デモンバスターズEX

 

 

第43話 超神速・浩平vs氷上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マギリッドの研究施設での戦いを終えた後、その研究室を調べるという琥珀と、ダメージの大きいさやかと美凪を残し、祐一、郁未、浩平の三人は先へ進むことにした。
その途中で、浩平は他の二人と別れた。
呼んでいるのが、わかったからである。

浩平 「ここか・・・」

水瀬屋敷での彼を知っている者達が見たらこう思うであろう、こんな表情の折原浩平をはじめて見ると。
そこには、普段のおちゃらけた折原浩平の姿は微塵もなかった。
見るものに威圧感を与える、鋭利な刃物のような雰囲気が漂っている。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・

 

音を立てて扉が開く。
中はかなり広い部屋、教会の中のような造りだった。
ただし、椅子の類は一切ない。
中央奥には祭壇があり、その上に、みさきが鎖で繋がれていた。

みさき 「浩平く・・・・・・っ!」

名前を叫びかけたみさきは、思わず息を呑む。
いつもなら心地よい風を運ぶ浩平の気配が、今は刺すような殺気を持っているのだ。

氷上 「待っていたよ、折原君」

祭壇の横から、氷上が姿を現す。
それと共に、浩平の放つ殺気がさらに強まる。

みさき 「こう・・・へい、君・・・・・・」

氷上 「嬉しいよ。僕が望む姿になってくれたようだね。怒っているのかな?」

浩平 「そうだな」

二人は互いを意識しながら、広間の中央付近へと歩いていく。

浩平 「みさきを攫ったおまえと、それをむざむざ許した俺自身にな」

仲間達といる間は隠していた。
だがあれ以来、浩平はずっとこの怒りを抑えてきたのだ。

浩平 「氷上、みさきを放せ」

氷上 「駄目だよ。そうすれば君は、戦わずにここを去ってしまう」

浩平 「・・・・・・」

氷上 「それじゃあ駄目なんだよ。彼女を助けたければ、僕を倒すことだね」

浩平 「大概にしないと、殺すぞ」

氷上 「やってみせてくれよ。君の本当の力を見せてくれ」

浩平 「・・・・・・」

左手を刀にかけ、鯉口を切り、浩平は腰を落とす。
抜刀術の構えを見せる浩平に対し、氷上もレイピアを手にする。

 

ギィンッ!

 

瞬間、両者が交差した。
抜き放たれた浩平の刀と、氷上のレイピアによる突きとが激突し、互いに弾ける。

氷上 「いいね、前よりずっと速い・・・っ」

ギンッ!

さらに二度目の抜刀。
氷上が振り返るより前に浩平は刀を納め、再び抜き放ったのだ。

氷上 「けど、また足りない」

ヒュッ

浩平 「がっ・・・!」

その浩平の凄まじい速さの抜刀のさらに上の速さで、氷上の突きが浩平の左肩に入る。

氷上 「まだ、僕の方が速い」

浩平 「く・・・っ」

連続して繰り出される高速の突きを何とかかわすものの、何発かは浩平の体を掠めていた。
浩平の速さをもってしても、かわし切れないのだ。

氷上 「足りないよっ、折原君!」

ザシュッ

浩平 「ぐはっ!」

突きで一気に懐に飛び込んだ氷上は、浩平の胸を逆袈裟に斬り上げた。

みさき 「浩平君ッ!」

斬られた傷を押さえながら、浩平はその場に跪く。
傷は、とりあえず致命傷ではない。

氷上 「困ったな。まだ駄目なのかい? なら、また少し川名さんで遊んだ方がいいのかな?」

浩平 「!!」

氷上 「聞きたいかい、僕がここにいる間川名さんに何をしたか」

みさき 「嘘っ、そんなこと・・・」

氷上 「ま、冗談だけどね・・・っ!」

ギィンッ

先ほどよりさらに速い浩平の一撃を、氷上は剣を縦にして受け止める。

浩平 「おまえの冗談は笑えないんだよ」

氷上 「ふふっ」

浩平の刀を弾き返し、氷上は少し距離を取る。

氷上 「いい感じになってきたね。もっと怒って、もっと僕を憎みなよ。そうすれば、誰も見たことのない折原浩平の本気が見られる。さあ!」

シュッ シュッ!

浩平 「!?」

氷上が剣を振るうと、触れていないのに浩平の体が切り刻まれた。
真空の刃のようなものが飛来したのを浩平は感じていた。

氷上 「ソニックスラッシュ」

浩平 「ぐ・・・っ!」

恐ろしく速い、しかも見えない刃が容赦なく浩平に襲い掛かる。
かわすことも受けることもできず、浩平の体は傷だけが増えていく。

氷上 「さあさあ、どうするんだい折原君。僕を倒さないと、さっきの冗談が冗談じゃなくなるかもよ?」

浩平 「氷上・・・てめぇ・・・!」

みさき 「やめてっ!」

祭壇の上からみさきが叫ぶ。

みさき 「こんなの違うっ、こんなの浩平君じゃないよ!」

浩平 「・・・みさき?」

みさき 「そんな風に怒りや憎しみで振るう剣は、浩平君の剣じゃない! わたしはそんな浩平君を見たくない!」

浩平 「・・・・・・」

氷上 「うるさいよ、川名さん」

ヒュッ

みさき 「あうっ!」

真空の刃を、氷上はみさきに向けて放つ。
鎖に繋がれて身動きの取れないみさきは、それをまともに受けてしまう。

浩平 「氷上!!」

みさき 「だめっ! 浩平君ッ!」

氷上 「これは僕と折原君の戦いだ。君は黙っていてくれよ」

もう一度氷上はみさきに向かって真空の刃を放つ。
今度は完全な直撃コースで。

みさき 「!!」

 

ザシュッ

 

氷上 「・・・・・・」

刃は、みさきには届かなかった。
その前に立ちはだかった浩平の背中を刻んで消えた。

みさき 「こう・・・へいくん?」

浩平 「・・・・・・」

氷上 「いい速さだったね。けど、そんな余計な傷を負って・・・」

みさき 「・・・・・・浩平君」

浩平 「・・・・・・」

みさき 「え?」

何かを呟く浩平の言葉を聞こうとみさきは顔を前に突き出す。
自分に近付いたみさきに対し、浩平はキスをした。

みさき 「!!」

浩平 「・・・・・・」

すぐに離れると、浩平は刀を握りなおして氷上の方へ向かう。

氷上 「ふふっ、さあ、つづきをやろうか」

浩平 「・・・・・・氷上」

氷上 「?」

浩平 「・・・きつつきをやろうか」

氷上 「・・・・・・」

みさき 「・・・・・・」

浩平 「ちなみに、逆さから読んでもきつつきだ」

氷上 「・・・・・・」

みさき 「・・・・・・ふふ、あはは・・・」

浩平 「フッ、まずまずだな」

満足げな表情をした浩平は、額から流れる血を拭った。
一方の氷上は唖然としている。

氷上 「・・・君は・・・・・・」

浩平 「こんな風に目を吊り上げてるのは俺のキャラクターじゃないんだよな」

自分の目尻を指で吊り上げてみせる浩平。
その後ろでは、拘束が解かれたみさきが笑いを堪えている。

浩平 「さて・・・このままみさきを連れてトンズラって手もあるんだがな」

そう言いながらも浩平は氷上に近付いていく。
刀を納めるが、まだ鯉口は切ったままだ。

浩平 「せっかくだ。決着はつけていくか」

氷上 「・・・ふふっ、その台詞を待っていたよ」

浩平 「言っておくがな。俺を本気にさせたからには、デッド・オア・アライヴだぜ」

氷上 「それこそ望むところだよ。命を懸けない勝負に意味はない」

浩平 「・・・・・・」

氷上 「・・・・・・」

勝者のみが生き延びる。
敗者には死を。

浩平 「・・・・・・」

抜刀の構えをしながら、浩平は過去を回想していた。

 

 

今から放とうとしている技は、浩平が唯一覚えた水瀬流の技である。
かつて秋子から教えられ、今はじめて実戦で使う。

抜刀術に絶対の自信を持っていた浩平だが、その時彼は秋子の抜刀術に負けた。

秋子 「この技を浩平さんが使えば、おそらく私など足元にも及ばない速さに達するでしょうね」

そう言って伝授された水瀬流抜刀術奥義は、まさしく奥義と呼ぶに相応しい必殺剣だった。
いや、浩平という抜刀術の天才に使われて、はじめてそれは究極の必殺剣になるといっていいだろう。
そして同時に、浩平が使う時のその剣は、あまりに強力過ぎた。
受けた相手は確実に死に、そして撃った浩平自身もただではすまない。
秋子が使った時は普通の奥義だったものが、浩平によって超奥義となるのだ。

しかし氷上を上回るにはこの技をおいてなかった。

 

 

浩平 「・・・行くぞ、氷上」

氷上 「いざ、勝負」

 

仕掛けたのは氷上の方。
超高速の突きの構えで浩平に迫る。
その浩平は、抜刀の構えのまま動かない。

氷上 「(抜けば無敵の抜刀術、ならば抜かせなければいい)」

全てはタイミングが勝負だ。
抜刀術を相手にするなら、抜かせてかわしてから動きの止まったところを狙うか、或いは抜く前を狙うか。
どちらにしても、コンマ零零何秒という次元の話だ。

氷上 「(抜こうとした瞬間、その手許を狙う!)」

タイミングを見計らいながら、氷上は突っ込んでいく。
時間がほとんど進んでいないのに、頭の中は永遠のような時間が流れている。

氷上 「(来るか・・・)」

どんどん距離が狭まる。

氷上 「(・・・おかしい)」

いくら何でも動きがなさすぎる。
浩平はただじっと構えたまま動かない。
もう抜き始めなければとても氷上を捉えきれないはずだ。

氷上 「(ぎりぎりまで粘るつもりかい? ならばこっちも)」

さらに近付く。
まだ浩平は動かない。

氷上 「(諦めたかっ、折原君! もうどうやっても間に合わない。タイミングを外したね)」

確実に必殺の間合いに入った。
少なくとも氷上はそう思っていた。

氷上 「(僕の勝ちだ、折原君!!)」

レイピアを突き出す。
その先端が浩平の心臓を貫くイメージを、確かに氷上は抱いた。

 

 

浩平 「水瀬流奥義・・・閃刃」

 

 

カッ!

 

 

何が起こったのか、正直わからなかった。
気が付けば氷上は、浩平の姿を逆さまに見ていた。
実際に逆さまになっているのは、氷上の方である。
逆さまに見える浩平は、刀を抜き放っていた。

氷上 「(抜いた・・・のか?)」

見えなかった。
それどころか、氷上の剣はもう浩平の胸を貫く寸前だったはず。
完全に後から抜いて、それでも氷上の速さを上回った。
まさしく、神速を超えた超神速。

氷上 「(これが・・・折原浩平の真の力・・・・・・)」

 

どさっ

 

氷上の体は床に叩きつけられた。
同時に、浩平も刀を杖にして体を支えながら膝をつく。

浩平 「・・・・・・ふぅ・・・」

みさき 「浩平君」

浩平 「やっぱきついわ」

あまりに速すぎ、あまりに威力がありすぎるがゆえに、使った者にも多大なフィードバックをもたらす諸刃の剣。
それこそが水瀬流抜刀術奥義・閃刃byワンダフル・グレート・オリハラ・ザ・スペシャル・エディション。

みさき 「やっぱりこの名前は長くないかな?」

浩平 「ふむ、だがオリジナルとは程遠いからな、それを示すとなるとやはりこれくらいは・・・」

氷上 「・・・ぐっ・・・・・・ぐふっ!」

みさき 「氷上君!」

浩平 「よう、無事か?」

何とか立ち上がった浩平は、みさきに支えられながら倒れている氷上のもとまで行く。

氷上 「無事、とは言いがたいね。ただ、痛みを通り越して既に全身が麻痺しているよ。それに、もう保たないね」

浩平 「・・・・・・」

氷上 「気にすることはないよ。どうせもう長くはなかったんだ」

浩平 「何?」

氷上 「どうしても君の本気を引き出したくて、強くなるためにかなり無茶をしたんだよ。体を根本から改造するような手術やら、怪しい薬とかもね」

浩平 「まさか・・・」

この手の話を聞いて、今真っ先に思いつくのはマギリッドの名だった。
つまり、氷上もまた、あの男の実験台の一人だったということか。

氷上 「だが、後悔はしていないよ。最期に君の本気が見られた。本望さ」

浩平 「・・・馬鹿野郎が。だからおまえの言うことは笑えないってんだ」

氷上 「そうだね、まったくだ」

静かに、氷上は目を閉じた。
そして二度と、それが開かれることはなかった。

みさき 「・・・浩平君」

浩平 「・・・・・・行くか」

みさき 「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が出て行った後、氷上の亡骸の傍らに現れた者がいた。
ゼルデキア・ソートである。

ゼルデキア 「榊、時谷、セリシア、そして氷上。これで四つ。あと一つだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく