デモンバスターズEX

 

 

第39話 豹雨と京四郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ落ちた瓦礫の端に、楓は佇んでいた。
どうしようもない無力感だけが全身を包んでいる。

楓 「・・・・・・馬鹿・・・」

握り締めた拳からは、血が滴り落ちていた。

楓 「私は!・・・・・・そんなお人好しじゃないっ、あなたのことなんか、すぐに忘れて・・・・・・忘れて・・・・・・・・・っ!」

自分に泣く刺客などない。
榊が最後に言ったとおり、彼女を殺したのはまさしく、楓なのだから。
忘れて、吹っ切るには、榊の存在はあまりに楓にとって重すぎた。

楓 「このっ!」

バキッ

瓦礫を素手で殴りつける。
石も砕けたが、楓の拳からも血が流れる。
だがそれでも、楓はさらに力いっぱい目の前にある瓦礫の山を殴り続けた。

 

 

痛々しいその姿を、香里も栞もただ見ていることしかできなかった。
かける言葉が見付からないとは、まさにこういう時のことを言うのだろう。
そんな中、京四郎が楓の方へ歩み寄る。

京四郎 「楓さん、もうやめましょう」

楓 「ほっといてっ!」

完全な拒絶。
祐一達から逃げていた頃の楓を知らない香里と栞にとって、こんな姿の楓を見るのははじめてだった。
優しく聡明で、穏やかな女性だと思っていたが、こんな風に感情を剥き出しにするところは見たことがない。

京四郎 「楓さ・・・」

尚も声をかけようとする京四郎の横を素通りして、楓の近付く者があった。
豹雨はただ無言で、楓の頭に後ろから手を乗せる。

楓 「・・・・・・」

今度は、楓は拒絶しなかった。

豹雨 「・・・・・・」

ただそれだけで、豹雨はそれ以上何かをしたり、何かを言ったりはしない。

楓 「・・・っ!」

がばっと振り返った楓は、そのまま豹雨の懐に顔をうずめる。
肩が小刻みに震えていた。

豹雨 「・・・阿呆が」

二人はしばらく、そのままの状態でいた。

 

 

 

 

 

 

たっぷり五分はそうしていて、ようやく楓の震えが収まった。
その後もまだ、本人は豹雨の懐に顔を埋めたままだが。
いい加減長いので、香里や栞などは赤面してその様子を見ていた。

香里 「・・・・・・」

栞 「・・・話には聞いてましたけど、お熱いんですね・・・」

そう表現する以外になかった。

 

しぐれ 「・・・・・・」

澄乃 「ぷぅ」

その後ろの方では、一人ばかり頬を膨らまれている者もいた。

しぐれ 「お行儀が悪いですよ」

澄乃 「だってぇ〜、えぅ〜」

しぐれ 「楓様のことは、聞いていたでしょう」

澄乃 「えぅ〜。でもわたし、負けないもん! わたしは、あんまんと豹雨ちゃんを世界で一番愛してるから!」

あんまんと同等なのか。
それが果たしていいことなのか悪いことなのか、判別しがたいものだな、としぐれは思った。

 

京四郎 「・・・くすっ」

豹雨 「何笑ってやがる、てめェ」

京四郎 「え?」

微笑ましい光景だなぁ、などと思って二人の抱擁(といっても楓が一方的に抱きついていただけだが)を見ていた京四郎が思わず笑みをこぼすと、即座に豹雨が睨んできた。
さらに太刀の切っ先を京四郎の方へ向ける。

豹雨 「てめェ、今さらどの面下げて俺の前に出てきやがった」

京四郎 「え〜・・・この面」

そう言って自分の顔を指してみせる。
京四郎は笑っているが、豹雨の方はにこりともしないどころか眉一つ動かさない。

楓 「あれ、豹雨と京四郎さんって知り合いなの?」

栞 「っていうか楓さん立ち直り早くありませんか!?」

豹雨から離れた楓は、既にけろっとしていた。
さっきまで思い切り荒れていたのと同一人物とは思えないほどに。

楓 「悩んでても仕方ないよ。彼女のことは・・・・・・たぶん彼女が最後に言ったとおり、一生忘れない。彼女を救えなかった事実を、私は一生背負って生きていく」

香里 「・・・・・・」

なんて強い人だろう、と香里はそう思った。
栞の方は、楓の強さや、豹雨と楓の絆の深さを見て改めてデモンバスターズに対する尊敬の念を強めていた。

栞 「憧れです〜」

京四郎 「そう言いながら、栞さんは誰を思い浮かべてるんですか?」

栞 「え、え? え、え〜と〜・・・・・・」

楓 「祐一君のことだよね」

京四郎 「祐一君?」

栞 「ちちち、違いますっ、私はそのあの!」

香里 「まったく、あんな奴のどこがいいんだか」

栞 「ちょっと! いくらお姉ちゃんでも、祐一さんの悪口は許しませんよ!」

楓 「ほらやっぱり祐一君のことだ」

栞 「え、えぅ〜」

澄乃 「えぅ〜」

栞 「え? えぅ〜ぅ?」

澄乃 「え〜ぅ〜」

栞 「えぅぅ〜」

澄乃 「えぅ〜〜〜」

香里 「やかましいわ、栞」

しぐれ 「澄乃、おやめなさい。妹が失礼いたしました」

香里 「いいえ、こちらこそ」

栞・澄乃 「「えぅ〜〜」」

 

豹雨 「チッ」

興ざめしたのか、豹雨は京四郎を無視して楓のもとから離れる。

豹雨 「・・・・・・」

その豹雨を囲むように、四人の人影が立ちはだかる。
ジーク、一弥、アヌビス、メサルスのナイツ・オブ・ラウンド達である。

ジーク 「雛瀬豹雨」

豹雨 「よォ、ジーク、ひさしぶりじゃねェか。まだ現役やってやがったか」

ジーク 「これはいったいどういうことだ? このカノンに何が起こっている?」

豹雨 「さあな、知らねェよ」

実際豹雨はまったく事情を知らない。
魔族がいるであろうことも推測したに過ぎず、それは他の面々にしても同じことだった。

ジーク 「王城ミステリアをここまで荒らされたのははじめてだ」

豹雨 「そりゃ、よっぽど今まで雑魚ばかり相手にしてたんだろ」

メサルス 「貴様・・・俺達を愚弄するか!」

豹雨 「雑魚が吼えんなよ」

メサルス 「ぐぬぬ・・・・・・どいつもこいつも人を雑魚扱いしやがって・・・!」

アヌビス 「そんなことはどうでもいい」

一定距離を保っていた四人の中から、アヌビスが一人前に進み出る。
既に剣の柄に手をかけており、いつでも抜く構えだ。

ジーク 「アヌビス、待て」

アヌビス 「主の指図は受けぬ、ジーク。大会を見ていた時から、この男とは戦ってみたかった」

ただでさえ巨漢と呼べるアヌビスが、さらに自身の身長ほどもある巨剣を手にする姿は、まさしく圧巻だった。
しかしそれを前に、豹雨は少しも物怖じしないどころか、その相手をさらに上回るほどの存在感を感じさせている。

豹雨 「俺様に対する挑戦料は高ェぞ」

アヌビス 「望むところ」

 

栞 「な、なんか変な展開になってきましたよ?」

楓 「確かに。そもそもナイツと喧嘩しに来たのは私達であって、豹雨は関係ないのに・・・」

そんな理屈が通用する男ではなかった、雛瀬豹雨という男は。
戦いたい時に戦う、それだけで充分なのだ。

 

?? 「その男とは、俺も戦ってみたいんだがな」

そこへさらに、予期せぬ者の声が割り込む。
全員の視線が集まる中、崩れかけた選手入場口から、腰に刀を帯びた男が現れる。

栞 「さ、斉藤さん!?」

香里 「いつから・・・」

斉藤 「大会が始まった時からいたとも。メンバーが集まらなかったんで大会には出なかったがな」

メサルス 「てめっ、斉藤! いやがったのか・・・・・・ならちょうどいい。ここで決着つけてくれる!」

斉藤 「雑魚に用はない。俺が戦ってみたいのはその男だけだ、雛瀬豹雨」

 

?? 「・・・みんな、邪魔」

さらにもう一人、豹雨に対して敵対心を投げかける者がいた。

舞 「・・・豹雨は、私が倒す」

 

さくら 「ま、舞ちゃんまで・・・」

芽衣子 「ふむ、なかなか盛り上がってきたな」

 

一弥 「な、なんなんだ、いったい?」

一人取り残されたような形の一弥は、この異様な雰囲気に呑まれていた。
実力的に劣っているとは思えないのに、今は周りの面々に比べて自分が小物とさえ思えた。
プレッシャーが違うのだ。

 

アヌビス 「その男と戦うのはこの俺だ」

ジーク 「待て、勝手な真似は許さん」

メサルス 「てめぇの相手はこの俺だ、斉藤!」

斉藤 「雑魚は引っ込んでいた方が身のためだ」

舞 「豹雨は私が・・・」

ジーク 「川澄、おまえも下がっていろ。話をややこしくするな」

斉藤 「内輪もめは勝手にやっていてくれ」

アヌビス 「誰にも俺の戦いを止めることはできん」

メサルス 「斉藤ォ!」

 

ギィンッ!

 

地面に刀を突き立てる音が響く。
それだけで、全員が押し黙り、しんと静まり返った。

豹雨 「ガタガタうるせェんだよ」

突き立てた太刀の柄頭に手を乗せながら、豹雨は獰猛な笑みを浮かべている。

豹雨 「くだらねェ言い合いなんぞしてんじゃねェよ。死合いたけりゃ問答無用で来な」

太刀を抜いてそれを肩に担ぐ。
仕草や言葉の一つ一つが、見る者を圧倒する。

豹雨 「ルールは一つ、最後の立ってた奴が勝者だ!」

ブゥンッ!

その言葉に続けて、合図代わりに太刀を薙ぐ。
剣圧が地面を抉り、突風が会場全体に吹きぬける。
豹雨の前にいた面々は、衝撃波を避けるために大きく跳び上がった。

 

メサルス 「斉藤ォォォ!!」

跳びながらメサルスは、空中で斉藤に狙いを定めて攻撃を仕掛ける。
その槍の一撃を受けた斉藤は、メサルスと共に客席の一角に着地した。

斉藤 「・・・やれやれ」

5メートルばかり離れたところに降りたメサルスを、仕方がないと言った表情で見る。

斉藤 「まぁいい。準備運動代わりに相手をしてやる」

メサルス 「その余裕、いつまで続くかな!」

槍を片手で回転させながら、メサルスは突進する。

 

舞 「・・・・・・豹雨は?」

地面に降りた舞は、豹雨の姿を探して視線をさまよわせる。
最初に見つけたのは、目当ての相手ではなく、かつての師の方だった。

舞 「・・・ジーク師匠」

ジーク 「川澄、これ以上騒ぎを広げるな。どんな理由があろうと、カノンに争いを持ち込むのなら、おまえを排除しなければならん」

舞 「・・・私が豹雨と戦うのを邪魔するというなら、ジーク師匠でも倒す」

ジーク 「・・・意固地な性格は相変わらずか。ならば、力ずくで取り押さえるまでだ」

 

アヌビス 「ぬぉぉぉぉ!!!!」

最初に豹雨に挑む権限を手にしたのは、アヌビスだった。
巨剣を振りかぶりながら豹雨目掛けて突撃していく。
その巨体から繰り出される攻撃のパワーは凄まじく、さしもの豹雨も受けずにかわしていた。

豹雨 「馬鹿力だな。ただの木偶の坊じゃねェか」

 

 

 

栞 「あ〜・・・・・・あの、止めなくていいんですか?」

楓 「止められると思うの、栞ちゃん?」

栞 「いえ、私は無理ですけど、楓さんなら・・・」

楓 「無理ね」

こうなってはもう誰も豹雨を、彼らを止めることはできないだろう。
本質的に戦いの中で生きている者達ばかりなのだ。
己の存在意義すらかけて戦っている彼らを止めるのは、生半可なことではない。

京四郎 「ふふ、本当に、変わってないんだな、豹雨は」

楓 「・・・・・・ねぇ、京四郎さん。豹雨とは、どういう?」

京四郎 「昔・・・もう二十年以上前かな。まだ幼かった豹雨と一緒にいたことがあったんですよ」

楓 「そんなに昔・・・」

楓が豹雨と出会ったのがだいたい十年前。
少し聞いた話によると、豹雨が総天夢幻流を会得したのが十九年ほど前。
それよりさらに前ということか。

楓 「・・・・・・・・・ねぇ、豹雨の子供の頃ってどんなだった?」

軽く頬を染め、少し弾んだ調子で問いかける楓に対し、京四郎は微笑を浮かべる。

京四郎 「う〜ん、一言で言うと・・・・・・あんまり今と変わってない、かな」

楓 「あ、すごくわかるかも」

ああした性格の豹雨であるから、自分の過去などほとんど話さない。
だから今まで楓は、こんな感じだったのではという想像をしてきた。
今の無愛想なままの豹雨をそのまま子供にするとどうなるのか。
そのまま無愛想な子供ができあがった。

楓 「・・・かわいい」

自分の想像でうっとりする楓。

京四郎 「あと、今もそうみたいだけど、すごく照れ屋だね」

楓 「え、照れ屋!?」

あの豹雨がか、という思いだった。
あの傍若無人を絵に描いたような荒唐無稽天上天下唯我独尊無愛想男が、照れ屋。

京四郎 「ついでに不器用で、口下手で・・・」

 

ドンッ!

 

豹雨 「くだらねェ話してんじゃねェ」

京四郎に向かって、豹雨の本気の一撃が落ちる。
かわしていなかったら本当に一刀両断にされていただろう。

アヌビス 「貴様の相手はこの俺だろう! 斬魔剣の豹雨!!」

豹雨 「ふんっ」

相手の剣が振り下ろされるより早く、豹雨は懐に入り込んで当て身を喰らわせる。

アヌビス 「ぐぬっ・・・!」

鳩尾に強烈な一撃を受けて、アヌビスがよろめく。

豹雨 「どうした、それで終わりか? そんなんじゃ俺様の相手にはならねェな」

アヌビス 「おのれ!」

 

京四郎 「ほらね、ああいうところが照れ屋なんですよ」

楓 「なるほど」

澄乃 「なるほどだよ」

想い人の新たな一面を知ることができた女性達は非常に満足そうだった。

楓 「・・・・・・京四郎さんにとって、豹雨って何?」

ふとそんなことを思って問いかける。
楓でさえ知らない豹雨の一面を知っているこの男は、いったい何者なのか。
豹雨と、どんな間柄なのか。

京四郎 「そうですね・・・豹雨は・・・・・・・・・僕の子供であり、弟であり、無二の友であり・・・そして・・・・・・ライバル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく