デモンバスターズEX

 

 

第30話 朱に染まる・さやかvsアルド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「で・・・どうしてアルド君がここにいるのかな?」

アルド 「この国のある人物に雇われましてね。大会中のドサクサに紛れてやってくる侵入者を斬り捨て御免ということなんですよ」

さやか 「やっぱり・・・・・・」

つまり要約すると、この男は敵ということだ。
よりにもよって一番敵に回したくない相手の一人で出くわすとは。

さやか 「ついてないなぁ」

アルド 「私はついているようですよ」

互いに笑顔だ。
さやかは苦笑い、アルドは楽しげな笑いを浮かべる。

さやか 「じゃあ、そういうことで・・・・・・って感じでバイバイできない?」

アルド 「いいえ♪」

さやか 「知り合いのよしみで見逃して、とか?」

アルド 「知り合いだからこそ、楽しみましょうよ」

目元は深く被った帽子のせいで少ししか見えないが、本当に楽しそうな笑みだった。
その目に宿る光は、獲物を狙うハンターのそれに似ている。
何より、刺すような殺気をぴりぴりと感じる。

さやか 「・・・・・・」

ぎゅっと握った手に汗がたまる。
この男の殺気をこうして受けるのは三度目になるが、本当の敵として対峙したのは今がはじめてだ。
前二回の時とは比べ物にならないほどの殺気だった。
他の四人のような派手さはないが、それでも彼らと互角の強さをもって最強の一角を成した男。
その強さと、凍て付くような殺気は、他の四人も認めるところだ。

さやか 「・・・・・・」

アルド 「・・・・・・」

じりっとさやかが下がる。
するとそれに合わせてアルドが前進する。
距離はおよそ、15メートルほど。
アルドにとっては、一足飛びで詰められる間合いだろう。

アルド 「さやかさん」

さやか 「なに?」

アルド 「退屈させないでくださいね」

帽子のつばを押し上げて、にっこりと笑いかける。
死神に笑いかけられたような気分だった。

フッ

さやか 「!!」

一瞬消えたかと思ったアルドの姿は、さやかの目の前にあった。
ほとんど倒れこむような感じでさやかは斜め後ろに飛び下がる。

ビッ

さやか 「っぁ・・・!」

アルドの薙いだブラッディサーベルの切っ先がさやかの肩をかする。
無数の刃がついている血の色をした剣による斬撃は、一太刀でいくつもの傷をつける。
一撃で致命傷を与えるのではなく、少しでも多くの傷をつけて相手に血を流させることが目的の、祐一やエリス曰く、超悪趣味な剣、である。

さやか 「バーニングウォール!」

ゴォオオオオオ!!!

掌を床に叩きつけ、そこから火柱を発生させる。
灼熱の炎がアルドの動きを止めているうちに、さやかは踵を返して走った。

さやか 「う〜、思いっきりババ引いたよ」

ここは、三十六計逃げるに如かず、である。
決して大きく実力で劣っているとは思えないが、無傷で勝てる相手でもない。
戦いは避けたかった。

さやか 「!!」

背中に冷たいものを感じて、即座に横に跳んだ。
血の刃が無数に誰もいなくなった空間を切り裂いて飛んでいく。

アルド 「ブラッディストームをかわしましたか、さすがは」

さやか 「もう来てるし・・・」

炎の壁が足止めにもならない。
やはりあの程度の魔法では通用しない。

さやか 「・・・仕方ないか」

アルド 「む・・・」

さやかの気配が変わったことを、アルドは敏感に感じ取る。
ようやく本気になったかと、アルドは喜んだ。
立ち昇る炎が徐々に形を成していく。
それは、幻想の世界に描かれる不死の鳥となって羽ばたく。

さやか 「ゴッドフェニックス・・・・・・実戦で使うのは二度目か」

シヴァ戦で会得したこの朱雀召喚魔法を、さやかは既に使いこなせるようになっていた。
ただし、相変わらず魔力の消費は大きい。

アルド 「ふふふ、これは楽しくなりそうだ。いざ、ブラッディ・デュエル」

巨大な存在感を示す炎の鳥に臆することなく、アルドはブラッディサーベルを手に前進する。

さやか 「行くよ、アルド君。バーニングフェザー!」

炎の鳥、ゴッドフェニックスが両の翼を羽ばたかせる。
そこから散った炎を纏った羽根がアルド目掛けて飛ぶ。

アルド 「ほう」

ビッ ビッ!

一つ一つは一見小さな炎だが、その威力は馬鹿にできない。
床や壁に着弾した炎の羽根は、石を溶かすほどの高温だ。
しかも無数に飛んでくるため、回避も難しい。

アルド 「・・・・・・」

高速で飛来する炎の羽根を、アルドはひたすら避け続ける。
ブラッディサーベルで防御したところで、剣を溶かされるだけであろう。
避ける以外に手はない。

さやか 「・・・・・・」

優勢に立っているように見えて、追い込まれた気になっているのはさやかの方だった。
何故なら、今使える技はこれしかないからだ。

さやか 「(あとはこの子に体当たりさせるくらいしかないよ。けど、あの速さじゃそうそう当たりそうにないし・・・)」

使いこなせると言っても、まだその程度のレベルだった。
威力と速さを上げると、その分コントロールが甘くなる。

アルド 「・・・・・・ふふっ」

さやか 「!!」

逃げ回っているだけのアルドの顔に笑みが浮かんだ。

さやか 「(見破られた!?)」

アルド 「ブラッディストーム」

炎の羽根と同じように、アルドの体から流れた血が刃となって飛ぶ。
二種類の赤は、空中で衝突しあう。
無数の爆発による煙で、一瞬視界が曇る。
その隙にアルドは一気に間合いを詰めた。

ザシュッ

さやか 「くっ・・・!」

咄嗟に飛び下がるが、またしてもブラッディサーベルが先が掠める。

さやか 「(接近した今なら・・・!)」

近距離からなら多少コントロールが甘くても当たるだろう。
剣を振りぬいて僅かに動きの止まったアルド目掛けてゴッドフェニックスと突っ込ませる。

さやか 「ゴッドフェニックス突撃ーーー!!」

 

ドォーーーン!!!

 

床と壁が砕け、辺りが炎に覆われる。
紅蓮の炎の中に、アルドの姿は消えた。

さやか 「・・・・・・やった?」

アルド 「なかなか凄まじい威力ですね」

さやか 「!!」

炎の中から、アルドが歩み出てくる。
コートの左半分が焼け焦げていて、左腕は火傷とともに血が流れているが、健在であった。

さやか 「(外した!)」

ノーダメージではなかろうが、直撃させなければ倒すことは無理である。

アルド 「いいですよ、もっと私を楽しませてください」

さやか 「え〜と・・・・・・気が乗らないから、また今度ね」

爆発を目くらましにして、さやかは逃げ出す。

 

 

 

 

 

 

さやか 「まともに付き合ってられないよっ」

血染めの死神と呼ばれる男、ブラッディ・アルドの真の実力は謎に包まれていると言う。
かつての仲間であった祐一、エリス、楓らも知らないらしい。
だが例えば、自分がその三人と戦って勝てるとはさやかは思わない。
そんな三人が認め、恐れすら抱いているという相手に勝てる確率は高くないだろう。
いくら新しい力を手に入れたと言っても、やはり戦うのは得策ではない。

ぴちゃっ

さやか 「!?」

走っていると、足元に水溜りがあった。
いや、ただの水溜りではない。
それは、赤い・・・。

さやか 「うわ・・・・・・」

無数の斬殺死体。
いずれも先ほど見たのと同じ、侵入者の成れの果てであろう。
何故この区画に城の人間がいないのか、わかったような気がした。

さやか 「ここにいるアルド君以外の人間は、みんな斬り捨ての対象ってわけか」

常人ならば見ただけで気が狂いそうな光景だった。
この血溜りの中に佇む黒衣の男。
血染めの死神と呼ばれる所以である。

さやか 「・・・・・・血・・・?」

何かとても重大な見落としがあるような感じがした。
さやかの全身が危機感に震える。

さやか 「しまった・・・・・・!!」

 

ドシュッ!!!

 

あの男がブラッディ・アルドと呼ばれるもうひとつの理由。
それは、自身が流した血を、己の武器として使うことができるということだった。

さやか 「・・・く・・・ぁっ・・・!」

ここに溜まっている血のほとんどはアルドに斬られた人間のものだろうが、その中にあの男自身のものも混ざっていたのだ。
それが赤黒い凶器となってさやかの体を貫いた。
細い刃が無数にさやかの全身に突き刺さり、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のごとくさやかの身を捕らえる。

さやか 「くっ・・・・・・あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

叫び声とともにさやかの周囲に炎が渦巻く。
激しく燃え盛る炎は廊下全体に広がり、全ての血を蒸発させた。

さやか 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・く・・・ぅ・・・・・・」

何もかも焼き尽くされたその場を、さやかは壁に体を預けながら後にする。

 

 

 

 

 

 

 

少しして、その場にアルドがやってきた。

アルド 「私の血を全て蒸発させましたか。さすがですね、さやかさん。しかし・・・」

何もかも焼き尽くされ、蒸発させられた中で、真新しい血が壁伝いに続いている。
獲物の逃げた先は、一目瞭然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アルド 「そちらは行き止まりですよ」

さやか 「・・・・・・っ」

壁に寄りかかりながら立っているのがやっとのさやかは、あっさりアルドに追いつかれた。
力なく振り返ると、いつもと変わらぬ微笑を浮かべたアルドがそこにいた。

アルド 「やはり、見目麗しい女性が血に染まる姿は、美しいですね」

さやか 「・・・私は・・・・・・嫌い」

アルド 「おや、そうですか?」

さやか 「・・・血の・・・赤は・・・・・・死を連想させて・・・嫌なことばかり思い出すから・・・・・・」

アルド 「確かに。同じ赤でも、私の赤と、あなたの赤はまるで違いますね。あなたが発する炎の赤は、生命に満ち溢れている。血の赤とは、対象的ですね」

さやか 「・・・・・・」

じりじりと、少しずつでも相手から遠ざかろうとするさやか。
しかしその速度はあまりに遅く、ゆっくり歩いているアルドは、徐々に距離を詰めてくる。

アルド 「ふふふ、あなたは本当に、私の欲望を満たしてくれる女性だ」

ヒュッ ドスッ!

さやか 「っ!!!」

ブラッディサーベルがさやかの肩を貫き、その身を壁に縫い付ける。
声にならぬ悲鳴を上げるさやかはその剣を引き抜こうとするが、剣に触れた手も切り刻まれる。
壁に深く突き刺さった剣は、さやかの腕力ではびくともしなかった。
それでもさやかは、必死にそれを引き抜こうとする。

アルド 「時々、悟ったように死を迎え入れる人がいますが、そういうのはつまらないんですよ。今のあなたのように、追い詰められても必死に生にしがみ付こうとする相手の方が、殺しがいがあります」

ドシュッ

さやか 「くぁっ・・・!」

アルドが剣を壁から引き抜くと、支えを失ったさやかは壁に背を預けながら崩れ落ちる。
既に肩を貫かれた右腕に感覚はなく、目も焦点が合わなくなってきていた。
喋るだけの気力もない。

アルド 「あなたは今まで私が殺してきた者達の中で最高でしたよ。同じくらいの昂ぶりを得られる相手は、もう彼ら以外にはいないでしょうね」

さやか 「・・・・・・」

アルド 「そう、彼ら・・・・・・大地の巫女楓に、魔竜姫エリス」

さやか 「(・・・楓さん? エリスちゃん・・・?)」

アルド 「そして、相沢祐一と雛瀬豹雨」

さやか 「(・・・・・・・・・・・・祐一・・・くん・・・)」

意識が消える直前に思い描いたのは、愛しい相手の姿だった。

アルド 「では、さようなら、さやかさん。ブラッディ・デス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「?」

なんだ?
誰かに呼ばれたような気がしたが、気のせいか。

祐一 「それにしても、やけに人気がないな、この城は。本当にカノンの王城か?」

?? 「その答えが知りたいか?」

祐一 「・・・ちっ、見付かってたのかよ」

うまく隠れてるつもりだったが。

祐一 「誰だ?」

?? 「人様の城に不法侵入するような相手に礼儀を説くのもどうかとは思うが、人に名を問う時は己から名乗るのが筋ではないかね?」

祐一 「違いない。俺は相沢祐一。氷帝とも呼ばれているな」

?? 「君がそうか。大会参加者にその名を見つけた時からマークはしていたが」

祐一 「さて、今度はそっちの名前を聞く番だぜ」

?? 「いいだろう。私は公王親衛隊を率いる、久瀬俊之」

へぇ、こいつがそうか。
大会で解説やってる久瀬ジジイの息子で、親衛隊隊長をやっているっていう。
噂ではその実力はナイツ・オブ・ラウンドにも劣らないという。

祐一 「さっそくおもしろい相手に会えたな。で、さっき言ってた答えってやつは?」

久瀬 「君も既にわかっているだろうが、大武会開催中は、ほぼ確実に君のような侵入者がある。だから非戦闘員はその間王城の主要施設から遠ざけているのだよ」

祐一 「わざわざ敵を誘っているように見えるのは気のせいか?」

久瀬 「私としてはあまり好ましいやり方とは思えんがね。敵対勢力の密偵をあぶり出すには効果的だ」

祐一 「そして僅かに残った精鋭だけで敵を片付ける、か。経済的でもあるな。だが、一つ落とし穴がある」

久瀬 「ん?」

祐一 「相手がその精鋭でも及ばないレベルだった場合だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく