デモンバスターズEX

 

 

第31話 城内前哨戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィンッ!

剣と剣と交わる。
俺の手にあるのは豹雨との対戦以来二度目の使用となる氷魔剣。
大分安定してきたな。

相手の久瀬が持っているのは普通の騎士剣だ。
基本に忠実な剣技だが、なかなか強い。

祐一 「伊達に親衛隊のリーダーはやってないってことか!」

久瀬 「ちっ!」

ガキッ

力任せに振ってきた剣に吹き飛ばされる。
もちろん俺は、奴が振った剣に合わせて後ろに跳んだだけだから、ダメージなどはない。

久瀬 「そこらの侵入者とは違うようだな」

祐一 「当然だろ」

有象無象の雑魚どもと俺を一緒にしないでくれよ。

久瀬 「デモンバスターズ、か。本当に化け物ばかりだな」

祐一 「知ってるような口ぶりだな」

久瀬 「知っているさ。一人を雇っているからな」

祐一 「は?」

一人ってことは、アルドしかいないよな。
なんてこった、あいつカノン側にいるのかよ。
魔族がいるかもしれないって時に面倒な。

久瀬 「こういう事態に備えて雇っておいたと言うのに、どこで油を売っているのか」

アルドがねぇ。
もしエリスかさやかと遭遇してたらえらいことだな。
というか、あいつの言うとおり現れないとしたら、その可能性が高い。

祐一 「面倒な奴雇いやがって」

久瀬 「使えるものは使う。おまえ達のような輩がいる限りな」

祐一 「そうかい」

この警戒のしよう。
よほど同じことが繰り返し起こってるみたいだな。
まぁ、カノンと正面から戦って勝てる国は、今この大陸に存在しないだろう。
だとしたら、裏工作とかで何とかするしかない。
当然それに対する警戒も強くなるってわけだ。

祐一 「俺は何でもいいけどな。とりあえず、おまえを倒して先へ進むとしよう」

久瀬 「相沢祐一・・・・・・相沢一族の生き残り、か」

祐一 「やっぱり知ってるみたいだな」

久瀬 「・・・・・・」

祐一 「話せとは言わねぇよ。もっと上の奴に直接聞くからな」

久瀬 「ここを通しはしないぞ、相沢祐一」

祐一 「上等だ」

こいつの実力は、石橋やみさき辺りと同程度。
手ごわいが、俺の敵ではない。

祐一 「行くぜ!」

今度はこちらから仕掛ける。

久瀬 「む!」

ギィンッ

正面からの打ち込みはガードされる。
それは計算済み。

祐一 「おらおらぁ!」

手元で切り替えして横薙ぎに持ち込む。
さらに連続して斬撃を叩き込んだ。

久瀬 「ぬぅぅぅ!!」

さすがにこの程度は全部受けきるか。
なら、これはどうだ。

ダッ

久瀬 「む!」

祐一 「おらよっ!」

上に飛び上がって一気に剣を振り下ろす。

ガギィンッ

受け流そうとしたんだろうが、俺の剣は奴の剣を叩き折った。
俺の剣の方が速かった証拠だ。

久瀬 「今の技は・・・彼女の」

祐一 「見よう見まねなんで、威力は本家に及ばないけどな」

そう、今俺が使ったのは、舞が得意としてる技の模倣だ。
完全な再現はできなかったけど、あいつの武器を無力化するには充分な威力だったな。

祐一 「知り合いなんだな。ま、あいつも元ナイツの一員なわけだし、当然か」

久瀬 「・・・・・・」

祐一 「どうした、もう終わりか?」

久瀬 「・・・まだ、なんとも言えないか」

祐一 「?」

久瀬 「相沢祐一。おまえは何故ここへ来た?」

いきなりな質問だな。
当然聞くべきことだとは思うが。
確かに俺は、どこかの国に所属してるわけでもないから、カノンに来る用事は本来ない。
だが・・・。

祐一 「理由その一、世話になってる家がここの連中にやられた、その報復だ」

久瀬 「水瀬か・・・」

祐一 「そして理由その二・・・・・・って、これはおまえには関係ないな」

魔族のことだから、こいつに話しても仕方ないだろう。

祐一 「最後に、理由その三は・・・・・・」

俺個人にとっては、それがもっとも重要。
それは・・・・・・。

 

ドカァーーーンッ!!!

 

な、なんだ!?

久瀬 「!?」

爆発だと!
何が起こったんだ。

久瀬 「ちっ!」

あいつ、逃げるか。
あの慌てようから見て、あいつにとっても予想外の爆発だったみたいだが。
爆発音は、上か?

ドォーンッ

崩れる。
天井の一部が崩れて、そこから何か落ちてくる。

祐一 「あれは!」

俺はそこへ向かって走る。

祐一 「さやか!」

崩れた天井から落ちてきているのは、さやかだった。
気を失っているようだ。
あのままじゃ床に叩きつかれる。

がばっ

間に合った。

祐一 「おい! 生きてるか!?」

抱きとめた瞬間、手にべっとりと血の感触があった。
全身血まみれで、顔色も真っ白だ。
これは、そうとうやばい。
辛うじて息はあるか。

祐一 「何があったんだ」

上を見るが、崩れた天井からは何もわからない。
今はそれよりも、安全な場所に移動するか。
すぐに何とかしないと、さやかが危ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルド 「・・・・・・・・・やれやれ、こっぴどくやられてしまいましたね」

ほとんど黒焦げの状態で、アルドは城の庭で仰向けに倒れていた。

 

 

 

 

・・・あの時・・・。

アルド 「では、さようなら、さやかさん。ブラッディ・デス」

別れの言葉を告げ、アルドは剣を振り下ろそうとした。
その手が途中で止まり、意外そうな表情をアルドが浮かべる。

アルド 「これは・・・」

奇妙なことに気付いた。
さやかの出血の状態を見れば、かなりの傷を負っていてしかるべきはずが、半分以上、あるべき傷が存在していなかった。
いや、もっとよく見てみれば、正確には、ほとんどの傷が塞がっているのだ。
これは、人間の回復力ではありえないどころか、エリスでさえ及ばない速さだった。

アルド 「?」

何かが、さやかの体から浮かび上がる。
小さな炎が無数に浮かび、さやかの傷痕にまとわりつく。
今しがたアルドの剣が貫いたばかりの傷も、炎が癒していく。

アルド 「・・・不死鳥」

不意に先ほど見たさやかの魔法が思い浮かぶ。
朱雀は別名不死鳥と呼ばれ、命尽きても炎の中から復活するという伝説がある。
まさに、それを思い起こさせた。

浮かび上がった炎は見る見る大きくなり、朱雀の姿を象った。
先ほどのゴッドフェニックスよりもさらに激しく燃え盛る炎を纏った真紅の不死鳥である。
アルドをもってして、思わず見とれるほど、それは美しい存在だった。

ケェェェェェェェェェェ!!!!!

ゴッドフェニックスの鳴き声が響く。
その口が開かれ、光が収束する。

熱量の極限まで高まった炎は白色になるという。
白い閃光が、アルドの視界を覆った。

 

 

 

 

アルド 「・・・・・・」

自分が少し前までいた場所に目を向ける。
ミステリア王城の一角が見事に吹き飛んでいる。
出火することはなかったようだが、かなり崩れているようだ。
ゴッドフェニックスの放った熱線は、凄まじいまでの破壊力を持っていた。

アルド 「ふふふ、まぁ、今回はかなり楽しめましたし、さらなる楽しみは次回へ持ち越しとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も来そうにない適当な部屋を見つけてそこに隠れる。
腕に中でぐったりしているさやかは、死人同然の顔色と体温だった。
辛うじて生きてる、そんな状態だ。

祐一 「ちっ、どうする!?」

落ち着いて考えろ。
出血のわりに外傷がほとんど見当たらないのは奇妙だが、そんなことは後で考えればいい。
血を失くした分と、体力体温の低下が一番の問題だが、俺は回復魔法なんて使えない。
使える人間を思い浮かべるが、ここまで消耗した状態から回復させられる奴なんて、楓さんくらいしか思い浮かばない。
けど、今から楓さんのところまで連れて行くんじゃ間に合わない。

くそっ、どうするどうするどうする!

――落ち着いてください

玄武か!?
何で唐突に出てきたとか聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず何か手があるなら教えろ。

――ええ、彼女を助ける手立てはあります。これは、彼女が朱雀の神子で、あなた私玄武の神子であるからこそ可能なことであり・・・

説明は後でいい!
俺が何をすればいいかだけど手短に教えろ。

――では、あなたの精気を分け与えなさい

どうすればいい?

――方法はいくつかありますが・・・とりあえず、口付けが一番早いでしょう

・・・なに?

――交わりが一番効果的ですが、さすがにそうはいかないでしょう。ならば、口付けがもっとも確実で迅速な手段です

そうか。
まぁ、考えたり悩んだりするのは後回しだ。

祐一 「要は人工呼吸と同じような理屈だろ。悪く思うな、さやか。非常事態だから、はじめてだったりしたら犬に噛まれたと思って諦めてくれ」

ちなみに、俺ははじめてじゃない。
ってそんな話は今はどうでもいい。

精気、即ち生命力と呼ぶべきもの。
口付けしてどうやってそれを送り込むのかはわからないが、とりあえずそんなことをイメージしながら、俺はさやかに口付けした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか (・・・体の感覚がない)

自分が今どういう状態なのか、どこにいるのか、それすらもさっぱりわからなかった。
立っているのか、寝ているのか、それとも逆さまになっているのか。
五感の全てが閉ざされていて、何もわからない。
唯一働いている思考も鈍い。

さやか (もしかして、死んじゃったかな? あんまり死にたくはなかったけど、そうなったら仕方ないよね)

死は、常にさやかの身近にあった。
幼い頃に母を亡くし、父は絵を描く際いつも死をテーマにしていた。
そしてその父も死んだ。

さやか (死は、嫌い)

そんな中で、さやか本人だけは死と無縁な少女だった。
命の根源たる炎を操り、いつも生気に満ち溢れた笑顔を浮かべて生きてきた。

さやか (・・・・・・寒い)

感覚がないはずなのに、それだけはよくわかった。
ここには、いつもさやかを取り巻いていた炎がまったくない。
だから、寒かった。

さやか (ん?)

ふと、一部だけ感覚が戻る。
凍えるような寒さが全身を覆う中、一箇所だけ温かみを感じる。
他人に比べたら冷たいような気もするが、それでも今のさやかには、とても温かいものに思えた。

さやか (これは・・・・・・・・・)

ゆっくりと意識が戻っていく。
それに伴い、体の感覚も回復する。
温かい感触があるのは、唇だ。

さやか 「・・・・・・ん」

目を開く。
すぐ目の前に、人の顔があった。

さやか 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」

しばらくぼーっとして頭が働かなかったが、理解した瞬間に目を見開く。
つまり自分がどういう状況にあるのかということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・ん、気がついたか?」

さやか 「・・・え〜と・・・・・・何がどうしてこうなってるのかな?」

祐一 「それについてはこっちも聞きたいことがあるし・・・とりあえず、体の調子はどうだ?」

さやか 「う〜ん、体中がだるい」

祐一 「だろうな。重度の貧血だ」

さやか 「あと、体中気持ち悪い」

祐一 「それは血まみれだからだ」

どうやら大丈夫そうだな。

祐一 「起きれるか?」

さやか 「なんとか」

俺に支えられて、さやかが上半身だけ起こす。
その状態で壁に寄りかからせた。

さやか 「ふぅ、やれやれひどい目にあったよ」

祐一 「アルドか」

さやか 「うん・・・って、よくわかったね?」

祐一 「奴を雇ったとかいう話を城の野郎に聞いてな。あとはおまえのやられ方からあいつが連想できる」

さやか 「さすがは元仲間」

祐一 「で、負けたのか?」

さやか 「それが、最後の方は気失っちゃってて、どうなったか自分でもわからないんだよね。気がついたら祐一君の顔がどアップでびっくり」

祐一 「そうか」

あの爆発。
もし第三者の介入がなかったとしたら、起こしたのはさやか以外に考えられない。
アルドはあの手の大技は使わないからな。
それに、さやかの傷がほとんど見当たらないのも気になるし、他にも色々・・・。

――それについては私が説明しましょう

祐一 「玄武?」

さやか 「朱雀ちゃん?」

なるほど、俺には玄武の声が聞こえるように、さやかは朱雀の声が聞こえるんだな。
本来は同一の神とか言ってたが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく