デモンバスターズFINAL

 

 

第7話 非情なる人形

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そいつが姿を現したのは、剛鬼を倒してから五日後のことだった。
目的地にもかなり近付いた辺りで、奴は道のど真ん中で、俺のことを待っていやがった。
会った瞬間に、そいつが亡霊であることがわかった。
そしておそらく、そいつが奴らの中で最強の敵であると・・・。

祐一 「おまえが六天鬼の頭か」

絶鬼 「そういうこった。俺の名は絶鬼、六天鬼を束ねる最強の修羅にして、命を絶つ者だ」

闘気、殺気、威圧感・・・どれをとっても今まで戦ってきた相手の中でトップクラスだ。
ずっと昔に死んだとはいえ、こんな奴が人間の中にいたとはな。

祐一 「世の中まだまだ広いってことか」

ただでさえ強かったあの剛鬼をも従える野郎。
果たして、今の俺にこいつが倒せるか?

琥珀 「祐一さん・・・」

祐一 「下がってろよ、琥珀。こいつとの戦いはとんでもないことになる」

絶鬼 「まぁ待てよ。おまえの相手は俺じゃねぇ」

祐一 「何?」

絶鬼 「俺がこのまま相手してやってもいいんだが、その前の前座があってもいいだろう」

どういう意味だ?
他の六天鬼がいるのか・・・だがこいつ以外に馬鹿でかい気を感じない。

絶鬼 「聞いた話によると、おまえの知り合いらしいな。ま、楽しんでくれよ」

そう言って奴が横にどくと、その後ろに人影が見えた。
白で統一された小柄な姿、それは・・・・・・。

祐一 「・・・ほたる?」

琥珀 「ほたるちゃん?」

それは、以前少しの間だけ水瀬屋敷にいた少女、ほたるだった。
今あそこにいるセリシアにとっては妹にあたる、マギリッドが生み出した魔導実験体の少女。
しかし、元から感情の起伏に乏しい奴だったが、今はその表情に一切の感情が見て取れない。

ほたる 「・・・・・・」

祐一 「・・・どういうことだ?」

絶鬼 「俺に聞くなよ。マギリッドの野郎はこいつを連れて行けって言ってただけだからな」

余裕の笑みを浮かべている絶鬼の横をすり抜けて、ほたるがこちらへ歩いてくる。
そして何の前触れもなく・・・・・・跳んだ。

祐一 「!!」

俺は咄嗟に琥珀を突き飛ばし、自身も横へ倒れこむようにして逃れる。
繰り出されたほたるの一撃が、地面を割った。
とんでもないスピードとパワーだ。

琥珀 「ほたるちゃん!」

祐一 「下がれ琥珀! こいつの力、セリシアの比じゃないぞ!」

同じ魔導実験体・・・って言われてもすぐにピンと来ないほどの違いだ。
セリシアは確かに強かったが、それでも余裕をもって対処できるレベルだった。
だが今のほたるの攻撃は、避けるのが精一杯だ。
ここまでの力を秘めてたのか、こいつは?

ほたる 「・・・・・・」

どうやらほたるの標的は俺一人みたいだな。
琥珀の方を狙われないのは不幸中の幸いか。

ヒュッ

視界からほたるの姿が消える。
このスピードは、剛鬼と同等かそれ以上だ。

祐一 「ちぃっ!」

真横からくる攻撃を氷魔剣でガードする。
だが連続して二撃目が背後から訪れた。

ドゴッ

祐一 「がはっ!」

背骨が軋む音が聞こえるほどの一撃。
こんな重い攻撃をいくらも喰らっていられないな。
反撃したいところだが、相手がほたるじゃ傷つけるわけにもいかないか。
牽制のつもりで攻撃し、ほたると距離を取る。

祐一 「ふぅ・・・」

琥珀 「祐一さん、ほたるちゃんは・・・」

祐一 「わかってるよ。短い間だったが、あいつも水瀬屋敷で一緒に過ごした家族だろ。取り戻してみせるさ」

問題はどうやってあいつに正気を取り戻させるか、だな。
まずは動きを止めるか。

ほたる 「・・・・・・」

またほたるの姿が消える。
だが目に見えないだけで、その動きは捉えていた。

祐一 「そこだ!」

ピキーンッ

交叉する瞬間、ほたるの全身を氷付けにする。
こうすれば身動きは・・・。

ほたる 「・・・・・・」

パキッ!

祐一 「おいおい・・・」

身動きを止められると思ったんだが、あっさりと俺の氷を砕きやがった。
こうなりゃ少し手荒だが、気絶させて動きを止めるしかないか。

再びの跳躍。
今度は上からほたるが襲い来る。
俺も跳び上がり、突き出された手をかわして懐へ入り込み、鳩尾を狙って柄頭を叩き込む。

祐一 「おらぁ!」

ドゴッ!

急所を狙った一撃で、ほたるがバランスを崩し、落ちる。
それを支えながら俺は地面に降り立った。

祐一 「まったく、世話を焼かせ・・・・・・がっ!」

ドシュッ

ゆ、油断した・・・。

ほたるの爪が、俺の背中に深く突き立っている。
完全に入ったと思ったが、ほたるの意識は落ちていなかった。
抉るようにして爪を引き抜き、ほたるは俺から離れた。
傷は結構深いな・・・とりあえず凍りつかせて止血はした。

祐一 「・・・どうしろってんだ、まったく・・・」

思い切り鳩尾に一撃をくれてやったってのに、けろっとしてやがる。
・・・・・・待てよ、あいつのあの人間離れした動き・・・それに攻撃を喰らってもまるで堪えたように見えない。

祐一 「・・・・・・なるほど、そういうことかよ」

琥珀 「どうしたんですか?」

祐一 「あいつの動きな、めちゃくちゃなんだよ。普通の人間の体が耐えられるような動きじゃない。あいつは普通の人間とは違うんだろうが、それでも運動能力の限界を超えて動いてる」

琥珀 「それって・・・」

祐一 「おまえならわかるだろ。あいつがセリシアと同じであることを踏まえれば、答えはおのずから出る」

今ほたるがしてるような動きをやっていたら、普通は筋肉が壊れるはずなんだ。
だがあいつの場合はそれがない。
いや、実際には・・・。

琥珀 「破壊された体組織を再生しながら戦っている?」

祐一 「ああ、しかもそれだけじゃなく・・・」

琥珀 「そうやって体が壊れるのを感じないため、痛覚すら・・・」

祐一 「そういうことだ。あいつには今、痛覚が完全にない。だから俺の攻撃を受けてもまったく堪えないんだ」

俺は歯軋りする。
それに加えて今のあいつには感情すらない。
どんなに圧倒してみせても、あいつが戦いをやめることはないだろう。
こっちが勝つためには、ほたるを完全に・・・・・・あいつの再生能力の高さを考えるなら、再生すらできないよう完全に消滅させるしかない。
決してできないわけじゃないが・・・・・・。

祐一 「クソ野郎が・・・」

マギリッド・・・やっぱりあの野郎のやることはいちいち反吐が出る。
郁未にも琥珀にも譲らず、この俺の手でぶっ殺してやりたいよ。

絶鬼 「ま、マギリッドの奴は確かにクソ野郎って感じだな。だが、そんなことより今は目の前の問題について考えた方がいいんじゃないか?」

ついでに、ああやって余裕かまして高みの見物決め込んでる野郎もむかつく。
とっとと決着つけて、奴をぶちのめすとするか。

一つだけ、ほたるをどうにかする手段がある。
たった今、“思い出した”。
感情の昂ぶりが原因か、少しだけ“昔”の力が戻ってきたみたいだな。

祐一 「琥珀、手伝ってくれ」

琥珀 「わたしでよければ、いくらでも」

既に準備はできてるみたいだな。
実力では俺達のレベルからは劣るが、結構頼りになる奴だ、こいつは。

祐一 「ほたるにかけられてる呪法を外す。俺が示した場所を貫け」

琥珀 「大丈夫なんですか、それで」

祐一 「ただし、大事な器官を破壊したりしないように、だ」

琥珀 「・・・・・・」

言うは易し、行なうは難し、だな。
人間の体は表面から奥まで様々な器官が複雑に入り組んでいる。
それらを一切傷つけることなく人体を貫く・・・・・・並大抵の腕ではできない。
だが、剣の達人であり、また人の体をよく知る薬師である琥珀なら・・・。

祐一 「俺はあいつの中にあるマギリッドの意志を具現化する術を使うだけで精一杯だ。おまえにやってもらうしかない」

琥珀 「・・・・・・わかりました。やってみせます」

祐一 「頼む」

チャンスは一度だ。
この術は魔力を食うからな。

祐一 「行くぞ・・・」

俺は体内で魔力を練る。
基本的にこの手の術はあまり得意じゃないんだが、今は四の五の言ってる場合じゃない。
無茶でも無理でも、やらなきゃほたるは助けられん。

ほたる 「・・・・・・」

無表情に佇むほたるの周りに、俺の術式が組みあがられる。
そんな簡単にわかる変化さえ感じていないのか、あいつは。
今、その呪縛から解き放ってやる。

祐一 「封滅」

術式がほたるの体を拘束する。
ほたるの体の中に流れる力がはっきりと今の俺の目には見えた。
そして、そこに蠢く、邪悪な意志も。

祐一 「そこか!」

俺の目に見えた情報を、言葉ではなく頭の中で直接琥珀に伝える。
これは、コンマ01も外せない一撃だ。
情報は正確に正確を重ねなければならない。

祐一 「行けっ、琥珀!」

琥珀 「行きます!」

 

 

 

 

 

祐一の術に囚われたほたるは、ぴくりとも動かずにいた。
止まってもいても困難なことを、僅かでも動かれていたらさらに困難を極めただろう。
刀を水平に構え、琥珀は祐一が示した一点にのみ集中して突っ込む。

琥珀 「(ほたるちゃん・・・)」

今のほたるの姿に、琥珀は自分自身を重ねていた。
痛みを感じない、感情もない、まるで人形のような姿・・・。
それは、とても悲しい姿であると、今の琥珀は知っていた。

琥珀 「(あの男、マギリッドに関わると、誰もがそうされてしまう。でもほたるちゃん、あなたは、わたしと同じになってしまわないで)」

同じようにマギリッドの実験の犠牲になった者同志としての共感。
そして何より、僅かな時でも共に水瀬屋敷で過ごした思い出。
妹がもう一人できたような、そんな思いを琥珀は感じていた。

琥珀 「(もう、あの男の生み出す影の中にいる必要はない。わたしも、翡翠ちゃんも、セリシアちゃんも、ほたるちゃん、あなたもみんな・・・・・・・・・祐一さんやさやかさんがいる、光の中へ行きましょう)」

全ての思いを込めて、琥珀はほたるの身を貫いた。
衝撃で術が解けたのか、ほたるの身が仰け反る。
刀は、一切の器官を傷つけず、ただほたるの体に通されていた。
ただ一つ貫いたのは、マギリッドが植えつけた、邪悪な意志だけである。

 

 

 

 

 

崩れ落ちるほたるの体を、琥珀が支える。
振り向いた琥珀は満面の笑顔でブイサインを送ってきた。

祐一 「ふぅ・・・」

どうやら、成功したみたいだな。
これでほたるは大丈夫だろう。

祐一 「・・・・・・」

しかし、今のは、誰にも邪魔をされなかったからうまくいったまでの話。
術の使っている間は俺は完全に無防備だし、横から手出しされれば琥珀の狙いも定まらなかった。
邪魔できるにも関わらず、邪魔をしなかった奴・・・。

祐一 「おまえ・・・」

絶鬼 「へっ、なかなかおもしろいもの見させてもらったよ」

岩の上に腰掛けて高みの見物をしていた絶鬼が立ち上がって歩いてくる。
肩には身の丈を上回る大矛を担いでいた。

祐一 「楽しかったかよ?」

絶鬼 「そうだな。ま、俺から言わせりゃ、何を七面倒くさいことしてやがるんだか、ってところだな」

祐一 「・・・・・・」

絶鬼 「一発で殺せば楽なのによ。まさか、不殺なんて甘っちょろい考えでも持ってるのか?」

祐一 「そんなことはねぇよ。例えばおまえみたいな悪党を斬ることに躊躇いはない」

だがほたるは俺達の大切な家族だからな。
それを殺したりはしない、それだけのことだ。
もっとも、こいつにそれを言ったところで理解はできないだろうがな。

祐一 「おまえ相手には手加減しないぜ」

絶鬼 「強がりだな。相当消耗してやがるくせによ」

祐一 「・・・・・・」

残念ながらそのとおりだな。
背中の傷は止血をしただけでかなり深いし、何より魔力を使いすぎた。
万全の体勢でも勝てるかどうかは五分五分の相手に、これはかなり分が悪い。

絶鬼 「小娘を連れてきた意味はあったってわけだ。俺の腕を信用してねぇのはむかつくが、おまえが消耗してる今をわざわざ見逃したりはしねぇぜ。まさか卑怯とか思ってねぇよな?」

祐一 「思わねぇよ。俺達の間で正々堂々なんてないだろう」

やるかやられるか、それだけだ。
戦う上で使えるものがあるなら大いに使うさ。

祐一 「・・・・・・」

絶鬼 「・・・・・・」

俺が氷魔剣を、奴が大矛をそれぞれに構える。
もはや言葉は不要・・・ただ戦うのみ。
今まさに、互いに踏み込まんとした瞬間・・・。

 

ビュッ!

 

一陣の風が、間を通り抜けた。
否、それは剣圧だ。

絶鬼 「?」

祐一 「これは・・・」

俺と奴とを剣圧だけで踏み止まらせる。
そんな芸当ができる奴は・・・・・・。

豹雨 「随分と盛り上がってやがるな」

祐一 「豹雨・・・」

思ったとおり、豹雨だった。
カノン公国で別れて以来だから、まだそれほど時は経ってないな。

澄乃 「祐一さん、やっほ〜」

澄乃としぐれさんも一緒だ。
当たり前だと思うが。

祐一 「どうしてここに?」

澄乃 「豹雨ちゃんが突然歩く方向変えたから慌ててついてきたら祐一さんがいたの。えう〜、不思議だよ〜」

なるほど、俺達の戦いの気を感じてよってきたか。

絶鬼 「へぇ、あんたがデモンバスターズを束ねる、斬魔剣の豹雨って奴か」

豹雨 「だったらどうする?」

むき出しの闘気殺気。
自分の強さに絶対の自信を持つ者の余裕。
強い相手に対する好奇心。
こいつらは、似た者同士だ。

絶鬼 「俺の名は絶鬼。かつて最強と呼ばれた傭兵集団の頭さ」

豹雨 「ほう、てめぇ程度が最強たぁ、昔は大した奴がいなかったみてぇだな」

絶鬼 「あんたなんぞが最強を名乗るたぁ、今の時代は大したことねぇな」

誰にでもわかる単純なことが一つ。
もう、こいつらの戦いは誰にも止められない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく