デモンバスターズEX

 

 

第36話 崩壊の序曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あちこちから突然大量発生したモンスターによって、会場は大騒ぎとなった。
いずれのモンスターも雑魚とは言いがたいレベルのものばかりで、大会に参加していた者達でさえ苦戦させられている。

ザシュッ

香里 「何なのよっ、これはいったい!?」

栞 「お姉ちゃん、この感じ、レッサーデーモンに似てない?」

香里 「まさか、魔族!」

楓 「そのまさかかも」

ただのモンスターとは思えないレベル。
となれば、魔界のモンスターか。

京四郎 「これはちょっと、洒落にならない事態ですね」

楓 「香里ちゃん、栞ちゃん、逃げる人達の手助けをして。京四郎さんは二人をお願い!」

京四郎 「あなたは?」

楓 「掃除」

そう言って駆け出した楓は、瞬く間に見えないくらい遠くまで至る。
彼女が通った後には、モンスターの死骸が大量に転がる。
観客席を駆け巡り、魔物を片付けていく様は、確かに掃除だった。

 

時同じくして、会場の反対側でも似たようなことが起こっていた。
こちらはもっと荒々しい。

ドシュッ ザシュッ ブシュッ

豹雨 「けっ、雑魚がうじゃうじゃ沸いて出やがって」

外が騒がしいので控え室から出てきた豹雨は、視界に入ってきたモンスターをまずは斬った。
次々に襲ってくるので、それも片っ端から斬り捨てる。

豹雨 「魔族がいやがるのか。ふんっ、おもしろくなってきやがったな」

 

 

 

 

琥珀 「どうしますか?」

美凪 「・・・団体さん」

浩平 「氷上の奴がいねぇ・・・・・・俺はあいつを追う」

琥珀 「ここはどうしますか?」

浩平 「あれがいれば問題ないだろ」

浩平が指差した先には、目にも止まらぬ速さでモンスターを片付けながら駆け回る楓がいる。

琥珀 「ですね。じゃあ、わたしも城内に行きます。この混乱はかえって好都合ですから」

美凪 「・・・お供します」

この状況を放って行くのは、或いは薄情と言われることかもしれないが、この三人にはそれぞれの目的がある。
他人のためにそれを後回しにするような性質では、三人ともなかった。
これで会場に戦えるのが自分達しかいなかったら違ったのだろうが、とにかく三人は会場の敵を楓らに任せて城の方へと向かう。

 

 

 

 

一方リング上。

郁未 「私はゼルデキアを追うわ。あんた達はここをお願い」

舞 「はちみつくまさん」

さくら 「気をつけてね、郁未ちゃん。どれくらいの敵がいるか、わからないからね」

郁未 「わかってるわ」

敵の目的は不明だが、これだけの騒ぎを起こしてただ逃げるだけということはあるまい。
おそらく何かの狙いがあるはずだった。
それを知り、さらに防ぐためには、敵を追うしかない。

 

 

 

 

 

会場はもう大混乱だった。
そんな中、ジークや一弥もモンスターの相手をしたり、逃げ遅れた人を助けたりしている。

一弥 「いったい何がどうなってるんですか!?」

ジーク 「わかりませんが、まずは目の前の問題をどうにかしましょう」

何かが起こりつつあることは、ジークも薄々感付いていた。
しかし、それを未然に防げなかったのは、己の不甲斐なさゆえと思っていた。

ジーク 「カノンの中心ミステリアに、魔物どもの侵入を許すとは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミステリアの郊外。
小高い山の上から、煙の上がる城を見ている巨大な影があった。
影は、人のように後ろ足で立っていながら、そのシルエットは人間とは程遠い。
ドラゴンのものだった。

ブラッド 「ぐふふふ、始まったようだな」

バイン 「はい」

傍らには、人の姿をした、しかし人ではない者も控えている。
魔竜王ブラッドヴェインと、魔族バインであった。

ブラッド 「人間どもが誇る最高の国が、果たしてどこまで保つかな? 我も参加したいものだ」

バイン 「おそれながら・・・」

ブラッド 「わかっておる。楽しみは後に取っておくわ」

バイン 「“彼”と姫君はいかがいたしましょう? もう少し揺さぶりをかけることもできますが・・・」

ブラッド 「好きにすればよい。我にとってはどちらでもよいことだ」

バイン 「承知しました。つきましては、少々お力をお借りしたく」

ブラッド 「よかろう。ただし、我を退屈させるようなことは許さんぞ」

バイン 「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京四郎 「・・・・・・」

栞 「ちょっと京四郎さん、何ぼーっとしてるんですか!」

京四郎 「あ、ごめん」

まったく悪びれていない顔で京四郎は謝る。
見方によっては小馬鹿にしたような態度と取れなくもないが、穏やかなその表情を見ていると不思議と怒る気が失せる。

栞 「? あれ、京四郎さん、手怪我してるんですか?」

京四郎 「ん、ああ、これは、まぁ似たようなものかな」

栞 「ふ〜ん?」

あまり追求してほしくないことらしいので、栞はそれ以上何も聞かなかった。
それに、それどころではないというの実際のところだ。
楓や豹雨が大半を片付けているが、まだ多くが残っており、十万人以上はいるであろう観客の避難はまだ半分も済んでいない。

栞 「わっ、こっち来た! お姉ちゃん!」

香里 「こっちも手一杯なのよっ、なんとかしなさい!」

栞 「な、なんとかって言われても〜!」

今の香里と栞の実力なら、この程度の魔物の一匹や二匹敵ではないが、十匹以上も束になって来られるとかなり辛い。
それでもやるしかないのだから、栞は二刀を構えて道を塞ぐように立つ。
だがさらにその前に、京四郎が立った。

栞 「ちょ、危ないですよ!」

京四郎 「いえ、大丈夫ですよ」

そう言いながら京四郎は、背負っていた細長く、白い布包みを手に取る。
最初から気になっていたのだが、改めて見るまであまりその存在を気にかけていなかったものだった。
敵が目前に迫っていながら、京四郎はのんびりした手付きで布を解いていく。

栞 「危ない!」

魔物の群れが目前に迫る。
その瞬間・・・。

ぶわっ!!!

栞 「っ!!」

強烈なプレッシャーが襲い掛かる。
だが、刺々しさや圧迫感のようなものはない。
優しい風のような・・・。

見れば魔物もそれに反応して動きを止めている。
そして、風の震源地である京四郎は、布からはみ出た剣の柄らしきものに手をかけながら、魔物に視線を向けていた。
後ろにいるので、彼のどんな顔をしているのかは、栞には見えない。

京四郎 「獣と言えど命は惜しいでしょう。これより先に通るものは、容赦なく斬らせてもらいます」

相手は低級な魔物であり、人間の言葉など通じないだろう。
しかし言語ではなく、その気迫と殺気が、彼の言わんとしていることを明瞭に伝えていた。

京四郎 「さあ、早くあるべきところへ帰るといい。さもないと、怖い人達に問答無用で殺されてしまうよ」

そう言っている間にも、各方面で魔物側が劣勢となっている。
京四郎が剣の柄から手を離すと、魔物達は我先にと逃げ出していった。

栞 「・・・・・・」

栞はその光景を、呆然と眺めていた。

京四郎 「ね、大丈夫でしょう」

栞 「は、はぁ・・・」

狐に包まれたような気分とはこういうものだろうか、などと栞は場違いなことを考えていた。
いずれにしてもこれで、一先ずの脅威は去ったと言えよう。

だがすぐに、新たな脅威が押し寄せてくることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は再び、祐一達のもとへ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかは今、風呂に入っている。
全身血まみれだったから、そのままじゃ気持ち悪いと本人が言ったのと、たまたま近くに風呂場があったからだ。
ついでに、せっかく出てきた玄武に色々と話を聞く時間も欲しかったしな。
俺がこうして玄武と話している間、さやかは同じことを朱雀から聞いているはずだ。

で、要するにどういうことなんだ?

――まず、何から話しましょう?

そうだな。
さやかとアルドの戦いの結末から。

――引き分け、というところでしょうか。意識を失ったさやかさんの潜在意識に眠る防衛本能が、朱雀の写し身を召喚し、その力であの男を撃退しました

なるほど、確かに引き分けだな。
たぶんアルドの奴は生きてるだろうから。
じゃあ次だ。
さやかの傷がほとんど癒えてるのは?

――朱雀とは、炎と命を司る神。その力を、神の写し身として召喚できる彼女は、朱雀が持つ命の炎の加護を受けているのです。おそらく無意識のうちにその力を、自身の傷の回復に当てたのでしょう。ただ、彼女が人間である以上、朱雀本体のような不死身を得ることはできません。傷を癒すことも、自らの魔力を消費して行うのです

てことは、あいつがあそこまで消耗してたのは・・・。

――ええ、致命傷に近い傷を癒すため、魔力も体力も限界まで使ったのです。ゆえに、傷は癒せても、体力の低下で瀕死の状態にあった

それで俺の精気を分け与える必要があったわけだ。
しかし精気なんてそんなほいほい分けたり貰ったりできるものなのか?

――いいえ。これは、彼女が朱雀の神子で、あなたが玄武の神子であったから可能だったことです。四神は本来一つの神、ゆえにその神子達も、深い繋がりを持っているのです

つまり、他人じゃ駄目だったってことか。
なら今回は、運が良かったと見るべきだな。

――他に何か?

そうだな・・・。
なんであんた、突然出てきたんだ?
前に、もうこうして話すことはないだろうとか言ってたくせに。

――私達にとって、神子は大切な存在ですから。その命の危機ともなれば、こうして間接的にでも手助けをしますよ

そうか。
とりあえず礼を言っとく。

・・・・・・・・・・・・

行ったのか。
もう声は聞こえない。
ほんとに、妙な奴だ。
昔抱いていた神様ってやつのイメージとはかなり違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで、これよりまた少し時間を遡る。
不可抗力とは言え、祐一とさやかがキスをするところを見ていた者がいた。

エリス 「・・・・・・・・・」

先ほどまで相対していた魔族バインに誘い込まれるように連れてこられた場所で、エリスはそれを目撃した。
その瞬間、エリスは反射的に気配を消してその場に隠れた。

エリス 「(な、なんでアタシが隠れなきゃならないのよ!?)」

さやかの状態が普通でないのは一目でわかった。
知識の豊富なエリスは、交わりや口付けで互いの精気を分け合う術も知っている。
だから、彼らの行為がそうした類のものであることは理解できた。
しかし、頭で理解できても、体はそれを拒絶している。

二人がキスをしている姿を見たくはなかった。

何故あの二人の関係でこうも心を乱されるのか。
その理由も、エリスは理解していたが、やはり心は拒絶する。
認めたくはなかった。

自分が、祐一に対して仲間以上の感情を抱いていることを。

エリス 「(痛いよ・・・・・・胸が)」

それは、さやかに対する嫉妬か?

 

バイン 『あなたはあの人間の娘に勝てない』

 

バイン 『私達のもとへ来れば、彼は永遠にあなたのものですよ』

 

あの魔族は、そう言ってエリスを闇に誘った。
さやかに対するエリスの嫉妬心を利用しようと思ったのだろう。
それくらい、エリスはすぐにわかった。

エリス 「(ふんっ、読みが足らないのよ、クソ魔族・・・・・・)」

どこか冷めた目で自分を見ているエリスの理性が告げる。
己を苦しめるこの感情は、さやかに対する嫉妬ではない。

これは、恐れだ。

祐一に対する想いへの。

いや、それ以上に・・・・・・。

エリス 「(アタシは、愛という感情を恐れている・・・・・・)」

それは、他の誰にも打ち明けたことのない、エリスが子供の姿でいるもう一つの理由だった。

エリス 「(愛なんて知りたくない、アタシは、誰かを好きになったりなんかしない!)」

エリスは、両手で自分を抱きしめる。
その肩は、小刻みに震えていた。

エリス 「(どうして・・・)」

脳裏に浮かぶのは、母の死に顔だった。

エリス 「(どうしてママは、そんなに安らかな顔で死ねるの? あんな男に殺されて、それで満足だったって言うの!?)」

エリスの母は、エリスの父に殺された。
魔界は、普通の人間が住める土地ではない。
そこへ還るため、そして、母の美を永遠のものとするため、父は母を殺した。
父は母を愛していたのではない、母の美しさを愛していたのだ。
だから、母が老いによって美しさを失う前に、その手にかけた。
そして母は、愛した男の手にかかったことを本望とでいうように、安らかな死に顔をしていた。

エリス 「(わからないよ、ママ・・・・・・)」

 

イシス 『それが、誰かを愛するということだと思います』

 

エリス 「(イシス・・・・・・)」

その言葉は、かつてそれとなく発したこの疑問に対して答えたある少女のものだった。
恐るべき力を持った魔神達に囲まれた中、唯一エリスが心許した友人と呼べる相手だ。
彼女は今、手の届かぬところにいる想い人の帰還を、ずっと待ち続けているのだという。
千年もの間・・・・・・。

 

楓 『自分でもどうしようもない感情だから、仕方ないよ』

 

そしてもう一人。
愛する男と共に行くため、それまでの人生で築き上げた全てを捨てた女もいた。

エリス 「(ママ・・・・・・イシス・・・・・・楓・・・・・・・・・・・・アタシには、わからない)」

己の存在すらも否定しなければ得られないものを、何故こうも求めるのか。

エリス 「(アタシはそんなものいらないっ、愛なんて、知りたくなんかない!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく