デモンバスターズFINAL

 

 

第2話 魔界からの来訪者達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「!!!」

浩平の馬鹿話を子守唄代わりに昼寝をしていたエリスは、その気配を感じ跳ね起きた。
障子まで一気に駆け、それを左右に開け放つ。

スパーンッ

その視線の先、庭の塀の上には、彼女のよく知る、できることならばあまり会いたくはない者がいた。

エリス 「アシュタロス!!」

アシュタロス 「しばらくだな、エリス姫。・・・・・・・・・ふーむ・・・なるほど、ブラッドヴェインが固執するのがよくわかる。その姿、実に美しい」

エリス 「そんなくだらないことを言うためにわざわざ来たわけ!?」

今は力を抑えているためにあまり感じられないが、四魔聖の一人たる魔神アシュタロスの力はあのシヴァをも上回る。
そんな相手の突然の来訪に、エリスは焦る心を落ち着けて考えをめぐらす。
どうすればこの状況を脱することができるか。

楓 「どうしたの、エリスちゃん?」

浩平 「なんだなんだ?」

京四郎 「何事ですか?」

さっとこの場にいる面子を見渡す。

エリス 「楓と神月以外は下がって! 手におえる相手じゃない!」

楓 「!!」

目の前に相手を捉えて、楓にもその強さが感じ取れたのだろう。
表情が真剣なものに変わっている。

エリス 「・・・・・・」

浩平、みさき、翡翠、名雪、香里など、この場にいる皆かなりの実力者だが、はっきり言って次元が違いすぎる。
エリスや楓でさえも相手になるかどうか怪しいほどだった。
京四郎の実力に関してはまだエリスはわからないが、少なくとも自分達と同等クラスと見ている。

エリス 「(三人でなんとかなるか!?)」

あのシヴァでさえ、五人がかりでようやく倒せたのである。
しかも、手負いの相手だった。
おそらくこのアシュタロスは万全の状態でいる。

アシュタロス 「美しい女性がたくさんいるな。よいことだ」

楓 「エリスちゃん、あれは?」

エリス 「魔神アシュタロス・・・・・・魔界最強と言われる四魔聖の一人で、超がつくナルシスト野郎よ」

アシュタロス 「ナルシストとは心外な。私はただ美しいものを美しいと感じる心を持っているにすぎぬ」

喋り方や仕草がいちいち大仰な男だった。
どこか己の言動に陶酔している感じのする様は、ナルシストそのものと言えた。

エリス 「何の用よ、いったい!?」

アシュタロス 「ふむ、別に諸君に用はないのだがね。暇つぶしだよ」

エリス 「暇つぶしですって?」

アシュタロス 「本当は“彼”に会いに来たのだが・・・・・・ふっ、古い友人同士の千年振りの再会に水を差すほど無粋なことはあるまい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神オシリス。
そう、俺は、こいつを、知っている。

その姿を見た瞬間、ミステリアでの感覚が再び蘇った。
しかも今回は、より鮮明に、前世の記憶が脳裏に浮かび、力の方も・・・。

とにかく、このオシリス、“俺”の、古い友人だ。
いや、別に友人をやめたつもりはないから、今でもそう呼べるか。
だが、“俺”が変わった以上、感覚も少し違ってくる。

祐一 「・・・久しぶり、っていうのが適応されるかのは微妙な気がするな・・・」

オシリス 「そうか? 俺はそう感じるがな」

祐一 「おまえはそうだろうが、俺は“祐漸”の記憶を確かに持っているが、祐漸じゃない、相沢祐一だ」

オシリス 「そうだな。姿も声も、祐漸とは違う」

姿や声に関しては、俺はわからないがな。
しかし本当に、妙なものだ。
俺は祐漸じゃない。
だが祐漸の記憶を持っている。
こいつのことも知っている。
それが間違いなく俺の記憶だとわかるのに、俺は祐一のままだ。
転生ってのは、こういうことなのか?

祐一 「・・・まぁ、いいか」

どうでも。
そんなに大きな問題じゃないだろう。

オシリス 「だが、おまえはやはり俺の知る祐のようだ」

祐一 「そうか?」

オシリス 「その適当な性格は昔のままだ」

祐一 「適当で悪かったな。相変わらずさらっと失礼なことを言う奴だ」

昔のままというなら、こいつだってそうだ。
千年も経ってるとは思えないほどに。

さやか 「ねぇねぇ」

祐一 「ん?」

さやか 「せっかくだからさ、紹介してよ」

祐一 「ああ、そうだな」

オシリス 「おまえの女か?」

さやか 「うん、そうだよ」

祐一 「いや待てって」

まだそうと決まったわけじゃない。
ってまだって何だよ俺、いずれそうなる可能性があるっていうのか?
いや、確かにないことはないだろうが。

祐一 「こいつはただの同居人だ。同じ居候先の」

オシリス 「そうか」

祐一 「で、こっちはオシリス。魔界じゃなかなか名の知れた魔神だ」

さやか 「そうなんだ。白河さやかです、よろしくね」

オシリス 「オシリスだ」

うむ、互いの紹介も終わったな。
人間と魔神がこうもあっさり打ち解けあっていていいのだろうかと思わないこともないが、別に構わないだろう。
“俺”だってそんなようなものだったから。

