デモンバスターズFINAL

 

 

第5話 襲いくる亡霊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?? 「てめぇが相沢祐一か?」

祐一 「そうだが?」

馬車から降りた俺の前に立っているのは、身の丈3メートルはあろうかという大男だった。
その巨体とともにあると非常に小さく見えるが、実際はかなりの大きさの鎖つき鉄球を手にしている。
あれで直接馬車の本体を狙わず、車輪だけを狙ったのか・・・・・・できるな。

祐一 「で、そういうおまえは何者だ?」

明確な敵意を向けてくる相手に対し、俺は油断無く構えながら問いかける。
奴はそれを待っていたようにニタリと笑った。

?? 「いい質問だ。俺様の名は剛鬼、てめぇの命を砕く者だ」

祐一 「よくわかった」

ゆっくり馬車から離れつつ、氷魔剣を手にする。

祐一 「つまり、敵ってことだな」

剛鬼 「そういうこと、だっ!」

言葉が切れるより先に鉄球が飛んでくる。
あれの一撃を受ければ巨大な岩でさえあっさり砕けるだろう。
なるほど、命を砕く者とは言いえて妙だな。
だが、こんな単調な攻撃に当たる俺ではない。

ズンッ!

鉄球が地面を抉る時には、既に俺は間合いの内側に入っている。

祐一 「喰らいな、凍魔天嵐!」

凍気を纏った俺の一撃が奴の肩口を切り裂く。
致命傷ではないが、動きを封じるくらいの傷は・・・。

祐一 「っ!」

咄嗟に横に転がると、直前まで俺がいた場所に奴の拳が落ちた。
まだ動けたのか・・・。

剛鬼 「甘いなぁ、相沢祐一ッ!」

祐一 「!」

一度退こうとする俺の眼前に鉄球が迫る。
氷の壁を張ってそれをガードした俺は、驚くべき光景を見た。

傷が・・・ない。

俺はつい今しがた奴の肩に斬り付けた傷はない。
鎧と服は切り裂いたそのままだが、皮膚にまったく傷は残っていなかった。
しかし、俺は確かに奴の肩を、骨に達するほどの深さで斬った。
手ごたえに間違いはない。

どうなってやがる?

祐一 「・・・・・・」

剛鬼 「へっへっ、俺様の鉄球を正面から受け止めた奴はおまえが三人目だぜ」

祐一 「そうかい」

別に嬉しくもないが。
それにしても、こいつ何者だ?
見たところ人間に違いなさそうだが、普通の人間は傷が一瞬で再生したりはしない。
だとするとこいつは・・・・・・。

祐一 「・・・おまえ、マギリッドの手の者か?」

剛鬼 「あぁん? ああ、そういえばそんな名前も聞いたな。俺はよく知らねぇがな」

祐一 「俺は・・・と言ったな?」

剛鬼 「そうさ。俺達は六人いる。てめぇをやれっつってきたのは、赤い鎧の仏頂面野郎と、白衣のイカレ野郎だったそうだぜ」

仏頂面・・・だと?

祐一 「・・・・・・おまえ、何者だ?」

剛鬼 「最強の傭兵団、六天鬼が一人、剛鬼様よ」

六天鬼?
どこかで聞いたような気もするが、初耳のような気もする。
最強を自負する奴は数多いるが、これだけの実力者がいる集団を知らないってのは・・・。

琥珀 「六天鬼って、もしかして・・・」

祐一 「知ってるのか?」

馬車の陰からひょっこり顔を出した琥珀が頭の中から何かを引き出そうとしているような仕草をしている。

琥珀 「あ、思い出しました」

祐一 「何だ?」

琥珀 「確か六天鬼って、50年くらい前にいた傭兵団の名前ですよ。誰にも手がつけられない暴れん坊の六人組で、当時のカノン公国が総力を挙げて討ち取ったとか・・・・・・でも、その人達なわけないですよね?」

祐一 「・・・いや、ご当人だろう」

そういうことか。
あの野郎・・・。

琥珀 「? どういうことですか?」

祐一 「死と再生を司る魔神オシリス。あいつはな、特定の条件を満たせば死者を現世に蘇らせることができるんだよ」

剛鬼 「そういうこった。てめぇ、デモンバスターズとかいう“今”の最強の一人なんだろう。たっぷり楽しませてくれよ」

どういうつもりか知らないが、オシリスはこいつらを蘇らせ、おそらく肉体はマギリッドが作ったか。
こんな奴らを俺にぶつけてどうするつもりだ?
いや、大方の予想はつくか。

バインやゼルデキアは俺は力を引き出そうとしていた。
一部覚醒したとはいえ、俺の力はまだまだ魔神レベルには劣る。
あいつは、俺をもっと強くするためにちょうどいいレベルの敵を選んで送り込んできたわけだ。

祐一 「なめた真似しやがって、あんにゃろう」

剣の切っ先を剛鬼に向ける。

祐一 「過去の亡霊ごときが俺の相手になるかよ」

剛鬼 「威勢のいいガキは好きだぜ。だが、そういう台詞はな・・・」

ヒュッ

何・・・?

