デモンバスターズＥＸ

　

　

第４４話　エリスと魔剣レヴァンテイン

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

エリス　「・・・・・・はぁ」

胸の痛みを抑えたくて、祐一とさやかのもとから走り去ったエリスは、城内をアテもなくさまよっていた。
その間、もう何度ため息をついたことか。

エリス　「アタシ・・・情けない」

百年近くも生きているというのに、姿同様に自分の心は子供のままだった。
自分で望んでそうしていることだが、それをもどかしく思うこともある。

エリス　「・・・・・・！！」

ふいに背後からの殺気を感じて、エリスは身をかわした。

？？　「へっ、やっぱりただのガキじゃなかったな」

エリス　「ちっ！」

エリスは舌打ちをした。
これほど近付かれるまで相手の気配に気付かないとは。

エリス　「誰？」

？？　「ナイツ・オブ・ラウンドが一人、シュテル」

エリス　「ふ〜ん」

水瀬秋子を倒したという、ナイツのナンバー２である。
黄金色の派手な鎧と、鉤のついた剣が特徴的だった。

エリス　「そいつがいったい何の用？」

シュテル　「おいおい、そりゃこっちの台詞だぜ。人様の城に何の用だよ、そっちこそ」

エリス　「・・・・・・」

シュテル　「不審者を見かけたら、こっちの判断で始末をつけていいってことになってるんだがな」

エリス　「・・・ふんっ、今アタシは虫の居所が悪いのよ」

抑えていた魔力を解放する。
ちょうど暴れたいと思っていたところであった。
ナイツのナンバー２ならば相手にとって不足はない。

シュテル　「思ったとおり、楽しめそうだな」

エリス　「そっちこそ、失望させないでよ！」

ドンッ

先制の一撃を、まずはエリスが放つ。
７、８メートルの距離を一瞬で詰めての攻撃だったが、シュテルは充分に余裕をもって回避する。
重装備に似合わず、スピードもある。

シュテル　「そらよっ！」

エリス　「そんな攻撃が・・・！？」

剣による斬撃を回避して反撃に転じようとしたエリスは、奇妙な感覚に襲われる。
直感で危険を感じ取って、大きく後ろに跳んで攻撃をかわす。

エリス　「（何？　今のは・・・）」

一瞬体が重くなった。
魔力も押さえつけられたような感じがする。

エリス　「（もう一度試してみるか）」

今度もエリスの方から仕掛ける。
フェイントを混ぜながら攻めて、シュテルの反撃を誘う。
狙い通り、わざと見せた隙に相手は乗ってきた。

エリス　「（また！？）」

先ほどと同じで、エリスは違和感を覚えて後退する。
だがそれも思うように行かず、剣の切っ先が左腕を掠める。

エリス　「つぁ・・・っ！！」

浅い傷だったが、エリスは予想外の激痛に苛まれる。

エリス　「（毒？　違うっ、これは・・・！）」

シュテル　「なるほど、道理で只者じゃねぇ。おまえ、竜族か」

エリス　「その剣、ドラゴンスレイヤー！」

竜殺しの剣と呼ばれる伝説の武器である。
なるほどこれが、この男がドラグーンナイトと呼ばれ、ドラゴン相手に絶対の強さを誇る理由というわけだ。
ドラゴンスレイヤーの持つ結界は竜族の魔力を抑え、この剣でつけられた傷は竜族の高い自己治癒能力を封じる。
まさに竜族の天敵とも言える武器であり、それを持つシュテルはエリスにとって相性最悪の敵であった。

エリス　「ちっ」

シュテル　「さあ、もっと楽しませてくれよ、竜族の小娘ちゃん」

エリス　「ふんっ、アタシの半分も生きてないような若造が偉そうに！」

シュテル　「百程度の竜なんてガキと同じだろ。俺は八百年生きたとかいう奴をぶっ倒したこともあるぜ」

魔界に行けば千年、二千年を優に生きている竜がいくらでもいるが、地上で八百年となれば大したものだった。
それを倒したのは、ただ剣の力のみではなく、シュテル自身の実力も相当なものであることを物語っている。
相性の問題もあり、エリスにとってこれほど手ごわい敵はそうそういない。

シュテル　「それとも降参するかい？」

エリス　「誰が！」

とにかく、接近戦は不利だった。
エリスは遠距離戦に切り替えることにした。

エリス　「喰らえっ！」

離れた位置からのドラゴンブレス。
しかし・・・。

シュテル　「そんなものが効くかよ！」

ザシュッ

エリス　「！！」

シュテル　「こいつは竜の魔力を封じるんだぜ」

その通りだった。
遠距離戦となれば、魔力による攻撃に必然的になる。
だがそれは、剣によって防御されてしまう。
シュテルにダメージを与えるためには、直接攻撃しかないということだ。

シュテル　「読みが甘いな！」

エリス　「この・・・っ！」

頭の冴えもいまいちだった。
普段ならば、それくらいの理屈はすぐに思いつくというのに、まだ心が乱れていた。
集中力を欠いている。

シュテル　「そらそらどうした！」

逆に今度はシュテルが攻勢に出る。
下手にドラゴンスレイヤーによる攻撃を防御すれば、魔力を吸われてしまうことになる。
避けるしかないのだが、結界の影響で動きも鈍っている。

シュッ

エリス　「くっ・・・！」

反応が鈍っているため、紙一重の回避ができず、剣の切っ先が何度か掠る。
その度に魔力を奪われているのがわかった。

エリス　「（まずい、このままじゃどうにもならない！）」

考えなくてはならない。
こんな状況の時、いつも熱くなりがちな仲間達の後ろで、常に冷静に戦況を分析してきたエリスである。
この程度の不利を覆せないでどうするのか。

エリス　「（くそっ！）」

だというのに、今はエリス自身の頭に血が上っている。
冷静になれない。

シュテル　「遅いぜ！」

ザシュッ！

エリス　「ぐぁ・・・っ！！」

腹部をかなり深く斬られる。
急所を外したのは、本能のなせる業だろう。
しかし出血はひどく、魔力もかなり奪われている。
致命傷ではないが、正直戦闘続行不可能なほどの傷だ。

エリス　「（くそっ、この程度の奴に！！）」

シュテル　「勝負あったな。今なら見逃してやってもいいぜ」

エリス　「ふざけるなっ！」

シュテル　「そうか。生き恥を晒すより、いさぎよく死ぬか。なら・・・！」

シュテルが剣を振りかぶる。
逃げようにも、傷の痛みで体に力が入らない。

エリス　「（冗談じゃないっ、こんなところで死んでたまるもんか！！）」

　

ギィンッ！！！

　

ほとんど無意識的にエリスは防御をする。
本来なら防御不能なはずの竜殺しの一撃は、金属的な音と共に防がれた。

シュテル　「何！？」

エリス　「！？」

必殺の一撃が防がれたシュテルと、それをなしたエリスとの両方が驚愕する。
だがどちらも百戦錬磨の実力者である。
硬直していたのは一瞬で、互いに後退して体勢を立て直す。

エリス　「これは・・・！」

そして自分の手許を見たエリスは、そこに一振りの剣が握られているのに気付いた。
エリス自身でさえ、はじめて見る剣だったが、何故か非常に手に馴染んだ。
さらにその剣が何であるかも、瞬時に悟った。

エリス　「（これは・・・・・・魔剣レヴァンテイン！）」

魔界の至宝の一つである。
様々な持ち手の間を巡り、数百年前に姿を消した伝説の剣。
ある時その剣は、持ち主ごとある竜に食われたのだ。
それが、ブラッドヴェインである。

エリス　「（あいつの体の中にあったはずのものが、アタシの手に・・・？）」

どういう形でそうなったのかはわからない。
しかし現に、魔剣はエリスの手の中にある。

エリス　「（竜の体内から伝説の剣、か。そういえば、楓の草薙もそんな経緯があったわね）」

楓が使う神剣草薙も、かつてはとある魔獣の体内にあったのだという。
それを一人の神が天界へ持ち帰り、神剣としたものが巡り巡って楓の手に渡った。

シュテル　「なんでぃ、まだ奥の手を持っていやがったか」

エリス　「そうみたいね」

剣の魔力がエリスに活力を注ぎ込んでいるのか、傷の痛みは引いている。
さらに先ほど撃ち合わせた感じだと、ドラゴンスレイヤーの結界も相殺することができそうだった。

シュテル　「これで互角か？」

エリス　「互角？」

シュテル　「ああ」

エリス　「・・・・・・ふっ」

薄く笑みを浮かべ、エリスは剣を構える。
対するシュテルも、必殺の一撃を放つべく剣を振りかぶる。

エリス　「試してみる？」

シュテル　「おうよ」

二人は同時に床を蹴った。
互いに全力の一撃を叩き込む。

　

ドゴォォォッ！！！

　

片方が激突の衝撃に耐え切れず、壁を突き破って吹き飛ばされた。
残ったのは、小柄な少女の方だ。

エリス　「竜殺しの剣の力がなければ、あんた如きにこのアタシが負けたりはしないわ」

剣に関してはエリスは素人だったが、とにかくパワーでは相手を圧倒していた。
そのパワーが抑えられていたゆえの苦戦だったが、それが解消されれば、この通りである。

エリス　「・・・ふぅ」

とはいえ、しんどい戦いに違いはなかった。

エリス　「・・・なんか、あいつのお陰で勝てたみたいで釈然としないけど」

手の中に収まっている剣を見ながら憮然とした顔で呟く。
この剣がなければ負けていただろう。
そしてこの剣が今ここにあるのは、エリスが嫌っている存在のお陰であるのだ。

