デモンバスターズEX

 

 

第19話 悪夢の一夜 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し前に遡る。
ちょうど祐一達が四神の祠で死闘を繰り広げるより少し前。

光の加減なのか、満月が赤く怪しげに輝いている夜。
何かが起こりそうな、そんな雰囲気が漂う。
夏だというのに、肌寒い風が吹いていて、不気味だった。

シルバーホーンの町を見下ろす丘の上に、七つの人影があった。

メサルス 「あれか・・・水瀬屋敷というのは」

槍を手にした、鋭い眼光の痩せた男、メサルス・リー。

シュテル 「くっくっくっく・・・・・・久々に上物の獲物がたっぷりいそうだぜ。楽しめそうだ、なぁ」

黄金色の鎧を纏い、鉤のついた剣を持つ男、シュテル。

アヌビス 「・・・・・・立ちふさがる者は斬る、それだけだ」

フルフェイスの仮面をつけた巨剣を携えた大男、アヌビス。

時谷 「無益な殺生は必要ない。有象無象は私に任せておかれよ」

マントを被った中年の男、遠野時谷。

氷上 「くすくすっ、まぁ、気楽に行こうよ。それぞれに役目とか目的があるんだからさ」

銀の軽鎧に銀髪、どこか浮世離れした雰囲気のある少年、氷上シュン。

セリシア 「ったく・・・こんなことあたし一人で充分なのに・・・」

同じく銀髪の少女、セリシア。

榊 「ほほほっ、そういって前回まんまと失敗したのはどこの誰じゃったかの?」

黒い巫女服を纏った女、榊。

七人全員が、尋常ならぬ気配を発している。
彼らは全て、ナイツ・オブ・ラウンドである。

カノン公国が誇る精鋭ナイツ・オブ・ラウンドが七人も出動しての任務。
それは一国を壊滅させようとするに等しいことだった。
そんな彼らの狙いは、水瀬屋敷・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かの達人というものは、多かれ少なかれ、第六感が発達しているものである。
直感のようなもので、何かが起こることを感じる場合があった。
今夜はちょうど、そんな感じだった。

普段は夜になれば帰る者が、珍しく屋敷に残っている。
斉藤は庭が見たいなどと言って屋敷内を散歩している。
石橋は一人道場に残って瞑想をしている。
浩平とみさきも食事を取った部屋にそのまま残っている。

常時屋敷に寝泊りしている面々も、今夜は寝付けずにいた。

漠然とした感覚ながら、皆感じているのだ。
今夜、何かが起こると。

 

 

 

ビュゥゥゥゥ

ほたる 「っ・・・」

強い風が吹いて、縁側を歩いていたほたるが身を縮める。

ほたる 「・・・寒い」

夏というのは暑いものだと、ほたるは学んでいる。
夜になってもべっとりとして暑苦しく、寝苦しいものだと。
今夜は、いつもどおりべっとりした感じもするが、同時に寒気も感じた。
嫌な夜だと思った。

ほたる 「・・・・・・」

少し怖かった。
何か不安に駆られる夜である。

ほたる 「石橋さん・・・」

今から道場にいるあの男に会いに行こうと思っていたところだ。
邪魔になるだろうから、こっそり見に行くだけだが。

ほたる 「・・・・・・」

ほっとした。
あの男のことを考えると、ほたるは安心する。
自然と笑みがこぼれた。
しかしその笑みが、一瞬にして凍りつく。
彼女にとって、恐るべき相手が目の前にいたのだ。
塀の上に立っている、銀髪の少女。

セリシア 「おままごとの時間は終わりよ、ほたる」

ほたる 「ぁ・・・ぁぁ・・・・・・・・・」

恐怖に体がすくんだ。
銀髪の少女セリシア。
ほたるの姉。
そして、彼女の出現が意味することに、ほたるは恐怖する。
以前のほたるであれば、恐怖のあまり声も出なくなっただろう。
しかし、この屋敷で数日を過ごした間に、ほたるは僅かだが強さを身につけていた。

ほたる 「きゃああああああ!!!!!」

あらん限りの声で、ほたるは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斉藤 「む・・・・・・この声は確か・・・」

庭池のほとりを歩いていた斉藤は、その声に反応して身を翻す。
だがその足はすぐに止まる。
別の気配が、彼のすぐ近くに現れたのだ。

斉藤 「おまえは・・・」

メサルス 「ひさしぶりだな、斉藤元」

 

 

 

 

 

石橋 「・・・・・・」

道場で瞑想していた石橋は、目を開けて立ち上がった。
悲鳴に対する反応でもあったが、同時に来訪者を感じてのことでもある。

石橋 「何者だ?」

アヌビス 「・・・貴様がこんなところでのうのうと生きていたとはな」

石橋 「お主か。久方ぶり、というべきなのかな?」

アヌビス 「我らが会うのは戦場のみ。語るに言葉は不要だ」

 

 

 

 

 

 

みさき 「浩平君!」

浩平 「ああ、行くぜ」

部屋で寝転がっていた二人は跳ね起きて、障子を開け放つ。
悲鳴のした方へ向かうつもりだったが、その前に立ちふさがる者があった。
寸前まで誰の気配も感じなかったはずが、障子を開けた先の庭にその者はいた。

氷上 「やあ、二人とも。今夜はいい夜だね」

浩平 「氷上・・・」

みさき 「氷上君・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

時谷 「・・・・・・」

往人 「俺の芸に誘われてやってきた客人・・・ってわけじゃなさそうだな」

美凪 「・・・・・・残念」

この二人の前にも、一人敵が現れていた。
マントに顔が覆われているため、正体は知れない。

美凪 「・・・?」

しかし美凪は、その相手を知っているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

名雪 「・・・だお〜」

香里 「起きんかいっ! このあんぽんたんっ!!」

翡翠 「無理だと思いますが・・・」

栞 「えぅ〜、なんかいつかどこかで相手したようなのがいっぱいです」

彼女らの周囲は、アンデットモンスターでいっぱいだった。
襲撃者の中に、これらを操るネクロマンサーがいるということだ。

 

 

 

 

 

 

 

秋子 「・・・・・・あなたですか」

シュテル 「最近は新入りどもがでしゃばっているがな、俺もまだまだ現役ということだ」

屋敷の主、秋子のもとにも敵が一人やってきていた。
旧知の間柄ながら、漂うものは完全な敵意のみ。

シュテル 「以前はナンバー2だったろうがな・・・・・・もうあんたの時代は終わってるんだよ」

秋子 「それはどうでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

楓 「やっぱり、こういうことになったか!」

恐れていた事態が現実となっている。
敵はおそらく全員ナイツ・オブ・ラウンド。
数もかなり来ていると見える。

楓 「ばらばらに戦っていたら危ない」

榊 「行かせると思うてか?」

楓 「誰?」

榊 「・・・ようやく会えたわ、大地の巫女、楓」

どうやら、簡単に通してもらえる相手でもなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

セリシア 「・・・ったく大きな声出して」

ほたる 「ぁ・・・が・・・ぐぅ・・・・・・」

ほたるの体は、僅かに宙に浮いていた。
体中をセリシアの髪で絡められているのだ。
首にも髪が巻きつき、声を出せないように締め付けている。

セリシア 「あんまり手間取らせないでよね。あんたを傷付けるとあいつがうるさいんだから」

ヒュッ

セリシア 「なっ・・・!?」

眼前を切っ先を通過する。
かわすのが少し遅かったら顔面を真っ二つにされるところだった。
さらに何かが溶ける音がして、ほたるの体が下に落ちる。
落ちきる寸前に誰かが抱きとめた。

セリシア 「またあんたなの・・・!」

琥珀 「・・・今日は、あの男はいないのね」

セリシア 「ふんっ、懲りない奴ね。今度こそ殺してやるわ」

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の各地で戦いが勃発する。
水瀬屋敷の長い、悪夢の一夜の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミルブス王国。
その繁栄を影で支える精鋭部隊の名を、ダークウルブスと言う。
斉藤はかつて、そこの三番隊長を務めていた。
事実上最強とも言われている。
だが、ある事件をきっかけに除隊、その後水瀬秋子のもとに身を寄せ、現在に至る。

ダークウルブス時代、斉藤に異様なほど対抗意識を燃やしていた男がいた。
それが四番隊長であった槍の使い手、名をメサルス・リー。

メサルス 「今はナイツ・オブ・ラウンドの一人、ウルフキラー・メサルス・リーよ」

斉藤 「ウルフキラー?」

メサルス 「ミルブスは調子の乗りすぎてよ、カノンに逆らったのさ。だから制裁を加えられた。俺はその際にダークウルブスを壊滅させ、その功でナイツの一員になった。だからついた二つ名は、ウルフキラー」

斉藤 「なるほどな」

メサルス 「もっともこの名を完全に俺のものにするには足りないことがある。それが・・・・・・貴様を殺ることだぁっ!!」

片鎌槍を頭上で旋回させながらメサルスが突撃する。
刀を抜いた斉藤は、あることに気付いた。
以前よりも、メサルスの槍が長くなっている。

メサルス 「うらぁ!」

ブゥンッ

槍が横薙ぎされる。
斉藤は後ろへ跳んでそれをかわす。

斉藤 「・・・ふんっ、間合いを広げた程度で俺に勝てるつもりか?」

メサルス 「だが、これだけ遠い間合いでは貴様の牙刃も威力半減だろう」

斉藤 「なめられたものだ」

薄笑いを浮かべる斉藤。
それは相手に対する嘲笑か、それとも強い敵と戦うことによる喜びか。
どちらであるかは、この一撃を放てばわかること。
脇から刀を大きく後ろへ引く。

斉藤 「ならば受けてみるがいい、この斉藤元の牙刃を」

メサルス 「望むところ。勝負」

 

 

 

 

 

 

 

 

石橋 「ぬぁあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

激しい気合とともに石橋の斬撃が繰り出される。
細い刀がまるで巨大なハンマーのような質量をもって襲ってくる感覚に囚われる、石橋の剛剣である。

ギィンッ

アヌビス 「・・・・・・」

だがそれを、アヌビスはいとも簡単に巨剣で受け止める。
しかも、常人ならば両手でさえ扱えないであろう巨剣を、片手で軽々と操っていた。

キラーナイト・アヌビス。
かつての石橋と同じく傭兵であった男。
戦うことのみを至上目的とし、誰であろうと容赦なく殺す。
無用な殺しはしない主義であった石橋とは、戦場で会う度に衝突し、剣を交えていた。

アヌビス 「・・・・・・石橋剛健・・・・・・弱いな」

ガキッ

石橋 「ぬっ・・・!」

石橋もかなりの巨漢だが、それ以上の大きさを誇るアヌビスが剣を一振りするだけで、石橋は弾き飛ばされた。
凄まじいパワーである。

アヌビス 「以前はもっと興奮したものだがな。貴様が腑抜けたか、俺が強くなりすぎたか」

石橋 「それを決めるのは少し早かろう」

アヌビス 「どうかな」

巨大な剣をアヌビスが振りかぶる。
室内における戦いでは、上段に振りかぶることは有効ではない。
天井などに剣が引っかかっては笑えない。
しかしアヌビスはそんなことはお構いなしに剣を振り上げる。
その剣は天井を削っていく。

アヌビス 「今の俺の前では、貴様は無力だ」

天井を削りながらアヌビスが突進する。
振り下ろされた一撃は、道場の床板を簡単に打ち砕いた。

ドンッ!

石橋 「くっ・・・」

アヌビス 「終わりだ」

下に振り落とされた剣が、一気に跳ね上がる。

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「氷上・・・・・・何してんだ、おまえ?」

氷上シュン。
浩平やみさきと同じ、ネオ・エターニア国出身の剣士。

氷上 「友達に会いに来ちゃいけないかい?」

浩平 「時と場合によるな。今取り込み中だ」

氷上 「そうなのかい? でも、僕も用事があってね。で、そのためには君達を行かせると困るんだ」

浩平 「・・・・・・おまえ、今何してる?」

氷上 「カノン公国ナイツ・オブ・ラウンドの一人、氷上シュンしてる」

無言で浩平は刀を腰に差す。
鯉口も切って、いつでも抜ける体勢だ。

浩平 「おまえが敵・・・か。気の利いたギャグが出てこねぇよ」

みさき 「浩平君・・・・・・」

氷上 「ひさしぶりに君と剣を交えることができて嬉しいよ。でも、僕はかなり強くなってしまったから、すぐに終わってしまうかもしれない」

浩平 「おまえの言うことはいちいち笑えないんだよ。退く気がないなら、俺も本気で行くぜ」

氷上 「是非そうしてくれるとますます嬉しいよ。ネオ・エターニアにいた頃はついに見られなかった麒麟児・折原浩平の本気がついに見られるんだ」

浩平 「・・・・・・」

氷上の手には細身の剣、レイピアが現れる。
手品のように、どこからともなく。
だがその程度で動じる浩平ではない。

浩平 「・・・行くぜ」

氷上 「ああ」

浩平の刀が鞘から抜き放たれる。
同時に、氷上のレイピアが突き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく