デモンバスターズEX

 

 

第41話 大魔導獣セリシア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「小娘・・・その姿は、遠野時谷の」

さっきの奴の姿は、アンデットモンスターをひどくしたような醜悪な姿だったが、セリシアが化けたのはもっと整った形・・・正直美しいなんて言葉さえ浮かんでくるようなものだった。
それゆえに、余計に禍々しいとも取れる。
巨大な体に無数の触手、そして頭らしきものの上にはさらにセリシアの上半身だけが存在している。
銀色の魔獣・・・そんな表現が的確かもしれない。

セリシア 「実験台にされたあんなおっさんと一緒にしないでよね。こっちは完成品なんだから!」

美凪 「・・・実験台・・・! お父さんをそんな風にっ」

いつになく感情を露にする美凪。

セリシア 「あたしに怒ったってしょうがないでしょ。あの男のやったことの責任をあたしに押し付けないでよねっ!」

触手の一本が美凪を襲う。
あれだけ巨大なのに、スピードは変化する前の小娘が使っていた糸と大差ない。
美凪はかわしきれず、その一撃で壁に叩きつけられる。

美凪 「かはっ!」

さやか 「美凪ちゃん!」

セリシア 「ああいう実験台をたくさん使って、あたしという存在が生まれたのよ。究極の魔導体・・・・・・そう、最高の、傑作品って・・・・・・そう言ってたのに・・・!」

琥珀 「あなた、まさか!?」

セリシア 「そうよっ! もうあいつにとって、あたしすら必要なくなったのよ!!」

捨てられた、か。
この小娘も、とうとうあの男、マギリッドに捨てられたわけか。
遠野時谷や、琥珀達みたいに、過去のものになった。

セリシア 「ほたるがいれば、この先の研究には充分だってさ・・・。もっと上の研究ができるようになったから、あたしはもういらないって・・・!」

琥珀 「・・・・・・」

郁未 「・・・セリシア・・・・・・」

さっき言ってた嫌がらせってのは、そういうことか。
思えばこいつも哀れな奴だな。
無理やり殺戮道具として生み出され、いらなくなったら捨てられる。
なまじ感情を持っているだけに、それが・・・。

祐一 「ならもう、戦う必要はないんじゃないのか?」

余計な戦いは面倒だ。
これで退いてくれれば・・・。

セリシア 「冗談じゃない」

退きそうにないな。

セリシア 「あんた達には負けっぱなしじゃないの。生みの親に捨てられて、究極の魔導体と言われながら結局黒星ばっかりのままじゃあたしの気が治まらないわっ! 鬱憤晴らしの代わりに、あんた達全員道連れにしてやる!!」

ビュゥゥゥッ!!!

何本もの巨大な触手がセリシアの体から伸びる。
部屋中をそれが荒らしまわっていくのを、俺達はとりあえず回避に専念した。
かなり速く激しい攻撃に、簡単に反撃ができない。

祐一 「ちっ! キレたガキは始末に負えんな」

言って聞くような奴じゃないか。
なら、力ずくで押さえるまでだな。

さやかの力はまだ回復してないし、美凪は最初の一発をもろにくらってるからな。
戦力から除外して、四人いれば充分か。

祐一 「折原、琥珀、郁未!」

浩平 「ああ」

琥珀 「やりますか」

郁未 「いいわよ」

今まであまり共闘したことのない面子だが、これだけの実力者揃いなら即席でも問題ないだろう。

祐一 「行くぞ!」

触手の攻撃は激しいが、単調だ。
所詮ベースになってるのはあの小娘。
どれだけパワーアップしても戦法に変化があるわけじゃない。

祐一 「凍魔天嵐!」

パキィンッ

四方から向かってくる触手を全て凍らせ、さらに砕く。
それで決めたかに思ったが、意外にも触手は頑丈だった。
この感じ、セリシアの髪と同じ材質のものを束にしてるのか。

セリシア 「今度は火にも水にも氷にも耐えるわよ!」

改良型か、しかも。

郁未 「龍気掌!!」

ドンッ

セリシア 「!!」

郁未 「なら砕けば済むことよ」

確かに。
この程度なら凍らせずとも、ただ斬ればいい。

浩平 「そらよっと!」

ザシュッ

あいつみたいにな。
そうとう丈夫だが、俺や折原の速さと威力があれば容易い。

セリシア 「ふんっ! けどね、数はいくらでもあるのよ!」

祐一 「知ってるよ。けど、こっちも人数揃えてるからな」

セリシア 「?」

頭を叩けば戦いは終わるってのが相場なんだよ。
俺達“三人”が奴の注意を引き付けている隙に、裏から一人が回りこむ。

琥珀 「これまでですよ!」

セリシア 「!!? しゃらくさいっ!」

琥珀 「っ!」

髪か。
体が化け物になっても、奴本来の能力は健在というわけだな。
銀色の髪が伸びて琥珀の攻撃を止め、さらに反撃する。

祐一 「手っ取り早く片付けたかったんだがな」

セリシア 「あたしをなめるな!」

ごもっとも。
なめてかかるとこっちが痛い目を見るな。
氷魔滅砕なら一撃でとどめをさせるが、今後を考えて体力の消費は避けたい。

郁未 「祐一」

祐一 「何だ?」

郁未 「私が突っ込むから、サポートお願い」

祐一 「わかった、任せる」

あの小娘との付き合いはこいつの方が長いからな。
戦い方も心得てるだろうし。

祐一 「折原」

浩平 「わかってるよ」

周りの触手を片付けて、郁未が本体に取り付くための道を作る。
そんな中、郁未は触手の上を駆けて奴に接近する。

セリシア 「甘いのよ!」

ズンッ!

郁未 「なっ!?」

だが、その動きを読んだようにセリシアの攻撃が死角から郁未をつく。
付き合いが長いってことは、向こうも郁未の動きを熟知してるってことか。
ガキのくせに生意気な。

セリシア 「ちょろちょろと鬱陶しいわっ!!」

全ての触手が一斉に動き回る。
あまりの数に、さすがの俺達も避けきれない。

祐一 「ちっ!」

浩平 「うぉっ!」

遠くにいた俺と折原は何とか防御が間に合ったが・・・。

郁未 「がっ・・・!」

琥珀 「くはっ!」

近くにいた郁未と琥珀は直撃を喰らった。
あの一撃は、かなり重いぞ。

祐一 「やばい、あいつら!」

駆け出そうとする俺の眼前に、何本もの触手が壁のように突き立つ。

セリシア 「あんた達の相手は、後でしてやるわよ。まずは!」

壁が完全に道を閉ざし、内側には郁未と琥珀だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

セリシア 「先にあんた達からよ。郁未、琥珀!」

内側に残された二人に、セリシアの容赦ない攻撃が襲い掛かる。
かわすのが精一杯だった。

セリシア 「今まで散々馬鹿にしてくれたお礼をさせてもらうわ!」

郁未 「あのねぇ・・・」

ドシュッ!

セリシア 「!!」

向かってきた触手を全て、郁未は龍気刀で薙ぎ払う。

郁未 「あんた、いい加減にしなさいよ!」

怒気を孕んだ郁未の声に、セリシアがたじろぐ。

セリシア 「な、何よ・・・」

郁未 「いくら子供だからって、もう少し分別ってものを持ちなさい! こんな風に暴れて何の意味があるって言うの!」

セリシア 「・・・郁未に・・・郁未にあたしの気持ちなんて、わかるもんかぁっ!!」

郁未 「!!」

一度は止んだセリシアの攻撃が再開される。
それを避け、或いは迎撃しながら、郁未は徐々に間合いを詰める。

郁未 「セリシア!」

セリシア 「究極の、最高の魔導体であることだけがあたしの存在意義だったのよ! それを否定された今、あたしには何も残ってないっ。あるとすれば、自分の本分を全うするだけよ! あんた達を倒して、あたしが究極の存在であることを証明するの!」

郁未 「それで一度捨てたあんたをあの男がもう一度必要とするとでも思ってるの!」

セリシア 「思わないわよ! もうどうにもならないなら、せめてあんた達を道連れにするしかやることが思いつかないのよ!」

無茶な理屈だったが、セリシアには本当に他に道を考えることはできないのだろう。
そういう存在として作られた彼女の不幸と言うべきか。

セリシア 「死ねぇっ、郁未ぃぃぃ!!!」

郁未 「この・・・・・・大馬鹿が!」

 

ドゴッ!

 

セリシア 「・・・ぐ・・・ぁ・・・・・・!」

郁未の掌底がセリシアの体に突き刺さる。
そこから郁未は、爆発的な気のエネルギーを送り込む。

郁未 「龍神轟爆波!!」

 

ドゴォンッ!!!

 

気のエネルギーがセリシアの体内で爆発し、体を吹き飛ばす。
変化して生じた肉体部分は破壊され、セリシアの本体部分が落ちる。

セリシア 「ぐ・・・・・・!」

どさっ

小さな体が床に倒れ伏す。
同時に触手で作られた壁も砕け、祐一達も内側に入り込む。

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「やったみたいだな」

崩れた壁の内側に入り、郁未や琥珀、そして倒れているセリシアがいる場所へ向かう。

セリシア 「・・・くそぉ・・・・・・くそぉ・・・!!」

郁未 「まったく、手間取らせて」

琥珀 「どうして・・・。あんな男に捨てられたくらいでそんなに・・・」

セリシア 「あんたなんかにあたしの気持ちなんて・・・・・・っ!!」

ハッとしたようにセリシアが自分の手を見る。
それを見て驚愕したのは、本人だけでなく、この場にいるほぼ全員だった。
あれほどの驚異的な再生能力を誇ったセリシアの肉体が、崩れかけている。

琥珀 「それって・・・」

セリシア 「・・・ふっ、ほとんど不死身に近い肉体なんて、あるとでも思った?」

もう何もかも諦めたような表情で、小娘が自嘲する。

セリシア 「あたしの体はほたるとは違う。肉体を保つために、あの男が作る特殊な薬品を投与しないとならないのよ。でももう、その薬品はない。だから・・・」

肉体を維持するための薬がないということは、もう小娘の体は保たないということだ。
それは即ち、死を意味する。

セリシア 「薬抜きでも、魔力である程度抑えることができるみたいなんだけどね。その辺りは榊のおばさんで実験済みだから」

楓さんに倒された榊って女も、奴の実験台だったわけか。
遠野時谷や榊、他にどれだけの数がいるのか知らないが、そうした研究の結晶がこいつだった。
しかし今やあの男は、それ以上の何かを手に入れつつある。
だからこいつは、もう不要ということだ。

セリシア 「あんな奴、親ともなんとも思わないし、大嫌いだったけど! あいつのもとにいることがあたしの唯一の生きる道標だったのよっ! 他の道を、あたしは選ぶことすらできないっ、そんなもの知りもしない!!」

叫びながら体を動かすたびに、どこかが崩れていく。
もう長く保たないことは明白だった。

セリシア 「でもあいつは・・・もう・・・あたしはいらないって・・・・・・!!」

大粒の涙が零れ落ちる。
存在意義を完全に否定されたんじゃ、自暴自棄になっても仕方ないか。
そういえばさっきこいつ、道連れって言ったな。
一人で死ぬのが、嫌だったのか。

祐一 「助からないのか?」

美凪 「・・・治癒魔法は・・・」

郁未 「魔導実験体に、治癒魔法は効かないわ」

琥珀 「なら、あの男が作ったっていう薬と同じものを作れば」

セリシア 「・・・何よ・・・同情でもしてるつもり!? やめてよっ、あんた達なんかに助けられたくない!!」

声を張り上げて暴れると、さらにセリシアの体に亀裂が走る。
あれ以上動けば、完全に・・・。

 

スゥッ

 

セリシア 「!?」

さやか 「寂しかったんだね」

セリシア 「な、何が・・・?」

さやか 「一人で死ぬのが」

セリシア 「!!」

さやか 「だから私達を一緒に・・・」

セリシア 「・・・・・・」

小娘の小さな体を、さやかが後ろから抱きすくめる。
図星をつかれたからか、セリシアはおとなしくしくなる。

さやか 「死ぬことない。助けてあげるから」

二人の下から、炎が立ち昇る。
熱は感じない、不思議な感じのする炎だった。
だがどこかで見たことがある。
そう、さやかが召喚する朱雀の炎と、よく似ている。

祐一 「さやか、おまえ・・・」

さやか 「止めないでね、祐一君」

熱くない炎が、二人の身を優しく包んでいく。

セリシア 「(・・・暖かい・・・・・・)」

さやかの腕の中で、セリシアは静かに目を閉じる。
意識を失ったようだが、体の方は元に戻っていっている。

祐一 「無茶しやがって、阿呆が」

郁未 「あれは?」

祐一 「朱雀の炎だ。命を司る、な」

郁未 「あんなことができるの」

祐一 「あいつ自身も瀕死の重傷から回復してる。ただその代わり、消費する魔力は半端じゃないらしい。現にあいつは、怪我からは回復したが、魔力を使いすぎてやっぱり死にかけた」

術者の命すら削る技だ。
しかも本来は自分自身にしか有効でないものだ。
他者に使うというのも、かなり無理をしているのだろう。

郁未 「・・・あの子とは、前にカノンに来て、マギリッドの研究施設に忍び込んだ時にはじめて会った。その時ね、私のことを友達って呼んで、すごく嬉しそうな顔してたわ」

祐一 「・・・・・・」

郁未 「平気で人を殺すような子だけど、悪い子じゃないのよ」

祐一 「そうかもな」

人を殺すのは、そう作られたからであって、仕方のないことだ。
だが、ちゃんと教育すれば、その辺りはなんとかなるかもしれない。
まだガキなんだから、この小娘もこれからか。

祐一 「おいさやか。そうやって助けたからには、責任持って教育しろよ。危険な奴に変わりはないんだからな」

さやか 「うん、そうするよ」

それに、今は回復しても、体を上手く維持できる状態になるかどうかは、まだわからないしな。
問題は山積みだ。

それにしても、色々やって、本物の最低野郎だな、マギリッドって男は。

琥珀 「あの男、野放しにはやっぱりしておけません。必ず見付け出して倒さないと」

郁未 「悪いけど・・・」

琥珀 「?」

郁未 「あの男は見付け次第、私が殺すわ」

その時俺は、はじめて郁未の本性を見たような気がした。
あくまで一部なんだろうが、人間誰でも本性に闇を持っているものだ。
郁未の本気の殺意を、俺は垣間見た。
感情の混ざらない純粋な殺意ほど、恐ろしいものはない。
あれほど激しい憎悪をあの男に抱いていた琥珀でさえ、この郁未の殺気に気圧されている。
それは、ほんの数瞬のことだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがきみたいな

平安京(京):ふーむ、こうなったか

さやか(さ):何が?

京:セリシアの処遇だ。二転三転しているのだよ

さ:で、結局どうなったの?

京:ふむ、一番最初の案が採用された

さ:つまり私に助けられるってやつだね

京:少し前まで殺してしまうつもりだったんだが、榊に時谷と死人ばかり出てるんで、たまには主人公らしく助けてみようということで、こうなった

さ:お陰で私の見せ場〜

京:今後はセリシアも準レギュラーの仲間入りをするのか・・・またキャラが増えた

さ:では次回〜