デモンバスターズEX

 

 

第45話 戦う理由・祐一vs佐祐理

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「おぉおおおおおお!!!!!」

佐祐理 「やぁあああああ!!!」

ギィンッ!

剣と剣とが交差する。
それと同時に互いに飛び離れ、壁を蹴ってもう一度相手に向かっていく。
すれ違いざまに二度三度と攻撃を繰り出すが、全て相殺しあう。

こいつは、想像以上だ。
このスピード、さらにはパワー不足を補う技術、そして何よりこの気迫。
充分俺と互角に戦う力量を有している。

祐一 「ふんっ!」

ギシッ!

佐祐理 「ハッ!」

キィンッ

俺が攻めれば受け、或いは捌き、俺が引くのと同時に引く。
追い討ちに出ようとすると上手い具合に出鼻を挫いてくる。
戦いの主導権を俺に握らせないようにしていた。
駆け引きも上手い。

強い。

余裕を見せていられない。
必勝の気迫を持って迫り来る佐祐理を倒すには、こっちも本気を出さなければならないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、互いを牽制しつつも、郁未と重蔵は戦っていなかった。
凄まじい攻防を繰り返す祐一と佐祐理の戦いを見ているのだ。

重蔵 「長くお仕えしているが、本気を出された佐祐理様を見たのは数えるほどだ」

郁未 「そう」

話には聞いていたが、佐祐理の実力は郁未にとっても想像以上だった。
速さと技量は舞と互角ほどだ。
しかしそれに対して、祐一は完全に対応していた。
余裕を持っているようには見えないが、まだ全力全開ではない状態でほぼ互角。

郁未 「またとんでもない戦いね、これも」

 

 

 

 

 

 

 

 

もう百回近く切り結んだか。
いまだ互いに一発も入れていない。

佐祐理 「・・・・・・」

祐一 「・・・大した気迫だ。それだけのものを見せられる奴はそうはいない」

佐祐理 「あはは、佐祐理はちょっと人より剣の扱いが上手いだけですよ」

祐一 「それだけじゃないだろ。あんたは何を背負って戦っている?」

佐祐理 「この国です」

即答、しかも大きく出たな。
国を背負って戦っている、か。
確かにそうなると、この国を潰しに来たもう同然な俺はまさに敵というわけだ。

祐一 「それがあんたの信念か」

佐祐理 「はい。この国が、父が・・・時に許されざる行為に及んできたことが事実です。多くの犠牲を払って、この国は成り立っています」

祐一 「・・・やはり、知っているみたいだな」

佐祐理 「・・・・・・相沢祐一さん。あの相沢一族の生き残り・・・お父様が滅ぼした一族の・・・」

祐一 「・・・・・・」

ここに来る前、琥珀から聞いた事実。
七年・・・もう七年半前になる相沢一族の滅亡。
それをなしたミルブス王国を操っていたのは、このカノン公国だった。

佐祐理 「一ヶ月前、あなたの名前を聞いた時、いつかこうして戦う時が来ると思っていました」

祐一 「俺が、この国を滅ぼしに来ると?」

佐祐理 「どう言い繕っても、この国があなたの家族を殺したことと、それによってあなたの心に負わせた傷は、決して許されないものだと思っています」

祐一 「・・・・・・」

佐祐理 「けど、佐祐理はこのカノンを、自分の国とそこに住む人々を愛しています。だから、それを脅かす者とは戦います。佐祐理がこの国を守る、それが佐祐理の戦う理由です!」

祐一 「・・・そうか」

何か強い信念を持った時、人は強くなる。
倉田佐祐理は、自分達の犯した罪を否定せず、認めた上でこの国を守ると言っている。
強いな・・・だが。

祐一 「俺に勝てると思ってるのか?」

佐祐理 「わかりません。けれど、この国を守るためなら、佐祐理は絶対勝ってみせます」

祐一 「ふっ」

どうかな。
確かに佐祐理の力、そして信念は強い。
これを崩すのは、容易なことではないだろう。
しかし、敵を間違えている内は、俺には勝てない。
本当の敵が見えていないよ、お姫様。

祐一 「本気を出せばあんたを倒すことも簡単だが、ここは剣士らしく、剣だけで決着をつけようか」

氷魔剣を構えなおす。

佐祐理 「はい、望むところです」

佐祐理も剣をこちらに向ける。

祐一・佐祐理 「「勝負!!」」

 

ガギィンッ!!!

