デモンバスターズFINAL

 

 

第9話 獣魔王ベリアル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的。
まさにその一言だった。

ドォッ!

豹雨 「ぐほっ・・・!」

痛烈なボディーブローを喰らって、もう何度目かになるが豹雨の身が地面に沈みかける。
ぎりぎりで踏みとどまっているのは豹雨だからこそだ。
だがそれで手を休めてくれるほど甘い相手ではない。

ベリアル 「おらよ」

膝をつきかけたところへ蹴りが来る。
大木の丸太を振り回したような威力を持った魔神の蹴りを、豹雨はなんとかガードするものの踏ん張りきれず、数十メートルも吹き飛ばされた。

豹雨 「ちぃっ」

ベリアル 「しぶとい奴だな、人間のわりには」

あの豹雨がここまでやられるのを見るのははじめてだ。
しかし、相手がベリアルならそれも納得できてしまう。
その力は人間など遥かに及ばないほど、圧倒的なのだ。

祐一 「・・・・・・」

加勢したいところだが、豹雨はそれを許さない。
あの男は命よりもプライドを取るような奴だからな。
本当のぎりぎりまでは、手を出すわけにはいかない。

ベリアル 「いい加減身の程ってもんがわかったろぉが。俺様は他の用があるんだよ、とっとと死にな」

豹雨 「・・・ならさっさと殺してみろよ」

ベリアル 「・・・・・・なに?」

豹雨 「ごたくを並べる前に殺してみろってんだよ。できねぇのか、羊野郎」

・・・口先だけは何があっても絶対減らないよな、豹雨は。
あの自信はどこから来るんだかよくわからないが、あいつの場合は本当に自信が絶対のものになりそうな気がする。
魔神すら超えるか・・・人間でありながら、この男は・・・・・・。

ベリアル 「どうやら本当に力の差がわかってねぇみたいだな。なら教えてやるぜ、この獣魔王ベリアル様の本当の恐ろしさをな!」

来るか!
奴が本気になったらマジでやばい。

対する豹雨は、猛るベリアルとは反対に落ち着いて佇んでいた。
常に内側からほとばしる闘気を発していたあいつが、今は周囲に溶け込むように静かだ。
まさにそれは、剣の極意・・・無心の境地・・・・・・。

ドンッ!

祐一 「!!」

ベリアルが大地を蹴る。
それだけで大魔法を叩きつけたような爆発が起こる。
そんな勢いで跳躍したベリアルの攻撃が豹雨に迫る。

豹雨 「・・・・・・」

スゥ・・・

祐一 「っ!」

ドゴォォォォォッ!!!

魔神の一撃が大地を割る。
だが、豹雨は紙一重でそれを回避していた。
あの超高速の動きを、見切ったのか?

ベリアル 「人間がぁ! おとなしく潰されちまいなっ!!」

再びベリアルが豹雨へ仕掛ける。
だがどれほど攻撃しても、豹雨は全てをかわしていく。
まるで、暖簾に腕押しって感じだな。

ベリアル 「この・・・」

豹雨 「・・・・・・見切ったぜ、てめェの動き」

ベリアル 「何・・・・・・ぅ!?」

あいつの姿が、おそらく今一瞬ベリアルの視界から外れた。

豹雨 「言ったろうが、魔神だろうが何だろうが関係ねェ。向かってくる奴はぶった斬るだけだ・・・・・・かむなぎ」

 

ザシュッッッ!!!

 

交叉する、二つの影が。
さすがは百戦錬磨のベリアルだけに、あの至近距離からの斬撃をほとんど本能だけで回避した。
だが・・・・・・。

豹雨 「感じただろう、静寂の刻を」

音が消える・・・光も消える・・・そんな一瞬の静寂の後・・・。

ボトッ

地面に落ちるものがあった。
角だ。
ベリアルの。
獣魔王の左の角が、根元から断たれて落ちた。

ベリアル 「お・・・ぉ・・・・・おぉ・・・・・・・・・」

僅か一太刀。
しかしベリアルにしてみれば、これほどの衝撃と屈辱はない。
見下している人間風情に、自分の角を斬り落とされたのだから。

ベリアル 「・・・・・・・・・」

静かに打ち震えるベリアル。
・・・まずいな。

ベリアル 「・・・きさま・・・」

さっきまでとは打って変わって静かな声。
だがそれゆえに、奴の怒りが・・・伝わってくる。

ベリアル 「この・・・俺の・・・・・・俺のぉ・・・! 最強の魔神・・・獣魔王ベリアル様の角をぉぉぉ!!」

豹雨 「なら覚えておけ。それを斬り落としたのは、最強の男、斬魔剣の豹雨だ」

ベリアル 「・・・豹雨・・・・・・貴様は・・・殺す」

バキッ!!

一瞬・・・刹那もあったかどうか。
奴の姿が消えたと脳が判断した時にはもう、豹雨の身が地面に叩きつけられていた。
真上から拳を振り下ろしたのか、と判断した時には、引き出された豹雨が吹き飛ばされていた。
あまりに速く、あまりに凄まじく、その動きを理解するよりも速く事が進んでいく。

祐一 「・・・・・・」

どっと吹き出した汗が一気に引く。
これはもはや、人間の知覚能力の範囲を超えている・・・。

過去の記憶が、知識としては伝えてきているはずだった。
しかし、人間の身で感じて改めてその凄まじさに戦慄する。
これが魔界でも十傑に数えられる最強の魔神の一人、獣魔王ベリアルの真の力か・・・・・・。

豹雨 「ぐっ・・・!」

刀を杖にして豹雨は辛うじて立っている。
だがもう限界はとっくに超えてるはずだ。
今は気力だけで立っている状態だろう。
これ以上は黙って見てるわけにはいかないか。

ベリアル 「塵も残さず消し飛びな」

右腕にためた魔力の塊をベリアルが放つ。
間に合うか!

祐一 「うぉおおおおおおお!!!!」

ベリアル 「!!」

氷の壁を全開にして張る。
分厚く、さらに分厚く・・・。

 

ドゴォォォォンッ!!!

 

祐一 「くっ・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

ぎりぎり、防げたか。
俺と豹雨が立ってるところ以外は地形が変わってやがる。

ベリアル 「邪魔をするなよ祐漸。てめぇはそいつの後でしっかり殺してやるからよ」

豹雨 「どけ祐一。その羊野郎の相手はこの俺だ」

前後から非難を受けるが、こればっかりは譲れないな。
豹雨は俺の仲間であり、いつか倒すべき目標の一人なんだ。
ここで殺されたりされたら困るんだよ。
楓さんの悲しむ顔も見たくないしな。

祐一 「悪いが、邪魔させてもらうぜ、この戦い」

まぁ、もう戦いとは呼べない、一方的ななぶり殺しに近かったが。
それは今でも変わっていないか。
本気を出したベリアルが相手じゃ、俺と豹雨の二人がかりでも勝負になるかどうか・・・。

ベリアル 「そうかよ。ならまとめて死にな!」

再び奴の右手に魔力が集まる。
今度同じやつが来たら防ぎきれないな。
無限陣を使って、氷魔撃滅斬で相殺・・・・・・無理だ、奴の力がたまる方が遥かに早い。

豹雨 「どけっつってんだろ」

祐一 「嫌だね。おまえに指図されるいわれはない。元々奴とやりあってたのは俺だしな」

万事休すか。

ベリアル 「死・・・」

来る!

 

ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!!

 

ベリアル 「ん!? ぬぉおおおお・・・!!」

ドォォォンッ!!!

俺達の背後から放たれた真紅の熱線がベリアルに直撃する。
それに怯んだ奴の魔力が霧散する。

ベリアル 「何が・・・」

さらにそこへ向かって跳躍する影が見えた。
小柄なその影は、ベリアルに向かって拳打を浴びせかけ、大地に向かって叩き落した。

ドゴォンッ!!

奴は大地に沈み、俺の前に降り立ったのは・・・。

祐一 「エリス!」

エリス 「やっぱり面倒なことになってるし、あんた達は」

気配がするのはこいつだけじゃなく、もう一人・・・。

さやか 「私もいるよ」

炎の鳥、ゴッドフェニックスを従えたさやかが、後方の岩の上に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶鬼 「いってぇー・・・・・・ったく、なんなんだよ、いったい」

衝撃に吹き飛ばされた際に打ち付けた部分をさすりながら、絶鬼は祐一達の様子を見ていた。
己を最強と自負し、あらゆる敵を打ち倒してきた絶鬼だったが、ベリアルの存在に本能で危険を感じ取って離れていた。
似たもの同士かに思われた豹雨と絶鬼の、ここが違いと言えば違いかもしれない。

絶鬼 「世の中まだまだ化け物はいるもんだねぇ。さて、俺はどうするか・・・」

?? 「絶鬼」

絶鬼 「あん? ああ、あんたかよ」

?? 「ここは退け」

絶鬼 「いいのかよ?」

?? 「あいつらと戦う機会は、いずれ必ず訪れる」

絶鬼 「・・・ま、考えるのは俺の専門じゃないんでね。わかったよ」

戦わんとした相手、戦っていた相手。
願わくば再び生きて彼らと相見えんことを、そう絶鬼は思いその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォンッッッ!!!

大地が割れ、砕けた岩土が舞い上がる。
その中心に拳を掲げて立っているのは、ベリアルだ。

祐一 「・・・さすがに」

エリス 「あの程度でダメージを喰らう相手じゃない、か」

さやか 「とんでもないね・・・」

豹雨 「・・・・・・」

俺達はそれぞれに身構える。
だが、俺と豹雨は限界ぎりぎりというか既に超えてる状態で、エリスとさやかが加わっても奴との力の差がそうそう埋まるわけでもない。
とりあえずのピンチは凌いだが、次は厳しい・・・。

ベリアル 「・・・ブラッドヴェインの小娘に・・・また人間か。いい加減頭にきたぜ」

さっきからずっと頭にきてる奴が今さら何言ってやがる。
などと毒づいてみたところで、状況は少しも好転しない。

エリス 「その人間相手に結構てこずってるじゃないの。獣魔王ともあろう者が」

さやか 「前ばかり見てるから、さっきみたいな不意打ちも受けてくれるしね」

これは二人の精一杯の強がりだ。
エリスは俺以上に奴らの強さを肌で感じて知っているし、さやかもシヴァ戦で魔神の恐ろしさはわかっているはずだからな。

豹雨 「おまえらは引っ込んでろ。奴は俺がやる」

この状況においてなお絶対の自信を崩さないのは、豹雨だけだ。
だが、エリスやさやかの挑発じみた強がりよりも、豹雨の一言はよほどベリアルの腹に据えかねるようだ。
奴にとっては取るに足らない人間風情の戯言と聞き流せることのはずなのに・・・。
ベリアルも薄々感じているんだ、豹雨という男の強さを。

ベリアル 「本気で死にてぇらしいな、貴様」

豹雨 「ぐだぐだ言う前にやってみろと言ったろう」

ますます魔力が高まるベリアルと、刀を杖にして辛うじて立っているぼろぼろの豹雨。
どちらが優位かは一目瞭然だというのに、まだ互角の勝負をしているかのうようなこの空気は・・・。

ベリアル 「いいだろう。望みどおりにしてやるよっ!」

振り上げたベリアルの拳に魔力が集まる。

ベリアル 「消え去れぇ!!」

拳が振り下ろされ、魔力が一気に解放される・・・・・・はずだった。
だがベリアルの拳は、途中で横から伸びた手につかまれて止まっている。

ベリアル 「貴様・・・何のつもりだ!?」

祐一 「オシリス・・・」

攻撃を止めたのは、オシリスであった。
その突然の登場に対し、ベリアルは激昂しているが、オシリスはいたって落ち着いていた。

オシリス 「貴様こそ、何故ここにいる? こちらから祐に会いに来るのは互いに禁じたはずだが」

ベリアル 「知ったことじゃないな。だいたい何だ、奴の情けない姿は。所詮人間の器で俺らの上に立つなんざありえねぇんだよ」

オシリス 「それは今議論することではない。問題なのは、この地上で貴様が力を解放している現状にある」

ベリアル 「だからどうした。だいたい俺様はこそこそしてんのは性に合わねぇんだよ」

?? 「そう言わずに、ここは退け」

さらに、聞いたことのない三人目の声が響く。
オシリスとベリアルの目の前に光の玉が浮かび上がり、それが段々と人の輪郭を帯びていった。
はじめて見る奴だが、魔神であることは間違いないな。

ベリアル 「ベルゼブル・・・・・・」

あれが、あの有名な蠅の王、ベルゼブルか。

ベルゼブル 「貴様が暴れたせいで“奴ら”の一部が動き出した。下手をすると計画に支障が出る。軽挙だな、ベリアル」

ベリアル 「ちっ、俺には計画がどうなろうと知ったことじゃねぇ! 人間の分際でこの俺の角を折りやがった奴をぶち殺す!」

ベルゼブル 「・・・その体でか?」

ベリアル 「何・・・・・・・・・ぐっ・・・!?」

ドシュゥゥゥッ

突然ベリアルの胸が斜めに裂ける。
今負った傷ではなく、先の攻撃によるダメージが今になって・・・。
あの時の豹雨の“かむなぎ”は、角だけでなくベリアルの体を斬り裂いていたんだ。
それにあいつは、俺、さやか、エリスの攻撃もほとんどもろに喰らっていた。
蓄積されたダメージが一気に弾けたのか。

ベルゼブル 「そのダメージでは彼らには勝てんだろう。おとなしく引き下がることだ」

ベリアル 「・・・ちぃっ! ・・・・・・わぁーったよ」

傷口を押さえながらベリアルは、憎悪の視線を豹雨に向ける。

ベリアル 「この俺様にこれだけの傷を負わせるとはな・・・・・・てめぇは必ず、この俺の手で殺す。その時までその名、忘れんぞ、豹雨!」

吐き捨てるように言い放つと、ベリアルは姿を消した。
同時にオシリスもいなくなっていた。

ベルゼブル 「はじめまして、と言っておこうか。蠅の王ベルゼブルだ。ゆっくり話もしたいところだが、またの機会にするとしよう」

片手を上げてみせると、幻だけを送り込んでいたベルゼブルの姿も消え去った。

 

 

 

 

 

 

豹雨は無言のまま、澄乃としぐれさんを連れて立ち去った。
痛み分けだったとはいえ、実際には負けに等しい戦い・・・・・・豹雨にしてみれば内心穏やかならぬものがあるだろう。
あいつのことだから落ち込むなんてことは絶対になく、またすぐに戻ってくるだろう。
決着をつけるために。

俺はというとだ、さやかとエリスから散々勝手に出てきたことに関する文句を言われたのを右から左へ聞き流していた。
そして、琥珀はほたるを連れて水瀬屋敷へ帰ると言い出していた。

琥珀 「このままわたしがついて行っても足手まといにしかなりませんし。ほたるちゃんを取り返せただけでもよしとします」

祐一 「いいのか?」

琥珀 「はい。その代わり、お願いがあります」

祐一 「何だ?」

琥珀 「これ以上、わたし達のような犠牲者が出ないようにしてくださいね」

祐一 「・・・ああ、必ずな」

それを成すのが俺になるか郁未になるかはわからんが、とにかくあの男、マギリッドは倒す。

 

ほたるを連れた琥珀が去ると、俺はさやかとエリスを連れ立って、改めて目的地を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく