デモンバスターズEX
第15話 さやか覚醒・燃える不死鳥
――汝は、何ゆえ力を求める?
う〜ん、小難しい話はわかんないや。
ただ、ここへ来てあなたとこうして話すことは必然だったような気がする。
それが自然な流れなら、私はそのとおりに進むよ。
別に戦いが好きってわけじゃないし、誰かを護ろうなんてことを考えてるわけじゃないけど。
今は、そうだね。
今どうして力がいるのか問われれば、降りかかる火の粉を払うのに必要みたいだから、かな。
ボゥッ
炎が上がる。
さやかの周りに。
今まで感じたことのない、不思議な炎だった。朱金の炎は上と、横へと広がっていく。
何かを形作っていくようにも見えた。エリス 「さやか? 何よ・・・それは」
さやか 「さあ、私にもよくわかんない。ただ、こんなことができそうだなぁって思って」
炎はやがて、はっきりとした輪郭を持つ。
鳥・・・・・・そう、すぐそこに像がある、あの朱雀によく似た、炎の鳥だ。さくら 「そんな・・・嘘・・・?」
祐一 「さくら?」
俺やエリス以上に、さくらがその炎の鳥の出現に驚いていた。
さくら 「いくら朱雀と契約を結んだからって、神の写し身を召喚するなんて・・・!」
神の写し身、だと?
さやかの後ろにいるあの炎の鳥は、つまり・・・。シヴァ 「神のレプリカか」
祐一 「何だって? どういうことだよ」
さっぱりわからん。
さくら 「あれは朱雀そのものじゃない。だけどのその力は、オリジナルに決して劣らない。本来人間が生み出せるようなものじゃないよ。それを・・・・・・とんでもない才能だ・・・」
エリス 「なるほどね。さやかだからできることってわけか」
祐一 「あいつだけの力・・・しかし、凄まじいパワーだな」
エリス 「・・・これなら、行けるかも。あの炎の鳥を上手く使えば、シヴァだって倒せる!」
祐一 「だな。三人がかりなら」
さやか 「何だか凄いみたいだね、この子」
炎でできた鳥の首筋を撫でる。
熱くないのか、たぶんあいつは熱くないんだろう。
真似はしない方がよさそうだ。さやか 「それじゃあ、まずはさっきのお返しと行きますか」
すぅっとさやかが構える。
それに合わせて炎の鳥も翼を広げて羽ばたく姿勢になった。
さすがにあれは警戒しているのか、シヴァも身構える。さやか 「神様の炎の鳥かぁ・・・・・・なら、名付けて・・・・・・・・・ゴッドフェニックス!」
ケェェェェェェェェ!!!
炎の鳥、ゴッドフェニックスの声が洞窟内に響く。
熱気が渦巻き、神の鳥が飛び立った。
ドゴォーンッ!!!!!
祐一 「・・・・・・」
エリス 「・・・・・・」
さくら 「・・・・・・にゃあ・・・」
さやか 「・・・あれ?」
飛び立ったゴッドフェニックスは、まったくあさっての方向へ飛んでいって壁に衝突すると同時に爆発した。
俺達は全員声もなく固まっている。シヴァ 「・・・ふっ、くだらん。制御できなければどんな力も宝の持ち腐れだな」
うん、確かにそのとおりだ。
一瞬期待してしまったが、役に立たん奴だ。
この状況じゃ、俺らも大して変わらんが。シヴァ 「しかし、神のレプリカなどを生み出せる者を野放しにもできんか。後々面倒にならんように、今のうちに殺しておくとしよう」
さやか 「ちょ、ちょっとタンマ! 今のなしっ、もう一回やり直し・・・」
あの馬鹿、そんなのが通じるか。
祐一 「伏せろっ、さやか!」
奴の攻撃を中断させるべく攻撃を仕掛けようとする。
その時・・・。
ズガァーンッ!!
祐一 「今度はなんだぁ!?」
何かが俺の横を通り抜ける。
ってしまった、そっちに気を取られて手が止まってしまった。
奴の攻撃を止められない。シヴァ 「ハァッ!」
奴の手から放たれた魔力の弾丸がさやかに迫る。
こっちからじゃ防げない。さやか 「!!」
さやか自身が逃げるのも間に合わないと思われたが、何かが間に割ってはいる。
その何かが奴の攻撃をすべて防御した。シヴァ 「何!?」
祐一 「あれは・・・!」
さやかを庇ったもの、それは先ほどどっかへ飛んでいったゴッドフェニックスだった。
爆発を起こしても、まだ消えていなかったのか。
しかも今のは、さやかを護った。さやか 「・・・・・・・・・ふふっ、ありがとね」
驚いていたさやかだが、すぐに笑みを浮かべて自らを助けた炎の鳥の頭を撫でる。
さやか 「へっへー、ぶいっ!」
いや、ブイサインとかされてもどう答えたものか。
こっちでは、攻撃を完全に防がれてさすがの奴も少し気にしているようだ。シヴァ 「・・・運のいい小娘だな」
さやか 「どうかね〜。今度はこっちの番だよっ」
ビシッと奴を指差すさやか。
相変わらずやることが芝居じみている。さやか 「行って、ゴッドフェニックス!」
ドーンッ!
さやか 「・・・・・・・・・・・・」
今度は天井を突き破って行ったな。
やっぱりまだ、さやかの完全な支配下にあるわけじゃないらしい。
まぁ、あれだけのパワーがあるものを簡単に制御するのは容易じゃないだろうな。シヴァ 「ちっ、手間を取らせる」
さやか 「いや、あの、今のはね・・・・・・」
シヴァ 「茶番は終わりだ。死ね」
エリス 「あんたがね!」
シヴァ 「む!」
さやかの方に気を取られている間に、エリスは奴の背後に回っていた。
不意をつかれた奴が僅かに体勢を崩す。
チャンスだ!祐一 「おらぁっ!」
こっちからも仕掛ける。
シヴァ 「甘いわっ!」
バキッ ガキッ
エリス 「くっ!」
祐一 「ぐぁ!」
どちらも奴に迎撃された。
これでも駄目なのか。シヴァ 「ちょろちょろとうるさい小娘どもはとっとと消えろっ!」
奴の左右の手に魔力が集まる。
標的は、エリスとさやかか!
にゃろう!
ズンッ
シヴァ 「何っ!?」
祐一 「あれは!」
天井が破れ、奴の真上から炎の鳥が降りてくる。
どこまで行ってきたのか知らんが、絶妙なタイミングで戻ってきたな。シヴァ 「ぐっ・・・!」
あの炎の鳥だけはさすがに奴も警戒しているらしい。
今のは辛うじてかわしたが・・・。エリス 「祐一!」
祐一 「おう!」
あれに注意が向いている隙をつけば、やれる!
再び同時に仕掛ける。シヴァ 「甘いと言っているのが・・・・・・うぉっ!」
炎の鳥がまた反転して戻ってきた。
さっきよりも的確に奴を狙い始めた。
まさか・・・。さやか 「少しずつだけど、言うこと聞いてくれるようになってきたよ」
やっぱりか。
ならば。ありったけの水を集めて一気に蒸発させる。
辺りが湯気で包まれ、視界がゼロになる。シヴァ 「馬鹿め、これでは貴様らの方こそが見えぬだけであろう」
確かにそうだがな、俺はおまえの居場所をしっかり捉えている。
そして・・・。祐一 「喰らえっ、凍魔天嵐!」
シヴァ 「その技は効かぬわっ・・・・・・む!」
絶妙のタイミングでエリスが攻撃をする。
一瞬奴の注意はそっちへ向いた。シヴァ 「鬱陶しい!」
ドンッ
エリス 「ぐっ・・・!」
あっさりエリスの攻撃は迎撃されるが、これで奴は俺の攻撃を回避する暇はない。
受け止めるしかないはずだ。ギィンッ
思ったとおり、奴の手甲が俺の刀を受け止めた。
そこから奴の体を凍りつかせる。シヴァ 「そんなものが通用するとでも・・・」
祐一 「思ってねぇよ。けどな、熱ってやつは、冷たい空気に向かって流れるものなんだよ」
シヴァ 「!!」
祐一 「さやか!」
さやか 「上手く避けてよ、祐一君!」
こいつの先読みは万能じゃない。
一度に複数の相手の動きまでが読めるわけじゃないんだ。
だからさっきから、背後を狙うエリスに対して反応が鈍い。
俺とさやかに注意を向けている分、能力が下がっている。視界を封じてから、エリスの背後からの奇襲で動きを止め、俺の凍魔天嵐で凍りつかせる。
そして熱の通り道をつくり、さやかのゴッドフェニックスを叩き込む。祐一 「もらったぜ!」
シヴァ 「ちぃっ!」
受け止めている刀を弾き返してくる。
その反動を利用して俺は奴から離れる。
と同時に、自分の体からは冷気を消す。
これで冷気をまとっているのは、奴だけ。シヴァ 「く・・・!」
水蒸気を吹き飛ばしながら、炎の鳥が奴に向かって飛ぶ。
逃げられはしない。
ドォーンッ!!!
炎が奴を包み込む。
決まった。さやか 「やったー♪」
祐一 「よしっ!」
エリス 「ふんっ、祐一にしては上出来ね」
燃えている奴を警戒しながら、俺達は一箇所に集まる。
完全に捉えたはずだから、かなりのダメージを与えたとは思うんだが・・・・・・。やがて炎が消えると、奴の姿はなかった。
祐一 「燃え尽きたか?」
エリス 「? まさか、完全に消滅したなんて・・・・・・」
シヴァ 「ふっ、少しひやっとさせられたぞ」
祐一 「なっ・・・!?」
奴がいた。
ゴッドフェニックスが直撃した場所とはかなり離れた場所に。
あの一瞬で移動したっていうのか。
そんな馬鹿な。シヴァ 「遊ぶだけのつもりだったが、人間もなかなか侮れんものだ」
無傷だ。
完全に、かわされたってことか。エリス 「・・・そうか、空間を飛んだのね」
祐一 「何?」
シヴァ 「そのとおりだ」
空間転移。
そりゃ、魔族にしてみれば普通の能力なのかもしれないが、あんな一瞬で。シヴァ 「あの威力の魔法だ。その破壊力は空間を隔てても影響するだろうが、私の空間移動は他の魔族とは一味も二味も違うのでな」
エリス 「最悪だわ。ということは、こっちの決定打を当てようにも、寸前で逃げられるってこと」
シヴァ 「まぁ、少々魔力を大めに消費するのだがな。言っておくが、それで消耗させようなど無駄だぞ。多少使ったところで、貴様らとの力の差が縮まるわけではない」
ちっ、一瞬考えちまった。
だが確かに、そんな攻撃を繰り返してもこっちの体力が先に尽きるのがオチか。
どうすりゃいいんだ。シヴァ 「そろそろ遊びは終わりだ。概ねわかったからな。後は帰ってからゆっくりやるとしよう」
ヴンッ
祐一 「な、なんだ!?」
さやか 「祐一君?」
エリス 「祐一!」
俺の体を、何か黒い光が包む。
何だ、俺を捕らえて放さない!?シヴァ 「また後で会うとしよう、相沢祐一」
なっ・・・・・・・・・!?
さやか 「・・・消えちゃった」
エリス 「祐一・・・」
黒い光に飲み込まれて、祐一の姿はそこから完全に消え去った。
気配すらまったく感じられない。シヴァ 「さて、あとは・・・・・・相沢祐一にだけ用があったのだが、貴様ら小娘どもが思った以上にやるのでな。後々面倒なことにならない内に、ここで消しておくか・・・」
前に踏み出そうとするシヴァを、さやかとエリスが睨みつける。
エリス 「あんた・・・」
さやか 「私の祐一君に何したの!!」
エリス 「アタシの祐一に何したのよっ!!」さやか 「はれ?」
エリス 「!?」
同時に叫んでから、二人は互いに顔を見合わせる。
どちらも浮かんでいる表情は、焦り。さやか 「わ、エリスちゃん、やっぱりそうなんだぁ!」
エリス 「ち、違うわよっ! あいつはガキの頃にアタシが拾って育てたんだから、そういうことよ!」
さやか 「え〜、拾ったのはともかく、育てたのは楓さんでしょ」
エリス 「そ、そういうあんたこそ何よ、今のは!」
さやか 「ああ! 自分のこと棚に上げて!」
エリス 「アタシのことはどうだっていいのよ! あんた別に、あいつの恋人でもなんでもないでしょ!」
さやか 「それはエリスちゃんだって同じでしょ。それとも、私が知らない頃にイイことしてたとか〜?」
エリス 「ば、馬鹿言ってんじゃないわよっ! なんでアタシがあんなガキと!」
さやか 「じゃあ、私が何言ったって関係ないでしょ〜」
エリス 「関係なくないわよっ。とにかく祐一はあんたのものじゃないでしょ!」
さやか 「エリスちゃんのものでもないよね」
エリス 「ぬぅ〜〜〜」
さやか 「む〜〜〜」
シヴァ 「おい」
さやか・エリス 「「うるさいっ!!」」
睨み合う二人に声をかけたシヴァは思い切り睨まれる。
それは、魔神と呼ばれる彼をもってたじろがせるほどの剣幕だった。
しかし、それで怯むようなことはない。シヴァ 「男を巡る争いは結構だが、続きは死んだあとでやるがいい」
さやか 「・・・・・・」
エリス 「・・・・・・」
つづく