デモンバスターズFINAL

 

 

第8話 壮絶!豹雨vs絶鬼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるでそこだけが別空間のような感じだった。
二人が立っている場所には、人も動物も虫も寄り付かない。
そこに群生している植物さえ、逃げ出そうとしているかのように外側を向いている。

豹雨と絶鬼。

この二人の発する闘気と殺気が、何人たりともそこへ近寄らせないでいるのだ。
高まり続ける緊張感は、もういつはじけてもおかしくない状態だった。

祐一 「・・・もっと離れた方がいいな。こいつらの戦い、どこまで激しくなるか想像もつかん」

琥珀 「そうですね」

澄乃 「えう〜」

しぐれ 「・・・豹雨様」

俺達は充分に距離をとって二人のことを見守っていた。
相手を横取りされたとか、消耗しているところで戦わずに済んでよかったとか、そういうことは一切頭に浮かばない。
ただ、この二人の戦いを見てみたいと、俺は思っている。
50年前と今、それぞれの時代で最強と謳われた六天鬼とデモンバスターズ・・・それを束ねる者同士の対決。
一瞬たりとも目が離せん。

 

 

 

 

絶鬼 「へっ」

長さも重さも自分の体を遥かに上回る大矛を絶鬼は頭上で旋回させる。

豹雨 「ふん」

それに対して豹雨は大太刀を肩に担いで持っている。
長さ五尺余りという豹雨の大太刀だが、絶鬼の得物の前では小さく感じられた。
さらに、回転を加えられた大矛は、本来よりも大きく見える。

絶鬼 「行くぜ」

豹雨 「来な」

大矛を旋回させたまま、絶鬼が跳ぶ。

絶鬼 「とくと見な! こいつが絶鬼様の相棒、絶天戟だ!」

その超重量級の武器の一撃は、人間の体をいともたやすく一刀両断することができよう。
そこへ加えて、それを自在に操る絶鬼の豪腕。
まさしく必殺の一撃が振り下ろされた。

ズドンッ!!

地面が割れる音が響き渡る。
しかしそれは、絶天戟が大地を割ったものではなく・・・。

豹雨 「なかなかいい得物じゃねぇか」

絶鬼 「てめぇのもな」

大地を踏み砕いているのは、絶鬼の一撃を受けた豹雨の両足であった。
凄まじい破壊力を持った絶鬼の攻撃を、豹雨は頭上に掲げた刀で正面から受け止めたのである。

絶鬼 「いい刀だな。銘を聞いてやろうか」

豹雨 「斬魔刀村正。おまえをぶった斬る刀の銘だ。よく覚えておきな」

絶鬼 「ああ。てめぇの墓標代わりにしてやるよ!」

受け止められた反動を利用して一度後方へ退き、今度は下からの突きを狙う絶鬼。
超高速で突き出された矛の先端を、豹雨は刀の切っ先でピタリと押さえ込む。
数秒間の硬直の後、二人は同時に相手の武器を弾きあって移動を開始する。
どちらも同じ方向へ向かって走る。

絶鬼 「うらぁっ!」

リーチの長い絶鬼の方が三度先に仕掛ける。
移動状態から急停止をかけながらの斬撃。
足元に繰り出された攻撃を、豹雨は跳躍してかわした。
そのまま相手の頭上目掛けて刀を振り下ろす。

ブゥンッ!!

だが同時に、絶鬼も下から掬い上げるように矛で斬り上げていた。
二つの刃が閃き、次の瞬間には二人の立ち位置は入れ替わっていた。

豹雨 「・・・・・・」

絶鬼 「・・・・・・」

互いに相手の方へ向き直った時、絶鬼の額から血が流れ落ち、豹雨の着物の左袖が裂けた。

豹雨 「まだまだだな」

絶鬼 「本気で来いよ、豹雨」

豹雨 「絶鬼とか言ったな。俺に本気を出させられるか?」

タッ!

踏み込んだ瞬間、豹雨は既に絶鬼の間合いの内側に入り込んでいた。
長柄はリーチを活かせる間は圧倒的に有利な武器だが、懐に入られると弱い一面をもっている。
もっともそんなことは、絶鬼は百も承知だった。

絶鬼 「ふんっ!」

間合いの中へ入ってきた豹雨に対し、絶鬼は下がることなく逆に自分から間を詰めた。
そして豹雨の刀が振り下ろされるより前にその腕に向かって拳を打ち出す。

ガッ!

拳を柄で受け止めた豹雨の動きが止まる。
そこを見逃さず、絶鬼は矛を捨てて殴りかかった。

バキッ!

豹雨 「っ・・・!」

大矛を自在に操る絶鬼の豪腕から繰り出される拳もまた、絶大な威力を秘めている。
それをまともに喰らった豹雨だったが、一歩退いただけで踏みとどまる。
逆に空いている左手で絶鬼の顔を鷲掴みにして、押し倒すように地面に叩きつけた。

ドゴォッ!

絶鬼 「ぐぉ・・・っ!」

割れた地面にはめ込まれた絶鬼の頭上から豹雨の刀が突き下ろされる。
刀は大地に突き刺さり、絶鬼の姿は数メートル先にあった。

絶鬼 「へへっ」

豹雨 「ぺっ・・・ふっ」

口元に流れた血を拭って笑みを浮かべる絶鬼。
唾と一緒に血を吐き出して笑う豹雨。
どちらも戦いの高揚感で極限まで昂ぶっていた。

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・」

時間にしてみれば、それほど長い間じゃない。
2、3分もないであろう攻防だったが、その激しさは言葉にしきれない。
だが何より俺を驚かせるのは、豹雨の力だった。

祐一 「・・・まだカノン大武会で戦ってから一ヶ月足らずだぞ・・・」

正直、絶鬼の強さは想像以上だった。
剛鬼なんかまったく相手にならないほどの圧倒的パワーとスピード。
もしあのまま戦っていたら、俺は負けていたかもしれない。
しかし豹雨は、その絶鬼とまったくの互角・・・いやそれ以上だ。
その力は、カノンで会った時をさらに上回っている。

雛瀬豹雨・・・斬魔王。
こいつの強さは、本当に底が知れない。

少し近付いたと思ったらもう引き離されている。
この男相手には、たとえ真魔の血を解放したとしても勝てるかどうかわからない。

絶鬼 「さーて、続きをやろうぜ」

豹雨 「いいだろう」

また激突が始まる。
さっきよりも、おそらくもっと激しい・・・。

祐一 「・・・・・・?」

・・・なんだ?
この感覚はまるで・・・真魔の刻に近い・・・。

そうだ。
ついこの間、あいつが来た時と・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

絶鬼 「うぉおらぁぁぁぁぁ!!!!」

豹雨 「おぉおおおおお!!!!」

さらに強く、さらに速く、二人は相手に向かって突っ込む。

ギィンッ!!!

両者が繰り出した斬撃が二人の中間でぶつかり合い、火花が散る。
数秒間の鍔迫り合いの後、パワーは互角と見て一旦退く。
つづけて絶鬼は斬ると見せかけて突きを放つ。

豹雨 「甘ェよ!」

相手の刃を引き込むようにして豹雨は突きを横に受け流し、そこから自分の斬撃を放つ。

絶鬼 「のはどっちかな!」

受け流された矛を強引に引き、豹雨の背中へ向かって斬りつける。
即座に察知した豹雨は横に跳んでこれを回避した。
横に身をかわした状態から横薙ぎの一撃を放つ。
対して絶鬼も大矛を薙ぐ。

ガキィッ!

再び両者の刃が正面からぶつかり合う。

豹雨 「ぬぅぅぅぅぅ」

絶鬼 「ぐぉぉぉぉ」

パワーは互角、スピードも互角、そして駆け引きにおいても優劣はつかない。
勝負がつかずにじれったさも感じるが、それもまた二人には心地よかった。
この楽しいひと時を、いつまでも過ごしていたいという感覚・・・。

豹雨 「だが、勝つのは俺様に決まってんだよ」

絶鬼 「この俺が負けるわきゃねぇ」

一歩も譲らない二人の鍔迫り合いは続く。
僅かでも気を緩めれば一瞬で押される状態で、二人は己の勝利を疑わない。
自分自身の強さに対する絶対の自信・・・それが二人が共通して持っているものだった。

絶鬼 「ケリ、つけようぜ!!」

豹雨 「やってみな!」

互いに弾きあって距離を取る。
絶鬼は頭上で大矛を、先ほどよりもさらに速く大きく旋回させる。
豹雨は普通に剣を持っているだけだが、気迫は前よりもさらに高まっていた。

豹雨 「おまえにも感じさせてやるよ、静寂の刻を」

絶鬼 「おもしれぇ。俺も最高の技で行ってやるぜ」

 

 

 

 

 

戦いの空気が最高潮に達する。
いよいよ決着の時が訪れようとしているっていうのに、この嫌な予感は・・・。
何かが起ころうとしている。

絶鬼 「消し飛びなっ、鬼神絶天波!!」

豹雨 「神魔必滅・・・・・・かむなぎ!」

二つの必殺技が、今まさにぶつかろうとしていたその時・・・。

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

祐一 「な・・・!!?」

巨大な閃光が、降ってきた。
二人のちょうど中間に。

絶鬼 「な!? う・・・うぉおおおおおおおおお!!!!!」

豹雨 「ぐっ・・・!!」

凄まじい力の奔流に流され、二人は大きく吹き飛ばされる。
必殺技を放つ直前の、力が最高に高まっている状態の二人を一撃で吹き飛ばす。
そんな馬鹿みたいな真似が可能なのは・・・!

?? 「くっくっくっく」

祐一 「貴様・・・・・・」

俺は、こいつをよく知っている。
できれば今、一番会いたくない奴ワースト1位かもしれないほどやばい奴だ。
タイミングが悪すぎだ・・・。

祐一 「ベリアル・・・」

ベリアル 「ようやく会えたな、祐漸!」

遥かな昔。
つまりは俺がまだ“祐漸”であった頃、幾度となく戦った相手。
聞いた話によれば、今は魔界最強と言われる四魔聖とやらの一人らしい奴。
獣魔王ベリアル。

祐一 「何しにきやがった・・・唐突に何の前触れもなく現れやがって」

ベリアル 「あんだよ。長いこと会わない間に随分と焼きが廻ったみてぇだな。俺様がてめぇの前に現れるのに他の理由があるとでも言うのかよ?」

祐一 「・・・・・・」

だから嫌なんだよ、この戦闘狂が。
俺も昔の“俺”だったら受け入れるんだろうが、いい加減言い飽きてるように俺は祐一であって祐漸じゃない。
こいつの望むような真似はできないんだがな。
もっとも、それを言って納得するような奴でもないか。

やるしかないか・・・・・・。

祐一 「おまえらは下がってろ。巻き添えくったら死ぬぞ」

琥珀 「祐一さん・・・」

澄乃 「えぅ・・・豹雨ちゃん、大丈夫かな?」

しぐれ 「私達は、豹雨様のもとへ行きましょう。ここにいても、邪魔になるだけですから」

澄乃 「うん・・・」

澄乃としぐれさんは豹雨の方を見に行った。
琥珀はほたるを連れてさらに遠くまで下がった。

祐一 「さて・・・と」

これでとりあえず巻き込む心配はないだろう・・・・・・たぶんな。
ここが地上である以上、こいつもあまり無茶はしないだろうと信じたいものだが。
ベリアルだからな・・・。

ベリアル 「やる気になったか」

祐一 「ああ」

ベリアル 「がっかりさせるなよ。所詮人間の器じゃ限界があるなんてオチは許さねぇからな」

祐一 「・・・・・・」

無茶を言ってくれる。
どうがんばったって、人間である以上魔神と互角に戦えってのは無茶がある。
しかもこいつの力は、シヴァをも上回ってるんだ。

祐一 「・・・・・・」

まぁ、やれないこともないか。
こいつが現れた瞬間からあの感覚が蘇りつつある。
真魔の血が、目覚めるか。

ベリアル 「行くぜぇ!!」

来る!

ドッ!!!

大地を蹴るだけで地震が起こったような震動が伝わってくる。
それだけの勢いで踏み込んだわけだから、当然スピードも計り知れない。
だが・・・・・・見える!

祐一 「うぉおおおお!!!!」

氷の壁は五枚重ねて奴の突撃をガードする。

ベリアル 「そんな薄い壁を何百枚重ねたところで・・・」

祐一 「な・・・!」

バキィッ

ベリアル 「このベリアル様の攻撃を防げると思うなよ!!」

五枚の壁がたやすく割られ、奴の拳が眼前に迫る。
ぎりぎり回避するのが精一杯で、その後の行動なんかまるで考える暇がなかった。

ベリアル 「遅ぇぞ!!」

素早く切り返して追い討ちをかけてくる。
これは回避したりしてる場合じゃない。
そう判断した俺は逆に懐に入り込んでカウンターを狙う。
力は充分にたまっている。

祐一 「氷魔滅砕!!」

ゼロ距離からのフルパワー攻撃。
完全に直撃のはずだ。
氷の渦に巻き込まれ、奴の体が宙に飛ぶ。
手を休めはしない!

祐一 「喰らえっ、氷魔撃滅斬!!」

渦に巻き込まれて動けない奴に向かって、正真正銘全力の一撃を叩き込む。
二つの必殺技が交叉し、絶対零度を超える凍気が全てを崩壊させる・・・はずだ。
普通なら、な。

ドゴォッ

まともに攻撃を喰らった奴の体が地面沈む。
俺はといえば、限界近い力を引き出したせいで早くも息が上がっていた。

祐一 「はぁ・・・はぁ・・・・・・」

もう一度同じことをやれと言われてもできないぞ、絶対。
けど・・・これで決まるような相手なら最初から苦労はしないんだよな・・・。
奴は立ち上がって、体についた埃を払っている。

ベリアル 「・・・がっかりさせるなって言ったろうが」

しかしまさか・・・ノーダメージなんて冗談きついぜ・・・。

ベリアル 「所詮人間の器なんぞじゃこんなものか。つまらねぇな。とっとと殺してやるから、今度はもう一度魔神になって転生してきな」

やばい。
万事休すだ。

ベリアル 「消えな!」

ドゴォッ!!!!

ベリアル 「ぐぉおおおっ!?」

横から繰り出された一撃をモロに喰らって、ベリアルが吹っ飛ぶ。
それが放たれた方向を見ると、刀を振りぬいた状態の豹雨が立っていた。

豹雨 「人様の邪魔して勝手に盛り上がってんじゃねェよ、この羊野郎が」

羊・・・って、確かにベリアルの角は羊みたいな形してるが・・・。

ベリアル 「・・・貴様ぁ・・・・・・人間如きがこの俺様に歯向かおうってのか」

豹雨 「ごちゃごちゃうるせぇよ。魔神だろうが何だろうが関係ねェ。邪魔する奴はぶった斬るだけだ」

ベリアル 「上等だ。人間風情が、身の程を思い知りな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく