デモンバスターズEX

 

 

第42話 勝者は一人・バトルロイヤル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メサルス 「死ねぇっ、斉藤ォォォ!!!」

槍による長いリーチで遠間から攻撃を仕掛けるメサルスに対し、斉藤はその切っ先を見切って紙一重でかわす。

斉藤 「どうした? 準備運動にもならんぞ」

メサルス 「うるさいっ!」

突きの連発。
しかしことごとく斉藤には当たらない。
それどころか、斉藤は目を瞑ったまま全てを避けていた。

メサルス 「馬鹿にしてんのかっ!?」

斉藤 「こうも実力差があっては、少しくらいハンデをやらんとな」

メサルス 「おのれが!」

一気に間合いを狭めての渾身の一撃。
今度は避けず、斉藤は刀でそれを防御した。

メサルス 「俺はてめぇのそういう態度が昔から気に食わなかったんだ。だからてめぇを超えないと気が済まねぇ」

斉藤 「そういうところがおまえの小ささだ。言っておくが、今の俺はダークウルヴス時代とは比べ物にならんぞ」

ギィンッ!

押さえていた槍を刀で弾き返す。
そしてプレッシャーだけでメサルスの動きを封じ込める。

メサルス 「な・・・!?」

斉藤 「そうやってただ敵対心を燃やしているだけの奴に、俺は超えられんよ。水瀬秋子、折原浩平、相沢祐一、そしてあの雛瀬豹雨。より強い力の持ち主はいくらでもいる。それらを倒さんとする思いと共に、そこから学ぼうとする精神もまた、強さへと繋がる」

メサルス 「敵に・・・学べだと・・・?」

斉藤 「わからん内は、貴様は絶対に俺には勝てん」

大きく脇から後ろの刀を引く。
そして斉藤は、一気に逆袈裟に斬り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヌビス 「ぬぅんっ!」

豹雨 「へっ、他にすることはねェのか?」

巨剣をひたすら振り回すだけの相手を揶揄するような豹雨の口調。
それがますます相手を熱くさせていた。
石橋との戦いの時は冷静にことを進めていたアヌビスだったが、この相手の前ではまったく余裕がない。
完全に気を乱され、勝負を焦らされる。

アヌビス 「ぐぬ・・・!」

豹雨 「弱ェな。弱ェ弱ェ弱ェ」

アヌビス 「おのれっ!!」

ブゥンッ

唸りを上げて巨剣が豹雨の頭上に振り下ろされる。
だが信じられないことに、豹雨はそれを正面から受け止めた。

アヌビス 「何!?」

明らかな体格差と重量差。
しかし、逆に押し返されるほど、豹雨のパワーは凄まじかった。

豹雨 「どうやら向こうのケリがついたみてェだな」

アヌビス 「!!」

勝負のついた斉藤が、次の敵を求めて豹雨達のいる方へと歩いてくる。

豹雨 「てめェと遊ぶのはここまでだ」

アヌビス 「ぬ・・・ぬぉおおおおおおお!!!!!!」

次の瞬間に倒される。
そう感じたアヌビスは、渾身の力を込めた一撃を放つ。
だがそれは、豹雨の手によってあっさり跳ね返された。

 

 

 

豹雨 「待たせたな」

斉藤 「いや、大したことはない」

ナイツ・オブ・ラウンドをあっさり退けた二人は、会場のほぼ中央付近で対峙する。
どちらも今度は、前の相手のようにふざけた態度は取らない。
真の強敵として相手を認めているのだ。

斉藤 「相沢と決着をつける前に、噂のおまえと戦うことができるとはな」

豹雨 「小僧とやりあったのか。それなら少しは楽しめそうだな」

斉藤 「ああ、存分に楽しませてやるさ」

斉藤は刀を脇から後ろへ引く。
最初から全力の一撃を叩き込む姿勢だ。
それに対し豹雨は肩に太刀を担いだ状態のままである。

豹雨 「来な」

斉藤 「・・・牙刃!」

両者の剣が交わる。
そこから凄まじい衝撃波が周囲に向かって放たれる。
力は互角、と思われた。

豹雨 「おらぁ!」

斉藤 「ぬ・・・!」

だが、豹雨はそれを強引に押し切った。
体勢が崩れた斉藤に向かって、連続して斬撃を叩き込む。

斉藤 「はぁああああ!!!」

そこで、本来なら退いて受けるところを、斉藤は一歩も退かずに逆に押し返した。
ほとんど密着状態での打ち合い。
僅かでも相手の剣を外せば、直撃を受ける状態だ。

豹雨 「おらおらおらぁ!!」

斉藤 「ぬぉおおおおお!!」

だがそれでも、両者一歩も退かない。
嵐のような打ち合いに、彼らの足元からは土煙が上がっていた。

キィンッ

まるで示し合わせたように、二人が同時に互いを弾き合って後ろへ引く。
下がった瞬間には、もう次の攻撃態勢に入っている。

斉藤 「牙刃!」

ガキィッ!

二人の体が交差する。
今度は、斉藤の剣が僅かだが豹雨の体に届いた。
さらに振り返りざまに互いに剣を振るう。

ギィンッ

剣と剣とが交わり、そこからまた打ち合いが始まる。
息もつかせぬ攻防が続いた。

豹雨 「へっ!」

斉藤 「ふっ!」

そんな中、二人の剣士は戦いながら笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞 「目が回りそうです〜」

楓 「豹雨とあそこまで互角に戦うなんて、さすがは斉藤元。噂どおりね」

京四郎 「向こうもすごそうですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一方の戦い、舞vsジークフリードも続いていた。
元は師弟であるだけに、互いの手の内は熟知している。
それゆえに戦いは長引く。

ジーク 「・・・もう八年は前になるのか」

舞 「・・・?」

ジーク 「おまえが総天斎殿の紹介状を持って俺のもとを尋ねてきてからだ」

およそ九年前、舞の師匠である総天斎はこの世を去った。
総天夢幻流の創始者で、地上最強の剣聖とかつては呼ばれた男で、カノン公国に仕えていた時期もあった。
まだ若い頃、ジークフリードも彼に師事していた頃があり、その繋がりで総天は自身の事後、最後の弟子となった舞をジークに託したのだ。
ジークを第二の師として、舞は僅か一年の間に、若干十一歳でナイツ・オブ・ラウンドの一員となった。

ジーク 「あの総天斎殿が唯一の正統継承者に定めた少女・・・まさしくおまえは天才だ」

舞 「・・・・・・」

カノン公国には、もう一人の天才がいた。
それが天剣の倉田佐祐理、公国の王女である。
彼女は舞がジークのもとを訪れた時には、既に若干十歳でナイツの一人となったいた。
二人の天才少女は、良き友、良きライバルとしてどんどん成長していった。
いずれはナイツの双璧となるものと目されていたが、舞はカノンを出た。

ジーク 「戻ってくるつもりはないか?」

舞 「・・・・・・ない」

ジーク 「そうか」

 

老師から授けられた地上最強の剣、総天夢幻流を極める。
それが舞の目標だった。
腕を磨くためには、より強い存在と共にあるのが一番だと思い、舞はジークや佐祐理のいるカノンを選んだ。
しかし・・・。

舞 「(豹雨、祐一、郁未・・・・・・本当に強い人は、カノンの外にいた)」

総天斎老師が認めたもう一人の男、雛瀬豹雨。
その豹雨と共にいて、舞と互角以上の力を示した少年、相沢祐一。
そしてたった一人でカノンに乗り込み、戦ってみせた少女、天沢郁未。

舞 「(私の、求めるもの)」

カノンに、舞の求めるものはない。
外へ行かなければ、そう思って舞は郁未についていった。
親友の佐祐理と別れるのは心苦しかったが、それでも舞は、自らの目的のためにカノンを出た。
そして目的が達せられていない状態で、まだ戻ることはできない。

舞 「・・・・・・」

いや、それは正確な表現ではない。
おそらくもう、カノンに戻ることはないだろう。
郁未と共に、運び屋として生きていくことが楽しかった。
目的を達した後も、その生き方を続けていくことだろう。

だが、今はそうしたことを考えている時ではない。
とにかく今は、舞にとって己の目標を達成する好機であった。
豹雨が、そこにいるのだ。
そしてもう一人の師であるジークフリードが、剣を構えて自分の前にいる。

舞 「・・・・・・」

自然に、ほんとに僅かに、舞は唇の端を吊り上げた。
望んだ状況に、舞は喜びを感じている。

舞 「・・・ジーク師匠」

ジーク 「来るか、川澄」

舞 「・・・私は、老師が授けてくれた総天夢幻流を極める。そのために、勝たなくちゃいけない相手がいる。そこに至る道に障害があるなら、全部倒していく!」

刀を握り直り、振りかぶりながら舞は跳ぶ。

ジーク 「いづなか! あくまで己の技にこだわるのは良いが、俺にそれが通用すると思うなよ!」

百も承知だった。
何度も修行時代に見せていた技である以上、師であるジークに本来なら通用しないものだろう。
しかしそれでも、これは舞がもっとも得意とする、もっとも強力な一撃なのだ。

舞 「総天夢幻流・・・いづな!」

舞が刀を振り下ろすのに合わせて、ジークは剣を振り上げる。
リーチの長いジークの剣の方が先に舞の体に届く。
しかしジークの剣は空を切った。

ジーク 「ぬぉおおおおおお!!!!」

いづなはここからが本番。
一度消えた舞は、本命の第二撃を叩き込む。

 

ギィンッ

 

一弥はそこでパワー負けして倒された。
しかしジークは完璧なタイミングで舞の剣を受け止め、かつパワーでも負けていない。

ジーク 「効かんと言ったはずだぁ!!」

ブゥンッ!!!

舞の剣を受け止めた自分の剣を、一気に振りぬく。
辺りに突風が巻き起こるほどの薙ぎが、舞を弾き飛ばす。
吹き飛ばされた舞の体は壁に突っ込んだ。

ジーク 「これまでだ」

確かな手ごたえ。
それを感じたジークは、勝負あったと思った。
だが・・・。

ジーク 「!?」

上を振り仰いだその先には、刀を振りかぶった舞の姿があった。
単純に突っ込んでくるだけの一撃を、ジークは簡単に捌いて、舞の体は地面に落ちる。

ジーク 「これは・・・!?」

しかし地面に落ちたはずの舞の姿は、ジークの視界から消えていた。
そしてまた次の攻撃が来る。

ジーク 「くっ・・・!」

わからなかった。
舞の動きが捉えられない。
一見ただがむしゃらに突っ込んできているだけだと言うのに、まったく動きが衰えないどころかどんどん冴え渡っていく。
攻撃をかわされ、また攻撃をする。
その繰り返しが、どんどん早回しになっていく。

ジーク 「(俺の攻撃は、本当に川澄に届いているのか?)」

そんな疑問をジークは感じ始めた。
確かに攻撃の手ごたえはあるのだが、ダメージを与えられない。
或いは、攻撃していることは幻なのではないか、とさえ思えてくる。

舞 「・・・総天夢幻流・斬魔剣は自ら編み出し、極めるもの」

ジーク 「!!」

舞 「けれど、それとは別に、夢幻流の極意がある」

既に舞の姿は、ジークの周りに何人もいた。
まるで分身の術であった。
ただの幻なのか、それとも超スピードによる残像なのか。

ジーク 「(夢幻流の極意だと!?)」

そんなものを、ジークは知らなかった。
思えば、総天斎が夢幻流を名乗ったのは、カノンを出てからのことだった。
だが、舞が見せたその技の多くは、ジークが知る老師がカノンにいた頃から既に完成されているものがほとんどだったのだ。
それなら何故カノンを出奔し、山にこもってから夢幻流を名乗ったのか。
以前の剣にはない、何かを極めたからこそ、それを極意とする夢幻流が生まれたのではないか。
今まで舞も一度も見せなかったその極意こそが、真の総天夢幻流・・・。

ガッ!

ジーク 「ぐ・・・!」

ついに舞の攻撃に対処しきれず、鎧に一撃を受ける。
さらに続けて攻撃してくる舞に、だんだんジークの反応が遅れていく。

ジーク 「ならば!!」

大剣を全方位に向かって振り回し、ジークは剣の結界を作った。
高速で360度に剣を振るうこの状態のジークに近付けば、どんな相手でも切り刻まれる。
まさに攻防一体の、ジークの必殺技であった。

ジーク 「!!!」

しかし、それすら総天夢幻流の極意の前では無意味だった。
剣の結界を、舞はあっさり抜けてきたのだ。
まるで流れる水、というよりも重さのない羽毛のように、剣の間をすり抜けて舞がジークに向かって落下してくる。
それは、まるでスローモーションのようで、瞬間、ジークは己の敗北を見た。

 

舞 「これが夢幻流の極意、つくよみ・・・そして、これが私の剣。総天夢幻流・・・・・・いづな!!」

 

ザシュッ!!!

 

舞の剣が、ジークの肩口に入る。
同時に剣の結界が止まり、ジークの剣エクスカリバーは回転しながら飛んでいった。

ジーク 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

ジーク 「・・・・・・くっ、見事・・・・・・・・・」

肩から胸にかけて袈裟懸けに斬撃を受けたジークは、仰向けに倒れる。
地面に膝をついていた舞は、刀を杖にして立ち上がる。

舞 「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・勝った」

総天斎老師の死後、ジークに師事してから、はじめての勝ちだった。
数多くの強い存在を見てきた舞だが、間違いなくジークフリードは、その中でも最強クラスである。
無敵と謳われるナイツ・オブ・ラウンドの頂点に立つに相応しい男なのだ。
それに、舞は勝利した。

舞 「・・・勝ったっ!」

いつも物静かな舞が、珍しく拳を握り締めて感情を表す。
それほどまでに、舞にとって超えたかった壁の一つであったのが、この男は。

舞 「・・・・・・」

だが、舞の戦いはまだ終わりではない。

本当に倒すべき相手。

もっとも勝ちたいと思い続けてきた相手が、そこにいる。

同じ総天夢幻流の剣を使う地上最強の男、雛瀬豹雨が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく