デモンバスターズEX

 

 

第35話 カノン大武会本戦之四

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出会いは劇的・・・・・・というほどでもなかった。
カノンを訪れた郁未は、たまたま入った店でたまたま一人の少女と相席になった。
その相手が舞だった。

これ以上ないくらい偶然の出会い。
ただ共に食事を取っただけの間柄だったことが、果たして運命だったのかどうか。

舞 「・・・牛丼」

郁未 「は?」

舞 「・・・ここは牛丼がおいしい」

郁未 「あ、そう」

最初に交わした言葉はそれ。
そして何故か、郁未が注文を考えている間に、牛丼が二つ運ばれてきた。

郁未 「ちょっと待て、私はまだ頼んでない」

舞 「・・・牛丼がおいしい」

郁未 「だから私は・・・」

舞 「ここの牛丼はカノン一」

郁未 「あの・・・」

舞 「牛丼を食べるべし」

郁未 「人の話を聞かんかいっ!」

パシーンッ

舞 「・・・奢るから」

郁未 「う・・・」

実はその時、少しだけ懐が涼しかった。
渋々彼女の奢りで牛丼を食べる。
確かにおいしかった。

 

と、ここまでが舞との出会い。
そして店から出た直後、舞を探していたジークフリードと遭遇した。
ただすれ違った、それだけである。

 

二度目に会ったのは、カノン領内のとある砦でのことだった。

ジーク 「侵入者か。どこぞの組織の人間とも思えんが」

郁未 「そうね。組織に属するのは苦手だわ」

ジーク 「何用でここへ来た?」

郁未 「・・・・・・母が殺された。ここのなんとかって研究所で働いている間に」

ジーク 「マギリッドの魔導研究所か。復讐か?」

郁未 「さあ? そうかもしれないけど、本当のところは自分でもよくわからない」

その後、侵入者としてジークと戦ったが、決着はつかないまま別れる。

 

研究所でも色々とあったが、最終的には郁未がそこを破壊し、人体実験などを行っている研究の実態を知った舞と共にカノンから逃走、現在に至る。
その間にもう一度ジークと戦っているが、その時も決着はつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

舞 「・・・私が知ってるのはそこまで。けど、他にも何かあるみたいだった」

さくら 「ふ〜ん・・・」

 

 

郁未 「・・・・・・」

ジーク 「・・・・・・」

本当は、もう一つの因縁が二人の間にはあった。
それは、郁未の母と、ジークとが知り合いであったということ。
二三度言葉を交わしたことがあるだけで、後は彼女の死に立ち会っていたというだけのことだが。

ジーク 「俺を恨むか?」

郁未 「・・・・・・」

ジーク 「マギリッドがあの女を殺すのを、俺は止めることはできた。しかし、俺はそうしなかった」

郁未 「・・・真円が歪むことを許さず。それが円卓の騎士の掟なのでしょう」

つまり、円卓の騎士の間での争いを許さぬということだ。
裏切り者の舞や秋子が狙われる理由もそこにある。
ナイツ・オブ・ラウンドはカノン公国の力の象徴。
それが歪むことは許されないのだ。

郁未 「恨むとしたらマギリッド本人よ。けど、それもどうでもいい」

復讐したところで、死んだ人間は帰ってこない。
だから郁未は、既に復讐という考え方は頭から削除している。

ジーク 「悟ったようなことを言う。あの女にもそういうところがあったが」

郁未 「・・・昔の話は、もうよしましょう」

一旦、郁未は構えを解く。
そして改めて全身の気を練る。

郁未 「今は、試合に集中」

ジーク 「そうだな」

両者が一定の距離を保って構える。
僅かでも動きに遅れが出れば、その瞬間にやられる。
そういうレベルの戦いだった。

郁未 「・・・・・・」

ジーク 「・・・・・・」

既に多くの人間が、郁未の力を認めている。
優勝候補筆頭、ランキング1位のジークフリードと互角以上に戦っているのだから、当然だろう。
それでも、武器がある分ジーク有利という思いが大半だった。

両者の間の緊張が高まる。
空気の雰囲気から、次で決着がつくと、皆感じていた。

ジーク 「行くぞっ!」

先に動いたのはジーク。
長い剣を大きく振りかぶって突進する。
ジークの重量と腕力による突進からの一撃は、かなりの威力を秘めている。
まともに正面から返せるようなものではないが、郁未はその場から一歩も動かない。

