながら、鉄鬼の速度は侮れないものがあったが、エリスの反応できないほどのものではない。エリス 「小細工をしたところで・・・」
さやか 「エリスちゃん! 避けて!」
エリス 「なっ!?」
相手の突撃に対して構えるエリスに向かって黒い波動が伸びる。
しかもそれは、鉄鬼の体を突き抜けて迫っていた。エリス 「くっ・・・」
咄嗟に横に飛んだエリスに向けて、鉄鬼が盾を投擲する。
突進の勢いは殺さず、そのまま鉄鬼はさやかに向かっていく。さやか 「バーンスフィア!」
さやかの声とともに突き出された右手から巨大な火球が放たれる。
カウンターで放たれた魔法を回避不能に思われたが、その威力は怨鬼の力によって無効化される。鉄鬼 「むんっ!」
ドンッ!
炎の壁を展開して防御するさやかだが、それすらもほとんど無効にされ、鉄鬼の体当たりを受けて吹き飛ばされる。
エリス 「このっ・・・!」
ゴォォォッ
鉄鬼の盾をかわして崩れた体勢を立て直したエリスに、怨鬼の黒い波動が凄まじい勢いで迫る。
さらに飛び下がって回避するも、僅かにかすって魔力を持っていかれる。覇鬼 「我ら六天鬼は戦うために生まれた修羅の集団。それに鉄鬼は自身と鎧の特殊能力によって怨鬼の力が通用しない。ゆえにコンビネーションも強力だ」
エリス 「・・・ちっ」
覇鬼 「貴様らが私まで届くことなどない」
ギィンッ
既に奴の剣を受けること百度。
左半身になって、左手の氷刀だけで全てを防いできたが、押されている。斬鬼 「どうしたどうしたぁ! 少しは攻めてきな!」
六つの刃が自在に操り、しかも速い。
一対一という戦闘においてこれほど多くの斬撃を相手にすることなど通常では絶対にありえない。
ゆえにこいつは、並みの剣士相手には天敵とも呼べる奴といえる、が・・・。祐一 「あまり・・・」
じっと待った機会をついて反撃に転じる。
祐一 「調子に乗るなよ曲芸野郎!」
動かさずにいた右手の氷魔剣で突きを放つ。
攻めに集中していた奴は咄嗟に反応しきれず、俺の剣は斬鬼の胸を貫き・・・。斬鬼 「あめぇよ」
ガキッ
祐一 「!!」
固い感触に突きが阻まれる。
奴の胸で交叉した二本の剣が、俺の一撃を受け止めていた。祐一 「七本目と八本目があったとはな・・・」
斬鬼 「八本だと、誰が言った?」
今までに確認していた八つ以外の閃光が、奴の肩越しに迫り来る。
交わしきれない攻撃を、左手でガードする。
一つは氷刀を犠牲にすることで防げたが、もう一つは左腕を切り裂く。
左手に攻撃を受けることで致命傷を避け、その隙に後退する。祐一 「十本目、か」
斬鬼 「まだまだよ」
よく見れば、足にも刃がついている。
さらに取り出した兜をかぶると、そこにもあった。斬鬼 「これが斬鬼様の十三刀流よ!」
祐一 「どうかしてるな」
ふざけた外見・・・ではあるが、奴の強さは本物だ。
あの戦法で、今まで勝ち続けてきたんだろう。
全身がいわゆる剣。祐一 「そんな痛そうな奴はアルドだけで充分だっての」
こいつの相手をして、無傷ですむ奴はまずいないだろうな。
かといって、肉を斬らせて骨を断つっても、あそこまでたくさん刃がついていては現実味がない。斬鬼 「修羅ってものがどういうものかわかったか? 俺様達が常勝不敗にして最強なわけもよ」
祐一 「常勝不敗、ね・・・」
確かに今まではそうだったろう。
だが・・・。祐一 「果たしてそうかな?」
斬鬼 「何・・・っ!?」
パキィンッ
奴の胸で交叉されていた、俺の突きを受け止めた剣がどちらも折れた。
祐一 「切れ味はよさそうだが、強度はいまいちだな」
斬鬼 「てめぇ・・・」
祐一 「教えてやるよ」
すぅっと剣の切っ先を斬鬼に向ける。
祐一 「真の最強ってものをな」
つづく