デモンバスターズＥＸ
第３４話 カノン大武会本戦之三
リングを挟んで両チームが向き合う。
片方はナイツ・オブ・ラウンドのジークフリード、倉田一弥、ゼルデキア・ソートのチーム。
対するは、郁未、舞、さくらのチームだ。
因縁があると言えばこれほどある者達もいないだろうというチーム同士の対決だった。ジーク 「川澄と天沢。まさかこんなところで再び相見えるとはな」
一弥 「ジークさん、先鋒は僕に行かせてください」
ジーク 「承知いたしました。ご存分に」
ゼルデキア 「・・・・・・」
まずリングに上がったのは、倉田一弥。
一ヶ月ほど前に郁未達の前に現れた時とは、少し様子が違う。郁未 「祐一に負けて、少し心構えが変わったみたいね。前以上に手ごわそうだけど、行くの、舞？」
舞 「・・・はちみつくまさん」
舞の目標はかつての師、ジークフリードであり、そして豹雨だ。
しかしその前に、倒しておかなければならない相手もいる。
それが一弥だ。
負けたままではいられない。舞 「・・・・・・」
一弥 「・・・・・・」
リング中央で対峙する二人。
しかし不思議なのは、一弥が剣を携えているのに対し、舞は丸腰であることだった。一弥 「どういうつもりですか、舞さん。まさか素手で僕と戦うつもりではないでしょう」
舞 「・・・当然」
一弥 「なら、何故？」
舞 「・・・すぐわかる」
訝しがりながらも、一弥は剣を抜く。
一弥 「言っておきますけど、今度も負けるつもりはありません」
舞 「・・・それは私も同じこと」
「試合、開始！」
開始の合図とともに、一弥が先に仕掛ける。
一ヶ月前よりさらにスピードに磨きがかかっている。ヒュンッ
舞は体を横に開くことで、それを避ける。
一弥 「そんな動きで僕の剣をかわしきるつもりですか！」
避けたと思われたが、一弥はすぐに切り返して下から舞を狙う。
それを大きく後ろに跳ぶことで舞はかわす。舞 「・・・・・・」
距離を取った舞は、両手を胸の前に差し出す。
舞 「・・・来い！」
掛け声とともに、力が舞の手に集まる。
最初は目に見えないものだったそれは、舞の手に触れることで一振りの刀へと姿を変える。
一見何の変哲もないただの刀でしかないが・・・。一弥 「それは・・・？」
舞 「川澄舞、参る」
刀を手に、今度は舞の方が仕掛ける。
ギィンッ
両者の剣が交わる。
舞 「ハッ！」
一弥 「タァッ！」
舞の放った一撃を一弥が受け止め、一弥の反撃を舞は綺麗に捌く。
それで止まらず、一弥が続けて蹴りを放つが、舞はそれをガードしながら相手の懐へ飛び込む。
刀を持っていない左手で一弥の胸倉を掴み、投げ飛ばす。一弥 「くっ！」
落ちる寸前で体勢を立て直し、バランスを崩しながらも両足から着地した一弥は、その反動を利用して舞に向かって突進する。
舞 「っ！」
追い討ちに行こうとした舞は、出鼻を挫かれる形でそれを防御する。
動きが止まった舞に対し、一弥の剣が振られるが、舞はそれをかわして相手の足を払う。
バランスを崩して倒れかけた一弥に攻撃を仕掛けるが、一弥は上手くかわして距離を離した。舞 「・・・・・・」
一弥 「・・・・・・」
息もつかせぬほど激しく、流れるような攻防に、観客はしばし見入っていた。
もう、前の試合の空気は完全に払拭され、皆今の試合を見ている。一弥 「どうやら、前よりも腕を上げてきたみたいですね」
舞 「・・・そっちこそ」
もっとも、本人達にとっては外野の視線など関係ない。
郁未 「完全に互角ね、今のところは」
さくら 「一ヶ月で変わったってこと？」
郁未 「というより、迷いのあるなしの問題かもね」
一ヶ月前の対戦では、一弥の方にはほとんど迷いがなかった。
それは、少し雰囲気の変わった今でも同じことだ。
しかし前に戦った時の舞は、いまいち集中力が足りなかったように思える。
相手が佐祐理の弟一弥だったからなのか、それとももっと別の理由があるのか。
ただ、今の舞に迷いはない。
郁未 「豹雨さんの試合を、二つも見たわけだものね」
それに触発されたか。
祐一達と四神の祠で別れた後、あの新たな刀を手に入れ、そして数々の強敵を見てきた舞は、今本来の力を発揮している。
だが、相手は天剣の倉田姉弟の片割れである。
そう簡単にいく相手ではない。
一弥 「井の中の蛙」
舞 「？」
一弥 「あの時あの人に、そう言われました。そしてこの大会で、その言葉の意味を知ったような気がします」
舞 「・・・・・・」
それは、舞もそうだった。
この大会に出てきた面々、その中でも上位に位置する者達の実力は、相当なものだった。
自分達も相当な実力者であるが、ある種のカルチャーショックを受けたのは、舞も一弥も同じだった。
中でも豹雨と楓は別格と言えるだろう。
あの二人の前では、他の誰も小者に見えてしまう。一弥 「上を目指すということの意味を知りました」
舞 「・・・・・・」
一弥 「もう僕は、己に慢心はしない。さらに上を目指すため、今ここで改めて、あなたを倒す！」
舞 「・・・悪いけど、私は豹雨を倒さなくちゃならない。だからそれまでは、誰にも負けない！」
舞と一弥。
力、速さ、技量、全てにおいて二人はほぼ互角だった。
慢心や迷いを捨てた今、どちらも全力で戦っている。
そんな二人の戦いは、一進一退だった。激しい攻防に、会場中が沸き立つ。
前の試合とは違う、しかし同じくらい大きな興奮が会場を包み込む。
戦い始めてから、２０分は経ったろうか。
舞 「・・・・・・」
一弥 「・・・・・・」
決着がつかぬまま、時間が流れていく。
千日手となりつつあった。
さくら 「長いね」
郁未 「そうね」
このまま行けば、勝負はつきそうになかった。
そんな中、先に動いたのは舞の方だった。一弥 「！！」
舞 「・・・・・・」
その構えを、一弥は知っていた。
一弥 「いづな・・・・・・一度破られた技でも、使いますか」
舞 「・・・総天夢幻流の技は、簡単に破れはしない」
一弥 「・・・・・・」
舞 「・・・・・・」
見ている皆も、次が決着であることを感じ取っていた。
舞の技が決まれば舞の勝ち、破れば一弥の勝ち。
一ヶ月前の勝負と同じ構図だった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会場中が静まり返る。
誰かが唾の呑む。
その瞬間、舞が跳び上がった。舞 「総天夢幻流・・・・・・！」
一弥 「！！」
相手の動きを一つも見逃すまいと、一弥はカッと目を見開く。
跳び上がった舞は、肩越しに大きく刀を振りかぶっている。舞 「いづな！」
刀が振り下ろされる。
カウンター気味に、一弥が剣を振るう。
それは残像。一弥 「（次が本命！）」
いづなは二段構えの技。
一度破られたように見えても、二撃目で決まる。
前の時は、それも破って一弥の勝ちだった。一弥 「そこだぁっ！」
舞 「はぁあああ！」
ギィンッ！！！
両者の剣が交わる。
前のように刀を折るまでは行かなかったが、一弥は舞の技を止めたと思った。一弥 「（よしっ、僕が勝つ！）」
大技の後には隙ができる。
これを止めきった以上、一弥の勝ちは動かないはずだった。
しかし・・・・・・。一弥 「！？」
違和感。
受け止めた舞の刀から伝わってくる力は、前とまるで違っていた。
速さではない、もっと別の、威力があった。ガキィンッ！
速さでは、まったく負けてはいない。
タイミング的には、完全に舞の刀を止めたはずだった。
だが舞の剣は、防御されて尚、その威力を失っていなかった。
ドゴォッ！
いづなの放つ衝撃波が、リングを割る。
一弥はその威力に吹き飛ばされた。一弥 「（こ、これが・・・・・・本当のいづな・・・）」
栞 「・・・・・・また・・・すごい試合でしたね」
京四郎 「二人とも、いい素質を持ってますね。いやぁ、今日は来て良かった。レベルの高い試合がたくさん見られて」
楓 「・・・・・・あなたも、かなり使いそうね」
京四郎 「いえいえ、僕はからきし・・・」
楓 「・・・・・・」
一弥 「・・・負けました・・・。すみません、ジークさん」
ジーク 「謝ることではありますまい、良い試合でした」
全力で戦った結果ならば、何も言うことはない。
一弥自身も満足の行くものであったし、ジークも負けを責めるつもりは毛頭ない。
むしろ、主であり、また弟子でもある少年の成長を喜ばしく思っていた。ジーク 「さて・・・」
次の試合はすぐに始まる。
ジークは愛剣エクスカリバーを手に、リングへ上がる。
郁未 「舞、交代」
舞 「・・・はちみつくまさん」
本当は舞としてはこのままジークフリードとも戦いたいところだが、一弥との勝負で消耗した後では、まず勝ち目はない。
ここは郁未に譲り、自らはリングを降りる。さくら 「やったね舞ちゃん」
舞 「・・・まだまだ」
一弥には勝ったが、舞の目標はまだまだ上にある。
そしてにその目標の一人は、今リング上にいるジークフリードだ。
だがこの男と因縁があるのは、何も舞だけではない。
郁未にしても同じことだ。さくら 「ねぇ、舞ちゃん」
舞 「？」
さくら 「郁未ちゃんとあのジークって人と、どういう関係なの？」
舞 「・・・・・・実は、私もよく知らない」
因縁があるのは確かなのだが、何故そうなったのかという経緯については舞も知らなかった。
ただ以前、郁未と舞が出会い、そして共にカノンから出た際に何かがあったという以外は。
リング上には郁未とジーク。
一定の距離を持って対峙している。
開始前から、既に異様な雰囲気を醸し出していた。ジーク 「久しぶりだな」
郁未 「そうね」
こうして会うのは、一年半振りと言ったところだった。
ジーク 「カノンへ何をしに戻ってきた？」
郁未 「仕事・・・と言えないこともないかもしれない。ほんとは自分でもよくわからない」
ジーク 「ふっ、はじめて会った時と同じ答えだな」
郁未 「？」
ジーク 「あの時もおまえはそう言った。本当のところは自分でもよくわからない、とな」
そんなことを言ったかもしれない。
あまりはっきりとは覚えていないが、確かに自分ならばそう言っただろうと郁未は思った。ジーク 「不思議な奴だな、おまえは」
郁未 「そうかしら？」
ジーク 「自分で自分の心がわかっていない。かといって、心に迷いがあるわけでもない。明確な信念を持っているわけでもないのに、おまえは強い」
郁未 「・・・・・・」
ジーク 「何がおまえを強くする？」
郁未 「・・・さあ？」
郁未は他の者達とは違う。
舞のようにはっきりとした目標を定めて強くなろうとしているわけでもない。
祐一のように強い相手と戦うことを求め続けているわけでもない。
こうして戦うことに、明確な目的があるわけではないのだ。
仕事と言って誤魔化しているが、それはあくまで生活のためのものであって、目的とも言いがたい。
一番近いタイプは、さやかかもしれない。
だから以前会った時に、彼女には共感を覚えたりもした。郁未 「堅苦しく考えるのは面倒だわ」
ジーク 「そうか」
郁未 「理由がなければ強くなっちゃいけない法律があるわけでもない」
生きている内に、自然と強くなった。
それが今までの郁未であり、これからもそれは変わらない。郁未 「あなたとは、まだ勝負がついてないわね」
ジーク 「こうした形で決着をつける機会が訪れるとは思わなかったな」
ジークフリードが剣を抜く。
それに対して丸腰の郁未は、僅かに腰を落として構えを取る。ジーク 「行くぞ！」
ビュッ
風を切る音がする。
ジークの剣エクスカリバーが、その大きさに似合わぬ速さで振り下ろされる。ガキィッ
リングの石版が剣の一撃で割れる。
紙一重で郁未はその攻撃をかわしていた。
そして振り下ろされた剣に沿うようにして相手の懐へ入り込む。郁未 「龍気掌！」
ガッ！
今度は郁未の一撃がリングを割る番だった。
気を纏った郁未の掌底を、ジークは後ろに下がってかわす。ジーク 「ぬんっ！」
下がる際に大きく横から振りかぶった剣を、今度は横に薙ぐ。
迫り来る剣に軽く手を当てながら、受け流すようにして郁未はそれをかわしつつ、跳び上がる。
攻撃の流れに乗ることで、相手の攻撃を回避しつつ動く、郁未の得意技だった。郁未 「ハッ！」
跳び上がった郁未は、ジークに首筋目掛けて蹴りを放つ。
剣から手を離し、右腕でジークはそれをガードした。
蹴りを入れた反動を利用して、郁未は大きく後ろへ跳んだ。郁未 「・・・・・・」
ジーク 「やはりやるな、天沢郁未」
・・・おぉおおおおおおおお！！！！！！
動きに少し遅れて、歓声が沸き起こる。
先ほどの舞・一弥戦は激しかったが、どこか若さを感じるような攻防だった。
それに対しこの郁未・ジーク戦は、まさに熟練者同士による高度な、流れるような攻防である。
レベルの高い戦いが続き、観客は大いに沸いていた。
郁未 「・・・・・・」
戦いながら、郁未はジークとはじめて会った時、即ち以前カノンを訪れた時のことを思い出していた。
つづく