デモンバスターズEX
第47話 魔獣パンデモニウム
郁未 「一つ、わからないことがあるわね」
祐一 「ああ」
バイン 「何か?」
祐一 「おまえらの本当の目的は何だ?」
バイン 「・・・・・・」
ゼルデキア 「・・・・・・」
そう、それこそが最大の謎だ。
ここまで手の込んだ仕掛けを数年がかりで用意してきた、その理由、目的。
それがわからん。バイン 「カノン公国を滅ぼすこと・・・では不服ですか?」
祐一 「俺が聞いてるのは、本当の目的の方だ」
建て前は聞いてない。
確かにカノンは地上最強の国家で、魔族と言えどもそうそう簡単には攻略できないだろう。
だが奴らほどの力を持った魔族ならば不可能ではない。
ここまで手の込んだ真似をして滅ぼして、しかもそれで連中にどんな得があるっていうのか。祐一 「たかが国一つ滅ぼすのに手間をかけた理由もわからなければ、それでおまえらがどんな得をするのかもわからない。なら何故こんなことをした?」
バイン 「・・・・・・さすがですね」
祐一 「・・・・・・」
バイン 「では答えをお教えしましょう。もう封印も解ける頃ですからね」
封印だと?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
何だ?
地震?久瀬 「これは!?」
重蔵 「佐祐理様!」
佐祐理 「何事ですか?」
祐一 「この揺れ方、尋常じゃないな」
郁未 「何をしたの!」
バイン 「すぐにわかりますよ」
さらに激しくなる揺れ。
そしてついに、天井と床が一時に崩れた。
楓 「!!」
京四郎 「!」
地震の影響は外でも当然感じられていた。
そして、突如として溢れ出した魔の波動をいち早く感じとったのは、楓と京四郎だった。楓 「あれは!」
城の方から立ち昇る邪気。
みるみるうちに禍々しい姿を顕現させていく。
これとよく似た存在を、楓は嫌というほどよく知っていた。
かつて戦った魔王・・・。楓 「ダークエレメント? でも、違う、これは・・・」
それよりもさらに禍々しく、強大な邪気。
芽衣子 「来るぞ」
さくら 「うん」
闇が広がる。
幻のようだったそれは、完全に実体を持って周囲の者に襲い掛かってくる。
ズンッ!
栞 「わぁっ!」
香里 「次から次へと・・・今度は何!?」
漆黒の塊がいくつも降ってくる。
一つ一つがかなりの大きさで、しかも落ちた場所からさらに広がっていく。栞 「ば、化け物・・・」
楓 「みんな気をつけて!」
これは危険な存在だと、誰もが感じていた。
祐一 「・・・・・・」
何が起こった?
天井が崩れ、床が落ちて、さらに下から邪気を孕んだ何かが押し寄せてきた。
ふむ・・・。祐一 「封印とか言ってたな。魔獣の類か?」
ゼルデキア 「ご名答」
祐一 「おまえか。で、こいつはいったい何だ?」
周囲は、まるで黒い木々に覆われているような感じだ。
普通の状態ではないな。ゼルデキア 「魔獣パンデモニウム」
祐一 「やはり魔獣か」
ゼルデキア 「幾多の魔物が寄り集まり、やがて並みの魔獣を遥かに上回るほど強大になったものでございます」
祐一 「そんなものがミステリアの地下に眠っていたとはな」
ゼルデキア 「榊、遠野時谷、セリシア、氷上シュン、そして倉田高峰・・・・・・これらの体内に埋め込んだ特殊な魔力が解き放たれることで、封印を解くために必要なエネルギーとなりました。そしてこのとおり」
祐一 「・・・他の連中は?」
ゼルデキア 「さて。魔獣の出現に巻き込まれたのでしょうが、運が良ければ生きていましょう。ただ、天沢郁未だけはバインが相手をしておりますが」
祐一 「・・・・・・どうも気になってるんだが、バインといいおまえといい、どうして俺に対して礼を尽くす」
郁未なんかと話している時はそんな感じはなかったのに、俺に対してだけこいつらの態度が違う。
まるで目上の奴と話しているような、そんな感じだ。ゼルデキア 「いずれ知れましょう」
祐一 「・・・まぁいい。さっきの話の続きだ。おまえらの目的は何だ?」
ゼルデキア 「ミステリアの遥か地底、旧時代の遺跡に封じられたこの魔獣の復活・・・」
祐一 「それも過程でしかないだろう」
ゼルデキア 「・・・さすがは、ご明察です。しかしここから先は、この魔獣を倒してから」
祐一 「何?」
ゼルデキア 「パンデモニウムをお倒しください。今それができるのは、おそらくあなたをおいて他にない」
祐一 「どういうことだ?」
俺しかいないだと?
確かにこの魔獣、他の奴とはレベルが違うだろうが、この場には他に強い奴はいくらでも・・・・・・まさか!ゼルデキア 「ほぼ全て、我らの計画通りに進んでいますれば、今戦えるのはあなた様お一人・・・」
祐一 「・・・かもしれんな」
思い返せば、やたら手の込んだ仕掛けが多かった。
そしてそんな中で、こっちの戦力はかなり消耗させられていた。ゼルデキア 「白河さやかとブラッディ・アルドは共倒れ、大地の巫女楓には黒巫女榊、遠野美凪には遠野時谷、折原浩平には氷上シュン。雛瀬豹雨、斉藤元、ジークフリード、川澄舞らは、アヌビスが挑発して互いに潰しあわさせました」
祐一 「アヌビス・・・奴もおまえらの仲間か!」
ゼルデキア 「奴は早くから来るべき時に備え、自ら記憶を消して人間社会に溶け込んでおりました。さらに、倉田佐祐理はあなた様が。天沢郁未はセリシアという予定でしたが、あの女はさすがでした。あなた同様、我らの存在を警戒してここまで力を温存してきた。しかし、今頃はバインが相手をしていましょう。そして、エリス様には魔竜王様直々に当たられています」
エリスと戦ってるのは、例の魔竜王ブラッドヴェインか。
あのエリスがあそこまで恐れる、エリスの父親。祐一 「なるほど、確かに、今まともに戦えるのは俺一人・・・・・・だが、おまえはどうするんだ?」
こいつも敵に違いない。
ゼルデキア 「私は、これにて失礼を」
祐一 「待てよ。まだ話は終わってない」
ゼルデキア 「パンデモニウムを倒されましたら、また・・・」
奴の姿が消える。
ったく、言うことだけ言って行っちまいやがった。
まるで俺を試しているみたいな・・・。
俺はいったい、何なんだ?祐一 「あとでじっくり聞きだしてやる」
とりあえず今は、このデカブツを片付けるのが先決か。
同じように黒い木々に閉鎖された空間内。
二つの気配がぶつかりあっている。
狭い場所を高速で動き回っているため、その姿を肉眼で捉えるのは難しい。郁未 「ちっ!」
バイン 「ふっ!」
気配の正体は、郁未とバイン。
相手の隙を見て接近しては攻撃を叩き込み、再び離れる。
その繰り返しである。バイン 「はじめてお会いした時からあなたの力はわかっているつもりでしたが、さすがですね」
郁未 「あんたもね」
この戦いは、正直言って郁未に不利だった。
バインとの力関係を言えば、ほぼ互角と言えるだろうが、バインの戦い方は明らかに時間稼ぎである。
最終的な目的は知れないが、この魔族は郁未をこの場に足止めしておくつもりなのだ。
そしておそらく、現状この巨大な魔獣を倒せるだけの余力を残しているのは祐一と郁未の二人だけだった。
仮に祐一の方へゼルデキアが当たっているとすれば、魔獣による破壊を許すことになる。
それはおもしろくない。郁未 「ちょこまかと逃げ回って」
バイン 「力比べでは、あなたに敵いそうもありませんからね。何しろ、あのシヴァ様にダメージを与えたほどの力ですから」
郁未 「・・・やっぱり、何か魔族の中で組織だった動きがあるみたいね。エメドキアの一件も、シヴァのことも、このカノンのことも、全部何か大きな計画の一端に過ぎない」
バイン 「さすがです、天沢郁未さん。やはりあなたは危険な存在だ」
気配が消える。
と同時に姿も消えた。バイン 「或いはここで倒しておくのが利口な選択かもしれませんね」
郁未 「やってみなさいよ」
姿の見えない相手と対峙するため、郁未はあえて目を瞑った。
どうせこの暗闇では目はほとんど役に立たないのだ。
僅かな気の流れだけを目印に戦う。郁未 「・・・デモンバスターズとは違った意味でね、私も過去、一度たりとも敗北を味わったことはないわ」
一方さらに深い場所。
浩平 「まいったな、何も見えん」
同じくパンデモニウムの出現に巻き込まれた浩平とみさきも、半ば生き埋め状態にあった。
浩平 「こういう状況では、みさきだけが頼りだな」
みさき 「うん、任せてよ」
元々闇の中に生きるみさきにとっては、闇など何の意味もない。
音の反響、空気の流れ、匂いなどが彼女に世界のあり方を教える。
それは、目で見るよりも遥かに確かなものであるかもしれない。みさき 「・・・こっち・・・ん、待って。誰かいる」
浩平 「こっちだな」
示された方向に壁らしきものを見止めて、浩平は刀を抜く。
壁にはたやすく穴が空き、その先には少し広い空間があった。琥珀 「あ、浩平さんにみさきさん」
さやか 「ちゃお〜」
美凪 「・・・ちゃお」
みさき 「みんな〜」
さやか 「みさきちゃん、無事だった?」
みさき 「うん」
美凪 「・・・めでたし」
琥珀 「とりあえず、一つは問題解決ですね」
浩平 「だが、次の問題発生中だ」
依然彼らはパンデモニウムの中にいる。
このままではいつ完全に埋もれてしまうかわからない。
早急に脱出する必要がある。さやか 「さて、どうやってここから出ようか・・・・・・ん?」
くいくいと袖を引かれて、さやかが視線を落とす。
目を覚ましたセリシアが何か言いたげにさやかのことを見ていた。さやか 「なーに?」
セリシア 「・・・あいつが作った隠し通路がいくつか、地下にある。この状況で無事かどうかは、わからないけど・・・」
浩平 「地下か・・・可能性はあるな」
さやか 「ありがと♪ とにかく行ってみよ」
さやか達は、セリシアの先導で地下通路を目指した。
パンデモニウムによる被害は、徐々に広がりつつあった。
今はまだ城内に留まっているが、外まで浸出するのは時間の問題であろう。楓 「天浄烈閃!」
ドシュッ!
全貌が見え始めてくると、パンデモニウムは巨大な樹の怪物と言えた。
その枝や根っこが伸びて、周囲に広がろうとしている。
楓達は、そうしたものを撃退していた。楓 「・・・まずいなぁ・・・威力が落ちてる」
栞 「あれで落ちてるんですか・・・?」
今放った楓の一撃は、充分すぎるほどの破壊力を持っていた。
楓 「光魔封神で結構力使ったからなぁ・・・。このままだときついかも」
しぐれ 「はっ!」
澄乃 「え、えぅ〜!!」
さくら 「うにゃぁ〜、これじゃキリがないね・・・」
根は次々と地面から生えてくる。
枝はいくらでも上から降ってくる。
打つ手なしだった。芽衣子 「がんばれ皆の衆」
澄乃 「芽衣子も手伝ってよ〜」
芽衣子 「だからこうして応援している」
さくら 「それは手伝ってるとは言わないよ」
バトルロイヤルのダメージ残る舞、ジークや、一弥らも魔獣の撃退に当たっている。
だが、明らかにパワーダウンしている彼らでは決定力に欠けた。その一方で、底なしかと思われるほどのパワーを見せる豹雨と、もう一人謎の男京四郎の活躍によって何とか持ちこたえている状況だった。
豹雨 「けっ! 歯応えはねェくせに数だけはいやがる」
京四郎 「大元を叩かない限り、端末をいくら破壊しても意味がないね」
とはいえ、今の状況が防戦一方には変わりない。
斉藤 「やれやれ、こういうのは専門外なんだがな」
アルド 「まぁ、こういう突発的な事態には慣れていますから」
こちらは同じくダメージを追っていながら、マイペースには自分の領域内に入ってくる敵を片付けている。
渋く、しかし着実に成果を上げていた。斉藤 「む」
メサルス 「斉藤ォォォォォォ!!!!!」
この状況において、尚も斉藤への執念を募らせる男が突っ込んできた。
斉藤 「ふっ」
がむしゃらな攻撃など、斉藤の前では無意味であった。
たとえ斉藤の体力がかなり低下しているとしても、である。
だがそんなことさえ、この男は考えてもいなかった。斉藤 「む、待て、メサルス」
制止の声をかけるが、メサルスの耳には届いていない。
斉藤に向かって槍を突き出そうとしたその瞬間、頭上から新たな枝が落下してきた。メサルス 「さいと・・・ぶうぉぁっ・・・・・・・・・・・・・・・・」
それっきり、二度と這い上がってくることはなかった。
斉藤 「・・・愚かな奴だ。貴様の最大の欠点は、退き際を弁えなかったことだな」
斉藤への執念だけで戦ってきた男の、あまりに惨めで無様な最期であった。
魔獣パンデモニウムの猛威は、尚も続く。
つづく