　

？？　「ぐふふっ、ついにその剣の力を自分のものとしたか」

　

エリス　「！！！！」

忘れたくても忘れられない、忘れようはずのない声。
たった今考えていた、その存在の声だった。

エリス　「ブラッドヴェイン！！」

ブラッド　「およそ一月振りか。前が五十年だったことを考えれば、あっという間のことだな」

深緑色の鱗を持つ竜がエリスの眼前に現れる。
エリスの父親にして、魔界でも最強クラスの力の持ち主、魔竜王ブラッドヴェインである。

エリス　「こっちはできればもう一生会いたくなかったわよ」

ブラッド　「つれないな。親子ではないか」

エリス　「アタシはあんたを親だなんて思ったことはない！！」

ブラッド　「ぐふふっ、昔はパパ、パパと言って我の尻尾にじゃれておったくせにのう」

エリス　「おまえがっ、おまえがママを殺したから！　だからっ・・・！！」

ブラッド　「あれは互いに望んだことだ。それに、あやつは死んでなどいない。そこに、生きておる」

そう言ってブラッドは、エリスのことを指差す。

エリス　「・・・そうね。おまえにとってアタシは、ママと同じ姿をした人形だものね」

ブラッド　「それだけではないぞ。おまえは我の力も受け継いだ、究極の美と、無双の力を持った最強の竜だ」

エリス　「黙れ！　アタシはあんたの作品になるつもりはない！！」

剣を振りかぶりながら、エリスはブラッドの頭上目掛けて跳躍する。

エリス　「今日こそ息の根止めてやるわっ、あんたがアタシに渡したこのレヴァンテインでね！」

ブラッド　「ぐふふ、来るがよい！」

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

郁未　「結構大きな振動だったわね。またどこかで誰かが戦ってるのかしら？」

祐一　「だろうな」

間違いなくこの百年の間にここミステリアがこうも損害を被ったのははじめてだろう。
城中既にぼろぼろだ。

祐一　「そろそろ王の間に着きそうだな」

しかし、それだけ壊れてもまだ健在なこの城はとにかくでかい。
これじゃあ、外へ出かけるのも一苦労だろうな。
城から出るだけでも、歩きだと半日近くかかりそうだ。

郁未　「そろそろ次の敵が出てきそうだけど、あと残ってるのって何人だったかしら？」

祐一　「ジーク、一弥、アヌビス、メサルスは会場の方だろ。榊と遠野時谷は死亡、セリシアは倒して、氷上シュンはおそらく浩平が相手しているはずだ。あと五人か」

郁未　「シュテル、マギリッド、服部、佐祐理、それにゼルデキア。でもたぶん、マギリッドはもうこの城内にはいない」

セリシアの話から推測するとそうなるな。
研究所を放り出して行ったんだから、もう残っていないだろう。
となるとあと四人か。

　

？？　「シュテル殿も先ほど倒された」

　

来たな、次の敵が。

郁未　「服部重蔵ね。あんたとは本当によく会うわ」

隠密任務は忍者の得意とするところだからな。
追われている郁未と追う立場の服部重蔵とはよく会って然りだろう。
しかし、奴一人じゃないな。

祐一　「やれやれ、わりと面倒なのが残ってたな」

佐祐理　「そう言っていただけると光栄です」

通路の先で俺達の道を遮るように立っているのは、お姫様だ。

郁未　「佐祐理か」

佐祐理　「あははー、またお会いしましたね、郁未さん、祐一さん」

背後にもう一つの気配、服部重蔵か。
二対二だな。

佐祐理　「・・・・・・」

祐一　「・・・・・・」

佐祐理　「・・・次に会う時は、戦う時だと思っていました」

祐一　「そうか。なら、俺がここへ来た理由もわかっていそうだな」

佐祐理　「そうですね」

郁未　「何のこと？」

祐一　「いや・・・・・・お姫様とは俺がやる」

郁未　「そう。なら、私はこっちを抑えておくわ。存分にやりなさい」

祐一　「ああ」

天剣の倉田佐祐理、か。
おそらくその実力は舞と同等くらい、ジークフリードや弟の一弥と比べてさえ勝っているかもしれない。
まさに天才ってやつだな。
しかも弟の方みたいな甘さを感じない。
笑顔の下に、底知れないものを隠しているあの感じはさやかなんかとも通じるところがあった。
つまり、手強いってことだ。

佐祐理　「・・・行きます」

祐一　「来い」

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

つづく