奴が、消え・・・・・・

ドカッ!!

琥珀 「祐一さんっ!?」

一瞬にして背後を取られた俺は、頭を鷲掴みにされ、地面に叩き付けられた。
まったく動きが見えなかった・・・。

剛鬼 「そういう台詞はな、俺様の実力をよく見てから言いな」

祐一 「ぐっ・・・!」

半分に地面にめり込んだ頭を引き抜き、相手と距離を取ろうとする。
しかしあっさり追いつかれ、まともに奴の拳を受けて吹っ飛ぶ。
受身を取ることさえ忘れるほど、重い一撃だった。

剛鬼 「言っておくが、これで70%ってところだ。蘇ってからの方が調子がいいからな」

マジかよ・・・。
この俺が、まるで対応できないなんて。
上位魔族並み・・・いやそれ以上か。

剛鬼 「期待を裏切らないでくれよ。せっかく時代を超えての新旧最強対決なんだからよ」

オシリスの野郎、とんでもないのを送り込んできやがったな。

琥珀 「祐一さん、加勢を・・・」

祐一 「いや、いい。おまえを引っ込んでろ」

琥珀はそうとう強い。
だが、こいつの相手をする上では足手まといにしかならない。
それほどの化け物だ、こいつは。
俺も本気を出さないとな・・・。

祐一 「・・・フッ」

剛鬼 「笑いやがったな。あまりの俺様の強さに気がふれたか?」

祐一 「いいや・・・」

丁度いいじゃないか。
あの感覚を呼び覚ますのには、うってつけの相手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「ところでさ、エリスちゃん」

エリス 「何よ?」

さやか 「出てきたのはいいけど、どこに“散歩”に行けばいいのかな?」

エリス 「・・・・・・・・・・・・」

さやか 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エリス 「・・・・・・ま、適当に行けばいいわよ。方角くらいなら大体わかるから。それに・・・」

さやか 「それに?」

エリス 「アイツの行き先で、何も起きないはずがない」

さやか 「そっか。そういう騒ぎを追っていけばいいんだね」

エリス 「そういうことよ。何と言ってもアタシ達デモンバスターズは、そろいもそろってトラブル体質だからね」

さやか 「行く先々で必ず何か起きるわけだ」

エリス 「時には手に負えないほど強大な障害にぶつかることもある。けど、アタシ達は絶対に、どんなに強大な敵が現れたとしても、最後には勝つ。それが最強というものよ」

さやか 「・・・・・・」

エリス 「今度の敵は、桁外れに強大だけどね。いつまでも避けては通れない、か」

さやか 「・・・・・・(子は親を乗り越えていくもの、か。エリスちゃん、あなたは本当に、お父さんを倒せるの?)」

エリス 「(ブラッドヴェイン、そして魔界最強と謳われるあの恐るべき魔神達にだって・・・アタシは勝ってみせる。もう、逃げるのは飽きたわ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「うぉおおおおおおおおお!!!!!」

奴の巨体の死角をつく角度から連続して斬撃を叩き込む。
何発かは当たるが、いずれも浅い。

剛鬼 「効かねぇなっ!」

バキッ!

逆にカウンターを喰らって地面に叩きつけられる。
もう何度同じ目にあっていることか。
やはりこいつのスピードとパワーは俺の上をいっている。

ズンッ!

追い討ちで降ってきた鉄球を横に転がりながら避ける。

剛鬼 「そんなつまんねぇ攻撃をいくらしてきても、俺は倒せねぇ」

祐一 「・・・・・・」

確かにな。
だがそのつまらない攻撃でも、得るものはあった。
奴のパワーとスピードは確かに凄まじいが、技量は俺が勝っている。
己の能力に絶対の自信を持ったパワーファイターである奴には、基本的に小手先の技術なんてものは必要ないんだろうな。
けれどこっちとしては、そこにこそ付け入る隙があるってもんだ。

祐一 「そうやって調子に乗っていられるのも今のうちだぜ」

剛鬼 「ほざくなよ、小僧ォ!!」

向こうから攻撃を仕掛けてくる。
ただの突進だが、速さが段違いでかわすのが精一杯だ。
しかも二度三度とその攻撃が繰り返されてくる。

剛鬼 「おらおら! 今代の最強ってのは逃げ足チャンピョンのことを言うのかぁ!」

ちっ、好き勝手言いやがって。
生半可な攻撃はすぐに再生しちまうような奴相手にちまちま攻撃なんかしてられるか。
決める時は、一気に決める!

祐一 「ここだ! 喰らえっ、氷魔滅・・・」

剛鬼 「遅ぇ!!」

祐一 「っ!」

ドカッ!

技を放つよりも早く、鎖が俺の体を打つ。
怯んだところでさらに体当たりと拳の連続攻撃。
おまけにつかまれて地面に叩きつけられる。

祐一 「がはっ・・・!」

今のは・・・効いたぁ・・・・・・。

なんて奴だ。
こっちが決め技を出そうとした瞬間に加速しやがった。
そういえば、さっき70%とか言ってたな。
今のが奴の本当の速さか・・・・・・とんでもねぇ。
しかも、技を放つ前に本気を出してきた、これも修羅場を潜り抜けてきた奴だけが持つ戦いの勘によるものか。
マジでこいつ、強い。
かつて最強と呼ばれた奴らの一人ってのも頷けるぜ。

剛鬼 「ここまでみてぇだな。じゃあ、とどめと行こうか」

どうする?
氷魔滅砕にしても氷魔撃滅斬にしても、威力に見合うだけの力を溜める時間が必要だ。
だが、こいつの前にそれだけの時間を稼ぐのは難しい。
無限陣を使うのは少しリスクが大きすぎる。
何か、ないか?

剛鬼 「あばよ、これからは俺達が改めて最強の称号をもって暴れまわってやるよ!」

もっと速くて・・・もっと強い技を・・・!

ズズンッ!

剛鬼 「ぬ!」

ぎりぎりで振り落とされた鉄球をかわす。
しかし立ち上がってはみたものの、ダメージは大きいか。

剛鬼 「まだ動けるか、見上げた野郎だ。だがもう立ってるのがやっとか」

祐一 「・・・・・・」

もっと強力な一撃を・・・。
一瞬で奴を倒すための・・・・・・。

剛鬼 「今度こそ・・・終わりだぁ!!」

絶対零度を超える一撃を、一瞬で叩き込む!

剛鬼 「死ねぇ!!!」

迫りくる鉄球。
それを紙一重でかわして相手の懐へ飛び込む。
ここから氷魔滅砕を撃つだけの力を溜めても間に合わない。
一瞬も待たずに、凍気をまとわせた斬撃を繰り出す。

祐一 「ひとつ!」

ザシュッ!

剛鬼 「ぬ・・・」

考えるより先にもう一撃入れる。

祐一 「ふたつ!」

ドシュッ!!

剣を返して二度目の斬撃を、最初の斬撃に交差させるように。
そして、十字に交わった斬撃の交叉点に、もう一撃・・・!

祐一 「みっつ!」

ズバシュッ!!!

三つの斬撃は、全て同じ点を通る。
奴の体の中心を。

剛鬼 「ぐ、ぐぉおお・・・・・・!」

祐一 「喰らえっ、凍牙三連!!」

斬撃の交叉する点は、絶対零度を超える!
それは、全ての物質が崩壊する点だ。
どんな再生能力も、無意味。

祐一 「・・・終わりだ、剛鬼」

剛鬼 「ぬ、ぐ・・・ぐぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

胸の一点から、奴の肉体が崩壊していく。
一切の再生能力も発動せず、全ては無へと・・・。

俺の眼前で、猛威を振るった巨漢は、骨と化して崩れ落ちた。
どうやら、昔死んだこいつの骨を媒体に肉体を再生したみたいだな。

それに・・・しても・・・・・・・・・。

祐一 「ぐっ!」

両腕に激痛が走り、俺は地面に膝をつく。

琥珀 「祐一さん!」

事を静観していた琥珀が駆け寄ってくる。
そして、俺の手許を見て驚愕していた。

琥珀 「これは・・・どうやったらこんなに・・・」

氷魔剣は粉々に砕け、俺の両腕もボロボロの状態になっていた。
我ながら、まさかここまで反動があるとは思ってもみなかった。

祐一 「やっぱり、超威力の一撃を、超高速で三発同時に撃ち込むのは、無茶だったか・・・」

間をおかずに必殺技を三連打したようなものだ。
いくら俺の体でもそうそう耐えられるものじゃない。

琥珀 「無茶なんてものじゃありません。普通の人なら、腕が使い物にならなくなるところでしたよ」

少し怒った顔で腕の手当てをする琥珀。
だが、今の技を使わなければ、奴には勝てなかった。
それほどまでに、奴は強かったんだ。
六天鬼ってことは、あんなのがあと五人もいるのか。

祐一 「・・・どうやら、簡単にはあいつらのところまで辿り着けそうもないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき

さてこの時点において、ついにデモンバスターズFINAL最終話までのプロットがほぼ完成しました。
若干のずれはあるかもしれませんが、おそらく全50話、なんというかほぼ全編バトル続きみたいな・・・。
祐一・さやか・エリスの三人が中心になりつつ、それぞれの戦いも描いていく、そんな感じです。
一部キャラは存在してるはずなのに全然出てこなかったり、意外なキャラが再登場したり・・・。
あとは書くだけ・・・・・・。このままノンストップで行きたいものです。
では、最後までお付き合いいただければ幸いでございます。