 

佐祐理 「!!」

パワーでは劣ることを知っている佐祐理は、剣を合わせることを避けて懐に入り込むことを狙ったが、俺は逆に佐祐理の剣に狙いを定めて斬り込んだ。
そのまま力任せに押し切ると、重量とパワーで劣る佐祐理は簡単に吹き飛んだ。

ドッ

佐祐理 「くっ!」

壁に叩きつけられた佐祐理にさらに追い討ちをかける。

佐祐理 「っ!」

突き出した俺の剣は、佐祐理の顔ぎりぎりのところを通って壁に突き刺さる。
俺にその気があれば今の一撃で佐祐理の命を絶つこともできた。
相手の剣も完全に封じており、俺の勝利は確実だ。

祐一 「俺をここまで熱くさせた褒美にいいことを教えてやる。俺が戦う理由だ」

佐祐理 「?」

祐一 「極論を言えばな、俺は復讐なんてものはどうでもいいんだよ」

佐祐理 「え・・・」

確かに斉藤があの事件に関わっていたことを知った時、事件の裏にカノンがいたと知った時、怒りを覚えはした。
だが俺は、秋子さんや琥珀のように復讐を掲げて生きるつもりはまったくない。
そうした生き方を否定する気はないがな。

祐一 「俺とて今まで戦いの中で多くの命を奪ってきた。禍根を残していないとは言い切れない。俺が復讐されることだって充分に考えられるってことだ」

佐祐理 「・・・・・・」

祐一 「仮に俺が復讐されて死んだとしよう」

ま、そんなことはまずないがな。
復讐なんて目的で戦ってるような奴に、俺は負けない。
あくまで仮定の話だ。

祐一 「そうすると今度は、俺と親しい連中が復讐心を抱くかもしれない。そいつが復讐すれば今度は・・・・・・切りがない。戦いの中に生きる以上、恨みを買ったり抱いたりするのは当たり前のことだ。いちいち気にしてたら身がもたん」

佐祐理 「じゃあ、祐一さんは、何のために戦うんですか?」

祐一 「強いて言えば、生きるためだな。俺に・・・・・・俺達にとって生きることと戦うことは同義だ。そういう世界にいるんだよ」

佐祐理 「・・・・・・」

祐一 「しかし、まぁ、カノンに俺が一族を滅ぼされたことは事実、その報復も考えてここまで来たのもありだ。例えばあんたを殺して、大切なものを失う痛みを王に味わわせるみたいなことも考えたが・・・」

郁未 「・・・・・・」

祐一 「あんたは舞や郁未の友人で、あの二人は俺の仲間でな、仲間から恨まれるってのも馬鹿みたいだ。それに・・・・・・もうそんなことをする意味もないようだからな」

佐祐理 「・・・それは、どういう・・・?」

祐一 「ついて来な。この国の現状を教えてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・」

大きな力が二つ、わりと近くにあるな。
それらのぶつかり合いで、かなりの振動が伝わってくる。
片方はたぶん、エリスだ。
もう片方は・・・・・・少なくとも人間じゃないな。

祐一 「・・・さて」

郁未 「そろそろ本命ね」

祐一 「だな」

真の敵。
それは俺達にとっても言えることであり、カノンにとっても言えるとことだろう。
奴らは俺達とカノンとをぶつけて、その戦力を消費させている。
水瀬屋敷の面々は秋子さんが集めたものだが、もしかしたらそれ以前に、現在のナイツの構成すら、奴らが意図的にこの時のことを考えて集めた連中だったのかもしれない。
まぁ、それは本人達に聞けばいいことか。

祐一 「ここだな」

通路を進むと、大きな扉に突き当たる。
いかにもな感じのこの扉の向こうが、王の間になっているはずだ。

重蔵 「・・・佐祐理様」

佐祐理 「今は祐一さんの言うとおりにしましょう。佐祐理達は、負けたのですから」

俺と郁未のあとからは、佐祐理と重蔵もついてきている。
この扉の向こうに、カノンの現状が存在している。
それは、こいつらにとっては驚くべき、そして辛い現実かもしれないな。

ごごごごごごご・・・・・・

音を立てて扉が開かれる。
開け放たれた扉の先は広い、百人くらい入れそうな大広間だ。
その中へ・・・・・・。

 

?? 「待て!」

 

祐一 「・・・むぅ、また厄介なのが」

背後からの声。
誰のものかはわかっている。
久瀬だ。

佐祐理 「久瀬さん・・・」

久瀬 「相沢祐一。その先へ通すわけにはいかん」

祐一 「その状態で何ができる」

さっきの戦いで、左肩骨と肋骨には確実にひびが入っているし、バルコニーから落ちた際に全身を強打しているはずだ。
ここまで追ってきただけでも大したものだが、とても俺達と戦えるような状態じゃない。

祐一 「おとなしくしてろ」

久瀬 「そうはいかない。ここを守ることが私の使命だからな・・・」

祐一 「本当にそうかな?」

久瀬 「何?」

佐祐理 「久瀬さん、今は祐一さんの言うとおりにしましょう」

久瀬 「しかし・・・佐祐理様」

佐祐理 「あなたも薄々気付いているのではありませんか、この国の異常に。そして、祐一さんはそれを知っているようです」

久瀬 「・・・・・・・・・わかりました」

話は済んだようだな。
なら、改めて行くとするか。
扉を完全に開き、中へと入っていく。
人影は、王座に一つ。
いや、もう一人いる。

祐一 「出てこいよ」

王座の脇の空間が歪み、黒衣をまとった男が現れる。

久瀬 「・・・ゼルデキア・ソート・・・!」

どうやらカノン内部でもこいつは疑われていたらしいな。
それでも正体がバレなかったのは、協力者がいたからに他ならない。
一人はマギリッドだが、もう一人は・・・。

佐祐理 「ゼルデキアさん。あなたはいったい・・・」

郁未 「魔族よ」

久瀬 「魔族! そういうことかっ」

重蔵 「・・・不覚・・・・・・」

一国の重鎮たるナイツに魔族が紛れ込んでいた。
それに気付かなかったのは、同じナイツにとって屈辱だろうな。

ゼルデキア 「・・・・・・」

祐一 「話すのははじめてだな。さっそくで悪いが、一応仮初の仲間だった連中に種明かしをしてやれよ。どうしておまえがすんなりカノンに入り込み、今まで疑われながらも潜伏していられたのかを」

 

?? 「それに関しましては、私の方から説明させていただきましょう」

 

王座の反対側から、また別の男が現れる。
黒のゼルデキアとは対照的に白い衣装に、ターバンが特徴的な黒人風の男。

郁未 「バイン・・・」

祐一 「奴も魔族か」

郁未 「ええ」

バイン 「お初にお目にかかります、相沢祐一君。いえ、祐一様」

祐一 「おまえのような奴に様付けされる覚えはないが?」

バイン 「いずれわかりますとも」

わからんな。
妙に物腰の丁寧な奴だ。

祐一 「どっちでもいい。さっさと種明かししちまいな。それとも、俺が話そうか?」

バイン 「話すとは、つまりこのことですか」

 

ドシュッ!

 

佐祐理・久瀬・重蔵 「「「!!!」」」

まだ事実を知らない三人が驚愕に目を見開く。
それもそのはず、バインは王座に座る公王倉田高峰を、斬った。
だがそれ以上に驚くべきことは、斬られたはずの王はまったく血を流さなかったことだ。
斬られたことで体が反応し、苦しげに立ち上がるが、その苦しみようすら、人間のそれではない。

高峰 「グ・・・ガァ・・・ァアアア・・・・・・グガガ・・・・・・」

どささっ

前のめりに倒れ、玉座のある高い位置から滑り落ちる。
下にうつ伏せで倒れた王の体は、みるみるうちに醜い姿に変わっていく。
そう、まるであの遠野時谷の姿の、さらになれそこないのような・・・。

佐祐理 「お・・・とう・・・・・・さま?」

久瀬 「これは・・・いったい・・・?」

祐一 「簡単なことだ。公王倉田高峰は、とっくの昔に死んでいる」

それが、セリシアが俺達に話したこの国の実態だ。
既に王は死んでおり、今まで玉座にいたのは、おそらくはマギリッドと遠野時谷の合作による屍人形とでも言うもの。
奴らの思うがままに動く、ただの傀儡だ。

久瀬 「馬鹿な! 偽者に摩り替わっていたのなら、お子達方や側近の者が気付かぬはずは・・・!」

佐祐理 「・・・久瀬さん・・・・・・佐祐理は二年前から、一度もお父様と二人きりで会った記憶がありません・・・」

重蔵 「拙者も、この二年間は直々に指令を与えられたことはござらん」

祐一 「なるほど。二年前に王は殺され、あの傀儡と摩り替えられたわけか。しかもその後は巧妙に隠されていた」

二年前と言えば、郁未がカノンと戦い、舞と共に脱出したよりさらに前の話か。
連中の計画がいったいいつからどんな形で進んでいたのかは知らないが、ゼルデキアがナイツに加わったのが4、5年前のはずだから、かなり周到に準備が進められていたのだろう。
そしてこの五年間のナイツの入れ替わりも、奴らの差し金か。

祐一 「つまり、こうか」

内通者はそもそもマギリッド。
奴が魔族の存在に目をつけ、魔族もマギリッドに目をつけた。
互いの利害関係の一致から手を組み、ゼルデキアを国内に招き入れる。
巧妙な手段でそれまでのナイツの人間を引退、戦死、事故死などへ追いやり、自分達の息のかかった者を新たに加える。
榊、遠野時谷、氷上シュン、セリシアなんかは間違いなくその類だ。
そして機を見て王を暗殺、傀儡と摩り替える。
あとは俺達がカノンへ来るように仕向け、カノンを崩壊させる。

祐一 「無敵と謳われた軍事大国が、呆気ないものだな」

久瀬 「貴様!」

佐祐理 「いいえ、そのとおりです。完全に、やられました・・・!」

重蔵 「・・・・・・」

久瀬 「くっ! 敵が内部にいるらしいとは思っていたが・・・まさか・・・!」

内心穏やかならぬのは当然だな。

しかし・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく