デモンバスターズEX

 

 

第32話 カノン大武会本戦之一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は一時、時と場所を移す。
祐一達三人が行動を起こした頃、大武会本戦も幕を開けていた。

 「久瀬さん、順当に行けば決勝はナイツ・オブ・ラウンドの2チームと思われますが、どうでしょう?」

久瀬老 「一概にそうとは言えませんね。今回はかなり強力なチームも存在しています。ナイツの面々と言えども、楽勝はありえないでしょうな」

特に一回戦は後半が見所だと、久瀬老は最後の付け加える。

 

 「それではカノン大武会本戦、第一回戦第一試合を開始いたします!」

 

おぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 

会場は予選を上回る盛り上がりを見せている。

 

 「対戦カードは、初参戦で本戦まで勝ち残ったお笑いトリオと、前大会ベスト4の強豪エルヴンブレードです!」

 

浩平 「へぇ、あいつらって前回ベスト4なのか」

美凪 「・・・お強い?」

琥珀 「そうアルねー」

浩平 「・・・時に琥珀、何故に・・・」

美凪 「・・・ちゃいな?」

琥珀 「気分の問題アルよ。ついでに言うと、いつでもすぐに元の格好に戻れますよ、ほら」

さっとどっからともなく出した黒いマントに身を隠すと、琥珀は普段の割烹着姿になった。
さらにもう一度マントを振ると、またまたチャイナドレス姿に戻る。

浩平 「うむ、よし!」

美凪 「・・・よし」

何が、よし、なのか不明だが、浩平と美凪の二人は納得した。
そしてこの場にツッコミ役のできる者はいない。

琥珀 「あはーっ、では先鋒琥珀、行ってまいります♪」

今日は竹箒ではなく、普通に白鞘に納めた刀を手に、琥珀はリングに上がる。
最初の相手は、エルヴンブレード、ファイヤー。
得物は両腕にはめたクロー。

ファイヤー 「女だからって、俺は手加減しねぇぜ」

琥珀 「ご心配なく、わたしはただの女じゃありませんから」

 「試合、開始!」

細かい前置きはなく、まずは試合開始。
先にファイヤーの方が仕掛ける。

琥珀 「(速い!)」

シュッ

ファイヤー 「ぼけっとしてると、恥ずかしい格好になっちまうぜ」

ファイヤーのクローが琥珀の服を一部切り裂く。

琥珀 「わたしのサービスショットは、お値段高いですよー」

二度目の攻撃は抜き放った刀で受け止める。
そこから反撃に転じ、二度三度と刃が交わる。

ファイヤー 「なんとなく奥の手でもありそうな戦い方だな。そいつを出してみろよ!」

琥珀 「奥の手は簡単に見せないものですよ」

ギィンッ

何度目かの交差で動きが止まる。
鍔迫り合いになるが、パワーでは女の琥珀の分が悪い。

ファイヤー 「もらったぜ!」

琥珀 「それはどうでしょうかっ」

競り合いにはファイヤーが勝ったかに思われた。
しかしそれは、琥珀が意図的に力を抜いたからに過ぎない。
前に体が流れたファイヤーの顎を、琥珀が後方宙返りをしながら蹴り上げる。
いわゆるサマーソルトキックだ。

ファイヤー 「ぐ・・・!」

琥珀 「えいっ!」

パキィンッ!

相手が体勢を立て直す前に間合いを詰め、琥珀は刀を横に薙ぎ払う。
ガードしようとしたファイヤーのクローは、まとめて叩き折られた。

チャキッ

武器を失くしたファイヤーの眼前に、琥珀の刀が突きつけられる。

琥珀 「まだやりますか?」

ファイヤー 「・・・・・・」

 

一戦目は琥珀の勝利。
さらに続けて二戦目、相手はウォーター、槍の使い手だ。

ウォーター 「我が槍から逃れる術なし」

琥珀 「どうでしょうねー?」

試合開始。
序盤はウォーターが優勢に進めているように誰の目にも見えた。
だが10分も試合を続けていると、ウォーターの息が上がっていた。

ウォーター 「くっ・・・」

琥珀 「やっぱり、あなたは体力が低いと思ったんですよ」

最初のうち逃げ回っていたのは、相手の体力消費を待つのが目的だった。

琥珀 「これで二勝目です」

反撃に出た琥珀によって、ウォーターも敗退した。

 

 

浩平 「・・・ふぅむ」

美凪 「・・・・・・折原さん、琥珀さんに勝てる?」

浩平 「わからんな。実力では上だろうけど、あの洞察眼と隙のない戦術・・・実戦じゃどうなるかな」

美凪 「・・・・・・」

 

 

エルヴンブレードは早くも三人目、ラストのライトニングが出てくる。
今大会屈指の実力者である。

ライトニング 「不甲斐ない奴らだ」

琥珀 「ですねー」

二人を倒して尚、体力を充分に温存している琥珀だが、今度の相手は一筋縄ではいきそうにない。
動きの一つ一つに、ほとんど隙が見られない。

ライトニング 「おまえは軽そうな性格に見えて、実に沈着冷静な奴だ。常に相手の動きを分析し、最良の動きを自ら取ろうとする」

琥珀 「・・・・・・」

ライトニング 「だが・・・・・・俺には通じん」

フッ

琥珀 「!?」

一瞬ライトニングの姿がぶれたかと思うと、その姿は琥珀の視界から消えていた。

ライトニング 「見えなければ分析もできまい」

声は背後から聞こえた。
まさにライトニング、稲妻の名が示すとおりのスピードである。
確かに今の動きを、琥珀は見ることができなかった。
しかし・・・。

琥珀 「・・・・・・くすっ」

ライトニング 「? 何がおかしい?」

琥珀 「いえ、あなたはちょうどいいカモだと思いまして」

ライトニング 「なんだと?」

琥珀 「わたしのレベルアップのため、鴨鍋になってもらいます」

ライトニング 「生意気な女だ」

ギィンッ

相手の武器は剣。
凄まじい速さの一撃を、辛うじて琥珀はガードした。

琥珀 「速いと言っても、これなら浩平さんの方が遥かに上ですね」

ライトニング 「この程度だと思わんことだ!」

ガードされても構わず、ライトニングは連続して斬撃を繰り出す。
嵐のような激しい攻撃に、琥珀は防戦一方だった。

琥珀 「くっ・・・・・・」

ライトニング 「最初の威勢はどこへ行った!」

ドゴッ

琥珀 「くはっ・・・!」

剣による攻撃に対する防御に追われる琥珀に、ライトニングの蹴りが炸裂する。
膝をつきそうになるのをぎりぎり堪えて、琥珀は後ろへ下がる。
だがそれよりも速く、ライトニングが追いすがってきた。

ライトニング 「もらった!」

ザシュッ

琥珀の体が斬られた、そう誰もが思ったが。

ライトニング 「む!」

切り裂かれたのは、琥珀が着ていた服だけだった。

琥珀 「やれやれ、結構高かったんですよ、その服」

いつもの割烹着姿に戻った琥珀が、ライトニングの背後に降り立つ。

ライトニング 「器用だな。手品師でもやっていた方がいいのではないか?」

琥珀 「あはっ、それも悪くないですねー」

仕切り直し。
今度も仕掛けていくのはライトニングの方であり、琥珀はひたすらそれを防いでいる。

ライトニング 「・・・・・・」

一方的に攻めながら、しかしライトニングは奇妙な違和感を味わっていた。
攻めているのではなく、攻めさせられている。

ライトニング 「(この女に余裕などないはず。しかし・・・)」

ガギィンッ

激しい一撃が入り、琥珀は刀を弾き飛ばされる。
その際に、ライトニングの剣が琥珀の腕を掠めた。

琥珀 「っ・・・!」

ライトニング 「これまでだ」

琥珀 「それはどうでしょう?」

ここにいたっても、まだ琥珀の表情は揺らがない。
その名と同じ色の瞳に見つめられると、何故かライトニングは追い詰められているのは自分のように錯覚する。

ライトニング 「ならば、完全勝利あるのみ!」

相手が気絶、或いは場外になればおのずと勝利が決まる。
最後の攻撃を加えるべく、ライトニングは丸腰の琥珀に向かって突っ込む。

ヒュンッ

ライトニング 「なに!?」

しかし、確実に決まったと思われた一撃は、あっさり琥珀にかわされた。
さらに追い討ちをかけるが、それも琥珀は簡単に避ける。

ライトニング 「馬鹿なっ!」

琥珀 「あはっ、どうしました?」

ライトニング 「貴様、何をした!?」

琥珀 「何もしてませんよ。色々できることはありますけどねー」

一服盛るとか、一服盛るとか、一服盛るとか・・・。
ただし、今回はやっていない。

ライトニング 「くそっ!」

尚も攻め続けるライトニング。
しかし、二度と彼の攻撃が琥珀に当たることはなかった。
戦い始めた時と、琥珀の動きはまるで違う。
今は、自分の動きが全て読まれている。

ライトニング 「(こんな小娘が、これほど高度な見切りを!)」

琥珀 「そろそろ決めです」

ライトニング 「は!」

焦って攻めた己の迂闊さを呪った。
ただ避けているように見えた琥珀は、徐々に、気付かれないように、弾き飛ばされた自分の刀のもとへ向かって移動していたのだ。

ライトニング 「ぐ・・・!」

琥珀 「遅いです」

バキィンッ

拾い上げた刀で、琥珀はライトニングの剣を両断する。
そのまま刃を返し、峰を相手の体に打ち込む。

ドカァッ!

ライトニング 「ぐ・・・はぁっ・・・!」

強烈な一撃を受けたライトニングは、リングを転がっていって場外に落ちた。

琥珀 「・・・ふぅ・・・・・・あはっ、三人抜きは結構きつかったですねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リングでは、すぐに第二試合が開始された。
しかし、それは第一試合以上の衝撃を会場全体に走らせる。
氷上シュン一人による、三人抜きならぬ、三人同時撃破。
本人の希望により敵チーム三人を同時に相手した氷上は、僅か一分でこれに勝利したのだった。

美凪 「・・・強い」

琥珀 「ですねー・・・」

浩平 「・・・・・・」

驚きは、すぐに歓声に変わった。
観客は、氷上の強さを称える。

 

氷上 「(ふふふ、さあ折原君、待っているよ)」

 

リング上の氷上は、客席で見ている浩平を一瞥してから、奥へ下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は早くも、一回戦第三試合に至る。
対戦チームは、美坂チームとあんまんチーム。

豹雨 「・・・・・・」

楓 「・・・・・・」

ただならぬ気配が漂っている。
だが同時に、他人には理解できない不思議な感情が流れているようだった。
険しい表情だった楓は、豹雨と少し向き合っていただけで、普段の落ち着きを取り戻していた。

楓 「じゃ、栞ちゃんから行ってみようか」

栞 「ええぇ!? わ、私からですか!?」

リング上に上がっているのは豹雨。
今日は最初からこの男が戦うようだ。
はっきり言って、祐一に勝つような相手に栞が敵うはずはない。

栞 「だ、だって相手は・・・」

楓 「栞ちゃん、香里ちゃんも。祐一君もね、彼を見ながら強くなっていったの」

香里 「・・・・・・」

楓 「そして今でも、私も、エリスちゃんも、祐一君も、アルド君も、みんな彼を目標にしている」

栞 「・・・・・・」

楓 「・・・自分の目で見て、体で感じてきなさい。最強という存在を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく