デモンバスターズEX

 

 

第48話 真魔の血脈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・でかすぎだろ・・・」

斬っても斬ってもキリがない。
というか、中から外に出ることすらできない。
今までに戦った最大の魔獣の三倍以上は確実にあるぞ。

祐一 「しかも・・・」

こいつ・・・、再生してやがるのか。
植物ってやつは動物よりも生命力が高いからな。
とりあえず外に出るために道を作って来ているんだが、元来た道はもう塞がっている。
この再生力は、厄介なことこの上ない。

祐一 「やっぱ外に出るより、心臓部を狙った方が早いか」

それにしても、さっきから随分と体の調子がいい。
この感じは、シヴァと戦った時に似ている。
何かが体の中で反応して、俺に力を与えている、そんな感じだ。

祐一 「・・・魔獣の力に反応してるのか? いったい何が・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「・・・なんなのよ、これは・・・」

先ほどから、エリスは体に違和感を覚えていた。
ブラッドヴェインとの戦い、そして魔獣パンデモニウムの出現。
それに伴い、エリスの中で何かが暴れ始めている。

エリス 「(これじゃあまるで、魔竜の衝動・・・或いはそれ以上?)」

ブラッド 「血が騒ぐか、エリス?」

エリス 「なんですって?」

ブラッド 「ぐふふ、そう、血だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイン 「・・・ふふふ、なるほど、確かに郁未さん、あなたは不敗でしょうね」

そこには、バイン一人しかいなかった。
すぐ近くには大穴が穿たれており、郁未はそこから逃げたのだ。

敵であるバインに向かって強烈な一撃を放つと同時に、それと同等の一撃を背後にも向けて放っていたのだ。
そして相手が怯んだ隙に逃げ出した。

バイン 「敵に背を向けることをなんら恥と思わない。現状もっとも大事なことはパンデモニウムの対策と考え、あえて私を無視したわけですね。不要な戦いは避け、最後の“勝利”をもぎ取りますか」

だがこの郁未の行動も、バインの計算の内だった。

バイン 「これでいいのです。今の主役はあなたではありません、郁未さん。今さら外へ出たところで、あなたにパンデモニウムは倒せない。それが可能なのは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表での戦いは、新たな局面を迎え始めていた。
攻勢に出ていたパンデモニウムがその攻撃の手を止め始めたのだ。
というより、一定範囲外のいる者に対しては攻撃を仕掛けない。
だが近付けば容赦なく攻撃を加える。
その様はまるで、城砦を思わせた。

楓 「防御体勢に入るつもり? でも、いったい何のために・・・」

護りを固められては、体力の低下した外の面々では手の出しようがない。

アルド 「力を溜めて一気に放出・・・という雰囲気でもありませんね」

楓 「うん。完全に引きこもるつもりみたい」

そこへ、唐突に地面から爆発が起こる。
新手かと構えるが、下から出てきたのは意外な面々だった。

さやか 「けほっ、けほっ・・・・・・ふぅ、やっと太陽の下に出たよ」

琥珀 「結構大変でしたねー」

楓 「さやかちゃん、それにみんなも」

城の地下からさらにその下の、祐一達が潜入時に使った地下水路を通り、会場の下まで戻ってきたのだ。
ただ、かなり崩れていたためこうして地面を上に向かって掘り進みながら出てきたわけだが。

さやか 「やっほ〜、楓さん。それに・・・」

アルド 「・・・・・・」

さやか 「さっきはどうも〜」

アルド 「いえいえ、こちらこそ♪」

顔は笑っているが、さやかの額には怒りマークが浮かんでいる。

さやか 「おほほほほほほ〜」

アルド 「ふふふふふふふ」

栞 「な、なんか怖いですぅ」

香里 「そうね・・・」

 

舞 「・・・郁未」

さくら 「え、どこ?」

見上げると、上から郁未が降ってきた。
舞達のすぐ近くに着地する。

舞 「・・・おかえり」

郁未 「ただいま。こっちはどうなってるの?」

さくら 「見たとおりだよ」

散々な状態だった。
城はもはや完全にパンデモニウムに乗っ取られている。
しかも郁未を外に排出した魔獣は完全に防御状態になり、何重にも壁を作り出していた。

 

一方、佐祐理達も脱出に成功していた。

一弥 「姉さん!」

ジーク 「佐祐理様。ご無事でしたか。・・・・・・王は?」

佐祐理 「すみません、話は後です」

久瀬・重蔵 「「・・・・・・」」

出てくる前に、久瀬と重蔵は佐祐理から一つ言われていることがあった。
それは、

佐祐理 『お父様は、今日、この場で、魔族に殺されたんです』

公王高峰が二年前既に暗殺されていた事実を隠せということだった。
久瀬も重蔵も、その理由、必要性は重々理解していた。
しかし、心中もっとも辛いはずの佐祐理がそれを表に出さない姿を、痛々しく思っていた。

久瀬 「・・・佐祐理様」

佐祐理 「泣くことはいつでもできます。今は・・・」

久瀬 「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・またおまえか。代わる代わるご苦労なこった」

バイン 「お褒めに預かり光栄でございます」

祐一 「褒めてねぇ」

魔力を強く感じる方が心臓部だとあたりをつけて進む俺の前に、再びバインが現れた。

祐一 「郁未はどうした?」

バイン 「逃げられてしまいました。しかし、それで問題ありません」

祐一 「狙いどおりか。どうしてそうまでして俺にこの魔獣を倒させようとする?」

これだけのお膳立てを、仮に他に目的があったとしても回りくどい。
何故そこまで俺に執着するんだ、こいつらは。

祐一 「答えろ」

バイン 「・・・では単刀直入にお教えいたしましょう。あなた様の・・・相沢一族の祖先は、魔族です」

祐一 「・・・なに?」

今、なんて言いやがった?

バイン 「かつて、我らの主ともつながりの深い一人の魔神が地上に来て、人間の娘を見初めた・・・それが相沢一族・・・当時は違う名でしたが、その始まりなのです 。その一族がどこにいるのか知れませんでしたが、マギリッドさんがもたらしてくれた情報のお陰で、相沢一族、そしてあなた様の存在を確認できたわけです」

俺の、相沢一族の祖先が魔神・・・ね。
なるほど、一族が生まれながらにして持つ魔なる力の正体はそれか。
妙に納得できるな。

祐一 「それで続きは?」

バイン 「ええ。あなた様を、我らの同胞として迎え入れたいのでございますよ」

祐一 「仲間になれ、と?」

バイン 「はい。先ほども申しましたが、あなた様の祖であられる魔神は、我が主とは親睦が深かったと聞き及んでおります。ゆえにその子孫、中でももっとも強くその血を受け継ぐあなた様を、我らのもとへ。それが私が主よりおおせつかった二つの使命のうちの一つでございます」

祐一 「・・・・・・それだけか?」

バイン 「・・・さすがに察しがよろしい。血がもっとも濃い・・・それは即ち、あなた様がかの魔神の生まれ変わりであることも示しているのですよ」

祐一 「そう言い切れるのか?」

バイン 「・・・かの魔神の御名は・・・“祐漸”・・・そして、かのお方が見初めた娘の名は・・・“一乃”と申したそうにございます。これをただの偶然と思われますか、“祐一”様?」

祐一 「・・・・・・」

バイン 「名とはもっとも短い呪であると聞き及びます。そこには必ず何らかの意味が隠されていると」

祐一 「・・・・・・」

バイン 「その御方と無二の友であった我が主とは、あなた様を我らの王として迎えることを望んでおります。そして、魔竜王様の御息女を王妃として迎えることも、我らの望みにございます」

祐一 「・・・・・・」

知らず知らずのうちに、俺は剣を下げていた。
直感的にわかった。
こいつの言葉に嘘偽りはない。
そして、聞けば聞くほど妙な親近感をこいつらに抱き始めている自分がいた。
今まで敵として見なしていなかった魔族どもが、身近に感じる。

バイン 「ただ、今のままではあなた様のことも姫君様のことも他の方々は納得されないでしょう。だからこそ、さらなる力を覚醒させてほしいのですよ。その身に眠る、真魔の血を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンデモニウムが作る壁の上には、ゼルデキアが立っていた。
表から内側を窺おうとする楓達を牽制している。

ゼルデキア 「ここから先は貴様らの立ち入る領域ではない」

楓 「まだ中には私達の仲間が二人いるのよ。それに、この魔獣をこのまま野放しにはしておけない」

最前列でゼルデキアと対峙しているのは、楓、さやか、郁未、さくらの四人。
少し離れた位置には豹雨、アルド、京四郎、斉藤らが、下がった場所には舞、芽衣子、栞、香里、浩平、みさき、琥珀、美凪、セリシア、澄乃、しぐれがいた。

ゼルデキア 「無駄なことだ。もはや貴様ら人間どもの出る幕はない。見よ」

ゼルデキアが天を仰ぐ。
先ほどまでの晴天が嘘のように、厚く、黒い雲が空を覆い始めていた。

ゼルデキア 「真魔の刻」

郁未 「真魔の・・・」

さくら 「・・・刻?」

ゼルデキア 「そう。聞くがいい、愚かな人間どもよ。この世を支配するのは“血”だ。“血”に秘められし力こそが絶対の証。そして、我ら魔族の偉大なる祖に連なる血筋こそが、真魔の血脈。その真魔の力が覚醒する時、天変地異すら引き起こされる。見るがいい! 魔の力の極限を!!」

ピカッ!!!

黒雲から雷がパンデモニウムに落ちる。
それも半端な大きさではない。
雷の余波が下にまで届くほどであった。

さくら 「うにゃぁっ!!」

郁未 「これは・・・!」

楓 「なんなの!?」

何か強大な存在が、パンデモニウムの中で息づき始めている。
そう楓達は感じた。
今まで感じたことのないほど巨大な力を。
しかもそれが二つ。

郁未 「この気配は・・・まさか・・・・・・」

ゼルデキア 「魔の刻ここに極まれり! 我らが新たな王たるべき御方の力が顕現する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「くはっ・・・!!?」

雷の波動を受けて、エリスはその場に蹲る。
その感覚は、魔竜の衝動によく似ていた。

エリス 「こ・・・これは・・・・・・!!」

ブラッド 「まだ己の血を否定しているのか。いくら拒絶しても苦しむだけだぞ。おまえは我が血を、魔竜の血を引く者。その血の宿命から逃れることはできぬ」

エリス 「ぐっ・・・・・・ぅがぁ・・・・・・っ!!」

苦しみが増し、全身が痛みを訴える。
頭から、背中から、魔竜の角が突き出ようとしていた。
無理やりそれを抑えようとすると、全身に激痛が走った。

エリス 「うぁあああああああ!!!!」

ブラッド 「受け入れよっ! 魔竜の血を! 真魔の血脈に連なる最強の竜族の血に眠る力を呼び覚ませ!! エリスよ!!!」

エリス 「っっっっっっ!!!!!!!!!」

 

弾けた。

 

膨れ上がった魔力はパンデモニウムの幹を軽々と吹き飛ばし、巨大な竜の幻影が空に浮かぶ。

その竜の咆哮は、あたり一面に響き渡った。

聞くだけで心の底から恐怖を覚えるものだった。

 

 

 

 

 

 

栞 「ぁ・・・・・・」

その姿を見て、栞はその場にへたり込んだ。
香里も全身を震えさせる。

香里 「・・・こ、こんなの・・・・・・」

かつて香里は、ドラゴンに対して恐怖を抱いていたが、それとはまったく違う、絶対的な威圧感。
立っているのがやっとだった。

浩平 「やべぇな・・・ギャグのギの字もでねぇ・・・」

みさき 「・・・怖い・・・」

美凪 「・・・・・・」

琥珀 「・・・・・・」

セリシア 「・・・・・・」

誰もが、声もなく佇む。
それほどまでに、強大な存在が目の前にいた。

楓 「・・・震えが止まらない・・・・・・これが・・・エリスちゃんの真の力・・・・・・」

アルド 「・・・・・・これはこれは」

豹雨 「・・・・・・」

 

ゼルデキア 「姫君の方が先に目覚めたか。いや、こうなってはもう姫と呼ぶには相応しくないか。そう・・・王たる存在の妃になるべき御方、魔竜妃エリス様、か。そして・・・」

もう一つの気配もその存在を高めていく。
さらなる力が目覚める気配に、大地が揺れ、天が震えていた。

ゼルデキア 「控えよ人間ども。真魔王たる御方の覚醒の刻だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力が、流れ込んでくる。
凄まじい流れに、押し流されそうになる。
とんでもない力だな。

外から流れてくる力はきっかけに過ぎない。
それに呼応して暴れているのは、俺の中・・・・・・奴に言わせれば血の力か。
そうだな、なんとなくわかるぜ。

既にバインはいない。
まぁ、半ば暴走気味の俺の近くにいたら間違いなく巻き添えを食らうだろうからな。

・・・・・・妙なことだ。
今俺は、奴の身を気遣ったのか?
敵と思っていた魔族のことを。

祐一 「・・・そういや、さっき何か聞いたな。そうだ、奴の主の名を聞いたんだった」

何故かふと思って、そんな質問を投げかけたんだ。
去り際に、奴のその名を言っていった。

死と再生を司る魔神、オシリス・・・。

オシリスか。
懐かしい名前だ。

懐かしい?
どうして懐かしい?
これも、俺の血に眠る、かつての記憶ということか。
少しだが、それを呼び起こす。

あいつが、俺を王だと?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

祐一 「・・・くだらないことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく