デモンバスターズＥＸ

　

　

第４６話　総天の剣を継ぐ者

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

祐一達が王の間へ到達していた頃、大武会会場にて――。

　

　

　

斉藤　「・・・・・・」

壁に背中を預ける形で、斉藤元は座り込んでいた。
己の全てを出し切って戦った。
結果は、はっきりとした勝ち負けをつけるならば、斉藤の負けである。
どれほど健闘と言われても、斉藤にとっては勝利か敗北以外の結果はありえない。

斉藤　「・・・地上最強の男か。大げさな表現ではなかったようだな」

勝負の行方は紙一重だった。
しかし、僅かに斉藤が競り負けた。
生き延びたのは斉藤の運の強さであろう。

斉藤　「デモンバスターズか。おもしろい」

敗北を味わいながらも、斉藤元は新たな闘志を、静かに燃やしていた。

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

豹雨　「・・・・・・」

舞　「・・・・・・」

最後に立っていた者が勝者。
それがこのバトルロイヤルの唯一無二のルールであった。
そして、今立っているのはあと二人のみ。
この戦いの勝者が、頂点となるのである。

　

　

　

　

　

楓　「・・・・・・」

京四郎　「・・・・・・」

栞　「・・・・・・」

香里　「・・・・・・」

　

澄乃　「・・・・・・」

しぐれ　「・・・・・・」

　

さくら　「・・・・・・」

芽衣子　「・・・・・・」

　

戦いを見守る者達も、緊張の面持ちをしていた。
激しい戦いがいくつも繰り広げられ、今立っている二人はそれを勝ち抜いてきた二人なのである。
間違いなく、これから始まる戦いがもっとも激しいものとなるであろう。

アルド　「ふふっ、どうやらメインイベントには間に合ったようですね」

楓　「アルド君・・・って、どうしたのその格好？」

知人の声に振り向いた楓は、ぼろぼろの姿のかつての仲間に目を見張る。
この男、ブラッディ・アルドがこれほどの姿にされるような相手がそうそういるとは思えない。

アルド　「いえね、先ほどさやかさんにこっぴどくやられてしまいまして。やはり彼女は私が見込んだとおりの人だ」

楓　「・・・そう」

アルド　「それより、実におもしろいカードですね、この戦いは。地上最強の剣と呼ばれる総天夢幻流の使い手二人による、真の継承者を決める戦い」

楓　「うん」

最強の名を冠する同じデモンバスターズの楓やアルドにとっても、この戦いは興奮を呼び起こすものだった。
彼らの頂点に立つ豹雨と、それと同じ剣を使う舞との戦い。
これもまた一つの、最強を決める戦いとなるであろう。

栞　「私・・・鳥肌が立ってきました・・・」

香里　「あたしもよ・・・」

楓　「彼女の豹雨に対するあの執着心は、私達すら上回るかもしれない。同じ剣を使うがゆえに・・・」

アルド　「一瞬たりとも、目が離せませんね」

　

　

　

　

　

　

　

何の前触れもなく、二人の戦いは始まった。
もはやこの期に及んで、二人の間に言葉などいらない。
ただ、剣をもって対し、剣をもって応じるのみ。

舞　「総天夢幻流・・・いづな！」

豹雨　「ふんっ！」

ガギィンッ！！！

いきなりの舞の必殺剣。
それに対して豹雨は斜め下からの切上げ技で応じる。
両者の剣が激しくぶつかり合う。

舞　「・・・・・・っ！！」

豹雨　「・・・！！」

ぎりぎりぎり・・・

すぐには弾かれず、互いにその状態のまま押し合いが続く。
だが空中にいる分、舞の方がふんばりの利く時間が短い。
やがて舞の方が豹雨の剣に弾き飛ばされた。

舞　「っ！」

しかし舞はすぐに体勢を立て直し、着地と同時に今度は地を這うような動きから豹雨を強襲する。

キィンッ

今度は先ほどのような渾身の力を込めた一撃ではなく、探るように数度剣を振るっては下がる。
豹雨はその場を一歩も動かず、舞の動きに合わせて応じていた。

　

　

　

栞　「さっきの押し合い、互角ですか？」

京四郎　「いえ。舞さんの方は戦いにおいて常に有利とされる相手の頭上からの攻撃で、両手による大上段からの振り下ろし。対する豹雨は片手。パワーでは間違いなく豹雨が上を行っています」

　

　

舞　「はぁあああ！！！」

最初からずっと攻め続けているのは舞の方だった。
しかしそのことごとくは豹雨の剣に防がれ、まだ一発も当たっていない。
こうなってくると、ただでさえ体力的にどちらが上か明白である上に、動き続けている舞と、止まったままの豹雨のどちらの方が消耗が大きいか、一目瞭然であった。

豹雨　「そろそろ行くぞ」

舞　「！！」

その一言で、今まで受けに回っていた豹雨が一転して攻撃に出る。
速く、鋭い打ち込みを、舞は辛うじて捌くことに成功するが、続けて二度三度と剣が振られる。
舞は嵐のような豹雨の剣の前に、防戦一方となった。

豹雨　「おらおらおらぁ！」

舞　「くっ！」

そのままでは埒が明かない。
そう思った舞は、下から掬い上げるように来た豹雨の剣を避けず、あえて防御した。
体重の軽い舞に、豹雨の重い剣を完全に止めることは不可能だった。
だが舞は、受け止めた力に逆らわず、それを利用して自分の体を上昇させる。
空中回転で体勢を整え、再び必殺剣を放つ。

舞　「いづな！！」

二度目の総天夢幻流いづな。
本来一撃必殺の決め技を一度の戦いの中で二度以上出すなどほとんどない。
既に二度目を使っているのは、それだけ両者の戦いが凄まじいということだ。

豹雨　「今度はこっちも行くぜ」

舞　「！！」

豹雨　「かむなぎ」

祐一との戦いで見せた、本人がまだ未完成と言っていた技を放つ。
まるで見えない刃が襲ってくるような感覚に襲われ、舞は鳥肌を立てた。
気が付けば舞は、その衝撃波に吹き飛ばされていた。

　

　

栞　「今度は、届きもしなかった・・・。もう、舞さんのいづなは通じない？」

京四郎　「確かに、豹雨の前であれ以上あの技を使っても通用しないでしょうね」

どんなに強力な技でも、何度も使えば弱点や返し方が見えてくるものだ。
ましてや二人は同じ流派の使い手。
手の内は知り尽くしていると言っていい。

香里　「・・・彼女、確かに強いけど。相沢君より強いとは思えないわ」

栞　「私もそう思います。同じ相手と戦っているからよくわかるのかもしれませんけど、祐一さんの方が舞さんより・・・」

楓　「うん、強いと私も思うよ」

香里　「だとしたら、彼女に勝ち目はないんじゃ・・・？」

楓　「確かに舞ちゃんより祐一君の方が強い。スピード、パワー、精神力、経験など、戦いに必要な多くの面で上回っている。けど・・・」

香里　「けど？」

楓　「舞ちゃんの剣はすごい。その切れ、鋭さは、祐一君を上回るかも」

アルド　「そして、豹雨を超えようとする気迫も凄まじい。この勝負、まだまだどちらに転ぶかわかりませんよ」

　

　

舞　「・・・くっ・・・」

豹雨　「どうした、もう終わりか？」

舞　「っ！」

舞は剣を構えて豹雨と向き合う。
豹雨の方は相変わらず、太刀を肩に担いだだけの状態だった。

豹雨　「言っとくが、俺にいづなは通じねェ」

舞　「・・・・・・」

豹雨　「そんなことは百も承知だろうが」

そのとおりだった。
いづなと名をつけたこの技は、舞が一番得意とする夢幻流の技だが、同じ技なら豹雨も知っている。

舞　「・・・・・・」

以前豹雨が必殺剣としていたしぐれも、舞は知っている剣だった。
しかし先ほど使ったかむなぎという技を、舞は知らない。
それは既に総天夢幻流を離れ、豹雨が独自に編み出した技であるということだ。

舞　「・・・・・・」

舞は心を静める。
師に言われたことだ。
戦いの中、道を見失ったのならまずは心を静めよ、そして万物自然の声に耳を傾けよ。

舞　「・・・総天夢幻流は、森羅万象を味方とする剣・・・」

すぅっと舞は目を閉じる。
刀はだらりと右手に下げているだけである。

豹雨　「ふっ」

その舞に向かって、豹雨の方から斬りかかっていく。
スピードのある一撃は、舞を捉えたかに思われたが、その剣は舞に届いてはいなかった。
さらに続けて豹雨が連撃を放つが、全て、まるで全ての動きを見切っているかのように舞はそれをかわしていく。

豹雨　「“つくよみ”か」

舞　「・・・・・・」

ジークフリード戦でも使った、総天夢幻流守りの極意であった。
月のように相手の動きを心に映し、それを読む。

舞　「・・・そう」

豹雨　「・・・・・・」

舞　「・・・これが、総天夢幻流の極意、つくよみ。おまえが、唯一会得しなかった夢幻流最後の奥義！」

豹雨　「面倒くせェんだよ、そいつは。それに、かわせるだけじゃ戦いには勝てねェ。てめェこそ、“その先”に行けるのか？」

舞　「・・・・・・試してみればいい」

豹雨　「上等だ」

　

　

楓　「決まる」

アルド　「ええ・・・」

京四郎　「そうですね」

決着の時が近付いている。
見ている者は、それを肌で感じ取った。
どちらが勝っても、これで終わる。

栞　「・・・ごくっ」

香里　「・・・・・・」

　

さくら　「・・・舞ちゃん・・・！」

芽衣子　「・・・・・・」

　

澄乃　「えぅ・・・豹雨ちゃん」

しぐれ　「豹雨様・・・」

　

　

豹雨　「行くぜ！」

再び仕掛ける豹雨。
しかし、つくよみ発動中の舞に攻撃は当たらない。
相手の動きを読み、流れるような静の動きでそれをかわすつくよみは、まさに絶対防御と呼べるものの一つだった。
だがもちろん豹雨の言ったとおり、守りだけでは戦いには勝てない。

舞　「・・・・・・」

豹雨　「一つ教えてやる。俺のかむなぎは、それを破ることも考えて考案したものだ」

舞　「・・・夢幻流の極意は、つくよみで終わりじゃない！」

二人の動きが速くなりだす。
そして、曲線だった舞の動きがだんだんと鋭角的になり始める。
静の動きが、動へと変わる。

豹雨　「かむなぎ！」

そこを狙って、豹雨の奥義が放たれる。
至近距離からの攻撃をかわす術は、舞にはない。
完全に直撃かと思われた。

舞　「（見極めるっ、ぎりぎりを！）」

このかむなぎという技が未完成であるなら、必ず綻びがある。
舞は退かずに、かむなぎの剣圧に向かって自ら突っ込んでいった。
凄まじいプレッシャーが押し寄せるが、それでも前進する。
そして・・・。

舞　「そこっ！！」

針の穴のように細い突破口を、舞は突き抜けた。
再三言っていることだが、大技の直後は隙が生じる。
舞は己の全てのその一撃にかけて、刀を振りぬいた。

舞　「総天夢幻流奥義・・・あまてらす！！！」

　

ズバッ！！！

　

豹雨　「っ！！」

　

全てを賭けた舞の一撃は、豹雨の剣を突き抜けてその胸を深々と切り裂いた。

　

さくら　「舞ちゃんの剣が・・・！！」

　

楓　「豹雨を上回った！？」

　

その瞬間、誰もが一瞬舞の勝利を思った。
しかし、袈裟懸けに大きな傷を負っても、豹雨は倒れなかった。

豹雨　「おぉおおおらぁぁぁっ！！」

ドゴッ！

舞　「かはっ！！」

剣を持たない左手の拳を、豹雨は舞の鳩尾に思い切り打ち込んだ。
口から血を吐き出して、舞は後方に大きく吹き飛ばされる。

ギィンッ

豹雨　「くっ・・・！」

太刀を地面に刺して杖代わりにしながら、豹雨は辛うじて倒れそうなところを踏みとどまった。
舞の方は、十数メートルも転がっていき、壁に当たってようやく止まった。

豹雨　「・・・ふぅ・・・・・・」

体をくの字に折って倒れたまま、舞は起き上がらない。
戦いの場に立っているのは、豹雨一人だった。

豹雨　「へっ、阿呆どもが。この俺様に勝とうなんざ、一千万年早ェんだよ」

　

　

　

　

　

　

総天夢幻流奥義あまてらす。
正確には、守りの極意つくよみから、攻めの極意あまてらすへと繋げる技の総称が奥義とされている。
豹雨が会得しなかったこの技を、現在この地上で仕えるのは舞一人だけだった。

あまてらすには定まった型はない。
動きそのものが極意として伝えられ、そこから放つ剣は、使う本人による。

舞　「・・・・・・」

奥義こそ、その流派の集大成と呼ぶべき究極の剣。
それを会得してこそ、はじめてその流派を極めたと言えるであろう。
そういう意味では、舞も今まではまだ夢幻流を極めてはいなかった。
だが今、豹雨も会得しなかった夢幻流奥義を舞は手に入れた。

総天夢幻流を継ぐ者は、川澄舞をおいて他にない。

豹雨は、己の新たな剣、かむなぎを、夢幻流の技として定めなかった。
それは自ら、自分の剣が夢幻流を離れたことを示すものだった。

舞　「（総天夢幻流は、私のもの・・・）」

師が最後に言い残した言葉だ。
しかし・・・。

舞　「・・・ぐ・・・っ！」

体を丸めて、舞は体を震わせる。
確かに夢幻流の剣では勝ったが、勝負には負けた。
ただそれが、悔しかった。

舞　「（悔しい、悔しい、悔しい！）」

師が生涯をかけて極めた総天夢幻流が地上最強の剣であると、舞は信じていた。
勝てないのはただ、己の未熟ゆえ。

舞　「・・・・・・」

ふと、思い出した言葉があった。
祐一が、一弥との戦いの中で言っていたことだ。
あの時一弥が言われていたことが、自分に当てはまる。

舞　「（・・・もっと、強くなる。誰よりも・・・）」

最強へと続く果てしない道。
舞もまた、その道を突き進むことを決意していた。

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

つづく