祐一 「んで、おまえほどの奴がわざわざ出向いてきて何の用だ? この間はおまえの部下のバインが色々言ってたが」

たぶんあれは、バインの口を借りたオシリスの声、と言えるんだろう。

オシリス 「おまえに会いに来た。それでは、答えにならないか?」

祐一 「いや、別に充分だろ」

わかってるはずだろう、こいつなら。
俺の出す答えが。
あんなくだらない話を持ち出しそうな奴は・・・・・・。

祐一 「・・・・・・あいつか」

オシリス 「祐、おまえの思い出の地の近くに、我らはいる」

祐一 「そうか」

オシリス 「気が向いたら、一度顔を出しに来い」

祐一 「考えとくよ」

随分と遠いところに居を構えやがって。
“俺”の思い出の地って言ったら、やっぱりあそこだろうな。
言ってみれば、相沢一族発祥の地・・・。
確かにあそこは砂漠がすぐ近くにあって、隠れて居城を置くには最適かもしれんが。

オシリス 「それと、仲間の一人が、おまえの居候先とやらに行っている」

祐一 「おいおい、面倒な奴じゃないだろうな。ベリアルとか・・・」

あいつだったら厄介なことこの上ない。
シヴァと同じで、“俺”に対して敵意というか対抗心というか、そういうのを持ってた奴だ。
変な形で顔を合わせると何が起こるかわからん。
ああ、そういえば記憶が戻らないままシヴァの奴はやっちまったんだよな。
まぁ、別にいいけどよ。
あの場合はこっちの正当防衛ってやつだ。
引き際を誤ったあいつが悪い。

オシリス 「会えばわかる。とりあえず、おまえとは初対面の男だ」

祐一 「そうか」

どれほどの連中が勢力内に集まってるのか知らないが、オシリスやシヴァの仲間ならやはりそうとうなレベルの魔神だろう。
誰だったとしても面倒そうな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水瀬屋敷の庭で対峙する魔神一人と人間三人。
残りの者は離れたところで静観している。

エリス 「再会? 何のこと?」

アシュタロス 「おや、まだ聞いていなかったか?」

エリス 「あいつの一族の遠い先祖が魔族だったことなら知ってるわよ。けど、それ以上の何かがあいつにはあるって言うの?」

楓 「・・・祐一君・・・のことなの、エリスちゃん?」

エリス 「・・・・・・ええ」

少し驚いた顔をするが、楓は深い疑問を抱きはしなかった。
たとえどういう過去や生まれであろうと、祐一が彼女らの仲間であることに変わりはない。

楓 「エリスちゃんは、最初から知ってたのね。七年半前のあの時、あの場所へ行こうって言ったのは、確かエリスちゃんだった」

エリス 「ちょっと興味があった、それだけだったんだけどね」

当時はまだ四人だったエリス達は、七年半前のあの日、ルークスヒルと呼ばれる地で一人の少年と出会った。
それが祐一である。
エリスにしてみれば、以前魔神達から聞いた一族と相沢一族の一致を偶然知り、興味を持ったに過ぎなかった。
だがそれが、こんな形で繋がってくるとは思わなかった。

エリス 「答えなさい、アシュタロス。あいつにいったい、どんな秘密があるって言うの」

アシュタロス 「秘密などと言うほどのことではない。ただ彼は、その祖たる魔神本人だということだ」

エリス 「本人・・・ですって!?」

アシュタロス 「正確には転生だがな。魔神の転生は一度覚醒すれば、かつての記憶はほぼ完全に取り戻す。人間とは魂の器がまったく違うからな」

ミステリアでエリスがバインに会った時、あの魔族は祐一を魔族の王として迎えるのが目的だと言った。
いくら名のある魔神の子孫とは言え、こだわりすぎだと思ったが、これで合点がいった。
オシリスらにかつて聞いた話が真実であるなら、彼の者は魔界でも最強クラスの魔神だったという。
その転生ならば、仲間として迎え入れても不思議はない。

エリス 「連れに来たわけ、あいつを・・・」

アシュタロス 「だとしたら?」

エリス 「・・・させない。あいつを、あんた達みたいな連中のところへ行かせたりしない!」

アシュタロス 「勇ましくなったようだな。おもしろい、退屈しのぎに、少し君の力を試してゆこう。王妃候補たるもの、美しさとともに強さも兼ね備えていなければならない。いざ」

すぅっと両手を左右に広げながら、アシュタロスは自身の魔力の一部を解放する。
途端に、突風が巻き起こり、空気が二倍にも三倍にも重くなったような感覚がした。

エリス 「くっ・・・!!」

アシュタロス 「来ないのならば、こちらから行こうか?」

エリス 「ちっ!」

エリスは身を沈めて地面を蹴る。
相手のもとに達するより早く魔剣レヴァンテインを取り出し、振りかぶる。

エリス 「ハッ!」

アシュタロス 「ふっ!」

ドンッ!

振り下ろされた剣の一撃は、地面を抉った。

アシュタロス 「大降り過ぎるな。剣の扱いには慣れていないようだ」

エリス 「うるさいっ!」

振り下ろした状態からさらに横薙ぎにする。
斬ったと思ったのは、アシュタロスの残像に過ぎず、相手の気配は背後に移った。

エリス 「このっ・・・!」

アシュタロス 「ふっ」

振り返ったエリスの額に、アシュタロスは軽く指を当てる。
ほとんど力を入れていないように見えたというのに、エリスの体は大きく吹き飛ばされた。

エリス 「ガッ・・・!」

アシュタロス 「がむしゃらに暴れるだけの戦いは美しくないな。戦いとはもっと美しく行われるべきものだ」

エリス 「何をぉ・・・!!」

部屋の中に突っ込んでいたエリスは、崩れ落ちた瓦礫の下から這い出る。
剣を構えなおすと、再び正面から突っ込んでいく。

アシュタロス 「馬鹿の一つ覚えか?」

エリス 「それはどうかしら!」

剣を振ると見せかけて、エリスはドラゴンブレスを放った。
意表をついた攻撃をかわしきれず、アシュタロスはその直撃を受ける。
辺りに土煙が立ちこめ、視界が遮られる。
その中を、エリスは低い姿勢で疾駆する。

エリス 「(ここ!)」

相手のほぼ斜め後ろから逆袈裟に剣を振るう。

ザシュッ!

エリス 「(とった!)」

アシュタロス 「残念」

エリス 「!!」

斬ったと見えたものは、まさしくアシュタロスに違いなかった。
しかし、エリスの背後にいるのもまたアシュタロス本人だった。

アシュタロス 「それは影だ」

エリス 「くっ!」

後退するエリスをアシュタロスが追い詰める。

アシュタロス 「もう少し速く動かねば簡単に追いついてしまうぞ」

エリス 「っ!!」

完全に動きの先を読まれて回り込まれる。
回避は間に合わないタイミングだった。

楓 「エリスちゃん!」

アシュタロス 「む」

ギィンッ

エリスに向けて放たれたアシュタロスの攻撃は、楓によって受け止められる。

楓 「!!(くっ、お、重い・・・!)」

だが、パワーの差で押し切られそうになる。

京四郎 「二人とも下がって!」

アシュタロスの背後に、剣を振りかぶった京四郎が現れる。
手には、見事な装飾をなされた美しい剣が握られている。

ヒュンッ

京四郎の剣が空を薙ぐ。
寸前でアシュタロスは上へと逃れていた。

アシュタロス 「ほう」

塀の上に降り立ったアシュタロスは、下にいる三人を見回す。

エリス 「・・・・・・」

楓 「・・・・・・」

京四郎 「・・・・・・」

三人はそれぞれに体勢を立て直して構えている。

アシュタロス 「まさかこのような場所で天地魔界の至宝とも呼べる剣を三振りも拝めるとは、幸運なことだ」

視線が順番に動いていく。

アシュタロス 「魔剣レヴァンテイン」

まずはエリス。

アシュタロス 「神剣草薙」

続いて楓。

アシュタロス 「それに、かのアルテマウェポン」

最後に京四郎。
特にその剣を見た時には、多少の驚きが声に含まれていた。
他の二振りに比べて意外なものだったようだ。

アシュタロス 「さすがに伝説の武器三つを相手にするのは少し苦しいものがあるな」

楓 「なら、退く?」

アシュタロス 「いや・・・」

エリス 「!! まずいっ!」

エリスが警告を発するが、既に遅かった。

アシュタロス 「少々、本気を出すとしよう」

 

一瞬。

見ている者にはそう思えた。

いったい何が起こったのか、浩平にすらまったくわからなかった。

時間にすれば数秒といったところだろう。

気が付けば、立っているのはアシュタロス一人で、エリスも、楓も、京四郎も倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく