デモンバスターズFINAL

 

 

第11話 不思議の城のさやか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にあるのは、不思議の国だった。

 

 

 

さやか 「う〜ん、別にうさぎを追いかけた覚えはないんだけどな〜?」

その光景を目の前にして、さやかが発した第一声がそれであった。
だが実際に、目に映るのは見たこともない植物であったり、巨大な蝶であったり、やたら薄っぺらい人間であったりと、現実らしからぬものばかりだった。
一言で形容するなら、まさしく不思議の国である。
そしてさやかが立っている道は、そのまま彼方に見える城へと続いている。

さやか 「後ろはなし」

背後を振り返ると、道だけでなく風景そのものがなかった。
前へ進む以外の選択肢はないらしい。

さやか 「ま、いっか」

特に考えることもなく、さやかは歩を進める。
道は一本道で、周りの景色はどこまで行っても不思議なものだった。
横へ逸れることもなく、真っ直ぐに城を目指す。

さやか 「門、だね」

城を目前にして、門にたどり着く。
そこにいた兵士がさやかの姿を確認すると、門を開いた。
兵士は、花札だった。

 

 

 

ぎぎぃ・・・・・・

城の中にまで至る。
何故か内部は、和装だった。
向かって右手に畳があり、生け花が手招きしている。
急須が自力で動いてお茶を入れ、茶碗が自ら歩いてさやかのもとまでやってくる。

さやか 「ありがとう」

受け取ったお茶を飲みほすと、畳の上の愉快な物達に手を振りながら奥を目指す。
奥へと繋がる通路の両端には、甲冑ではなく、その中身であろう裸の人間の像が立ち並んでいた。

さやか 「芸術品としてはいまいち」

芸術家の評を受けた石像達が微妙に肩を落としたような気がしないでもない。
さらに先へ進むと、広場に出る。
そこには花札の兵士達がずらりと並んでいた。
そして中心にいるのは、偉そうなサイコロだった。

サイコロ 「ようこそ、お客様」

さやか 「お招きいただき、どうも。それで、どうして私をこんなところに呼んだのかな?」

明らかに非常な状況であるが、さやかは自然に振舞う。

サイコロ 「さるお方があなた様にお会いしたいと申しているのです」

さやか 「さるお方?」

サイコロ 「はい。ただし、あなた様がそのお方のもとへたどり着ければの話ですが」

何の前触れもなく、さやかの足元の地面が消えた。
崩れたとか、割れたとかではなく、完全に消滅したのだ。
当然、重力に従ってさやかの体は下に落ちる。

さやか 「こーんなメルヘンな世界でも、物が下に落ちるっていう常識は通るんだ」

呑気にそんなことを考えながら、さやかは奈落の底へ落ちていった。

 

 

 

 

 

落ちた先に待っていたのは、針地獄だった。
これまでのどこかのどかな雰囲気からは一変してホラーな仕掛けである。

さやか 「危ない危ない」

そのまま落ちていたら串刺しになっていたところだが、さやかは真下の針を全て燃やして着地した。
何百メートルも落ちたような感覚がしたわりには、着地時の衝撃はまったくなかった。
現実世界の常識がどこまで通じるのかわからない場所だった。

さやか 「ま、なんとなくわかってきたかな。・・・とりあえず、次はなんだろうね?」

気配を感じて周囲を見回すと、見事に取り囲まれていた。
先ほど上で見た花札の兵士達だが、今度は完全武装をしている。

 「殺 殺 殺・・・」

 「死 死 死・・・」

明確な殺気が四方から浴びせかけられる。

さやか 「さっきとは随分態度が違うね」

おどけてみせながらも、さやかは警戒心を強める。

 「「滅!!」」

一斉に花札が襲い掛かってくる。
炎を出そうとして、さやかは思いとどまった。
いくら倒しても、おそらく無駄だろう。

さやか 「よっと」

突き出される槍をかわしながら、花札を三枚蹴り倒して手に取る。

さやか 「ほい、猪鹿蝶」

絵柄をそろえてみせると、カス役の札は倒れ伏した。
だが尚も半分以上の敵が向かってくる。

さやか 「じゃ、次で決めるよ」

まっすぐ花札の群れに向かっていき、すれ違いざまに五枚を抜き出す。

さやか 「これでおわり。五光」

そろえた五枚の札が光を発し、全ての札が力を失って倒れる。
手足がはえていた痕跡などなく、皆ただの札となっていた。

さやか 「さて、次の仕掛けは・・・」

現れた階段を一つ上がると、目の前にずらりと現れたのは麻雀牌の集団だった。
どうしたものかとさやかは頭をかく。
だが、そんなさやかの心境はお構いなしに、牌の集団は向かってくる。

ドゴォーンッ!!

地面に炎を叩きつけて爆発を起こし、ひっくり返った牌を14個かき集める。

さやか 「はい、国士無双」

役満の力で全ての牌を一掃・・・というわけにはいかなかったようだ。
一度は倒れた牌は、全て起き上がって向かってくる。
よく見ると、隅においてあった「東」の文字が「南」に変わっていた。

さやか 「まだつづくの・・・?」

相手はやる気満々のようだが、いつまでも付き合っているほどさやかはお人よしではなかった。

さやか 「茶番はそろそろ終わりにしようよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

サイコロが見ている画面の中で、さやかが大三元の役を揃えていた。

サイコロ 「やるようですね。しかしここまで辿り着くにはまだまだいくつもの難所を越えなければ・・・」

さやか 「ふーん、ちなみにいくつくらいあったの?」

サイコロ 「最下層からここへ到達するまでには50の部屋が・・・・・・っ!!?」

背後からの声にサイコロが飛び上がる。
振り返ると、そこには画面上に映っているはずのさやかがいた。

サイコロ 「どど、どうして!?」

さやか 「別に驚くことじゃないよ。所詮ここは、夢だもの」

そう、こんな世界が現実であるはずがない。
これは夢・・・さやかの夢に誰かが干渉しているに過ぎない。
だから奇妙な出来事が起こるが、さやかの夢である以上、そこで起こることはさやかのイメージに準じる。

さやか 「裏技だよ、いわゆる」

さやかはにっこりとサイコロに笑いかける。
笑顔を向けられたサイコロは、しかし笑い返すことはなかった。

さやか 「さぁ、ここまで来たんだから、さるお方とやらに会わせてよ」

サイコロ 「・・・まだですよ・・・・・・最後の勝負がまだです」

さっとサイコロが手を振ると、もう一つ別のサイコロが現れた。
と同時に二つのサイコロが回転を始める。

サイコロ 「さぁ! 丁か半か!」

さやか 「丁」

結果は、五三の丁。

サイコロ 「くっ・・・」

さやか 「私の夢で私に勝つなんて無理だよ」

サイコロ 「ま、まだまだ! もう一勝負!」

再び回転を始める二つのサイコロ。

さやか 「半」

サイコロの目は、一三の丁。

サイコロ 「ふっ」

さやか 「・・・・・・」

ヒュンッ

掬い上げるように振り上げたさやかの手から炎の刃が飛び、二つのサイコロをそれぞれに両断する。
どちらのサイコロにも、重しが入っていた。

サイコロ 「・・・・・・・・・」

さやか 「お遊びは、おしまい」

真っ二つになったサイコロが全身に脂汗を浮かべる。
さやかの顔は笑っているが、これ以上は手加減しないと暗に示していた。

サイコロ 「・・・・・・・・・・・・」

さやか 「・・・?」

サイコロは完全に沈黙した。
もはやまったく動く気配がなかった。

?? 「せっかく用意したゲームだったのだけれど、あっさりクリアーされてしまったようだね」

それまでまったく気配のなかった王座の方から声がした。
振り返るとそこには、つい先日一度だけ姿を見た男がいた。

さやか 「黒幕は君? 確か名前は・・・」

ベルゼブル 「ベルゼブル。皆は蠅の王などと呼ぶが、まぁ、魔神の一人さ」

あれほどの力を持ったエリスが恐れる魔神。
その頂点に君臨する存在の一人、蠅の王ベルゼブル。
その男が今、さやかの目の前にいた。
たった一度面識があるだけで、知り合いというわけでもない相手が何故わざわざ夢の中に介入してくるなどという真似をしてさやかのもとへ来たのか。

さやか 「その魔神ベルゼブル君が、私みたいな人間に何の用?」

ベルゼブル 「そうだね・・・・・・君に興味を持った、ではいけないかな?」

さやか 「いけなくはないけど、たかが人間に、魔族とは言え神様の名を冠するほどの存在が普通に用があるとは思えないんだけど?」

ベルゼブル 「確かに、そうかもしれないね」

人間と魔神では、その存在に天と地ほどの差がある。
先日見た獣魔王ベリアルの異次元の強さがそのよい例だ。

ベルゼブル 「だがね、白河さやか嬢。私は他の魔神ほど、人間を過小評価してはいないのだよ」

さやか 「・・・・・・」

ベルゼブル 「確かにほとんどの人間は脆弱で、取るに足らない存在だ。だが、決して全ての人間が、ではない。例えば君のような」

すぅっとベルゼブルが手を挙げ、さやかを指差す。
そこに一瞬魔力を感じたと思った瞬間、さやかの胸は一筋の光に貫かれていた。

さやか 「・・・っ!!」

心臓を貫かれ、胸に穴が空く・・・死のヴィジョン。
咄嗟に目を瞑って、さやかはそのイメージを振り払った。

さやか 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・っ」

目を開けた時には、さやかは無傷だった。
だが鋭い痛みはまだ残っており、壁に背を預けて激しく息をつく。

ここは夢の世界だ。
ゆえに、全ての現象はイメージの産物であり、現実ではない。
けれど強すぎるイメージは、精神どころか肉体にまで影響を及ぼす。
夢とは言え死を明確に感じてしまえば、人間は死ぬ。
それほどまでに今ベルゼブルが与えたイメージは強いものだった。
普通の人間ならば、その時点で死んでいただろう。

ベルゼブル 「理屈では死なないとわかってはいえても、死のイメージを簡単に振り払える人間はそうはいない。それができるだけで、君の強さがわかるよ」

さやか 「・・・それで、用件は何なの?」

さすがにいきなり殺されそうになっては、さやかも心中穏やかにとはいかない。
祐一やエリスにならともかく、自分に魔神の一人が会いに来る理由がわからない。

ベルゼブル 「白河さやか嬢、私のもとへ来ないかい?」

さやか 「・・・はい?」

何を言い出すかと警戒していたさやかは、その言葉に思わず呆けてしまう。
言われたことを理解するのに少し時間がかかったが、よくよく考えたら特に難しい話ではないことに気付く。

さやか 「それは、つまり・・・・・・口説いてるの?」

ベルゼブル 「そうなるかな」

さやか 「・・・・・・」

驚いた。
神や魔が人との間に子をなすという話は珍しくないが、まさか自分がそういった存在からプロポーズを受ける張本人の立場になるとは思いもよらなかった。
少し呼吸を整えて、さやかは落ち着くよう自ら努める。
お陰で冷静になれた。
そうなると、目の前にいるベルゼブルにまったく殺気がないこともわかり、最初に対面した時から感じていた威圧感も綺麗さっぱり消えていた。
妙な親近感をこの男に感じたのも同時だった。

さやか 「魔族の人に口説かれたのははじめてだよ」

声にもいつもの余裕が出てきた。

ベルゼブル 「どうだろう? 私は君に色々な意味で興味がある」

さやか 「例えば?」

ベルゼブル 「先日のベリアルとの一件。奴に直接傷を負わせたのはあの豹雨という男だったが、その傷口を開かせる一撃を与えたのは、君だった」

さやか 「あの時はエリスちゃんもいたよ」

ベルゼブル 「だが、君の力も大きかった。その力にも興味があるし、何より君個人の美しさにも心惹かれる」

さやか 「ありがとう。でもね、ベルゼブル君」

気温が上昇するイメージが広がる。
さやかの周囲に炎が立ち昇り、ベルゼブルのいる玉座にまで達する。
炎はさらに地面と壁を伝い、城全体に広がっていく。

さやか 「一つだけ、忠告してあげる」

ベルゼブル 「何かな?」

さやか 「女の子を口説く時はね、ちゃんと面と向かってじゃなきゃだめだよ。幻なんかじゃなくてね」

ベルゼブル 「そうか。以後、気をつけるとしよう」

最後に笑みを浮かべて、ベルゼブルの姿は炎に沈む。
城も完全に炎上し、夢の世界は崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、当然そこは不思議の国などではなく、ここしばらく滞在している大樹の根本だった。

さやか 「なんだかなぁ」

少し頬が熱かった。
相手が魔族だったとかそうしたことは問題ではなく、異性から告白を受けるということがはじめてだったので、さすがに少し意識していた。

さやか 「?」

寝起きの意識がはっきりしてくると、空気が刺々しいことに気付く。
間違いなく、殺気だった。

さやか 「敵?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく