デモンバスターズEX

 

 

第29話 地下水路潜入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと・・・。

祐一 「ふむ」

なるほど、まさしく地下水路だな。
しかしまさかこんなに深いとは思わなかった。
エリスもよくこんなところに通じてる道を探し当てたよな。
けど、ここはいったい何なんだ?

ここまで来るのに通った道は、完全に正規のルートではなかった。
この地下水路にしたって、おそらく公国が管理しているものじゃない。
どころか、果たしてどれだけの人間がここの存在を知っているかってレベルだ。

祐一 「それにこの古さ・・・・・・まさか、旧時代の遺物か?」

時々そういうものが出てくる。
いわゆる遺跡だな。
そういえばこの辺りは、七百年ほど前に激しい地殻変動があって、かなり地形が変わったらしい。
その時に遺跡が地下に埋もれて、その上にいつの間にかカノン公国ができた・・・ってところか。
あくまで推測だがな。

祐一 「潜伏するにはもってこいだが、これじゃあ城から出たも同然なんじゃないか、エリスよ」

エリス 「その辺抜かりはないわ」

いつの間にかエリスが来ていた。
別ルートからやってきたはずだが。

エリス 「カノンに着いてから何度かここに潜入してる。城内主要部に通じるルートも割り出してあるわ」

祐一 「だから、どうしてそんなルートが存在するんだ?」

エリス 「細かいことよ。とにかく、ここを基点にすれば、いくらでも城内に潜り込める」

祐一 「・・・・・・・・・大会に出た意味あったのか?」

エリス 「ないわね」

だよな。
前々からここを探り当てていたんなら、わざわざ大会に出る必要はない。
大会の盛り上がりを利用するって手はあるが。

祐一 「ま、いいか」

そうこう言っているうちに落ち合う約束の場所に辿り着く。
既にさやかも来ていた。

さやか 「やっほ〜」

祐一 「・・・なんだこりゃ?」

エリス 「長期戦も考えてるのよ」

そこには、テントが張られていた。
さらにざっと見回しただけで、数日分の水と食料も置いてある。

エリス 「攻城戦は長引くものって相場が決まってるからね」

もう、いい。
細かいことはエリスに任せて、俺は余計なことは考えまい。

エリス 「今夜は休みましょ。アタシも祐一も、試合で疲れてるし」

祐一 「そうだな」

しぐれと豹雨。
どちらの相手もハイレベルな実力者だった。
あくまで試合だったから、そんなに大きく体力を消耗したわけじゃないが、この先のことを考えると、万全の体勢で挑むのが正解だ。
敵はナイツ・オブ・ラウンドに、もしかしたら魔族もいる。
これだけの王国なら、他にも精鋭部隊がいてもおかしくない。

さやか 「ねぇ」

祐一 「?」

エリス 「何?」

さやか 「テント一つしかないんだけど」

祐一 「・・・・・・」

エリス 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

空気が凍りついた。
いや、氷を操る俺でも、ここまで見事に凍りつくという現象を起こすことは難しいかもしれない。
それくらい完全に空気が凍り付いていた。

テントは一つ。
一晩明かす。
男一人に女二人。

祐一 「・・・俺は外で構わんぞ。野宿くらい珍しくないからな」

最近は縁がなかったが、一人旅の間は結構やったもんだ。
五人でいた頃もな。

エリス 「そうね。そうして」

さやか 「うん・・・」

微妙に視線をそらす二人。
何やら顔が赤いように見えたが、焚き火のせいか?

祐一 「先に寝ろよ。火の番しとくから。行動起こすとしたら、明朝だろ」

エリス 「ええ、早めに寝ましょう。見張りなら途中で変わるから、そうしたらあんたも寝なさいよ」

祐一 「わかってる」

さやか 「じゃ、おやふみ〜・・・・・・」

って、あっという間に寝てる奴いるし。
こいつは呑気だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呑気な性格だと、祐一はそう思っている。
だが実際には、さやかも一人の女である。
時には内心穏やかならぬ時もある。

エリス 「で、どうしてあんたも起きてるのよ?」

さやか 「ん〜、なんとなく」

三時間ほど寝てから、見張りを後退するためにエリスが起きた時、同時にさやかも起きていた。
祐一は現在テントの中で一人寝ている。

さやか 「ね、はっきりさせない?」

エリス 「何を?」

さやか 「結局エリスちゃんは、祐一君のこと好きなの?」

エリス 「・・・そんなの、あんたに関係・・・」

さやか 「私は好きだよ」

エリス 「・・・・・・」

口に出してはっきり好意を露にしたのははじめてだった。
まだ面と向かって告白したわけではないが。

さやか 「最初は、ちょっとおもしろい子だなぁ、くらいに思ってた。出会ってからまだ半年弱だけど、少しずつ惹かれていったよ」

エリス 「・・・・・・」

さやか 「ぶっきらぼうで、ちょっと冷たいところもあるけど、すごく優しくて、とても強い。・・・この間に豹雨さんにも会って、楓さんがぞっこんなのわかるなぁって思ったけど、祐一君は彼と違った意味で、同じくらい強いよ。豹雨さんが剣の先端なら、祐一君は剣の中心って感じかな」

どちらも人を惹きつける魅力と、人をまとめる強さを持っている。
豹雨が常に先頭に立って皆を引っ張っていくタイプなら、祐一は皆の中心にいてまとめるタイプ。
短い期間で、さやかは正確にそのことを知っていた。
それはエリスが、長い付き合いの中で知ったことと同じだった。

さやか 「私は、そんな祐一君が、好きみたい」

エリス 「・・・・・・アタシは・・・」

さやか 「言ったよ、私は。エリスちゃんが黙ってるつもりなら、もう遠慮はしないから」

言い終わると、さやかは毛布を手にして横になる。

さやか 「もう一眠りするね〜、おやふみ〜」

エリス 「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝・・・だな。
太陽が見えないからわからないが、俺は自分の体内時計には自信を持っている。
午前5時くらいか・・・。

祐一 「起きてるか?」

さやか 「ん・・・・・・はよはよ〜」

エリス 「・・・おはよ」

ん?
寝起きのさやかがぼけーっとしてるのはいつものこととして、エリスの元気が若干足りないのは気のせいか。
ま、こいつが不機嫌そうにしてるのは今に始まったことじゃないが。

祐一 「これからどうする?」

エリス 「上に行きましょう。城の内部まで行って、後は自己の判断で行動ね。目的もそれぞれ違うわけだし」

目的と言うが・・・そもそもエリスとさやかには明確な目的なんてないんじゃないのか?
俺はあるけど。
ま、いいか、任せておけば。

祐一 「じゃあ、行くぞ!」

 

 

 

 

 

所変わって城の中。
ここまでは何事もなくすんなり来れたな。

エリス 「ここで別れましょう」

さやか 「じゃ、私はこっち」

祐一 「おまえらにあえて言う必要はないと思うが、気をつけろよ」

エリス 「わかってるわ」

さやか 「りょ〜か〜い」

大会に出てるナイツ・オブ・ラウンドは六人。
つまり残り七人は城内のどこかにいる可能性が高い。
連中が相手では、多少の苦戦は覚悟する必要があるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一達と別れた後、エリスは城の地下に潜入した。
そこに用があったわけではないが、人気が一番少ないと思われるのがそこだった。

エリス 「・・・そろそろ出てきなさい」

つけてきている気配は、ずっと前から感じていた。
相手は、人間ではない。
呼びかけに対する応えの代わりにやってきたのは、魔物による襲撃だった。

ズンッ!

高速で突っ込んできた魔物が地面をえぐる。
巨大なライオンのような姿だが、翼が生えている魔物。
ある地方では、スフィンクスと呼ばれる存在だ。

グルルルルルルルル

エリス 「・・・なめられたものね。こんな雑魚でアタシの相手が務まるとでも思ってるの!」

決して野生に生息しているレベルのモンスターではない。
だが、数々の上級の魔物を相手に戦ってきたエリスにとっては、雑魚と大差ない相手だった。

エリス 「ハッ!」

再び突進してきたスフィンクスの顔面に正面から掌底を叩き込む。
鼻頭を潰された相手は顔をしかめるが、構わず押してきた。

エリス 「ちっ!」

なかなか馬鹿にできないパワーに押される。
だが、竜族であるエリスに敵うはずもない。

エリス 「消えなさいっ!」

押さえつけている頭部に向けてドラゴンブレスを撃ち込む。
頭を潰し、さらに上半身まで跡形もなく吹き飛ばした。

エリス 「いい加減出てこないと、次はあんたがこうなる番よ」

バイン 「怖い怖い。姫君とお呼びするにはいささか淑やかさが足らないような気がいたしますが・・・」

エリス 「アタシをそう呼ぶってことは、あいつらの仲間ね?」

バイン 「仲間などと恐れ多い。私などは手下Aで充分な存在でして」

エリス 「ぬけぬけと・・・」

確かに魔神ほどの力は感じない。
しかし明らかに現れた相手は上級魔族だ。
エリスと比べても、大きく力が劣るものではない。

エリス 「アタシ達に気付いていながら、あえて今まで手出ししてこなかったのは何故?」

バイン 「こうしてお一人の時にお呼びになってくださったのは、その理由を知っているからではありませんか?」

エリス 「用があるのはアタシ一人ってわけ」

バイン 「彼にも用はあるのですが、それよりもあなた様とお話がしたいと思いまして。魔竜姫エリス様」

エリス 「まずは名乗りなさい」

バイン 「これは失礼。死と再生を司りし魔神オシリス様の配下で、バインと申します」

エリス 「オシリス・・・あいつの?」

数十年ぶりに聞く、なじみのある名前だった。
シヴァやブラッドヴェインと同じ勢力内にいる魔神の名だ。
そして、その勢力内では最古参の一人でもあった。

エリス 「で、そのオシリスの手下がアタシに何の用?」

バイン 「一言で申しますれば、お迎えに参上いたしました」

エリス 「・・・ふざけてるの?」

バイン 「滅相もない。大真面目でございます」

エリス 「・・・・・・」

バイン 「・・・・・・」

エリス 「・・・・・・・・・消えなさい」

バイン 「は?」

エリス 「今回は見逃してやるから、今すぐに消えなさい」

バイン 「(ぞくっ)」

自分より遥かに小柄な少女。
その姿をした相手に、魔族バインは恐怖すら感じた。
それほど凄まじい威圧感だった。

バイン 「・・・さすがは、魔竜王様のご息女であられる」

ドンッ!

バインのすぐ後ろの壁が崩れ落ちる。
エリスの放った一撃がバインの体すれすれのところを通って壁に撃ち込まれたのだ。

エリス 「今後同じことを言ったら、殺すわよ」

バイン 「承知いたしました。魔竜王様のお話はやめましょう。ですが、こちらの話は聞いて損はないと思いますが」

エリス 「消えろと言ったのが聞こえなかったの?」

あくまでエリスに話を聞くつもりはなかった。
今度余計な口を聞いたら、本気で攻撃を当てるつもりだった。

バイン 「“彼”のことですよ」

エリス 「(ぴくっ)」

だが、その言葉が攻撃の手を止めさせた。

エリス 「・・・なんですって?」

攻撃は止めたが、逆にエリスの表情は険しさを増す。

バイン 「実は・・・・・・」

 

 

――――――――――

 

 

エリス 「なん・・・ですって・・・・・・? いったい、どういうことっ!?」

バイン 「申し上げたとおりです。彼のことはよくご存知でしょう」

エリス 「あいつのことなら誰よりよくわかってるわよ! けど、だからって・・・・・・」

バイン 「エリス様、こちらへおいでください。そうすれば彼を、永久にあなたのものにすることも可能でしょう」

エリス 「アタシは、そんなこと・・・」

バイン 「今のままでは、あなたはあの人間の娘に勝てない」

エリス 「!!」

バイン 「さあ、いかがなさいますか?」

エリス 「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方こちらは、城の東側にやってきたさやか。
ちなみにエリスのいる地下は西側で、祐一は中央付近に行っている。

さやか 「さてと〜、鬼が出るか蛇が出るか〜」

人気の少ない城内を、一応身を隠しながら進む。
しかし、いくら大会中とは言え、あまりに人が少ないような気がした。
というよりも、ここまで一人も城の人間を見ていない。

さやか 「空城の計とか? まさかねぇ」

そんなことを考えている間に、人の気配を察知した。
複数だが・・・。

さやか 「・・・殺気立ってるね」

見付かったわけではなさそうだ。
となれば、自分以外の侵入者と城の人間が戦っているのか。

ザシュッ

 「ぐぁっ・・・!」

誰かが斬られた。
続けて何人も斬られていく。
音の感じから、一人が大人数と戦っているようだった。

さやか 「(どっちが侵入者さんだろ?)」

普通に考えれば、数の少ない方が侵入者だが。

どさっ

さやかが隠れている場所の近くに倒れこんだ男の出で立ちは、城の人間のものではない。
明らかにどこかの国の密偵と思しき姿をしている。
柱の影から、さやかはそっと覗きこむ。

ザシュッ

最後の一人が斬り倒されたところだった。
辺り一面血に染まった中、一人だけ立っている者がいる。

?? 「これで三組目、合計十八人斬りましたか。しかし、つまりませんねぇ」

さやか 「げ・・・」

思わず声が洩れる。
それほど意外で、嫌な相手と遭遇した形だ。

?? 「・・・と、思ったのですが。これはこれは良き客人に恵まれました」

さやか 「・・・アルド君・・・」

血だまりの中に立つ漆黒の男。
その男は、デモンバスターズが一人、ブラッディ・アルドであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく