デモンバスターズEX

 

 

第14話 戦慄!魔界の真実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供・・・

子供が走っている。

深緑色の髪の左右でまとめた、金色の瞳の少女。

満面の笑みを浮かべ、小さな体を大きく動かして楽しげに走り回る。

本当に楽しそうに走っていき、花畑の中心で仰向けに倒れる。

すがすがしく晴れ渡った空を見上げ、少女はまた笑う。

 

ふいに影が指した。

頭上を見上げた少女は、嬉しそうな笑みを浮かべる

「ママ」

「楽しい?」

「うん! だって、ママと一緒にお花畑に来てるんだもんっ」

「そう。ママも楽しいわ」

少女の顔を上から覗き込んで微笑む女性。

綺麗な女性である。

娘よりも少し薄い緑色の、腰辺りまである長い髪。

面影は、少女とよく似ている。

年齢差を覗けば、瓜二つと言ってよかった。

「ごめんなさいね」

「ん、何が?」

「あなたには、辛い思いをさせて」

「そんなことないよ、アタシはママとパパがいれば、それでいいんだから♪」

「・・・そう」

一瞬、女性の顔に影が差した。

しかし、少女がそれに気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

父の腕の中に、母がいた。

ぐったりとしていて、顔には血の気がない。

それがどういう状態なのか、幸か不幸か、少女は知っていた。

「パパ・・・・・・ママ、どうしたの?」

父のことを見上げる。

「ねぇ、パパ。ママ、どうして動かないの?」

「・・・・・・共に来い、娘よ」

「答えてよ・・・。どうしてママ・・・・・・・・・・・・」

「人間とは空しい生き物だな。ほんの数年の間に美しさが失われる。それに、我々の土地で生きることもできない」

「何言ってるの、パパ?」

「母と一緒にいたいであろう、娘よ」

「ねぇ・・・」

「この父と共に来るためには、おまえの母は生きているままではいけないのだよ」

「パ・・・パ・・・・・・?」

何を言っているのか。

父が何を言っているのか、少女にはわからなかった。

今の少女にわかるのことは、もう母がいないということだけだった。

「皆共に行こう、我々の土地へ。離れることはない」

「パパ・・・」

「それに・・・」

「っ!?」

ぞくっとした。

自分を見下ろす父の目に、少女は本能的に危機感を覚えた。

それは、決して娘を見る目ではない。

「あと何年もすれば、おまえも母のように美しく育つだろうな。この父の血を引くおまえは、母のように僅かな時でその美しさが失われることはない。その美しさが、長い間手元にあるのだ」

その目で見られるのが、嫌だった。

逃げ出そうにも、一歩も動けない。

「パパ・・・・・・イヤ・・・・・・イヤだ・・・」

少女は泣いた。

母を亡くした悲しみと、父への恐怖から。

けれど、逃げることもできない。

「おまえは永遠に我のものだ、エリス」

「イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「・・・・・・・・・いけない、気失ってた」

ブラッドヴェインとの戦いの後、疲労と痛みで意識を失っていたらしい。
といっても、ほんの数分のことだろうが。

エリス 「・・・嫌な夢」

昔の記憶。
母との楽しい記憶と、母を失った忌まわしい日とを同時に思い出すなど。
何より、あの男のことを思い出してしまうことが忌々しかった。

エリス 「やめよう、考えるのもイヤだわ。それより、まだシヴァが残ってる」

洞窟の中にシヴァが入ってから随分と経つ。
急がなければならない。
あのシヴァが相手では、祐一達と言えど危ないことを、エリスはよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・」

くそっ!
なんて野郎だ・・・。

周りと見る。

さやか 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

さくら 「・・・・・・」

さやかは気絶したまま。
郁未と舞も倒れた状態から動けない。
離れた場所で戦況を見つめていたさくらは青い顔をしている。

それに対して、奴は多少衣服が乱れているだけで、傷一つ負っていない。
涼しい顔をしてやがる。

シヴァ 「人間にしてはなかなか骨のある奴らだったが、まぁ、こんなものだろう」

本物の化け物だな。
今まで戦ってきた魔王や魔獣どもがかわいく思えてくるぜ。
パワーとスピードも桁違いだし、何より・・・。

祐一 「てめぇ、俺達の動きを読んでやがるな」

シヴァ 「ご名答だ。この目は少し先の未来まで見通せるのでな」

自分の額にある第三の目を指して言う。
これだけ戦って知り得た情報はそれだけだぜ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、とかエリスが言ってたが、この程度わかってもどうにもならないぞ。

シヴァ 「特に、こうして接近している者の未来はよく見える。次にどう動くか、こちらがこうしたらどうするか、全て手に取るようにわかるぞ」

あっさり手の内を明かすか。
確かに、それがわかったところでこっちには何もできないからな。

シヴァ 「これだけの力が差がある上、動きを先読みすれば、貴様らごときに負ける道理はない」

祐一 「そうだな」

こいつ相手じゃ、下手な小細工は通じない。
正面から行っても敵わない
困ったな、どうしたもんか。

さくら 「そんな・・・・・・こんなことって・・・」

シヴァ 「アテが外れたか、小娘。この者達なら我らを倒せるとでも思ったか?」

さくら 「だって、こんなに強い魔族がいるなんて聞いてないよ〜!」

まったくだ。
魔族の範疇を超えてるぞ、こいつは。

シヴァ 「魔族・・・か。くくくくくっ」

祐一 「何がおかしい?」

シヴァ 「貴様らの言う魔族とは、どんな連中のことを指しているのか思ってな」

祐一 「どういう意味だ?」

シヴァ 「・・・・・・よかろう、教えてやろう。貴様らが知らぬ、魔界の真実をな」

魔界の真実だと?
いったいそれは・・・・・・。

シヴァ 「貴様ら人間が知る魔界とは、広大な魔界の一部でしかない」

祐一 「何?」

シヴァ 「魔界は空間的に、この地上の下に存在している。そこはいくつかの層からできている。貴様ら人間が知っているのは、第三階層までだ」

第三階層?
魔界に階層なんてものが存在するのか。

シヴァ 「おまえ達の基準から行くと、第一階層には下級魔族が、第二階層には中級魔族が、そして第三階層には魔王と上級魔族が主に存在している。だが、貴様らの知らぬ地が魔界には存在している。それが、魔界第四階層!」

祐一 「魔界・・・」

さくら 「第四階層!?」

シヴァ 「その通り。そしてそこに住まう者達こそ、真に魔を統べる者達、神の対極、魔の極限、魔神!」

魔神・・・。
そういえばこいつもさっき、魔神って自分のことを・・・。

シヴァ 「そして第三階層より上を統べる魔王とは、第四階層から何らかの理由で上へ上がった魔神なのだ。もっともそのほとんどは、第四階層で勢力を保てずに逃げ出した負け犬どもだがな」

祐一 「負け犬・・・だと?」

あの魔王どもが?
最初に俺達が倒したグランディオスも、楓さんをあんな目に合わせたダークエレメントもとんでもなく強かった。
あれが、第四階層では、あぶれ者に過ぎないって言うのか。
おいおい、冗談きついぜ。
こいつが魔王以上の力の持ち主なのはわかってたが、実はそんなのがごろごろしてる場所があるっていうのか。

シヴァ 「まぁ、一つだけ安心させてやろう。私はその魔神の中でも上位に位置している。私より上の者はそうそういないから安心するがいい」

祐一 「・・・そりゃどうも・・・」

シヴァ 「いないわけではないがな。例えば上で待たせているブラッドヴェインなどが・・・」

 

エリス 「ブラッドヴェインがどうしたって?」

シヴァ 「む」

祐一 「おまえ、エリス? 何でこんなところに」

声がした方、広場の入り口のところにエリスがいた。
体中傷だらけで、壁に手をついている。

祐一 「というか、どうしたんだ、その有様?」

エリス 「ちょっとね」

シヴァ 「・・・何故ここにいる?」

エリス 「そんなの、決まってんでしょ」

片方の手を顔の高さまで上げて、つき立てた親指を下に向ける。

エリス 「あのクソ野郎をぶちのめして来たのよ」

シヴァ 「ほう」

ほんの少しだけ、奴が感心したように声を漏らす。
そして顎に手を当てて考え込む仕草を取る。

シヴァ 「そうか、ブラッドヴェインがな。そういえば先ほどから気配を感じぬと思ったわ」

エリス 「あんたも覚悟しなさい、シヴァ」

シヴァ 「覚悟? 何の覚悟だ? まさか私を倒すつもりか? そんな体で」

エリス 「む・・・」

そんな体?
って、そうか、あいつ・・・。

シヴァ 「見たところ、全身で38箇所ほど骨にひびが入っているな。打撲箇所は数えるのも面倒で、臓器の損傷も激しい。人間ならば即死だな」

エリス 「・・・・・・」

上でどうやらこいつの仲間と一戦やらかしたみたいだな。
そのダメージがあるってことか。
エリスと一緒ならこいつも倒せるかと思ったが・・・・・・。

エリス 「ふんっ、馬鹿にしないでよ。このくらいの傷、大したことないわ」

シヴァ 「強がりを」

エリス 「あんまり人間をなめてんじゃないわよっ、シヴァ!」

さっきから、知り合いみたいな口ぶりだな。
もっとも、そんな話は後だ。
まずはこいつを倒す。

エリス 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・(こくっ)」

あいつと目が合う。
それだけで意図はわかった。
伊達にずっと一緒に戦ってたわけじゃない。

サッ

二人同時に動く。
左右から奴を挟みこむ。

シヴァ 「一人も二人も変わらん」

バッ!

三人が交錯する。
次の瞬間には、三方にそれぞれ散っていた。

祐一 「・・・・・・」

エリス 「・・・・・・」

シヴァ 「・・・ふっ、上手くかわしたようだが、次は・・・・・・む」

奴の頬から血が流れ、右の袖が僅かに裂ける。
俺達の攻撃が、少しだが届いていた証拠だ。

シヴァ 「ほう」

顔についた血を指で擦りながら感心したような声を上げる。

シヴァ 「なるほど、弱者が寄り集まることで人間は強くなるなどと聞いたことがあったな。私ほど強いと、そういう経験はできないものでな。はじめて見せてもらったよ、同じ魔神以外の相手が流させた自分の血を」

祐一 「そりゃあ、記念日だな、今日は」

エリス 「ついでに、はじめて敗北した記念日にもしてやるわ」

シヴァ 「調子に乗るな、この程度で。特にエリス、少しは腕を上げたようだが、図に乗るなよ」

エリス 「何ですって?」

シヴァ 「まさかブラッドヴェインに実力で勝ったなどと思っているわけではあるまいな」

エリス 「そりゃ、確かに力では劣ってるけど、勝負は勝負・・・・・・」

シヴァ 「奴は先の魔界での闘争で負った傷がまだ癒えていない。今はフルパワー時の半分ほどしか力を出せん状態だ」

エリス 「え・・・・・・?」

祐一 「何?」

どんな相手だったのかは知らないが、実力の半分しか出せない奴相手にエリスがここまでの傷を負わされるほど苦戦したっていうのか。
じゃあもし、そいつがフルパワーになったら・・・・・・。
とんでもない化け物だ。

シヴァ 「それに、奴の強さは私などより、貴様の方がよく知っているはずだがな」

祐一 「?」

シヴァ 「奴の・・・“魔竜王”ブラッドヴェインの力は貴様が誰よりも知っているはずだ、“魔竜姫”エリス。何しろ、自分の父親のことだからな」

祐一 「な!?」

エリス 「・・・・・・」

父親だぁ?
確かに、エリスの親父は魔竜とかいう種族だって聞いたことがあるけど、そいつが敵?

シヴァ 「それに親子のことだ。奴もどうせ手を抜いて・・・・・・」

エリス 「うるさい」

シヴァ 「ふっ」

エリス 「アタシは! あいつを父親だなんて思ったことは一度もないっ!!」

祐一 「エリス・・・」

エリス 「あいつは、自ら進んで同族を食らって己の血肉と力に変えてきた最低のクソ野郎よっ! あんなものの血がこの体に流れてるかと思うと、虫唾が走るわっ!!」

シヴァ 「確かに。奴はまさしく、かの呪われた一族の申し子だな」

呪われた一族。
魔竜ってやつは、同じ竜族を食らうことで生きているという。
エリスは、その血を忌んでいる。

エリス 「それだけじゃない・・・・・・あいつは、アタシのことを娘だなんて思ってないのよ。あいつはアタシを・・・あいつがアタシを作ったのは・・・・・・!」

シヴァ 「貴様の母親が目当てだろう」

エリス 「!!」

シヴァ 「人間の寿命は短い。数年もすれば、気に入った女の美しさも失われる。だが魔の血を引くおまえならば、長い年月を変わらぬ美しさを保ったまま過ごすことができる。奴は、母親と同じ姿をした貴様という人形を生み出した」

エリス 「・・・・・・ええ、そうよ」

シヴァ 「それに対するささやかな反発として、いつまでも子供の姿を保つか。愚かなものだ、どちらもな」

エリス 「あんなクソ野郎の話はどうだっていいのよっ!」

 

さやか 「あんまり自分の父親をそんな風に言うもんじゃないよ」

祐一 「さやか!?」

いつの間に起きたのか、少しふらついた足取りでさやかがこっちに歩いてくる。

エリス 「さやか?」

さやか 「仮にもお父さんなんだから、そういうことしてると、後悔するよ。経験者は語る、なんてね♪」

エリス 「・・・・・・」

祐一 「おまえ、大丈夫なのか?」

さやか 「うん、大丈夫」

そうは見えないんだが・・・。
ふらついてるし、少し顔も赤い。
様子も少し、変だ。
なんだ、この感じは?

祐一 「さやか、だよな?」

さやか 「当然♪」

エリス 「・・・・・・?」

エリスも気付いたか。
どこか、いつものさやかと雰囲気が違う。
さやか自身がどうとか言うんじゃなくて、体から発する魔力の質が・・・。

シヴァ 「おとなしく寝ていればいいものを。そうすれば命は助けてやってもよいぞ、小娘」

さやか 「そう言われて素直に引っ込んでる性質じゃないんだよね、私って」

何かが、さやかの中から出てくる?

さやか 「結構、負けず嫌いなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく