デモンバスターズEX
第37話 祐一軍団vs親衛隊
さやか 「じゃーん♪」
祐一 「・・・・・・」
・・・まぁ、なんだ。
着替えが必要だったのはわかる。
ここが城である以上そうしたものがあるという事実もわかるが、何故に?祐一 「何故メイド服?」
さやか 「かわいいから♪」
長いスカートをつまんでクルクル回りながらはしゃいでいる。
別にメイド服くらい、うちには翡翠がいるんだから珍しくもないだろうに。さやか 「ぁ・・・」
祐一 「おっと」
ふらついたところを支える。
祐一 「暴れるな、貧血娘」
さやか 「てへへ、ごめん・・・」
傷は癒え、体力もそこそこ回復したろうが、流した分の血が元に戻るにはまだ時間がかかるだろう。
もともと日射病とかにもなりやすいような体質なんだから、無理すんじゃねぇよ、阿呆。祐一 「阿呆」
さやか 「なんか今、思い切り言うこと端折らなかった?」
祐一 「気のせいだ」
ズンッ!!!
そんなやり取りをしていると、遠くで何か凄まじい衝撃音が響いた。
方角から言って、おそらく大武会会場の方だな。祐一 「何だ?」
さやか 「試合レベルの衝撃じゃないね」
祐一 「ああ」
俺達は互いに顔を見合わせると、部屋を飛び出した。
戻るべきかどうかは決めかねるが、まずは状況把握が必要だ。さやか 「?」
祐一 「どうした?」
部屋から出てすぐに、さやかが立ち止まる。
さやか 「ん〜・・・・・・誰かいたみたいな感じがするんだけど・・・」
祐一 「気のせいだろ。俺は何も感じなかったぞ」
さやか 「気配とかじゃなくて・・・・・・残り香っていうか・・・・・・」
祐一 「あのな、古い恋人同士の逢瀬とかじゃないんだからよ」
さやか 「・・・・・・そだね。行こっか」
再び二人して走り出す。
しばらく走ると、大き目の広場に出た。
さっき久瀬とやりあった場所とは違うが、同じくらい広い。
なんというか、本当にでかいよな、この城。祐一 「まずったな」
さやか 「そうみたいだね〜」
のんびりした態度は俺達にとってはいつものことだが・・・。
囲まれてるな。祐一 「今度は随分と人数を集めてきやがったな」
最初に姿を現したのは、久瀬俊之。
親衛隊のリーダーだから、周りを囲んでるのは全部その親衛隊のメンバーか。
4・・・50人、か?
人数は大したことないが、いずれも実力者揃いだ。
今はさやかが万全じゃないから、少し不利か。久瀬 「まったく、ブラッディ・アルドも口ほどにもない。もっとも、あの男を退けたおまえ達はもっと危険ということか。だが、この人数相手ではどうにもなるまい。投降したまえ」
祐一 「お決まりな台詞ばっかり言いやがるな。それで素直に従うと思うのか? たかが50人程度で」
久瀬 「ただの50人と思わないことだ」
俺やアルドの実力を知りながら、この状況で優位に立っていると思っている。
相当親衛隊とやらのメンバーに自信があるようだな。
これだけいれば俺をどうにかできると。久瀬 「警告は一度だけだ。投降したまえ、さもなければこの場で始末させてもらう」
祐一 「悪いが急がしい身でな」
さやか 「ちゃっちゃと通してね〜」
久瀬 「わかった」
バルコニーの上にいる久瀬が手を挙げる。
すると四方から騎士姿の連中が現れる。
予想通り、ざっと50人。
やはりいずれもかなりできる。久瀬 「特別にもう一度だけ言う。投降したまえ」
祐一 「生憎学校の類には行ってないんでな」
さやか 「そりゃ登校違いでんがなー」
これ以上の会話は無意味だった。
俺はさやかを庇うように立ち、手に力を集中する。
もう少し力を温存しながら行きたいんだが、そうも行ってられないか。久瀬 「やれ」
リーダー様の合図がかかる。
見事に統制の取れた動きで、騎士達が動き出す。
一匹狼ばかりのナイツと違って、チームで行動することを前提とした連中だ。
そこそこ強い奴が徒党と組んだところで、互いの持ち味を潰してしまうのが大体だ。
しかしそんなに強くなくても逆にチームワークの取れた徒党なら、その強さは倍増する。
こいつらは後者だ。「くらえっ!」
一人目がかかってくる。
下手な受け方をすれば二人目三人目に狙われる。ザシュッ!!
「ぐわっ!」
祐一 「!」
だが、俺が何かするより先に、一人目の男は斬られて倒れた。
予期せぬ方向からの攻撃に戸惑い、一旦敵が下がる。
動揺は一瞬で、すぐに状況を把握しようとしている。
やはりただの烏合の衆じゃない。
しかし、今の太刀筋は・・・。祐一 「おまえがここにいるってことは、やっぱり会場の方で何かあったみたいだな、折原」
浩平 「いや、残念ながら海の上のことはわからんな」
祐一 「そりゃ海上違いだ、阿呆」
相変わらず見事な抜刀術だな。
遅れて美凪と琥珀もやってきた。
お笑いトリオだ。美凪 「・・・お呼びとあらば」
琥珀 「即参上〜♪」
さやか 「特に呼んでないんだけどね♪」
美凪 「・・・がっくり」
琥珀 「あはっ、お二人とも苦戦してるみたいですね」
祐一 「そうでもないさ」
相手するのが面倒だと思ってただけだ。
何しろ本命の敵はまだまだいるんだからな。
現にさやかはアルドとの戦いでかなり消耗しているし、それを見てのとおり、最初に無理すると後がきつい。祐一 「まぁいい。これでこっちは五人。さやかは今は抜きにするとして、一人16人ほどだな」
琥珀 「あれ、計算変ですよ?」
祐一 「俺はあいつの相手をするのさ」
上で高みの見物決め込んでるあいつとな。
さっきの決着をつけるとしよう。とんっ
俺は床を蹴ってバルコニーまで跳ぶ。
奴から5メートルほど離れた場所だ。
そこで氷魔剣を持って久瀬と対する。祐一 「ケリつけようぜ」
久瀬 「止むを得ないか」
下の方では、中心にさやかを置き、その周囲三方に向かって他の三人がそれぞれ外を向いて構える布陣を取っている。
さやか 「よーし、いっけ〜、祐一軍団〜♪」
祐一 「また妙な名前を・・・」
俺の剣と、久瀬の剣とが前に突き出される。
切っ先同士が触れる。キンッ
戦闘開始だ。
一瞬。
一瞬で三人である。
浩平の初太刀で倒れた騎士の数だった。
あまりの速さに、残りの相手も動揺する。
すぐに立ち直るが、その時には既に浩平の刀は鞘に一度納まり、再び抜き放たれている。浩平 「もういっちょう!」
二太刀目でさらに二人を戦闘不能にし、そして三度目の抜刀。
ここでようやく敵はまともな反応ができた。
彼らが遅いのではない。
浩平が速すぎるのだ。浩平 「お?」
だが相手も並みの使い手ではない。
五人、三太刀目の一人を加えて六人がやられたが、即座に態勢を整える。
抜刀術は抜ききった瞬間が最大の弱点となる。
複数で挑めば、その隙をつくことも可能だった。「もらったぁ!」
一人が浩平の抜いた刀を、体を張って止め、その隙をついて残りが斬りかかる。
だが彼らが剣を振りかぶった時には、もう浩平の姿はなかった。「どこだ!?」
浩平 「後ろだよ」
相手がこうした戦法を取ってくるであろうことは容易に想像できたため、浩平は抜くと同時に一気に前へ踏み込んでいたのだ。
止められた瞬間、相手の横を抜けて背後へ。
虚をつかれて動きが止まった相手をさらに二人斬る。浩平 「俺のノルマ、あと七人」
あっという間に半分である。
こうも圧倒的な強さを見せ付けられては、よく訓練された親衛隊の面々でも焦りを覚えるのも無理はない。
別の方向で戦っている琥珀。
こちらは剣の腕では浩平に劣っているが、巧みな戦術で相手を翻弄していた。
特に、特殊な薬品を使った攻撃は、相手も慣れていないため対応に苦労している。琥珀 「次はどれがいいかなー?」
赤だの青だの緑だのと、見るからに怪しい薬品の入った試験管や注射器を手許で弄びながら小悪魔的な笑顔を浮かべる琥珀。
しかもそれらの薬の効果が使う度に変化していくのだから、対処のしようがない。
さらに薬品にばかり気を取られていると。琥珀 「いただきですっ♪」
刀による痛烈な一撃を喰らう。
己の技能をフルに使っての琥珀の戦い方が功を奏して、戦況はほとんど一方的であった。
美凪の方は逆に、まだ一人も敵を倒していない。
かといって、美凪自身が攻撃を受けているわけではなく、ただひたすら攻撃を避け続けている。「くそ、このっ、ちょろちょろと!」
たかが小娘一人と侮っているわけではないが、10人以上でかかってたった一人を捉えられないというのは、屈辱であった。
必死になって騎士達は美凪を追うが、攻撃は一向に当たらない。美凪 「・・・・・・」
そして、攻撃が当たらないことからくる焦りが、美凪が取っている行動に疑念を持つ余裕を失わせている。
動き回りながら、美凪は何度かシャッフルした束からカードを引いているのだ。
だがそれにさしたる意味があるとは、相手は思っていないようだった。
それが命取りになるとも知らずに。美凪 「・・・じゃん、完成」
「!?」
美凪を中心に集まった騎士達。
その足元には、何かの紋様が浮かび上がっていた。
そして美凪自身の手には、先ほどまで引いていたカードが数枚あった。美凪 「・・・一掃」
宙に放ったカードは紋様の周囲に向かって飛び、円周上に到達すると同時に、魔力が弾けた。
さやか 「う〜ん、やっぱりやるね〜、みんな。結局出る幕なかったよ」
美凪の魔法陣とカード魔術を複合した魔法で敵を一気に吹き飛ばしたのとほぼ同時に、浩平と琥珀も最後の敵を沈めた。
これだけやって、おそらく一人も死んではいないだろう。
死ぬほどの重傷くらいはいるかもしれないが。さやか 「・・・・・・」
だが、これほどの強さを持ちながら三人とも、ナイツ・オブ・ラウンドには惨敗しているのだ。
祐一は恐れるほどの相手ではないと言ったが、それはあくまで彼のレベルから見ればの話であり、普通に考えて充分に化け物レベルの浩平達を圧倒するナイツは、強い。さやかは自分の手を握り締めてみる。
いつもに比べてやはり力が入りにくい。
先ほどよりはマシになっているが、戦えるようになるにはまだ程遠い。さやか 「(魔力の回復も、思ったよりは早いけど、まだまだ足りないし・・・)」
やはりいきなりアルドとの戦闘はきつかった。
できれば避けたかったものである。
もっとも、結果としては厄介な敵を一人減らせたわけだから、良しとするべきか。
細長いバルコニーの上で、俺と久瀬が剣を交わす。
下はどうやら決着がついたようだな。
なら俺も、そろそろ終わらせるか。祐一 「悪いが先は長いんでな。ここらで終わりにする」
久瀬 「ちっ・・・」
やはり少し焦っているな。
それもそのはず、自分が誇る精鋭は全滅。
俺との勝負も向こうが劣勢だ。祐一 「退くなら見逃してやるぜ?」
久瀬 「それはできないな。この城を守ることは私の責務だ」
祐一 「上等だ。なら・・・」
剣を右肩の上辺りに構える。
対斉藤用に研究している技だが、これくらいの気迫でいかないと、こいつの使命感は砕けない。
本気で行く。久瀬 「はぁあああ!!!」
祐一 「おぉおおお!!!」
ガッ!!!
交差する。
俺は、しっかり床に足をつけている。
あいつの方は、俺の剣の威力を殺しきれずに飛ばされた。
下に落ちる。どさっ
5、6メートルは落ちたが、まぁ、骨折くらいで済むだろう。
殺すには惜しい奴だからな。祐一 「よし、片付いたな」
浩平 「ああ」
琥珀 「はい」
美凪 「・・・終了」
さやか 「じゃ、次行く?」
祐一 「こっからが本番になるぞ」
次の敵は十中八九、ナイツ・オブ・ラウンドだ。
その頃、大武会会場の方はさらなる混乱の中にあった。
今までの小物モンスターとは違う、大型の魔物が出現したのだ。
このクラスまで来ると、魔獣に近い存在かもしれない。楓 「こんなものまで・・・いったい誰が!」
?? 「ふっ、気に入ってもらえたかえ?」
楓 「あなたは!」
黒い、巨大な蛇のような魔物の頭の上に乗っているのは、水瀬屋敷で楓に挑んできたナイツの一人、黒巫女榊であった。
楓 「何の真似よ!? ここはあなたが仕える国の城でしょう!」
榊 「仕える国? あっはははははっ、わらわにとってこの国などどうでもよい」
楓 「何ですって?」
榊 「わらわの目的はただ一つ、貴様への復讐だ!」
黒い蛇の巨大な頭が楓に向かって落ちてくる。
客席を駆け上がり、楓はそれを回避した。楓 「復讐? あなたに恨まれる覚えはないわよ」
榊 「そうであろうな、貴様はわらわのことなど覚えていまい・・・・・・ほんの僅かでも気にかけることすらなかったであろうよ!」
激しい負の情念、憎悪の念が言葉と共に楓に押し寄せてくる。
楓 「・・・あなたは、いったい?」
榊 「・・・・・・よかろう、話してくれる」
つづく