デモンバスターズFINAL
第6話 蘇った六天鬼
怨鬼 「・・・どうやら、剛鬼はやられてしまったようですね」
鉄鬼 「ほう。噂ほどにはできるということか、その相沢祐一という男」
斬鬼 「ま、剛鬼の奴ぁ、俺達六天鬼の中じゃ一番弱かったからな。勇んで出て行って負けてりゃ世話ないぜ」
覇鬼 「だが、少なくとも剛鬼を倒すほどには強いということだ、今回の標的は」
絶鬼 「ああ、なかなか面白いことになりそうじゃねぇか」
廃墟と化した砦の中心部に陣取っているのは、五人の男達。
いずれも一般人とはかけ離れた風貌といでたちをしている。
彼らこそ、数十年前にこの地方を震撼させた最強の傭兵団、六天鬼であった。先端が三つに分かれた大矛を肩にたてかけて中心にいるのが、頭目の絶鬼。
絶鬼 「さて、まだやる気みてぇだな」
その視線の先には、剣を構えて立っている一人の少女がいた。
カノン公国第一王女にして、ナイツ・オブ・ラウンドの一人、倉田佐祐理である。佐祐理 「・・・・・・」
身に纏った軽鎧は各所が破れ、額と左腕からも血を流しているが、その目はまだ死んではいない。
真っ直ぐと敵の頭目である絶鬼を睨みつけている。斬鬼 「へっ、絶鬼が出るまでもねぇだろ。この女は俺がやってやるよ」
両手と両腕と両肘、左右あわせて六本の刃を持つ男、斬鬼が前に出ようとする。
それを絶鬼が矛で制する。絶鬼 「待てよ。相手の大将にはこっちの大将が応じるのが礼儀ってもんだろうが」
渋々といった感じで斬鬼は下がり、立ち上がって佐祐理の前に出る。
絶鬼 「かつて、俺達はカノン公国に討伐され、首を刎ねられた。こいつはお礼参りってやつなのさ。わかるだろ、お姫様」
佐祐理 「・・・ええ、あなた方の話は、聞いたことがあります。あまりに多くの死をもたらしすぎる存在と」
絶鬼 「そう。俺達は六天鬼。またの名を、命の簒奪者。俺はその頭目、命を絶つ者、絶鬼だ」
佐祐理 「どうしてあなた方が蘇ったのかはわかりません。あなた方がカノンに対して恨みを抱く気持ちもわかります。けれど、佐祐理はこの国の王女として、負けるわけにはいきません」
絶鬼 「見上げた心意気だ。だが残念だな、あんたじゃこの俺には勝てねぇよ」
佐祐理の顔が悔しげに歪む。
絶鬼の言うとおり、力の差は歴然としていた。
この六天鬼を前に、既に供にいたジークフリードも服部重蔵も倒れた。
まさに伝説のとおりか、それ以上の圧倒的な強さ。佐祐理 「・・・佐祐理を殺して、それでカノンが滅ぶと思わないでください」
たとえ自分が倒れても、弟の一弥が国を建て直してくれる。
そう、佐祐理は信じていた。覇鬼 「ふん、ならばおまえの死体を晒して、残りの奴らを誘い出すまでのこと」
斬鬼 「くっくっく、いいねぇ。その綺麗な顔だけは綺麗なまま残しておいてやるぜ。その他の部分はたっぷりと斬り刻んでやるがよ」
鉄鬼 「趣味の悪い者達だ。だがそれも敗者の運命、諦めるがよい、姫君よ」
絶鬼 「じゃあそろそろ終わりにするか。メインディッシュがまだまだこれからなんでな」
大矛を絶鬼が振り上げる。
無造作な動きだったが、その一撃は確実に佐祐理が反応するよりも速く振り下ろされる。ボンッ!
そう思われた瞬間、絶鬼と佐祐理の間で何かが爆発し、あたりに白い煙が立ち込める。
覇鬼 「む!」
重蔵 「佐祐理様! お下がりくださいっ」
佐祐理 「重蔵さん!」
鉄鬼 「ほう、まだ動けたか、忍びの者よ」
ジーク 「ここは一旦退きまする、佐祐理様」
覇鬼 「ちっ、しぶとい騎士だ!」
二人の六天鬼が動くが、それよりも速く重蔵とジークフリードは佐祐理を連れて後退していた。
逃げている相手を、絶鬼はじっと眺めているだけで動こうとはしなかった。怨鬼 「追わないのですか?」
絶鬼 「逃げる奴を斬ってもおもしろくねぇ。それよりも、本命のデモンバスターズとやらとやる方が楽しめるだろう」
斬鬼 「だなぁ。そっちの方が斬りがいがあることを祈るぜぇ」
覇鬼 「それで、どうするのだ?」
絶鬼 「怨鬼と鉄鬼は、エリスと白河さやかってのをやりな。おまえは女好きだろう、怨鬼よ」
怨鬼 「ふふ、美しい女達であれば、殺しがいがあるのですが」
鉄鬼 「承知した」
絶鬼 「覇鬼と斬鬼は、残りのデモンバスターズを探して好きにやりな」
斬鬼 「おうよ」
覇鬼 「わかった。それで、絶鬼は?」
絶鬼 「俺は、マギリッドの野郎がつけてきたアレを連れて、相沢祐一って奴のところに行く」
祐一 「い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってぇ・・・・・・・・・」
琥珀 「痛いと感じられるのは無事な証拠ですから、我慢してくださいね」
なんてきついことを言いながら琥珀が俺の腕に包帯を巻いている。
手当ての手際がいいのはいいんだが、痛いことに変わりはない。琥珀 「わたしには水瀬屋敷の使用人として、住人の方の健康を管理する義務があるんですから。今後こういう無茶は控えてくださいね」
祐一 「・・・善処する」
実際、それが無理なのは琥珀にもわかってるだろう。
これから先は、あの剛鬼と同等かそれ以上の化け物どもと戦っていくことになるんだ。
今までにも数々の強敵に当たってきたが、今度は飛びっきりだ。
もっとも、だからこそ燃えるんだがな。祐一 「しかし・・・」
最大の問題は、奴らを倒す手段だな。
あの再生力を無効にするには、凍牙三連並みの破壊力が必要だが、それだけの技に武器が耐えられない。
凍牙三連よりも速く、氷魔撃滅斬よりも強力で・・・・・・豹雨の“かむなぎ”みたいな絶対の必殺技と、それに耐えうる武器が必要だ。
豹雨のあの、斬魔刀みたいに・・・・・・。祐一 「・・・そうか・・・斬魔刀か・・・・・・」
琥珀 「? どうしたんですか?」
祐一 「ああ、ちょっとな」
それだ。
アイツを探せばいいんだ。
あの斬魔刀を打った、自称世界最高の刀匠・・・村正。
それともう一人・・・・・・・・・。祐一 「とりあえず、あそこに行けば何とかなるか」
さやか 「・・・・・・?」
エリス 「どうしたの、さやか?」
さやか 「う〜ん、誰かに見られてるような気がしたんだけど・・・」
気のせいだったかな、と前を向きなおす。
と同時にさやかの表情に驚愕の色が浮かぶ。さやか 「エリスちゃん!」
エリス 「っ!」
後ろを確かめるより先に、エリスは大きく横に跳んだ。
二人がいた場所に、円形状の物体が飛来し、地面を抉った。エリス 「ちっ、手荒いわね!」
円盤が鎖に引き寄せられて、それを放った男のところへ戻る。
鉄鬼 「見事。完全に不意をついたつもりだったが」
怨鬼 「ええ、思ったよりも良い勘をしていますね」
さやか 「!」
もう一人の声は、さやかのすぐ背後から聞こえた。
これほど接近するまで、二人は敵の存在を感知することができなかった。さやか 「・・・ちょっとびっくり」
エリス 「何者?」
鉄鬼 「六天鬼が一人、命を破る者、鉄鬼」
全身を鎧で覆われ、両腕に円盤状の盾を持った男が応える。
怨鬼 「同じく、命を呪う者、怨鬼と申します」
頭からマントをかぶった男が、それに続いて応える。
エリス 「六天鬼ですって・・・? ・・・・・・そう、オシリスの仕業か。過去の亡霊が何の用よ?」
鉄鬼 「我らが現れる理由はただ一つ」
怨鬼 「命を簒奪するため、ですよ」
さやか 「事情はよくわからないけど、私達を狙ってきた刺客さん、ってことでいいのかな?」
怨鬼 「そういうことです」
四人の視線が交叉し、一瞬後それぞれに散る。
自動的に、エリスvs鉄鬼、さやかvs怨鬼の図式が成り立っていた。
さやか 「ゴッドフェニックス!」
最初からさやかは自身が扱える最強の魔法を使った。
相手の力量が、想像を絶することを、先のやり取りの間に感じ取っていたからである。怨鬼 「ほう、見事な炎の鳥ですね」
さやか 「かなり手ごわいみたいだからね、最初から全力だよ」
怨鬼 「よろしい。ならば私も出し惜しみはせずに行きましょう」
さやか 「何も出さないで帰ってくれると嬉しいけど、そうもいかないか・・・・・・バーニングフェザー!」
フェニックスが羽ばたくと、羽根の一つ一つが炎をまとった弾丸となって怨鬼に迫る。
地を滑るような動きで、怨鬼は降り注ぐ炎の羽根をかわしていく。さやか 「グランドフレイム!!」
相手の逃げる軌道を読んで、さやかは手に溜めた魔力を地面に叩き付ける。
炎が大地の裂け目から上がり、地を這って怨鬼を狙う。怨鬼 「上と下から挟み撃ちですか。威力も素晴らしい」
二つの炎に挟まれ、逃げ場はないというのに、怨鬼は余裕の表情を崩さない。
もっとも、顔はマントに隠れてほとんど見えないのだが、声の調子が余裕を感じさせる。怨鬼 「ですが残念ながら、私には通用しません」
怨鬼が両手をかざすと、そこから黒い闇が広がって、炎を丸ごと飲み込んでしまった。
さやか 「!!」
怨鬼 「魔法のエネルギーは皆プラスに作用することで破壊力を生み出す。しかし私はそれを打ち消すマイナスのエネルギーを操ることができるのですよ。ゆえに、魔法使いでは、私を倒すことはできない」
さやか 「・・・とんでもない能力だね」
まさに魔導師にとっては天敵というべき能力である。
怨鬼 「もちろんこれは防御のみでなく、攻撃にも使えますよ」
闇がほとばしり、さやかに襲いかかる。
炎の壁を張って防ごうとするも、魔力を打ち消されて効果がない。さやか 「くっ!」
怨鬼 「私からは、逃げられませんよ」
迫りくる闇を、さやかは辛うじてかわす。
だが横っ飛びして着地した時に、脱力感を覚えてよろけた。さやか 「ぅ・・・」
怨鬼 「その闇に僅かでも触れれば、たちどころに魔力と精気を吸われる。やがては動くことすらできなくなるのですよ」
さやか 「(・・・この人、強い。デモンバスターズと同等か、それ以上)」
怨鬼 「終わりです」
さやか 「それはどうかな?」
正面から向かってくる闇に向かって、さやかはゴッドフェニックスを突っ込ませる。
炎の鳥は、予想されたとおりに闇に飲み込まれた。怨鬼 「無駄ですよ」
さやか 「・・・・・・」
フェニックスが消滅して、身を守るものが一切なくなったさやかに対し、怨鬼はトドメを指すべく闇を繰り出そうとする。
だが、先ほど炎の鳥を飲み込んだ闇はその場から動かなかった。怨鬼 「?」
闇の塊は、怨鬼のコントロール下から離れ、ひとりでに膨張し始めていた。
怨鬼 「これは・・・」
さやか 「マイナスのエネルギーで消されちゃうなら、それを上回るプラスのエネルギーを生み出せばいいんだよ」
膨らみきった闇は、内側から発せられる膨大なエネルギーを抑えきれず、弾けとんだ。
甲高い声とともに、闇の中から炎の鳥が羽ばたく。さやか 「不死鳥の生命力を、甘く見たらいけないよ」
怨鬼 「・・・確かに、少しあなたを見くびっていたようです」
一方、エリスと鉄鬼の戦いは激しさの極みにあった。
嵐のような猛攻を繰り返すエリスだったが、そのことごとくを鉄鬼は左右の盾で防いでいる。エリス 「ちぃっ!」
鉄鬼 「我が絶対防御は崩れぬ」
エリス 「それはどうかしらね!」
渾身の力を込めたエリスの一撃が炸裂する。
正面からそれを盾で受け止めた鉄鬼は、威力に圧されて後退するが、ダメージは皆無だった。鉄鬼 「言ったはずだ。貴様がどれほど強力な攻撃を繰り出そうと、我にそれが届くことはない」
全ての攻撃を防がれたエリスは、大きく後ろに跳んで距離を取り、鉄鬼を睨みつけた。
エリス 「言うだけのことはあるみたいね」
鉄鬼 「貴様も、己の腕が潰れなかっただけ大したものだ」
打って変わって静かな睨み合い。
おそらく鎧には盾ほどの防御力はないはずだと、エリスは攻防の中で見抜いていた。
しかしそれは相手も承知の上で、鎧まで攻撃が届かないようにしている。
硬い鎧と盾に頼るだけでなく、それを最大限に活かす技術も持っている。
手ごわい相手だった。鉄鬼 「・・・どうやら、奴の言ったとおりのようだ」
エリス 「何?」
鉄鬼 「我らを蘇らせた男が言っていた。おそらくデモンバスターズとやらで最も強いのは、魔竜姫エリスである、とな」
エリス 「アタシが一番強いですって?」
鉄鬼 「マギリッドという男がそう言っていた。戦ってみてそうだろうと実際思った。先ほどから一見がむしゃらに攻撃しているように見えて、常にこちらの隙を探っていた。スピード、パワー、技術、経験・・・全てにおいて貴様は強い。しかも、さらなる力を秘めていることがわかる」
エリス 「・・・・・・」
鉄鬼 「相手にとって不足無し」
両腕の盾を、今度は攻撃に使うべく構える鉄鬼。
それに対して、エリスは黙って立ったままでいる。鉄鬼 「・・・・・・どうした?」
エリス 「確かに、そうかもしれないわね。アタシが、デモンバスターズでは一番強い。最初は間違いなくそうだった」
すぅっと目を閉じ、エリスは過去の記憶に思いを走らせる。
思い出されるのは、それぞれとはじめて出会った時のこと。
あの頃は、戦えば必ず自分が勝つと思っていた。エリス 「だけど・・・」
長い時を共に過ごすうちに、考えは変わった。
エリス 「あんた達は知らない。楓の存在の大きさを・・・・・・アルドの真の恐ろしさを・・・・・・祐一が秘めた可能性を・・・・・・・・・豹雨が持つ、強さを!」
キッとエリスの眼光が鉄鬼を射抜く。
エリス 「力でしか強さを量れないあんた達みたいなのにはわからないでしょうけどね」
鉄鬼 「・・・いかにも、理解しがたいことだな」
そう言いながらも、鉄鬼はエリスの眼光の圧されていた。
力こそが全てというのが、六天鬼が共通して持っている認識だった。
それが間違っているとは思っていないが、エリスの言葉を全否定もできずにいる。
目の前にいる小柄な少女が、遥かに強大な存在に見えた。鉄鬼 「・・・・・・」
エリス 「アタシ達を、なめるな」
鉄鬼 「(気圧されている・・・・・・絶鬼以外でははじめてだな)」
怨鬼 「鉄鬼、ここは一旦退きましょう」
鉄鬼 「怨鬼・・・」
いつの間にか、怨鬼が鉄鬼の背後にいた。
それを追ってきたさやかが、エリスの横につく。さやか 「エリスちゃん」
エリス 「無事ね、さやか」
さやか 「さすがに、ちょっと厳しいけどね」
さやかの息は僅かに上がっていた。
怨鬼も鉄鬼も、そうとうな力の持ち主には違いない。
啖呵を切ってみたものの、エリスとて鉄鬼に絶対に勝てるという気持ちにはなれずにいた。鉄鬼 「何故退く?」
怨鬼 「私達は少し彼女達を見くびりすぎていた。ここは一度退いた方が得策です」
鉄鬼 「・・・・・・・・・そうかもしれんな。よかろう」
エリス 「逃げるつもり?」
怨鬼 「いずれまた、あなた方の前に現れますよ。その命をいただくためにね」
鉄鬼 「どのような強さであろうと関係ない。我々こそが最強であることをすぐに証明してくれよう」
二人は、現れた時同様音もなく去っていった。
完全に気配が絶えたことを確認してから、さやかは大きく息を吐く。さやか 「はぁ〜〜〜・・・・・・・・また大変な敵さんが出てきたもんだね」
エリス 「・・・そうね」
さやか 「何なの、六天鬼って」
エリス 「歩きながら説明するわ。この分だと、あいつのところにも連中の仲間が行ってるだろうから」
さやか 「そうだね。祐一君なら大丈夫だとは思うけど」
エリス 「行くわよ」
つづく