ジーク 「(溜めた気のエネルギーを一気に放出して弾くつもりか。だが、甘い!)」

二人の距離が縮まる。
ここからは我慢比べだ。
カウンターを警戒して、ジークはなかなか剣を振り下ろさない。
郁未もまったく動かない。
このまま行けばぶつかるというところまで距離が詰まる。
時間にすれば本当に数秒だが、力のある者から見れば、激しい心理戦が繰り広げられている長い数秒間だった。

郁未 「!!」

そこで先に動いたのは郁未だった。
カウンターを狙うような形で左手に溜めた気を解き放つ。

ジーク 「ぬぅぅぅ・・・!」

だがそれでも、ジークは剣を振らない。
突進する勢いだけで郁未の龍気砲に対する。

ジーク 「かぁっ!!」

ドンッ

気合とともに、気の力を弾き飛ばす。
鎧が一部ひび割れ、吹き飛ぶが、突進の勢いが少し衰えただけでジークは止まらない。
振りかぶった剣を振り下ろせば、ジークの勝利となるはずだった。

ジーク 「?」

ふと、ジークは違和感を覚える。
もう剣は振り下ろし始めているが、その短い時間の間に、ジークの違和感はどんどん大きくなる。
そして思い出した。
郁未は、右利きである。

ジーク 「!!」

 

ガキィンッ!!

 

長い剣が回転しながら宙を舞う。
それは十数メートルも飛び、場外に突き刺さった。

リング上には、剣を振りぬいた格好で、しかし手許に剣を持たないジークと、巨大な薙刀のような武器を右手に持った郁未との位置が入れ替わっていた。
薙刀というよりも、むしろ青龍刀とでも呼ぶべきものか。

ジーク 「・・・なるほど、それが奥の手だったか」

郁未 「その一つ。龍気刀」

左手で放った龍気砲を囮に、右手で作った龍気刀で、振り切られる前のジークの剣を弾き飛ばす。
意表をついた戦法による勝利だった。

郁未 「まだやる?」

ジーク 「・・・いや、俺の負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

一弥 「ジークさん!」

ジーク 「一弥様」

リングを降りたジークのもとに、一弥が駆け寄ってくる。
どこか表情は不満げだった。

一弥 「今の戦い、僕は納得いきません」

ジーク 「そうでしたか?」

一弥 「不意をついただけじゃないですか。実力では絶対、ジークさんの方が・・・。それにジークさん、まだ本気じゃ・・・・・・」

ジーク 「一弥様、どちらにしても我々の決着はつかなかったでしょう」

一弥 「?」

それ以上をジークは一弥に語らなかった。
戦いにおいては卑怯などという言い分は通らない。
しかしそんなことは、いずれ一弥も知ることだ。

ジーク 「(ふっ、相変わらずだ)」

僅かだが、ジークは苦笑する。
今回は、形の上では郁未の勝利となったが、結果として前二回とほとんど同じ終わり方でもあった。
正面から本気で戦いあった場合、ジークと郁未のどちらの実力が上からはわからない。
最初の時も、二度目も、そして今回も、郁未に上手い具合にかわされた形だった。
本気の戦いになる前に終わらせる。
今回の場合、試合という形式上、場外へ剣を飛ばせばジークが負けを認めるとわかった上で、ああした戦法を取ったのだろう。

天沢郁未にとって、戦いとは目的ではない。
それはあくまで、目的と達するための手段に過ぎないのだ。
仮に今の攻防でジークに勝てなければ、郁未は適当な形で自分から負けたであろう。

ジーク 「(我々武人とは根本的に考え方が違う。しかし、戦場で戦う相手としては厄介なことこの上ない存在だな)」

勝負ではなく、目的にこだわる郁未の戦い方は、或いは最善の道であるかもしれない。

ジーク 「(一弥様のような真っ直ぐな方には理解できぬか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

会場内はざわめいていた。
郁未の実力は多くの者が認めるものだったが、ランキング1位のジークが負けるとはさすがに誰も思っていなかったのだろう。
しかも、優勝候補筆頭のチームエクスカリバーが、ついに最後の一人になってしまった。

ゼルデキア 「・・・・・・」

郁未 「(出てきたわね、ゼルデキア・ソート)」

元ナイツである舞もよく知らない謎の男。
素性のよく知れない者が多い現在のナイツにおいても、特に謎の多い存在だ。
もっとも、郁未にはおおよその見当がついている。

郁未 「(あの時あの魔族は、カノンに仲間がいると言った。となれば、おそらくナイツの中。マギリッド辺りもそれっぽいけど、あいつとは直接会ったからわかる。普通じゃないけど、あれは魔族じゃない、正真正銘の人間。となれば・・・)」

ゼルデキア 「・・・ふん、バインの奴が余計なことを言ったか」

郁未 「!・・・・・・そう、やっぱりあんたが」

予測はあっさり事実に変わった。
以前会った魔族の名を出したからには、このゼルデキアという男こそがバインの仲間、即ち魔族。

郁未 「いったい何の用があって、こんなところに魔族がいるのかしら?」

ゼルデキア 「それに答える義務はなかろう」

二人の会話は、声に出しているものではなかった。
互いの唇の動きだけで話しているものであるため、他人に聞かれることはない。

郁未 「じゃあ、仕方ないわね。力ずくで聞き出すとしましょうか」

ゼルデキア 「できるかな?」

郁未 「仕事だからね」

魔族絡みの事件は、既に郁未の仕事内容である。
今さら抜けるつもりはない。

郁未 「行くわよ」

 

 

 

 

芽衣子 「わし参上」

さくら 「うにゃぁっ! びっくりした〜・・・」

唐突に背後から声をかけられ、さくらは飛び上がって驚く。
振り返ると、知り合いがいた。

さくら 「なんだ芽衣子ちゃんかぁ。ここは選手以外立ち入り禁止だよ?」

芽衣子 「気にするな、どうせ誰も見ていない」

その通り、皆リング上に目が言っており、場外のことなどまったく気にしていない。
人が一人や二人紛れ込んでいても、審判すら注意を忘れる状況だ。

さくら 「そういう問題じゃないと思うけど・・・」

芽衣子 「むしろそんなことはどうでもいいんだ」

さくら 「どしたの?」

芽衣子 「何かが起きる」

さくら 「にゃ?」

芽衣子 「あまりいいことではなさそうだぞ」

さくら 「! 先見?」

橘芽衣子は龍神に仕える先見の巫女だ。
その名が示すとおり、未来のことを見る力を持っている。
本人曰く、発動する時期がまちまちで使いにくい能力だと言うが、予見した出来事はまず間違いなく起こる。

さくら 「良くないことって?」

芽衣子 「そこまでは見えないが、私達の敵絡みっぽい」

敵、即ち魔族。

さくら 「まだ何も調べてないのに、何か起こるの?」

芽衣子 「ま、がんばれ」

さくら 「そんな人事みたいにぃ〜」

芽衣子 「肉体労働は私の仕事じゃない。そういうのは四神の神子の役目だろう」

舞 「・・・?」

確かにそのとおりだった。
だが、芽衣子もこう見えて腕は立つ。
戦力に加えられれば嬉しいのだが。

さくら 「手伝って」

芽衣子 「ヤダ」

これである。

 

おぉおおおおおおお!!!!

 

会場が一瞬沸き立つ。
リング上を振り返ると、両者の戦いがさらに白熱しているところだった。

さくら 「郁未ちゃん!」

芽衣子 「でわ、サラバ」

さくら 「わ、ちょっと待って芽衣子ちゃ・・・」

もういなかった。
とにかく現れる時も去る時も唐突で、実に神出鬼没な人である。

さくら 「うにゃあ・・・言うことだけ言って行っちゃったよ。しょうがいないなぁ」

これ以上構っていてもどうしようもないので、リング上に視線を戻そうとする。

 

ズガァーーーンッ!!!

 

その時、遠くで爆発音がした。
方角的には、城の奥の方だ。
かなり激しい爆発で、続けて建物が崩れるような音もしてくる。

舞 「?」

さくら 「お城の方で爆発・・・・・・もしかして祐一君達?」

 

 

 

郁未 「?」

ゼルデキア 「・・・どうやら、頃合いだな」

郁未 「何をするつもり?」

ゼルデキア 「手始めにこんなものを用意してみた」

パチンとゼルデキアが指を鳴らすと、会場中に異様な気配が漂う。
続いて観客席から悲鳴が響いた。

郁未 「あれは!?」

見れば観客席に入り込んで暴れているのはモンスターだ。
それも本来街中にやってくるようなものではない。

郁未 「ゼルデキア!」

振り返ると、既に魔族の男はリング上を去っていた。

ゼルデキア 「さあ、はじめようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく