デモンバスターズEX

 

 

第18話 死闘を終えて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・・・・ぅ・・・う〜・・・」

目を開ける。
まず天井が見えた。
ということは、俺は今仰向けになって寝ていることになるな。
よし、頭はちゃんと働く。
体も・・・動きそうだな。

祐一 「よっと・・・・・・」

つ・・・。
少し痛むな。
傷の痛みもそうだが、結構長いこと寝ていたのかもしれない、節々も少し痛い。

がちゃ

扉の開く音。
体を起こして視線をそっちに向ける。
入ってきたのは、さくらだ。

さくら 「にゃ、やっと起きたね祐一君」

祐一 「とりあえずここがどこだか聞かせてもらえると嬉しい」

さくら 「いいよ。けど、静かにね」

祐一 「ん?」

さくら 「ほら」

小声で話すさくらが指し示す先、俺が寝ているベッドの上。
両側から俺を挟むように、ベッドに突っ伏している寝ている奴らがいた。
右にエリス、左にさやか。

さくら 「さすがにダウンしたね。ま、二人が一番重傷だったんだし、丸三日も寝ずに看病すれば当然の結果だよね」

祐一 「そんなに寝てたのか、俺」

無限陣を使った反動としても、少し寝すぎだな。
やっぱりあのダメージで無限陣を使うのは無茶だったか。

さくら 「体は大丈夫?」

祐一 「概ね良好だな」

さくら 「そっか。ボクも初歩的な回復魔法しか使えないからね。でもみんな、さすがに鍛え方が違うよね。普通なら全治二、三ヶ月くらいの怪我なのに、一日二日でもう動けるんだもん」

祐一 「まぁ、このくらいの怪我はわりと日常茶飯事だったからな」

俺の場合は、敵にやられるよりも味方にやられていたが。
エリスにどつかれ、楓さんの地獄の特訓を受け・・・。
言っちゃなんだが、あの頃に比べれば先日の魔神との戦いも楽なもんだった。
あくまで比喩だけどな。
奴は間違いなく俺が今まで遭遇したどんな敵よりも強かった。
そしてたぶん・・・・・・。

祐一 「・・・奴が万全だったら勝てなかったろうな」

さくら 「え? 何か言った?」

祐一 「いや、なんでもない」

このことに気付いてるのは、たぶん俺だけだろう。
あいつの動きにはどこか違和感があった。
たぶん、出したくても本気が出せなかった感じだと思う。
まったくとんでもない奴らだな、魔神ってのは。
今はこのことは俺の胸に締まっておくとしよう。

さやか 「ぅ〜・・・むにゃむにゃ・・・・・・」

祐一 「よっ、おはよう、さやか」

さやか 「ほぇ? はよはよ〜・・・・・・?」

寝起きでぼーっとしているさやか。
名雪ほどではないが、こいつもわりと寝起きが悪い方だ。
というか、水瀬屋敷で名雪の次に朝ぐーたらしている奴がこいつだ。

さやか 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・祐一君!?」

エリス 「った!・・・・・・・・・何事・・・って、祐一!」

さやかの声でエリスも起きた。

祐一 「言うべきかどうか迷うんだが、とりあえずおまえら、寝癖ついてるぞ」

さやか 「わったた!」

エリス 「〜〜〜・・・・・・」

慌てて鏡のところに走る二人。
我先にと寝癖を梳かしている。

さくら 「うにゃあ、女の子は身嗜みが大事だよね〜。特に男の子の前では」

何か含むところがあるようなさくらの口ぶり。

さくら 「何と言っても、祐一君がぴくりとも動かない意識不明状態だった時の二人の反応って言ったら・・・」

エリス 「(ギロッ!!!)」

さくら 「・・・・・・・・・にゃんでもにゃいです」

何故だかエリスが物凄い形相でさくらを睨んでいる。
さやかはさやかで何故だかあさっての方向を見てるし。

祐一 「?」

郁未 「鈍感ね」

祐一 「よう、郁未に舞。おまえらも元気そうだな」

郁未 「まぁね」

舞 「・・・お腹空いた」

郁未 「はぁ・・・・・・こいつも花より団子だし」

さくら 「青春だね〜」

祐一 「何の話だ?」

エリス 「なんでもないわよ」

さやか 「そうそう、なんでもないない♪」

???
ま、いいけどさ。

 

 

 

 

 

俺が目を覚ましたのは、祠から少し離れたところにある街の宿屋だった。
あの後、気絶した俺を全員がかりで運んだらしい。
う〜ん、ちょっと男として格好がつかないな。

食事を終えた後、宿を出て、街の郊外にある丘で小休止を取っている。
舞は食後のデザートを求め、郁未とさくらは補給などで街を歩いている。
ここにいるのは俺とさやか、エリスの三人だけだ。

祐一 「よっこらせ」

少し年寄りくさいが、まだダメージの抜けない体で動き回るのはわりときつい。
今回は本当にひさしぶりにここまで消耗した。

エリス 「隣、いい?」

祐一 「何だよ、いつもだったら断ったりせずに勝手に座るだろ」

エリス 「それもそうね」

俺の横にエリスが腰を下ろす。
少し話がしたいと思っていたし、ちょうどいい。

祐一 「おまえ、大丈夫か?」

エリス 「大したことないわ。さすがに少しの間は休まないとならないけど」

こいつがここまで深手を負ったところを見るのははじめてだった。
俺達五人の中で、楓さんに次いで負傷率が低かったのがエリスだ。

祐一 「いくつか聞きたいことあるけど、とりあえずおまえ、何でこんなところにいたんだ?」

エリス 「別にどうだっていいでしょ、そんなことは」

祐一 「ひょっとして、俺らの跡つけてたのか?」

エリス 「知らないわ」

何なんだ?
露骨に不機嫌そうな声。
話題を変えるか。

祐一 「おまえ、あいつらと知り合いなのか?」

エリス 「・・・・・・まぁ、ね」

祐一 「・・・・・・」

エリス 「アタシも、五十年くらい前には魔界にいたからね。その頃の知り合いよ」

祐一 「じゃあ、魔界第四階層とかいうののことも知ってたのか?」

エリス 「ええ」

なるほど、知ってたのか。
まぁ、だからどうしたってことはないけどな。

祐一 「あんなのがごろごろいるのかよ・・・・・・」

エリス 「そうなるわね。もっとも、本当なら連中が地上にいるはずはないのよ」

祐一 「どういうことだ?」

エリス 「魔界第四階層は果てしなく深い空間に位置しているわ。おいそれと移動できるものじゃない。何より、大きな力を持った存在ほど空間を越える際に大きなゲートを開く必要がある。第四階層と地上との距離を結んで、尚且つ巨大なゲートなんて、本来作れるはずない」

祐一 「けど連中は来たし、おまえだって・・・」

エリス 「アタシが地上に戻ってこられたのは偶然。連中がどうして来られたのかはわからないけど、もし巨大なゲートを完成させているのだとしたら、とんでもないことになるかもしれない」

祐一 「・・・魔界の魔神どもが、地上に出てくるってか?」

エリス 「もしそうなったら、地上どころか世界の破滅ね」

祐一 「そんなにすごいのかよ、魔神ってのは」

エリス 「違うわ。そんな巨大なゲートが生じたら、空間のバランスが崩れて、世界そのものが崩壊するってこと。地上も魔界も天界も関係なく、ね」

ぞっとしない話だな。
それはつまり、俺達だけじゃなくて魔族どもにとってもやばい話じゃねぇか。
なるほど、神様なんてものまでが連中を警戒するわけだぜ。

祐一 「四神が言う大いなる敵ってのも、そいつらなのか」

エリス 「それはわからないけど、可能性は大ね」

また魔神クラスの魔族と戦うことになる。
ぞっとする反面、喜んでいる俺もいた。
また、あんな強い奴と戦える。

エリス 「・・・あんた段々豹雨に似てきたわね」

祐一 「そうか?」

エリス 「はっきり言うわ。あいつらはアタシ達が今まで相手にしてきた奴らとは次元が違うのよ。アタシがやっとの思いで倒したブラッドヴェインも、そしてたぶんあのシヴァも、本来の力じゃなかった」

祐一 「おまえも気付いてたのか」

エリス 「ブラッドと戦った時は動揺してて、勝ったら浮かれてて冷静さを欠いてたけど、よく考えたら連中があんな程度なわけないのよ」

声の中に見え隠れしているもの、それは恐怖だ。
このエリスが、これほどまでに恐怖を感じる相手。
俺も、怖いと言えば怖いな。

エリス 「でも・・・」

祐一 「?」

エリス 「絶対勝てない相手じゃない」

祐一 「・・・・・・ふっ、そうだな」

本気じゃなかったとは言え、俺達は奴らを倒した。
化け物そのものだった奴らを。
そしてそれは、昔も今も俺達デモンバスターズがやってきたことだ。
これからもな。

祐一 「次も返り討ちにしてやるさ」

エリス 「そうね」

 

祐一 「あ、そういえばもう一つ」

エリス 「ん?」

祐一 「そのブラッドヴェインとかいう奴とおまえが親子って話・・・」

エリス 「ああ・・・・・・」

少しエリスの顔が暗く沈む。
不快感と、もっと複雑な気持ちとが混ざり合ったような顔。

エリス 「そのまんま、全部シヴァの言ったとおりよ。あいつはアタシの父親で・・・・・・ママの仇でもあり、娘のアタシに欲情している・・・・・・そういう奴よ」

祐一 「・・・おまえが子供の姿でいるのは、そいつに対する反発だって言ってたな」

エリス 「誰も趣味でいつまでも子供やってないわよ。どっかの誰かにはいっつもチビ呼ばわりされるし」

俺かよ、どっかの誰かってのは。
確かにいつもチビって言ってるけど、それは事実だろうが。

祐一 「しかしせっかくだから、おまえの大人バージョンってのも見てみたい気がするけどな」

エリス 「え・・・・・・?」

祐一 「ん?」

なんだよ、意外なほど反応しやがったな、今。
何か俺、変なこと言ったか?

エリス 「祐一・・・・・・えっと・・・それって・・・・・・・・・」

祐一 「お、おう・・・・・・」

な、なんだ、この雰囲気は?
どこかしおらしいエリス。
これはなんというか、いつかの時みたいで、調子が狂うぞ。

エリス 「その・・・」

祐一 「・・・・・・」

妙な空気が。
流される・・・・・・・・・。

 

ヒュルルルルル・・・・・・ボゥッ

 

祐一 「どわぁっ!」

エリス 「わぁっ!」

突然俺達の間にでかい火の粉が飛んできた。
当たってたら火達磨になってるところだ。
とりあえず、草に引火しているものを消す。

さやか 「あ〜、ごめんごめん」

エリス 「ちょっと! 危ないでしょっ、さやか! 何やってんのよっ!?」

さやか 「ほら、この子ね」

そう言ってさやかが指したのは、先日の戦いで出していた炎の鳥、ゴッドフェニックス。
あの時のものより一回り小さいが、やはり大きな力を秘めている。

さやか 「フレアビットと同じ感覚で使えるみたいだから、色々試してみてるんだけど、なかなか上手くコントロールできなくて」

エリス 「だったらもっと遠くでやりなさいよっ、危ないわね!」

さやか 「あ〜れれ〜、もしかしてお邪魔だったとか?」

エリス 「べ、別にそういうんじゃないわよっ。ただ危ないって・・・・・・」

さやか 「それにしては怒ってるよね〜」

エリス 「怒ってない!」

さやか 「ほらムキになった。怒ってる証拠だよ〜」

エリス 「誰がよっ! いい加減なこと言ってると・・・・・・潰すわよ」

さやか 「じゃあその前に、燃やしてあげようか?」

エリス 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

・・・だから、なんなんだよ、この空気は・・・・・・。

 

 

 

 

 

さくら 「修羅場だね」

郁未 「そして男は果てしなく鈍感、と」

舞 「・・・お団子、おいしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未達とは、その街で別れた。
去り際のあいつらの言葉は、こうだった。

郁未 『あんた達三人には、正直実力の違いを見せ付けられた気分だわ。自分的にこれ以上強くなる必要はないと思ってたけど、気が変わったから、今度会う時までにあんた達より強くなっていてみせるわ』

舞 『・・・私も、強くなる』

それともう一つ、郁未が貴重なことを言っていた。

郁未 『魔族の仲間がカノン公国にいるらしいわ。私は傷を癒して力をつけたら行ってみるつもり。次に会うのはそこかもしれないわね』

カノン公国、か。
ナイツ・オブ・ラウンドのことと言い、魔族のことと言い。
何だか、全ての糸がそこへ繋がっているような気がするな。
謎は、カノン公国に行けば解けるのか。

 

 

 

 

 

 

ちなみに、どうして自走車なんて便利なもので移動していた俺達にほとんど遅れずエリスがやってきていたかと言うと。
エリスはドラゴンを手懐けることに長けている。
そうやって手懐けた飛竜、ワイバーンを使ってやってきたのだ。
だから帰り、今俺達三人はそのワイバーンに乗って帰路についている。
とりあえず傷を癒すため、一先ず水瀬屋敷に戻ることにした。

祐一 「なんだよ、一気に帰らないのか?」

が、道程の半分くらいで、一度降りた。

エリス 「三人も乗せてこんな距離一気に飛べるわけないでしょ。休憩よ」

ということで、この街で一晩明かすことにした。
まぁ、大して急いでいるわけでもない。

さやか 「ご飯食べよ〜」

エリス 「そうね」

祐一 「言っとくが、自分の飯代は自分で持てよ」

エリスに奢るなんて自殺行為はしない。
一瞬で財布が軽くなるからな。

エリス 「ケチね」

さやか 「けちけちしなくても〜」

祐一 「年上が年下に集ってんじゃねぇ」

エリス 「こういう時だけ年上扱い?」

さやか 「ご都合主義だね〜」

ったく、こいつら最近、時々険悪な仲になるかと思いきや、こういう時は息ぴったりだな。
仲いいんだよな、やっぱり。

 「おい、聞いたか、あの噂」

 「ああ、水瀬屋敷のことだろ」

ん?
何だ?

 「まさかあの水瀬流の総本山が全滅とはな」

何!?
水瀬屋敷が、全滅?
あそこが?

さやか 「・・・祐一君」

祐一 「ああ・・・」

俺は立ち上がって、噂をしている連中のところへ向かう。

祐一 「なぁ、その話、詳しく聞かせてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく