デモンバスターズEX

 

 

第33話 カノン大武会本戦之二

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本戦一回戦、第三試合。
先鋒は美坂チーム栞と、あんまんチーム豹雨。

豹雨 「楓の弟子か」

栞 「正確には、祐一さんの弟子です。楓さんにも色々教えてもらってますけど」

豹雨 「ほう、あの小僧も弟子を取るほど偉くなったか」

感心しているようにも、馬鹿にしているようにも聞こえて、そのどちらでもないような口調で言う。
その態度は、どこか祐一に通じるものがあるように、栞は感じられた。
実際には、祐一がこうした豹雨の性質に似ているのだが、先に祐一と知り合っている栞にとっては、豹雨の方が祐一に似ていることになる。

栞 「(この人が、祐一さんが言う、この地上で一番強い人・・・)」

自分の中で最強と信じている祐一が負けるのを、栞は昨日はじめて見た。
その相手が、この男である。

栞 「(・・・強い)」

それがわかった。
楓やエリス、斉藤、アルドなどとも違う。
むしろ祐一に一番近い感じを受けるが、それがさらに大きくなったような感じだった。

祐一 『相手の強さが肌で感じられるようになれば、少しは成長した証だ』

以前祐一にそう言われた。
確かに昔の栞ならば、こうして向き合っても相手の強さはわからなかったろう。
少しは強くなったということか。

栞 「(祐一さんが見てくれていないのは残念ですけど、やれるだけやってみるまでです!)」

負けて当然の相手。
ならば最初から全力で行って玉砕するのみ。

 「試合、開始!」

合図と同時に、栞は駆け出す。

栞 「ヤァァッ!」

まずは渾身の力を込めた一撃を打ち込む。

ギィンッ

それは豹雨の大太刀によってあっさり止められる。
両手で、しかも突進の勢いを上乗せした攻撃を、豹雨は片手で押さえている。
やはり体格差が示すとおり、パワーでは話にもならない。

栞 「(なら、当たるまで何度でもっ)」

押さえられた刀を無理に押さず、引いてからもう一度打ち込む。
それも止められるが、さらに切り返して三度四度と攻撃を繰り返す。

栞 「タァアアアッ!!」

持てる技を全て叩き込む。
守りに入れば一瞬でやられると思ったため、栞は手を休めることなく攻め続けた。

栞 「(一発くらいは!)」

正面からは、まだ祐一にも一発すら入れたことはない。
だがそれでも、栞なりにどうすれば一本取れるのか考えていた。
それを今この場で試している。

豹雨 「・・・・・・」

栞 「・・・・・・」

考えるより先に動く。

ギィンッ

豹雨 「・・・まぁまぁだな」

栞 「!!」

斬られた。
栞は一瞬、本当にそう感じた。
気が付けば、栞の動きは止まっており、その肩口には、豹雨の太刀が据えられていた。

 

 

 

 

 

 

続く二戦目は、香里が豹雨に挑む。
思いは妹の栞と同じだった。

香里 「(今持てる全力で挑んでいく、ただそれだけ!)」

現状、香里と栞の実力はほぼ同等だった。
パワーにおいては香里に分があるが、スピードは栞の方が上。
総じて腕の方は互角ほどであろう。
一日の長ゆえか、香里の方が上を行くが、豹雨の前ではどんぐりの背比べでしかない。
ならばすることに変わりはない。

香里 「行くわよっ!」

栞は正面から縦の動きのみで仕掛けていったが、香里は横の動きも交えて攻める。
横や背後を取るように動き回り、隙を見て打ち込む。
だがそうした攻撃全て、豹雨には軽くかわされる。

香里 「はぁあああっ!!!」

ギィンッ

受け止めた剣を、豹雨が弾き返す。
飛ばされた香里は、すぐに体勢を立て直して再び突撃する。

 

 

栞 「・・・さっき、本当に斬られたかと思いました」

楓 「そうだろうね。実際、豹雨も斬るつもりで剣を振るったから」

寸止めはした。
しかしそれは結果でしかなく、そこには明確な斬るというイメージが存在していた。
栞が感じたのは、まさにそのイメージだが、明確なイメージは現実と変わらぬ効果をもたらす。
あの瞬間、確かに栞は斬られたのだ。

楓 「心の弱い人は、それだけで本当に死ぬことさえあるよ」

栞 「・・・・・・」

楓 「でも、ある程度の実力がないと、そのイメージを感じることさえできないからね。豹雨が本気で斬るイメージを持ったのは、あなたの実力を認めたから。そしてあなたはそれを感じることができた。合格よ、充分に」

栞 「・・・えへへ・・・まだまだですけどね」

楓 「それは当然ね。香里ちゃんも、そろそろ終わりそうね」

 

香里と豹雨の決着も、栞の時と寸分違わぬものとなった。
これで、豹雨の二人抜き。
もっとも会場にいる多くの者が、次の試合こそが本命であることを知っていた。

 

 

 

楓 「二人とも、まずはお疲れ様。どうだった?」

栞 「すごく強かったです、豹雨さん」

香里 「ええ」

楓 「ふふっ、それがわかれば充分。じゃ、行ってくるね」

三人目、楓がリングに上がる。
右手には既に、愛剣の草薙が握られている。

澄乃 「ふぁいと〜、豹雨ちゃ〜ん」

しぐれ 「・・・・・・」

豹雨 「・・・・・・」

楓 「随分かわいい子達連れてるのね」

豹雨 「妬いてんのか?」

楓 「ちょっとね」

一定の距離を持って、円を描くように横へ移動する。
まだ開始の合図はされていないが、この時点で既に戦いは始まっている。

楓 「変わらないのね、あなたは。今度は天界へでも行くつもり?」

豹雨 「さあな」

 

 「試合、開始!」

 

合図がされても、二人は一定距離を保ったまま動かない。
この二人のレベルにもなると、一瞬の判断が勝敗を分ける。
静かだが、水面下で激しい戦いが繰り広げられているのだ。
それを敏感に感じ取ったか、会場中も少しずつ静まり返っていく。

 「く、久瀬さん・・・」

久瀬老 「黙って見ていなされ。これほどの勝負は、二度と見られないかもしれませんからな」

 

 

 

 

 

どれほどの時間そうしているのか。
実際には、まだ五分も経っていないだろうが、見ている者には何時間も経ったように感じられた。
特に、自分達も相当な実力を持った者達にとっては、息がつまり、手に汗握る思いだった。

舞 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・」

さくら 「・・・・・・長いね」

瞬き一つせず、舞は真剣な目で勝負を見ている。
郁未にしても同じことだった。

浩平 「・・・・・・」

美凪 「・・・・・・」

琥珀 「・・・・・・」

普段軽いこの三人も、今ばかりは緊張している。

 

他にも、ナイツ・オブ・ラウンドの面々すらも、この勝負から目が離せずにいる。

 

 

 

豹雨 「!!」

楓 「!!」

一瞬にして、静寂が破られる。
ほぼ同時に地面を蹴った二人がリング中央で交差する。

 

ギィンッ!!!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

会場のあちこちで、ため息が聞こえた。
交差の瞬間、誰もが息をすることさえ忘れていたようだ。

二人の立ち位置は入れ替わっている。
だが今の交差では、まだ決着はついていないようだ。

豹雨 「・・・・・・」

楓 「・・・・・・」

どちらもまだ、剣を構えたまま対峙している。

 

 

 

 

 

さくら 「ど、どっちが勝つのかな?」

郁未 「意味のない質問だわ、この戦いの前では」

舞 「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、幾度か剣を交えた後、楓のギブアップにより勝負はついた。
誰の目にも、まだ勝負はついていないように見えたが、誰も何も言うことはなかった。
この戦いは、誰にも口出しを許さない内容だと、皆わかっているのだ。
豹雨と楓は、互いに言葉を交わすことなく、それぞれのチームのもとへ戻っていった。

 「・・・し、勝者、雛瀬豹雨。一回戦第三試合は、あんまんチームの勝利です!」

二人がリングから去った後、思い出したように審判の声が響き、会場全体を包んでいた緊張感が解かれる。

 

香里 「どうして、ギブアップしたんですか?」

楓 「わからない?」

栞 「私は何となくわかります。前に楓さんが言ってたことですよね」

楓 「うん、そう」

本気の戦いとは、即ち命のやり取りのことだ。
そうなればどちらかが死ぬまで決着がつくことはない。
それは、楓の望むところではなかった。

楓 「豹雨は、ちょっと物足りなかったかな?」

 

 

 

しぐれ 「お疲れ様です」

戻ってきた豹雨に、しぐれは鞘を差し出す。
それを受け取った豹雨は太刀を納め、無言で試合会場を後にする。

澄乃 「豹雨ちゃん〜、あんまん食べる〜?」

豹雨 「・・・・・・」

一人緊張感とは無縁の少女があんまんの入った袋を差し出す。
やはり無言でそのあんまんを一つ袋から取り出した豹雨は、それを口に運びながら歩く。
澄乃としぐれもその後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「さてと、行くわよ二人とも。次は私達の試合だわ」

さくら 「そうだね・・・・・・舞ちゃん?」

舞 「・・・・・・」

まだ興奮が冷めないのか、舞は動かない。

郁未 「舞」

舞 「・・・・・・はちみつくまさん」

郁未 「ふっ」

舞の返事に、郁未は笑みを漏らす。
この返事が出たということは、舞の精神状態が自然だということだ。
焦っているわけでも、気負っているわけでもない。
今の戦いもそうだが、これから郁未達が戦うのは、因縁の相手だ。

 

 「それでは本日最後のカード、一回戦第四試合を行います!」

 

会場は、まだ前の試合の空気を引きずっていた。
あれだけの戦いの後では次の試合に気が入らないのは仕方のないことだった。
しかし、次が今日最大の試合となることを、まだ皆知らずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の試合が始まる前に、楓達は観客席に戻った。
豹雨達は控え室にいるのか、こっちに来る間は姿を見なかった。

栞 「でもほんと、すごい戦いでしたよね〜。あれでお互いセーブしてたなんて信じられません」

楓 「そんなにすごかったかな?」

香里 「改めて、自分がまだまだだって思い知らされましたよ」

?? 「ええ、まったく良いものを見せてもらいました」

栞 「・・・・・・」

香里 「・・・・・・」

楓 「・・・・・・!!?」

しばしの静寂。
あまりに自然な流れに、第三者の出現に気付くのが遅れた。

?? 「あ、すいません。つい会話に割って入ってしまって・・・」

片手で頭を押さえながら、その男は能天気な顔でぺこぺこと頭を下げる。
本当に悪いと思っているのか怪しいものだった。
そもそも別に悪いことでもない。

楓 「(この人、まったく気配を感じさせなかった・・・)」

何も普段から楓も神経を張り詰めているわけではないから、戦闘中ほどの敏感さはない。
だがそれでも、これほど近くに来るまで存在を察知できなかった相手ははじめてだった。

楓 「・・・・・・」

白衣といった感じの、白で統一された服。
黒い着物を好んで着る豹雨とはある意味対照的だった。
身長は豹雨より少し下くらいで、180弱といったところか。
青みがかった黒い瞳は、涼しげで、穏やかな色を称えている。
鋭い眼光を放つ豹雨の真紅の瞳とは、これまた正反対と言える。

楓 「(なんだろ、さっきから私、豹雨とこの人を比較してばっかり・・・)」

理由はすぐにわかった。
何となく似ているのだ。
まったく正反対でありながら、何となく雰囲気が似通っているというのか。
常に剥き出しの強さを見せる豹雨と違い、軽薄そうに見えて、内に秘めた強さを感じる。
この大きさを感じさせる強さも通じるものがあった。

?? 「あの〜、美人に見つめられるのは大変嬉しいのですが、気恥ずかしくもありますね」

楓 「あ! ごめんなさい・・・」

栞 「むむむ、まさか楓さん・・・」

楓 「いや、それはないから」

栞 「はやっ!? まだ私何も言ってないのに・・・」

楓 「前にも言ったと思うけど、私は豹雨だけだから」

?? 「それは残念。あ、そろそろ試合が始まりそうですよ」

男がそう言いながら三人を座席に誘う。

楓 「ありがと。そういえばあなた、名前は? 私は楓だけど」

栞 「美坂栞です。こっちは姉の」

香里 「香里です、よろしく」

?? 「これはご丁寧に。僕は、神月京四郎と言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく