デモンバスターズFINAL

 

 

第10話 刀匠村正と大樹ヴィオラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「ふわぁ〜、おっきぃね〜」

前方に見える、天を貫くような大木を眺めながら、さやかが感嘆の声を上げる。
もっとも、俺達が見ているあの木は、大きいなどという言葉で表現できる存在ではないのだが。

さやか 「まだ大分距離あるよね。それでここまで大きく見えるなんて」

エリス 「高さ・・・1000メートルはあるわね。樹というよりはほとんど山ね」

さやか 「でも、やっぱり樹だね、あれは」

エリス 「噂には聞いてたけど、あれが・・・」

祐一 「ああ、あれが恵みの大精霊・・・世界樹とも呼ばれる存在さ」

そして、相沢一族発祥の地でもある。

 

 

 

 

 

 

六天鬼、それにベリアルとの戦いを経て、連中とこの先やりあっていくには全然力が足りないことを痛感した。
ここへ来れば、もしかしたら何かをつかめるかもしれないと思ってやってきてみたが・・・。
いざ来てみると、こみ上げてくるのはまったく別の感情だった。

懐かしい。

これが“俺”の感じていることだ。
そう、かつて“俺”は魔界から地上へ出た後の生をここで過ごし、ここで死んだ。

・・・・・・ここで“彼女”に出会い、子をなし、看取られて死んだんだ。

もう千年近くも昔の話だがな・・・。

 

 

 

大樹を中心とした辺りは、砂漠のど真ん中という場所に関わらず緑が生い茂っている。
この不毛の大地にこれだけの緑をもたらす、それが恵みの大精霊たる所以だ。

さやか 「空気がおいしいね、ここは」

エリス 「それで、ここに何があるわけ?」

ここへやって来た目的は伝えてあるが、その手段までは二人に話していなかったな、そういえば。
だが俺は、二人に答えを返すよりも、先へ進むことに没頭していた。
意識しているわけでもないのに、気持ちが急く・・・自然と足早になる。

この先にいる・・・・・・“彼女”が・・・。

周りの森を抜け、大樹の幹に近付くと、広い場所に出た。
その中央に、一人の女性が佇んでいる。

 

女性 「・・・おかえりなさい」

祐一 「・・・・・・ただいま」

 

微笑みかけてきた彼女に対し、俺は自然とそう返していた。

 

 

 

祐一 「ヴィオラ・・・だな? まさかその姿で出てくるなんてな・・・」

ヴィオラ 「お嫌でしたか?」

祐一 「気にはしないさ。俺は昔の“俺”とは違うからな」

彼女の姿は、かつての“彼女”・・・一乃の姿そのものだった。
もっとも、似ているのは姿だけで、髪や瞳の色、声や仕草にしてもまるで違う。
一乃とヴィオラは同じであって別の存在だ・・・ちょうど祐漸と俺、祐一のように。

祐一 「俺がここへ来ること、わかってたみたいだな」

ヴィオラ 「ええ、存じておりました」

祐一 「なら、頼みがあるんだが」

ヴィオラ 「村正殿でしたら、ここにいらっしゃいますよ」

祐一 「何?」

これには俺も面食らった。
ヴィオラに頼めば、どこにいるかわからないあの男を探せると思ってやってきたが、ここにいるとは意外だった。

祐一 「あの変わり者が一箇所に留まってるなんて珍しいな」

ヴィオラ 「ここへはあまり人が来ませんから」

なるほど・・・人間嫌いだからな、あいつは。
とにかく探す手間が省けた。

祐一 「案内してくれないか、あいつのところへ」

ヴィオラ 「はい」

 

 

ヴィオラという女性に案内されて歩いていく祐一のことを、さやかとエリスはその場に留まって見送っていた。

さやか 「ねぇ、エリスちゃん。村正さん、って?」

エリス 「自称世界最高の刀匠。豹雨の持つ斬魔刀を作った男よ」

さやか 「自称なんだ?」

エリス 「まぁ、たぶん本当に世界最高でしょうね、少なくとも現代においては。今を生きてる人間で、アタシのレヴァンテインみたいな伝説級の武器と同等の刀を生み出したのは、あの男くらいだろうから」

さやか 「ふぅん」

エリス 「今においてはそうだろうけど、史上最高かどうかは、わからないわね。伝説級の武器には本当にとんでもないものがあるから。たとえば・・・名無しの宝剣・・・」

さやか 「名無しの・・・宝剣?」

エリス 「いつ、どこで、誰が作ったのかもわからない・・・銘もなかったから、名無し。気が付いた時には天界に存在していたそうよ」

さやか 「そんな剣があるんだ」

エリス 「ただし、名前がないと不便ということで、いつしかこう呼ばれるようになったわ。究極の武器、アルテマウェポン」

さやか 「それって・・・・・・」

エリス 「アタシもまさか実物を見るとは思ってなかったわ。あの神月って男・・・ほんとに何者なんだか・・・」

さやか 「・・・・・・」

エリス 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・行く?」

エリス 「そうね」

 

 

 

少し遅れて二人がついてくる。
微妙に不機嫌なように見えるのは俺の気のせいだろうか。

祐一 「・・・・・・」

いや、きっと気のせいじゃないだろう。
さすがの俺も、そこまで自分が鈍いとは思いたくない。
たぶん、俺のヴィオラのことが気になってるんだろうな。
だがこればかりは、どう説明していいのか俺にもよくわからん。

祐漸の記憶だって完全なものじゃない。
一乃に関することも、ほとんど思い出せはしないんだ。
ただ一つ、別れの時の言葉を除いては・・・。

 

一乃 『どれほど時が流れても、たとえ私達の姿が変わってしまっても、いつかまた会えると信じているから』

 

“俺”は何らかの事故で、魔界から地上へと出てきてしまい、その時に負った傷が原因で長くなかった。
そんな中、“彼女”と出会い、子を生し、そして“俺”は死んで、今こうして転生している。
一乃にも転生する道はあっただろう・・・だが彼女が選んだのは、この恵みの大精霊と一つになることだった。
だから今、ここに存在しているのはヴィオラであり、一乃である存在・・・・・・。
この不思議な因果をどう説明しろというのか。
まぁ、この辺りの過去話は、あとで二人には聞かせておくか。

ヴィオラ 「いらっしゃいましたよ」

祐一 「・・・いたな」

木の根にできた窪みをベッド代わりにし、片手に酒瓶を手にしたまま眠っている男が、村正だ。
相変わらず酒癖は悪いらしい。

さやか 「お酒くさい・・・」

エリス 「今日はマシな方よ・・・」

祐一 「おい、村正」

村正 「・・・・・・様をつけろぃ・・・くかぁー」

祐一 「起きてんだろ、あんた」

村正 「ぐぉー、ぐぉー」

ぱちんっ

俺が指を鳴らすと、村正の上に大量の水が降り注いだ。

村正 「ぷぅー、いい酔い覚ましになるぜ。ご苦労、小僧」

祐一 「でかい態度も相変わらずだな」

村正 「当然だろ。俺様は世界最高の刀匠だぜ」

祐一 「・・・まぁいい。約束を守ってもらいにきたぜ」

村正 「はてー、何のことだったかな?」

祐一 「豹雨に刀を持ってきた時、いつか俺にも作ってくれって頼んだだろうが」

村正 「言ったっけなぁ、そんなこと。んで、俺様の打つ武器を持つに相応しい強さは身につけたか?」

祐一 「わからん。だが作ってもらわなけりゃ困る。普通の武器じゃ、もう駄目なんだ」

伝説級の武器・・・それでなければ俺の本気にはついてこれない。
そして今、俺が知る限りそれだけの武器を生み出せるのはこの男しかいない。

村正 「・・・材料は? てめぇがほしいだけの武器を生み出すにゃぁ、それだけの材料が必要だぜ」

祐一 「こいつを」

俺は眼前に掌をかざし、力を集中する。
普段生み出す氷とはまったく違う、白銀に輝く水晶のような氷が出現する。

祐一 「あの日から、魔力を洗練し続けて生み出した氷魔石。こいつを使ってくれ」

村正 「・・・・・・・・・いいだろう」

受け取った氷魔石をしげしげと眺めた後、村正はそう言って承諾した。

村正 「上等だぜ。こいつぁ、豹雨の野郎に作ってやった斬魔刀に匹敵するものができるぜ」

祐一 「頼む」

村正 「任せておきな」

 

 

 

 

 

剣が出来上がるまでは数日かかる。
その間は特にすることもないから、ここでゆっくり過ごすことにする。
今は大樹の頂上で、ヴィオラと共にいた。

祐一 「確かか?」

ヴィオラ 「半月ほど前でしょうか。南の方角に時空の歪みを感じました。すぐに消えてしまったので、確証はありませんが」

祐一 「まず間違いないな・・・」

オシリスは、ここの近くにいると言っていた。
それに加えてヴィオラが感じたという大きな力の存在。
南の砂漠に、奴らがいるということか。
だが、それらしい気配は感じない、当然だが。

祐一 「・・・しかし妙な話だな」

ベリアルがあっさり引き下がったことと言い、何故あいつらはそこまで自分達の存在を隠す。
そもそも何が目的で地上までやってきた。
それにベルゼブルは“奴ら”と言っていた。
これの意味するところは何か・・・。

祐一 「おまえには何かわかるか、ヴィオラ?」

ヴィオラ 「さあ。私は、あなたの知らないことを知っているとは思いますが、あなたが求めていることを知っているとは思いません」

祐一 「だろうな」

魔族の目的が何か、そればかりはいくらヴィオラでも知りようがないだろう。
考えてもわかりはしないだろうし、探ろうにもその手段がない。
とりあえず剣が出来上がるまではここを動けないし、その間何をしたものか・・・。

ヴィオラ 「お墓参りでもされてはどうです?」

祐一 「・・・・・・この場に転生した二人がいる、その“二人”の墓参りに俺が行く?」

ヴィオラ 「おかしいですか? お墓をお手入れは毎年していますよ」

祐一 「おまえは妙な感じにはならないのかよ?」

ヴィオラ 「んー・・・もう慣れました」

にっこり笑ってそんなことを言う。
確かに千年近くもやってれば違和感もなくなるか。
それでもやはり、かつての自分の墓を詣でるというのはどんなものだろう。

祐一 「・・・ま、気が向いたらな」

本当に気が向いたらそんなのもわるくない。

ヴィオラ 「・・・ところで」

祐一 「?」

ヴィオラ 「あの方達は?」

下の方・・・って千メートル近くも下でここからはさっぱり見えない辺りだが、そこに目を向けながらヴィオラが問う。
そこにいるのは当然、さやかとエリスだ。

祐一 「さっき紹介しただろ。仲間だよ」

ヴィオラ 「ただの、お仲間?」

祐一 「・・・・・・」

ヴィオラ 「くすっ、なんとなくわかりました」

祐一 「あのな・・・」

ヴィオラ 「それで、どちらが本命なんですか?」

祐一 「・・・知らん」

嫌な性格してやがるな、こいつは。

ヴィオラ 「前世での恋人としては、気になるところです」

祐一 「今は違う。おまえに話す義務はないだろうが」

ヴィオラ 「そうですね」

あっけらかんとしている。
一見すると物腰とかは一乃よりもおとなしそうに見えて、性格の方はそうでもないらしい。
やっぱりこいつも俺と同じで、前世と今とじゃ違うんだな。

ヴィオラ 「祐一様」

祐一 「ん?」

ヴィオラ 「大切にしなくてはいけませんよ」

祐一 「心配いらん。あいつらは強いからな」

ヴィオラ 「彼女達のこともですけど、あなた自身もですよ」

祐一 「む・・・」

ヴィオラ 「残されるというのは、辛いことです」

祐一 「・・・・・・そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬鬼 「何のつもりだよ、絶鬼。いきなり呼び戻しやがって」

覇鬼 「説明してもらおうか?」

絶鬼 「大したことじゃねぇよ」

その場には、絶鬼を中心に残り五人の六天鬼全員が集合していた。
つい数日前にカノンを出る際に別れたばかりであるが、急遽絶鬼が他の面々を呼び戻したのだ。

絶鬼 「どうやらちょっとばかりデモンバスターズとやらをなめてたみてぇなんでな」

怨鬼 「それで、どうするのです?」

絶鬼 「こうやって集合したんだ。決まってんだろ」

鉄鬼 「・・・なるほどな」

一人、鉄鬼はそれだけで納得して頷く。
他の三人は若干不満顔ではあったが、絶鬼の言わんとしていることは理解していた。

絶鬼 「遊びは終わりだ。六天鬼の全力をもって、奴らを潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき

みなさま、長らくお待たせを・・・いや、待ってないか?
どっちにしろ、平安京ようやく復帰です。と同時に、またしてもオウガバトルの方は一時公開停止とさせていただきまする。今のが問題あるというわけではなく、ただ、最近クリアした新作ゲーム・Fateがあまりにおもしろく、絡めないことには気がすまなくなったため、そこのところを考慮した上でさらなるリメイクをしたいと思ったわけであります。
デモンの方は既にクライマックス寸前であり、今さら新キャラを登場させる余地はありませんが、もう一方のSSでは数々の新しい試みを考えて(そんな大袈裟なものではないが)いるので、別に待たなくてもいいですが、とりあえず待ってやってくださいな。